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最後からの二番目の真実

買われた? 東京五輪10――電通の株主総会(Ⅳ)

3月30日の電通株主総会の続き。結局、株主の執拗な質問に、石井社長は内部調査の言質を取られている。



株主先ほどの質問に対する(高田)取締役が、FIFAやIOCの疑惑に関して海外の当局から電通に対しては接触はないという回答でした。ちょっとメモをひっくり返しましたら、2008年(編集部注=弊誌は2004年と報じた。08年は公判が開かれた時期)にスイスで(電通とアディダス合弁のスイスのスポーツマーケティング会社)ISLの倒産に絡み、FIFAの裏金疑惑が裁判沙汰になって、スイスの検察官の方、ヒルデブランドさんという方らしいですけど、来日されて(電通役員の)高橋治之氏、鶴田正晴氏の二名に訊問したという報道があります。

これについて先ほどは論及されずに「海外の当局からこの種の不正について接触があったということはいっさいない」と答えているのはどういうことなのか。やはりこういうことは正確に答えていただきたい。「疑惑に関するようなことはいっさいない」という(高田取締役の)ご返事自体がすべて疑わしく思えてしまうんですが、やはり調査し直すべきではないか。世間に対して疑わしいところのないように……もし何かやっていたんなら、もちろん正直に全部バラしたほうがいいんじゃないですか。やはり調査委員会みたいなものをやったほうがいいんじゃないでしょうかね。

石井社長はい、先ほどの質問に関連して、捜査当局等々から接触はないという答えだったけれども、メモによると08年でしょうか、「FIFAの裏金疑惑にスイス当局が当時の(電通)役員に訊問した」という報道があり、不正確ではないのかという質問ですね。もしそれが事実関係としてあるんであれば、あるいは今後、問題があるんであれば、内部調査をしてきちんと公表すべきであるというご質問だと思います。

ええと、そういう事実(役員の訊問)は把握しておりませんでした。先ほど、私あるいは高田が申し上げましたのは、ブラッター会長をはじめとするFIFA疑惑が、一昨年発覚した以降、私ども(電通)に関しては何のコミットもないというということを申し上げました。その点についてはお許しいただきたい。もしこの件(訊問)が事実であれば、ですね。そしてまた、再三仰っておりますので、私どもとして再度内部調査をいたしまして、もし何かあればですね、皆様にお知らせできるような形で報告したいと考えています。

株主いいですか、もう一言だけ。それではご報告いただけるということでしたので、来年までしっかり覚えていますので、よろしくお願いいたします。

石井社長必ずご報告したいと思います。



この株主の質問とは別に、電通OB株主も「私の思うところでは、不正の影響で東京五輪が中止になる可能性が結構あると思うが、リスク管理者として経営陣は中止の可能性を何%ぐらいとみているか」などというキツい質問をしていた。

しかし社長が約束したこの内部調査、直近の話から1990年代のISL時代にまで遡るとなると、パナマ文書に二カ所で出現する電通セキュリティーズについても調査すべきだろう。

DENTSU SECURITIES INC.
Connected to 1 intermediary
Incorporated: 14-APR-1997
Inactivation: 29-OCT-1997
Struck off: 14-DEC-1998
Status: Dissolved
Registered in: Niue
Linked countries: Switzerland



97年に設立されて、1年半後の98年登録削除している。登録先はニウエ。ご存じだろうか。ニュージーランドの北東、サモアとトンガのそばにある南太平洋の島国である。キャプテン・クックが上陸しようとしたが、先住民に阻まれて「未開の島」と呼んだそうな。英領からニュージーランドの属領となり、その後、内政自治権を獲得して、ニュージーランドと自由連合を組んでいる。いったい、電通はこの南海の孤島で何を企んでいたのか。

仲介はHSBCプライベート・バンク(スイス)で、エージェントはパナマ文書の流出元、モッサク・フォンセカである。


パナマ文書のもう一つの電通関連は
DENTSU SECURITIES INC.
Connected to 1 intermediary
Incorporated: 25-APR-1997
Inactivation: 05-NOV-1998
Struck off: 31-OCT-1998
Status: Defaulted
Registered in: British Virgin Islands
Linked countries: Switzerland



社名は同じで設立時期も似たりよったりだが、「清算」でなく「デフォルト」となっている。
こちらの登録場所は英領バージン諸島。これまたスイスから手続しており、両方ともスポーツマーケティング関連を疑わせる足跡である。

パナマ文書では、楽天やHISなどが騒がれたが、ここでも日本のメディアはなぜか電通についてお目こぼししているかに見える。

「LIXIL藤森」の墜落17――消された質疑応答

LIXILの株価下落が止まらない。本誌が最新号(6月号)の記事「LIXILに『第二のジョウユウ』疑惑」を5月18日夜にウェブで先行公開すると、翌19日の株価は2.85%急落して2000円の大台を割り込んだ。続く20日も売り込まれて1.49%下落。終値は1914円と年初来安値を更新した。

昨年12月21日、藤森義明社長が唐突な退任を発表した直後から株価は下がり続けており、5カ月間の下落幅は実に3割。時価総額は約2500億円も目減りした。実は今の株価は5年前、藤森氏が社長に就任した日の株価(1939円)を下回っている。市場はLIXILの「藤森時代」に赤点を突きつけたのだ。


本誌記事に株価が敏感に反応したのは、多くの投資家がLIXILに対して「ジョウユウ以外にも不祥事を隠しているのではないか」という根深い不信を抱いている証拠である。やましいことがないなら堂々と真実を明かせばいいのに、本誌の追及に見え透いたウソをつき続け、矛盾を突かれて馬脚を現す繰り返し。ここまで学習しない会社も珍しい。

これはもう、藤森氏の資質だけでなく社風の問題でしょう。事実上の最高権力者で「数奇者」の二代目オーナー、潮田洋一郎氏は不粋を嫌う。殿下のご気分を損ねては一大事とばかり、役員から平社員まで総茶坊主化しており、不都合は忖度して目に触れさせないのが習い性らしい。

そんな隠蔽体質がまたも表れたのが、5月9日の決算発表説明会の情報開示だ。LIXILは17日、ホームページの「株主・投資家向け情報」で説明会を撮影した動画を公開。ところが、この動画は藤森氏と次期トップの瀬戸欣哉氏が業績や経営戦略を説明した前半30分で終わっており、後半30分の記者との質疑応答がばっさり消されている。下記がその動画のURLである。

http://www.net-presentations.com/5938/20160509/flashplayer.html

最新号の記事でも触れたように、質疑応答では本誌以外の記者からも鋭い質問が飛んだ。経営陣はそれにどう答えたのか。藤森氏と瀬戸氏のあくびの出る説明より、投資家にとってずっと有益な情報でしょう。それを隠して頬っ被りとは、浅知恵に呆れるばかりだ。

そこで、このブログで質疑応答の音声を公開します。聞き所は11分頃からの週刊東洋経済、21分過ぎからの日刊工業新聞、そして23分過ぎからの本誌の質問などです。



ちなみに、本誌記者が疑惑の南アフリカ子会社「GDW」について質問した時、瀬戸氏は虚を突かれて慌てたのか、聞いてもいないのに合弁相手のDAWN社の創業トップ、デレク・トッド氏の退任について話し始めた。「お会いしたが非常に立派な方だった」そうだ。

お笑い種である。トッド氏は14年、DAWNの子会社だったGDWの株式の51%をLIXILに86億円で売却した後、自分の会社から怪しげな名目で「特別ボーナス」を受け取った。それが株主にバレて猛烈な批判に遭い、昨年11月にボーナス返還を余儀なくされた醜聞をFACTAが知らないとでも思っているのか。

シンガポール住まいの潮田さんもぜひストリーミングでお聞きください。茶坊主たちの報告書にはない発見があるかもしれませんよ。

買われた? 東京五輪9――電通の株主総会(Ⅲ)

新オンライン版への移行に伴い、ウェブサイトにトラブルが生じたため、一時画面更新が滞りました。お詫び申し上げます。さて、3月30日の電通株主総会でFACTA報道についての質疑応答の続きを掲載しよう。



株主ええと(元専務で現在は東京五輪組織委理事の高橋治之とともに五輪招致のロビイ活動を行ったか否かについて)全部関係がないと、そういう「ないないづくし」のご回答なんですけれども、そういたしますとね、今回の危機で最も重大なポイントは、問題が日本国内でなく海外で発火したという点です。それで、電通の優越的地位をもってうれば、少々の不祥事があっても国内の新聞・テレビの報道を抑えこむことは可能だと思います。しかし相手が世界となればそうは行きません。

アメリカやフランスの捜査機関、さらには世界のスポーツファンを相手にすれば、電通はスポーツだけではなく、あらゆる海外市場から締め出される可能性があるんじゃないかということを私は基部しています。ダメージを最小限にするためには、先ほども申しましたように、今まで電通はこの問題に関して一言も発していませんが……これは明らかにおかしいです。他のパートナー企業は「やっぱりFIFAやIOCはおかしいんじゃないか」と発言しているのに、情報産業の電通が一言も言っていないというのはおかしいです。

問題はないと言ってるけど、問題を調べもしないで「問題ない」と言うのはおかしい。第三者委員会みたいなものを立ち上げて、それできちんとその情報を発信する……潔白なら潔白でも結構ですが、きちんと情報として発信すること。そして、もしも仮に、会社に損害を与えた個人がいるとすれば、賠償請求や刑事告発をきちんとする。そうした真摯な対応によって、国際社会や世間に対して、恭順の意を示すことが、もしも何かあったときにダメージを最小限にする道と考えるがいかがでしょうか。

石井社長はい、三問目でございますね。今の引き続きの問題で、この問題が海外で発火したということは大きな問題ではないかということですね。国内の報道機関を抑えて……まあ、抑えられませんけど電通は……(場内笑い声)国内は何とかなっても海外はそういかないいんじゃないかということですね。まあ、そういうことよりも、ご質問の趣旨としては、もしそういうことが事実としてあるんであれば、電通として自ら襟をただすべきであろうと、あるいはコメントを出すべきであろうということですね。第三者委引火を発足して調査し、発表するべきだろうとこういう主旨でございますね。

これは私からご説明させていただきます。先ほど来、高田(専務)が申しあげましたとおり、私ども内部での調査を一回実施しておりまして、内部的にこの見解が裏付けられた、つまり私どもが不正を犯したという証拠はまったくございません。またFACTA、ないしはその他ガーディアン等々の記事は承知しておりますけれども、そのことをもって捜査当局が何か結論を出したという主旨でもございません。そして私どもに対してまったく、その捜査当局から何かの問い合わせがあったということもございません。そういう中で、私どもが何かを行動するという状況ではないという風に思います。

もう一つ申し上げますと、FIFAそれからIAAF(国際陸連)ともに、私どもは契約という形で、スポンサーをつけるという契約を主にしております。FIFAに関しては、私どもは現在、スポンサーを一つも持っていません。従いまして今後のことはともかくとして、今までについてスポンサー様が声をあげるということはもちろん大事だろうと思いますけれども、私どもの主導する立場ではないという風に考えております。ただし、私どもの会社のことを考えてですね、貴重なご意見ををいただいておりますので、大いにに参考にさせていただきたいと思います。以上、回答申し上げました。それではほかにご質問ございませんか。

電通OBの別の株主ただ今、高橋治之の話が出ましたけれども、私は完全にクロだと思います。電通はクロシロというのは、まあ、特殊な会社ですから。(以下4号議案についての質問に移る)



石井社長は内部調査をしたと言っているが、誰が(第三者なのか)、いつ、どんな調査をしたのかを明らかにしていない。そして調査結果の発表もなく、エビデンスゼロの結論など何の潔白の根拠にもならない。最近はやりの幻の調査報告書で、やったという口実だけでやりそごそうとする方便にすぎない。

これは現在のJOC(日本オリンピック委員会)でも同じだ。中村合同特許法律事務所パートナーの国際弁護士、辻居幸一を委員長にが調査委を発足させるようJOCを指導したという。彼の専門は知的財産権で、弁理士も兼ねている。略歴はこちらの通り

何で彼を選んだのかといえば、公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構理事(2001年~)と公益財団法人日本スポーツ仲裁機構監事(2003年~)だからだろう。

日本アンチドーピング機構(JADA)は、反ドーピングを目的として設立された公益財団法人で、「スポーツファーマシスト」なる資格をつくって講習会などで資金を得ている団体だ。役員名簿をみれば、同僚理事に河野一郎がある。2016年東京五輪招致委の事務局長を務めたのち、新国立競技場を運営する日本スポーツ振興センター(JSC)の理事長となり、白紙撤回で大チョンボ、昨年“更迭”された当人だ。筑波大学のスポーツドクターから森喜朗元首相の腰ぎんちゃくとなった男といっしょだから、辻居弁護士は第三者などではありえない。同じ穴のムジナである。それが調査委を主宰するづくりを促したというのだから、結論は「臭いものに蓋」と相場は決まっている。

株主総会はこの後もまだ続く。

※太字箇所は5月23日に修正


買われた? 東京五輪8――電通の株主総会(Ⅱ)

3月30日の電通株主総会から、スポーツ利権疑惑にかかわる部分の質疑の続きである。
(Ⅰ)で質問した株主が再度質問に立った。



「フットボール批評」2015年6月号より、インタビュアー田崎健太氏





株主まあ、(FACTAおよび海外メディアに東京五輪の「買収」疑惑を)書かれているのに、これについては法的手段に訴えないと(いうのですね)。これはやはり、株主からすると疑わしい。世間から見ると疑わしい。それで第二問ですが、FIFAへの8億円について高橋治之氏(元電通専務、現コスモス会長、東京五輪組織委理事)は(スポーツ)ジャーナリスト田崎健太氏とのインタビュー(光文社新書『電通とFIFAサッカーに群がる男たち』)で、こういう趣旨の証言をしています。

「金はロビー活動として払った。電通は直接手を汚せないので、具体的な使途はISL(電通とアディダスの合弁スポーツ・マーケティング会社)に任せた」

高橋氏は「電通に贈賄の責任はない」と釈明したかったのでしょうが、これでは別の疑問が生じてしまいます。仮に、最終的なカネの行先やその効果を確認しないまま、どんぶり勘定でISLに大金を振り込んだとしたら、立派な背任行為です。高橋氏は贈賄罪を免れても、背任罪は免れません。

また高橋氏には「ISLから香港のペーパーカンパニーを通じて、多額の裏金が払いこまれていた」「東京五輪招致では、高橋氏が裏工作の中心だった」との報道(FACTA)もあります。高橋氏は役員退任後も電通コモンに就任されていますが、今現在、電通と高橋氏の関係はどうなっているのでしょうか。高橋氏は東京五輪組織委員会の理事を務めているので、電通とは今でも深い関係にあると思うのですが、こうした疑惑まみれの人物との関係を見直すことはお考えでしょうか。

石井社長はい、もう一問でございますね。先ほど言及されたFIFAへの8億円について、私どもの元役員でありました高橋氏がお金はロビー活動として払ったのは事実だと、本の中でしょうか、語っていたということ。そういったことも含めて高橋さんが……私どものOBである高橋氏が背任罪なのではないか。(高橋氏は)顧問を1年間……2年間、務めておりましたけれども、現在の電通と高橋氏の関係はどうなっているか。こういったご質問に思います。これに関しては、高田専務取締役執行役員から。

高田専務今のご質問については、確かに高橋さんはですね、ウチのOBであります。今現在、高橋さんは、我々の知る限りにおきましては、オリンピックの組織委員会の理事をやっています。そういう意味では、今のご質問の高橋さん、OBである高橋さんと、われわれ電通がどう言うご関係かというご質問でございますけれど、われわれはですね、組織委員会とマーケティングの……(急に声が小さくなり聞き取れない)ので、個々の組織委員と……(また声が聞こえない)常に内部のお仕事をさせていただいております。その中でいくつかの作業において、高橋さんにアドバイスいただくこともありますし、われわれからすることもございます。ただ、そのなかでいまご指摘のですね、何か問題のあること、まあ、その、ちょっと疑念に思うようなこととか、それは一切ございません。以上、回答申し上げました。



石田社長も高田専務も、これが広告の元営業マンかと思うほど、しきりと言い淀んでは、主語に対応する術語なしですます尻切れ文が多い。なんとか隠しおおせようと、口をモゴモゴさせる、典型的な怪しい答弁口調である。

それにしても、光文社新書の『電通とFIFA』は、われわれの前には出てこない高橋元専務が、昨年のサッカー専門誌「フットボール批評」06、07、08号でインタビューに応じて語った記事を土台にしている(上の写真はその誌面)。メディア界ではタブーの電通をタイトルにした勇気は買うが、総じて電通がアディダスと組むようになった70~90年代の高橋の自慢話が大半で、ISLが破綻した2001年5月以降は急に14年間も飛んでしまうのが物足りない。

第六章の「全員悪人」は、FACTA2008年6月号を引用している。高橋はその記事に「なんでぼくがISLから金をもらわないといけないんだ。ISLがお金を払うのは、自分たちが権利を獲得するのに必要な人物のみ。ぼくに払うはずもない」と反論している。ああ、これかと思った。高橋がインタビューに応じた理由は。

だが、ISLが香港のギルマーク・ホールディングスに400万スイスフランの送金をした事実は、スイスでの裁判に提出された証拠で確証されている。そしてギルマークの実質オーナーが「ハルユキ・タカハシ」であることも。それをこのインタビュアーは問い詰めておらず、高橋も否定していない。だとすれば、香港の口座は誰かに対する賄賂の支払いのためのトンネル口座であり、高橋はただ「私はしていない」と言っているにすぎないのだ。

サッカーはよく知っているが、国際金融のシャドーバンキングの知識やスキャンダル報道のノウハウを知らないスポーツ記者なら、すでに時効だろうと、高をくくって取材に応じた高橋の腹のなかが透けて見える。それにしても、今回のシンガポールのブラック・タイディングス社の「裏金」口座とよく似た仕組みだとは思わないだろうか。初耳のイアン・タン・トン・ハンの役目も名義貸しかと思える。ただし、パナマ文書には出てこないからカリブ海ルートとは別に、アジア・ルートが香港やシンガポールにあるのだろう。

5月16日の衆議院予算委員会で、2020東京五輪招致委の理事長だった竹田恒和JOC会長は、参考人として出席し、ブラック・タイディングス社とコンサル契約を結んだ経緯について、電通の推薦があったと述べた。これでいよいよ、電通とブラック・タイディングスとAMSの関係のうち、その一端がつながった。問題は電通の誰がブラック・タイディングスを知っていて、どういう関係だったのかである。

それともう一つ、竹田会長に聞いてほしかった。高橋は六本木のアークヒルズ仙谷山森タワーのステーキ屋「そらしお」のオーナーだ。ここで竹田がステーキとワインを楽しんでいる光景が見られたが、なぜこの店がお気に入りなのかを聞いてほしい。電通本社のある汐留にもソラシオがあり、こちらはやや安いが、仙谷山のはかなりお値段が張る。高橋がオーナーというのは以下の「日経レストラン」の記事ではっきりしている。





ソラシオ
お客様は笑顔か、厨房からのぞき見しています
2012年12月5日

今回のレストランのオーナーはわたしの親友、高橋治之である。汐留の天空に浮かぶがごとき店ゆえ、「ソラシオ」という。高橋自らが命名した。夜景の美しさは世界一である。

よくここに若いカップルが訪れる。絶景を眺めながら、男は交際や結婚を申し込むらしい。成功率は98%だそうだ。これまでに、たったひと組のカップルが破談になった。食事の途中、女は席を蹴って「わたしはそんな気持ちでここにきたのではありません」と捨てセリフを残して帰ってしまった。取り残された男は眼下の灯りに何を思っただろうか。



買われた? 東京五輪7――電通の株主総会(Ⅰ)

東京五輪招致の「裏金」疑惑の焦点とも言える電通は、3月30日午前10時から東京・銀座の住友不動産浜離宮ビル地下1階、ベルサール汐留で第167回株主総会を開いた。首都高速都心環状線を挟んで、電通本社の向かいにある建物だ。事業年度が3月決算から12月決算に代わったため、株主総会も例年は6月だったのが、今回から3月に開かれることになった。電通にとってはもっけの幸いだったろう。今回のガーディアン報道の後に株主総会を開いていたら、ただでは済まなかったろうし、1~6号議案(とりわけ監査等委員会設置会社に移行する提案)も執行部提案通りシャンシャンで行けたかどうか、経営陣はハラハラしただろうから。

が、3月の株主総会でもFIFA関連の質問が出たのは、創刊以来10年に及ぶFACTAの調査報道と、さらに2月20日発売の3月号で「東京五輪招致で電通『買収』疑惑」というタイトルの英ガーディアン紙チーフ・スポーツ・ライター、オーウェン・ギブソン記者(今回のスクープ記事のライターでもある)の寄稿記事を掲載していたからである。このブログ「買われた?東京五輪」シリーズで先に掲載した電通や東京五輪組織委員会、さらに組織委理事で電通元専務への質問状と回答を公開していたので、さすがに危機感を覚えたのか、電通の株主から総会で質問が出たのだ。以下、総会出席者が録音したものから、当該質問と電通側回答を抜きだそう。長いので分載する。



株主スポーツ事業で発生した危機への対応について質問致します。

今年度は世界の三大スポーツ・イベントに関わる汚職スキャンダルが国際社会を震撼させました。まず2015年5月に国際サッカー連盟、FIFAの幹部7名が過去のワールドカップ開催地選定に関わる収賄容疑でアメリカ司法当局により逮捕され、その後も20名を超える幹部が摘発されています。電通は1982年、アディダス社と合弁でスポーツマーケティング企業ISLを創設して以降、ISLが倒産した後も、すべてのワールドカップのテレビ放映権売買、スポンサー仲介等のビジネスを独占してきたことは世界に知られています。

ところが、スキャンダル発覚後、コカコーラ、VISAなどワールドカップの公式パートナーが次々にFIFAへの非難声明を出すなか、他のどの企業よりも関係の深い電通だけが一言のコメントも発していません。違和感を持たれた株主さんも多いのではないでしょうか。

そして今年に入り、電通の得意先、国際陸連のディアク一族がドーピング隠蔽工作の収賄で摘発され、その捜査の過程で2020年オリンピックの開催地選定をめぐる疑惑が浮上し、イギリスの新聞ガーディアンは「東京オリンピックは賄賂で買われた、フランス司法当局も捜査中」と報じ、国内でも「月刊誌ファクタ」が「五輪招致で電通『買収』疑惑」と報じるなど、当社にとって未曾有の危機が訪れています。対処を誤れば、東芝に匹敵する経営危機に発展する、と私は危惧しております。

それで3問、質問を用意しています。まず一問目、「月刊誌ファクタ」が2020年のワールドカップに関し、「日本開催への支持獲得のため、電通がISLを通じて8億円相当の賄賂をFIFA幹部に渡していた、この裏工作の中心人物は高橋治之・元専務だ」と報じています。また、東京五輪に関しても「アフリカ諸国の指示取り付けのため、6億円相当の協賛金名義の賄賂がディアク一族に渡った」と報じていますが、これらの報道は事実か否か。この件に関し、海外の司法機関から電通に接触はあるのか、ないのか。誤報ならば「ファクタ」や海外のメディア・記者に対し、法的措置は取らないのでしょうか。

石井直社長(株主総会議長)はい、世界的なスポーツ事業についていろいろな新聞に出ている噂ですね。2015年、FIFA幹部の収賄事件があったということ、私どもの創設いたしましたISLはスポーツにコミットしてきたけれども、一連の事件に関して電通が関係しているんではないかということ、それからもう一つ、IAAF世界陸連のディアク(前)会長に関する醜聞があるけれども、これについても電通が関与しているのではないか、企業として非常にまずい状態になっているのではないか……。そして、FACTAですか、このメディアに載っているISLでの賄賂というものについて事実かどうか、そしてまたIAAFのディアク会長に関する疑惑に関して関係しているのかということ、こういったご趣旨の質問かと思います。それではこの件に関しまして、高田(佳夫)取締役専務執行役員から答えさせていただきます。

(高田専務はテレビ畑出身で、担当は国内事業統括。中本祥一副社長に次ぐナンバー3である。自社株保有は3770株。経歴は以下の通り。
1977年4月電通入社
2007年6月メディア・コンテンツ本部テレビ局長
2009年4月執行役員兼テレビ局長
2010年4月執行役員
2012年4月執行役員兼ラジオテレビ&エンタテインメント局長
2013年4月常務執行役員
2016年1月 取締役専務執行役員)

高田専務ご質問にお答えいたします。まずですね、一問のご質問のFACTAですが、2002年に関してのFIFAに関する疑惑というか、そのことに関してですけど、当然、私どもも社内の調査をしっかりやりました。それでその結果といたしまいて、電通はですね、贈収賄行為等に関与した事実はございません。それともう一問、東京五輪の招致に関するディアク前陸連会長の事になりますけれども、これもですね、私ども電通のですね、贈収賄等に関与した事実はございません。それとご質問のですね、それでは司法当局からの問い合わせ等あるのか、というご質問ですけど、これもございません。それからもう一つですね、では電通は法的手段に訴えるような用意はあるのかという……それは考えておりません。以上であります。お答え申しあげました。




左からコー副会長、電通・石井直社長、ディアック会長(「電通報」より



ないない尽くしの回答だが、収穫は二つある。一つは社内調査をやったというが、誰が(それは第三者の外部調査委員会だったのか?)どのような調査をして、どう公表したのか。贈収賄行為がなかったというエビデンスは何か。ISLの危機に関して、電通は01年に第一勧業銀行(現みずほ銀行)ロンドン支店に対し6600万スイスフランの債務保証を承認、それがISL倒産によって焦げ付いた件について、なぜこの巨額の債務保証に応じたかを究明した電通の報告書などどこにも公表されていない。

弊誌が10年前の創刊号(06年5月号)で報じた「電通インサイダー疑惑」でも、電通と提携したネットプライス、シーエーモバイル、オプトなどの企業の株が発表前に奇妙に上昇することを取りあげたが、東証売買審査部の問い合わせに対しても、社内調査もせず確認書でOKという杜撰な組織だったことが浮き彫りになっていた。そして翌月、電通が47・6%の株式をもつcci(サイバーコミュニケーションズ)社長がインサイダー取引で突如辞任し、06年6月号の「電通激震、暴かれた『犯罪』」の記事となった。

それがFACTAと電通の10年戦争の発端だったことをお忘れか。内輪で調査してフタをしただけで、「事実はございません」と言い切れるのなら、警察も検察も証券取引等監視委員会も要らなくなる。どうせ10年以上前だから資料は保存していません、と逃げるつもりだろうが、調べたという当事者の名前を列挙してごらんなさい。ぜんぶ洗って、ガーディアン、および仏国家財政金融検事局に教えてさしあげよう。

もう一つは最後の下り。名誉棄損で訴訟を構える気はないと断言されている。おお、何という懐の深さ、寛容なこと。どうせFACTAを訴えれば、ガーディアンも訴えずにはおれなくなり、形勢不利と判断しているのだろう。この弱腰、やはり後ろめたいからだろうと弊誌は判断する。テレ朝みたいに電通に迎合してくるメディアに、せっせと「遮眼帯」をかけ、電通の足跡消しに励むご所存と見た。裏では、「ウチの名を出したら、2020年東京五輪では放映権もスポンサーも不利になりますよ」という暗黙の脅しがあるのだろう。人気スポーツの放映権にありつきたい一心で、民放も新聞も腫物に触るようにビクビクなのだ。

とにかく、総会の質問はまだ続く。以下は次号で。

買われた? 東京五輪6――メディアの遮眼帯

英ガーディアン紙のチーフ・スポーツ・ライター、オーウェン・ギブソン記者とFACTAは協力関係にある。5月11日(現地時間)にガーディアン紙が報じたスクープ――2020年東京五輪招致委員会が、招致決定の13年9月の前後にシンガポールの疑惑の口座に100万ユーロ以上が振り込まれたとする報道は、彼の署名である。

FACTA3月号(2月発売)でも、彼の署名記事「東京五輪招致で電通『買収』疑惑」を掲載した本誌編集部では、すでにギブソン記者から近々、その第二弾の特報がガーディアンに出ると聞かされており、5月18日発売のFACTA6月号でも彼の署名記事を掲載する予定だったから、その内容は事前に承知していた。

新たに飛び出したのは、280万シンガポールドルを日本の銀行から振り込まれたシンガポールのブラック・タイディングス社と、その代表とおぼしき謎の男イアン・タン・トン・ハンの名である。ガーディアンは親切にも相関図をつけてくれたのだが、そこに電通スポーツの子会社(AMSアスリート・マネジメント・サービス社)がぶら下がっている。ところが、新聞各紙とも第1報では触れず、(以下を削除して修正します:2016/05/19)テレビ朝日にいたっては、図をパクったうえで電通部分だけ消すという暴挙をやってのけた。



ガーディアン紙の原図はこちらである。



この「改竄」がネットで盛り上がっている。これほど歴然たる「遮眼帯」は確かに見たことがない。テレビ朝日の早河洋会長とこの番組のプロデューサーに問いたい。なぜこのパクリと改竄を行い、これは誰の指図だったのか。弊誌はガーディアンに代わり、テレビ朝日に正式の回答を求める。およびBPO(放送倫理・番組向上機構)にも、この露骨な「改竄」に対し何らかの処分を行うよう要求する。

(追記:2016/05/19)テレビ朝日は12日の番組で電通子会社が入っていない相関図を報じたため、インターネットでは「改竄」と騒ぎになった。オーウェン記者に弊誌が確認したところ、もとのガーディアン紙では人的相関図と資金の流れの二つの図が掲載されていた。テレビ朝日が引用したのは資金の流れの図のほうで、そちらには電通子会社からの資金フローがないので記載がなかったのである。これは「改竄」とは言い難いので、上記の部分は削除する。

ただ、ガーディアンが二つの図をつくったのは、資金の流れと人的関係の両面から読者に理解させようとするもので、片方だけでは真意は伝わらない。あえて電通抜きの図を使って視聴者に正確な引用をしなかった点は問題である。テレ朝独自のニュースではないのだ。この電通部分の取材には少なからず弊誌も協力しているので、わざわざそれ抜きの図を選んだ引用の仕方自体は問題だと言わざるを得ない。国会で竹田JOC会長が電通の紹介と語ったため、ようやくタブーの封印が取れ、テレビや新聞、週刊誌も電通の名に言及しだしたとはいえ、初報段階で「電通」の名が申し合わせたように消えているのは不自然だと思う。(/追記)

13日付の朝日新聞朝刊は、やっとスポーツ面で「2・2億円、正当性を主張」という見出しの記事のなかで、ガーディアンが「タン氏を電通の子会社『AMS』のコンサルタントだと報じた」と書き、電通の広報担当者の否定談話を載せている。だが、電通の言い分だけで、AMSの役割についてちゃんとスイスで取材した形跡が見られない。また他紙も、それ抜きでは語れない電通のスポーツ・ビジネスについてシカトするばかりで、ネットで揶揄されても知らん顔なのは目を覆わしめる。広告で首根っこを押さえられていることをこれほど如実に示したケースはまれだろう。

スイスのルツェルンにあるAMSの存在を日本で最初に報じたのは、FACTA14年11月号掲載の記事「『戦犯』は日建・竹中・電通」の記事中である。この「戦犯」とは、五輪のメーン会場、新国立競技場の解体工事の入札がやり直しになった事件の裏側を報じた三連発スクープのうちの一つで、その後の白紙撤回を導きだした重要なきっかけだった。

「電通内の反高橋(治之元専務、現東京五輪組織委理事)派から、その手口を暴露する文書が本誌に届いた。スポーツ局は、FIFAクラブワールドカップの業務から制作費名目でスイスのスポーツマーケティング会社AMSに毎年数千万円を上納しているという。同社は01年にアディダス創業家ダスラー一家と電通の合弁会社ISLが破綻した後、ISLの陸上担当者が電通の出資を受けて設立した会社だが、畑違いのクラブW杯にも数人を派遣、電通の業務委託費をもらっている。これがトンネル会社を使った資金還流だという告発である」

これは電通内の複数の内部通報者によっても裏付けられた。今回、電通がAMSには出資していないと主張したとすれば、2年前のこの記事でヤバイと思って足跡消しをしたからにほかならない。90年代はまだ非上場企業だった電通がダスラーとともに裏金攻勢でFIFAを支配していた時代の最重要のトンネルがISLだった。そのISLなきあとに、同じ役割を引き継ぎいだのがAMSで、日韓サッカー・ワールドカップ大会後から日本は徐々に脇役に転じ、電通も国際陸連のディアク前会長取り込みに傾斜した。

そういう共通認識が、FACTAとガーディアンにはある。そしてフランスの特捜部、国家財政金融検事局にもある。その12日のコミュニケと、これに対する元東京五輪招致委理事長、竹田恒和のオマヌケなステートメントを以下に載せよう。




12日、竹田のコメントを国会で説明したJOCの平岡英介専務理事は、慶応大学出身でボート協会、今までガレー船でも漕いでいたのかと思うほど非論理的な説明に終始した。招致委前事務局長の樋口修資に電話で前日夜、聞いたところ、正規の業務契約でその対価として支払い、新日本監査法人により正式に監査を受けたから、やましいところはないとしきりと断言するが、どんな契約だったかと突っ込まれると、「契約書は見ていない」「契約書がどこにあるかも知らない」「(竹田会長は細部に携わらないが)元事務局長が鮮明に記憶していた」「JOCは調べる権限がない」とまったくエビデンスのない支離滅裂さ。自分の発言がナンセンスであることにも気づかない。丸天物流グループの丸天運送の代表取締役らしいが、あれでよく経営ができるなという印象だった。

同席していた文科省スポーツ庁オリンピック・パラリンピック課長もサイテーで、「このステートメントを今見たばかりで…」「説明責任を果たすべく努力したい」と空言ばかり。言質をとられまいと小役人根性丸出しだった。だから、文科官僚はダメなんだ、と言われる典型で、これでは新国立が二転三転したのも当然、といわれる無責任ぶりを堂々とご披露していた。

欠席裁判というべきか、平岡専務理事にすべて責任を押し付けられていたのは、いまは明星大学で教育学を教える教授だが、76年に東京大学教育学部を卒業して文部省に入省、官房審議官やスポーツ・青少年局長を歴任した典型的な文部官僚だ。さあ、メディア各社、どんどん夜討ち朝駆け攻勢をかけるべし。記憶が鮮明にあるそうだから、徹底取材すれば掘り出し物の情報があるかもね。ところで招致に失敗した2016年東京五輪招致委では、赤字決算だったのに資料の一部が(意図的に?)紛失していたが、2020年招致委でもし問題の契約書や支払い伝票、ブラック・タイディングス社の成果物などが紛失していたら、招致委は意図的に資料を破棄しているとしか思えない。ブツはありますか。

また監査をしたのが新日本というのも笑わせる。東芝の不正会計を見逃して(オリンパスなどほかにも余罪あり)金融庁から業務改善命令を受けたばかりではないか。そこが信頼できるかのように胸を張った平岡専務理事のセンスはまったくお笑いだった。

とにかく5月16日(月)午前11時40分から、衆議院予算委員会で民進党の玉木雄一郎議員が、この疑惑を質問するそうだ。東京五輪をカネで買ったのが誰の差し金か、とことん追及してほしい。そして予告しておこう。疑惑の中心、電通が3月30日の株主総会でガーディアンとFACTAの記事についての質問にどんな回答をしたか、このブログで公開しよう。

ここがロードスだ、ここで跳べ! 9日にパナマ文書公開

国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)は4月26日、世界を震撼させているパナマ文書を5月9日に公開すると報じた。2013年に公開され、ICIJのHP上でアクセスできる「オフショアリークス」も歩調を合わせてアップデートされ、そこで公開される情報は厚みを増し、幅も広がるだろう。

邦人や日系企業の名が多くないこともあって、国内大手紙や通信社のパナマ文書報道は今のところ低調で、海外の動きの引き写しがかりで、対岸の火事のように隔靴掻痒だ。どうせ調査報道などやった経験がないから、真似事だけである。

FACTAはいち早く4月20日発売号で、北朝鮮の「制裁破り」ルートをパナマ文書も使って裏付ける試みを始めた。国際陸連がロシアのドーピングのお目こぼしをした事件を追っている英ガーディアン紙のオーエン・ギブソン記者もパナマ文書追及チームに加わったので、FIFAやIOCなどスポーツ関連のセレブが資産隠しにパナマを使っていないかを次号で書いてもらう予定だ。

ここがロードスだ、ここで跳べ、という名言がある。

その通り、四の五の御託を並べず、オフショアリークスに目を凝らすべし。すでに公開されている分だけを見ても、情報の宝庫ではないか。

例えば、個人投資家を中心に227億円もの被害が生じている日本のレセプト債問題でも、アーツ証券の名前は検索可能だ。同社の破産申立書にも全く出てこなかったオフショア法人の名前が浮上しており、このオフショア法人はアーツ証券と信託会社としかつながりがないから、アーツ証券が設立した公算が高いだろう。“逆に謎は深まるばかり”というパターンもあるが、消えた資金の流れを解明するうえで一歩前進につながる。

2013年に破綻したIT企業のインデックスとその会長だった落合正美被告の名前も見つかる。落合会長らの公判(金融証券取引法違反)で指摘されていたように、その循環取引では子会社のインデックス・アジア・パシフィックを用いていた。オフショアリークスで表示される相関図をみると、この子会社と落合被告らが、どんな人物を介してどこでどう絡み合っていたのかも一目瞭然だ(とはいえ、この隠しポケットは空っぽだという)。

そうそう、オリンパス事件で有罪判決が下った人物の名前や、関与が疑われている人の名も見つかり、同事件では名前が出てこなかったいくつものオフショア法人とのつながりが浮かび上がっている。

タックス・ヘイブンやオフショア法人を設立すること自体は、法的に問題ないのだろうが、やはりタックス・ヘイブンの闇は深く、経済犯罪の温床になっている恐れは排除できない。

気をつけなければならないのは、オフショア法人と何らかの関わりを持つ無名の個人や企業といえども、丹念につながりを紐解いていくと意外な結果が飛び出してくることがある点だ。例えばオフショア法人を立ち上げたとみられるある個人の住所を辿ると、情報通信関連の上場企業の本社所在地に行きついた。つまり個人がオフショア法人設立の名義人となり、実質的には企業が設立したのではないかと疑われるケースもあるのだ。

また、オフショア法人を設立したとみられるある未上場企業は、社名からはうかがい知れないが、実は上場企業の子会社であることが判明。こうなると親会社やグループ会社の利益がオフショア法人に流れて節税に使われていた可能性を疑わなければならない。国税がヨダレを垂らして喜びそうなネタが転がっているかもしれない。

9日の公開で、世界中のメディアは一斉に群がって資産隠しの金持ちたちを暴きたてようとするだろう。私にも「ウチがひっかかるかどうか、調べてくれないか」という個人資産家とおぼしき筋から依頼が飛びこんでくるようになった。

しかしパナマ文書がメディアに要求するのは、膨大な資料に隠れて見えないものを見通す根気や馬鹿力だ。その力量を見れば、ヨコタテ記者、いいなり御用新聞もまた暴かれる。パナマ文書はメディアにとっても照魔鏡なのだ。

「LIXIL藤森」の墜落16――広報の見え透いたウソ

前回の質問状に対し、LIXIL広報部が4月8日に送ってきた回答を載せよう。一読すればわかるように、本誌が送った8つの質問にまったく正対していないばかりか、見え透いたウソと空疎な言い訳のオンパレード。そもそも日本語として意味不明の部分も少なくありません。



LIXIL広報部の回答



お問い合わせありがとうございます。LIXIL Water Technology(LWT)の組織再編を行った背景や意図については、3月7日の発表資料でご説明させていただいているかと存じますが、4月1日付でいただいたご質問に関し、以下の通りご回答いたします。

3月7日に発表したLWTの組織改編は、弊社の事業の成長性、効率性、ガバナンス及び監督の強化を目指した継続的な取り組みの一環として行われたものです。LWTの運営体制の見直しを進める中で、経営陣による組織改編の決定が行われましたが、これを受け、株主をはじめとする主要ステークホルダーに対して適時適切に詳細情報を開示するべく、3月7日に速やかに発表を行いました。

LWTの組織改編は、本社から直接的に海外事業を管理・監督できるよう、運営体制を簡素化することを目的としています。LWTの経営構造がフラット化され、機能部門についてはLIXILグループのファンクションリーダーが責任の範囲を広げ、LWTのファンクションリーダーの役割も担う体制となりました。これらの変更によって、組織構造がより簡素化され、ガバナンスが強化されることを意図したものです。

LWTの経営構造を簡素化したことに伴い、David Haines氏やGerry Mulvin氏を含むLWTの経営陣のいくつかの主要なポジションが影響を受けました。適切なポジションが他にはなかったことから、Haines氏はLWTおよびGROHEでの12年間の勤務を終え、退任することとなりました。グローバル企業では、組織の簡素化を図るために、このような再編を行うこともめずらしくありません。

なお、筒井高志の取締役退任につきましては、3月22日に発表をしておりますが、本件に関し、弊社から追加のコメントはございません。



広報担当役員はよくこんな回答を通したものだ。まあ、社内でも広報部門は真相を知らされていない可能性があるから同情の余地もゼロではないが、ステークホルダーは決して納得しないでしょう。一般株主は6月の株主総会で厳しく追及すべきです。

「LIXIL藤森」の墜落15――“戦犯”4人が連続退任の怪

最新号(5月号)の記事をウェブで公開したので、ブログを再開しましょう。

LIXILの追及シリーズを4月号では一回休みにしたら、ある読者から「さすがにネタ切れですか?」と聞かれました。実際はまったく逆。ジョウユウ問題には多数の疑問が残っており、独自の調査と検証にはやはり時間がかかる。LIXILが自ら真実を明かさない限り、本誌の追及は止みません。

さて、最新号の記事(「赤字」LIXILの経営陣自壊)では社長兼CEOの藤森義明、グローエ会長兼CEOのデビッド・ヘインズ、その腹心のゲリー・マルヴィン、M&A担当副社長の筒井高志という経営幹部4人が、昨年末からわずか3カ月余りの間に次々に退任したことを報じました(藤森と筒井の正式退任は6月の株主総会)。彼らは全員、ジョウユウの不正会計のリスクを知りながら目をつぶっていた疑いのかかる“戦犯”ばかり。ところがLIXILは退任とのかかわりを一切否定しており、誰がどう見ても怪しい。

本当にジョウユウ問題と無関係なら、4人はなぜこのタイミングで退任したのか? この当然の疑問に対し、LIXILはどう回答するのでしょうか。例によって本誌が送った質問状を公開しましょう。質問事項はヘインズ退任に関するものが中心ですが、後から筒井に関する追加質問も送っています。



David Haines氏の退任等に関する取材のお願い



ファクタ出版株式会社
月刊FACTA発行人阿部重夫



平素は弊誌の取材活動にご協力いただき、ありがとうございます。
御社は3月7日付プレスリリース「LIXIL Water Technologyを組織改編」のなかで、LWTのCEOおよびGROHE Group会長兼CEOを務めていたDavid Haines氏が同日付で退任すると発表しました。任期途中かつ2015年9月の中期経営戦略発表から1年も経たない時点での退任は唐突かつ不自然ですが、プレスリリースには何ら合理的な説明がありません。そこで、1月18日付IR「Joyou問題に関する再発防止策の進捗状況について」に係わる追加質問を含めて、下記の8点についてご回答いただきたく、お願い申し上げます。


<Haines氏の退任に関する質問>
1.Hainesの退任日(3月7日)は任期途中かつ中期経営戦略の発表から1年も経っておらず、事業年度末や株主総会など経営上の節目でもありません。なぜこのタイミングなのですか。合理的な理由の説明をお願いします。

2.退任は御社からHaines氏に求めたのですか、それともHaines氏自身が申し出たのですか。また、3月7日というタイミングを決めたのは御社ですか、それとも本人が申し出て御社が承認したのですか。

3.Haines氏に退職金を支払いましたか。その総額はいくらですか。

4.Haines氏は2004年から10年以上にわたってGROHEを率い、同社の経営再建とグローバル化を成し遂げた“功労者”とされています。また2015年4月にはLWTの初代CEOに起用され、御社事業の成長とグローバル化にも貢献があったはずです。にもかかわらず、3月7日付リリースのなかの藤森義明CEOおよび瀬戸欣也COOのコメントは、Haines氏についてひとことも言及していません。なぜですか。合理的な理由の説明をお願いします。

5.Haines氏の退任について、GROHE GroupおよびGROHE AGは何も発表していません。また、御社の3月7日付リリースが出た直後、GROHE Groupの公式ウェブサイト(http://www.grohe-group.com)から報道(PRESS)向けページがまるごと削除され、3月28日現在では www.grohe-group.com 自体にアクセスできない(GROHE AGのウェブサイトに自動転送される)状態になっています。まるでHaines氏の存在を消し去りたいかのようですが、なぜこんな対応を取り、そのまま放置しているのですか。合理的な理由の説明をお願いします。

6.Haines氏の退任について、市場では「Jouyu問題の責任を取った」との見方が主流です。このような見方を御社は肯定されますか、否定されますか。否定される場合は、具体的な理由の説明をお願いします。

7.LWTのProducts & Services Officer、GROHE Group取締役、Joyou取締役を兼務していたGerry Mulvin氏の去就を教えてください。現在もLWTおよびGROHEの職位に留まっているのですか。仮に退任した場合は日付を教えてください。

<1月18日付IRに関する追加質問>
8.1月18日付IR「Joyou問題に関する再発防止策の進捗状況について」の2ページ目に、次のような記述があります。
『当社からの強い要請もあり、2014年9月にはJoyou AGの経営役会のメンバー兼CFOが選任されましたが、JoyouはそのCFOにも財務情報へのアクセスを与えようとしませんでした』
つまり、14年9月にJoyouのCFOが生え抜きの李祖紡氏から社外出身のDorothy Wu(呉建萍)氏に交代した背景にはLIXILの「強い要請」があったということですが、御社の経営陣は遅くともその時点までに、GROHE経営陣がJoyouの財務情報にアクセスできない状態であることを知っていたのではありませんか。また、御社の「強い要請」で就任したDorothy Wu氏もやはり財務情報にアクセスできなかった事実を、遅くとも14年末までに把握できたのではありませんか。

以上です。弊誌の締切の都合もございますので、4月8日(金)までにご回答をお願いします。

2016年4月1日



LIXIL広報部の回答はまた次回に。

劇作家アーノルド・ウェエスカー氏を悼む

83歳で亡くなった、とBBCや英国の新聞が報じた。

ウェスカーご夫妻に世話になったロンドンの日々が懐かしい。1年ほど前、奥さんのダスティから「施設に入れた」との知らせがあったから、とうとう老いて召されたのだろう。

彼を紹介してくれたのは、六本木にあった半地下の煉瓦のバー「ザ・クレードル」のママ、椎名たか子さんからである。ぴあの矢内廣氏らが常連だった店で、椎名さんが内外に持っている演劇人脈にウェスカー氏も連なっていた。椎名さんはダスティの料理本まで翻訳していたから、彼女の口ききでウェスカー家のB&Bに泊まった日本人は数多くいるはずだ(知る限りではシェークスピアを全訳した小田島雄志氏や、ジョイスやルイス・キャロルの翻訳家、柳瀬尚紀氏が何度も宿泊したはずである)


気さくで料理上手なダスティのおかげで、たびたびその家に通い、クリスマス・パーティーなどのご相伴にあずかった。海外駐在の人間は気のおけない日本人社会に埋没しがちだが、そうならずに済んだのはウェスカー家のおかげだったと思う。ペンギンブックスで作品集が何冊も出るほど著名な劇作家といっても、家計は楽でなかったはずで、B&Bもその一助になっていたのだろう。

実は、現地のテレビで三部作の一つ『キッチン』を観ただけで、劇場で舞台を観たことはない。英語の脚本を読み、1930年代の下町の労働者階級が、オズワルド・モズレー率いる英国ファシスト組織に反感をたぎらせる台詞を面白いと思った程度で、木村光一や蜷川幸雄演出の日本語版も見ていないから、1960年代前後に流行った「怒れる若者たち」の一人である彼の作品を語る資格はない。

もっぱら、彼の家庭を通してみたロンドンの庶民の暮らし、泣き笑いと家族の悩みに接した思い出だけである。東京に帰ってからも、ダスティからたびたびファクスや郵便で手紙が舞い込んだ。ロンドンの家を引き払い、ダスティは南のブライトンの隣町ホーヴに住み、アーノルドはウェールズの仕事場にと一時別居していた。

2001年の9・11テロのある前月、彼女の家に泊まり、その運転でティルトンにあるジョン・メナード・ケインズの別荘に行き、30年がかりでケインズ伝3巻を書き上げたサー・ロバート・スキデルスキーにインタビューしたときに、彼が満州生まれという奇遇を知った。

その後は椎名さんから「アーノルドが日本の2・26事件を題材にしたオペラを書きたいと言っていて、台本を日本語に訳すのどうしよう」といった相談を受けた。三島由紀夫の向こうを張るなんて無理じゃないか、と言ったが、ずいぶん時間をかけて実現にこぎつけた。三枝成彰作曲、奥田瑛二演出、中丸三千繪が一人で歌うモノオペラ『悲嘆』(歌詞は結局英語で日本語の字幕になった)が2011年9月にサントリー・ホールで上演されている。

ご夫妻が来日したときは、椎名さんに頼まれて、わが家に泊めたこともある。自宅に外国人を迎えるのは初めてで、さすがにてんやわんやだった。雛祭りの段飾りを見せて喜ばせた記憶がある。

2006年にナイトの叙勲を受けた。「サー・アーノルド」と呼ばれる身分である。しがない庶民の出の彼としては、破格の出世を遂げたことになり、一族あげてお祝いだったという。ウェスカー夫妻に世話になった日本人の一人として、小生もお祝いに睡蓮の模様のついた漆のワイン立てと手鏡を贈った。漆製品は英語でjapanと呼ばれるからだ。

夫が功なり名を遂げ、ダスティも長年の苦労が報われた。お悔みとともに、お疲れさまと言いたい。彼女も亡き夫のおかげで、「レイディ・ダスティー」と呼ばれる身となった。

本誌表紙絵の澁澤星さんの個展にどうぞ

1年前の15年5月号から本誌の表紙絵を担当していただいている日本画の澁澤星さんが、4月11日から同25日まで、東京・銀座の小林画廊で個展を開きます。本誌の表紙を飾った絵も出展されるそうです。ぜひお立ち寄りください。

澁澤さんは今年、東京芸術大学日本画科の博士課程を修了され、独り立ちへの道を歩みだしました。日本橋の三越本店の7階ギャラリーで開かれている「春の院展」にも出品されています。そちらもぜひ。

澁澤星展
4月11日(月)~4月23日(土)
平日10:30~18:30
土曜10:30~17:00
日祝休み
於:小林画廊
104-0061中央区銀座7-5-12
tel 03-3574-1898
http://www.kobayashi-g.co.jp

第71回春の院展(東京展)
3月30日(水)~4月11日(月)
4月1日から10日まで10:30~19:00【19:30閉場】
4月11日は10:30~17:30【18:00閉場】
於:日本橋三越本店本館・新館7階ギャラリー
入場料:一般・大学生800円/高校・中学生600円[小学生以下無料・税込]
4月16日以降は名古屋を皮切りに全国で巡回展が行われます。
http://nihonbijutsuin.or.jp/local_exhibitio_information/index71spring.html

企業の不正発覚はこれからか?

3月決算企業の決算発表が本格化するまで、1カ月を切った。

監査法人の会計監査の質に対する不信がこれまでになく高まっているだけに、水面下で繰り広げられる監査法人とクライアント企業の適正意見を巡る攻防は我われの想像以上に激しいのかもしれない。監査法人に不正会計の内部告発が寄せられているとの話さえ仄聞するから、株式市場での波乱要因として警戒感が広がる場面もあるかもしれない。

昨年のちょうど今頃、話題になったのはLIXILグループや江守ホールディングス、昭光通商。いずれも中国関連で会計上の問題が見つかり、特に江守は信用不安に直結するような噂さえないまま民事再生法を申請した。LIXILの中国子会社破綻については不可解な点が多く、本誌でも火が出るほど激しく追及している。いずれも監査の質が問われるような話だった。

その後も中国経済の減速は続いており、中国では鉄鋼を中心とした素材メーカーの苦境が続いている。王子ホールディングスや神戸製鋼所が中国関連で特別損失の計上を発表したのは、そうした状況の反映だろう。しかし、王子や神戸鋼は不正会計ではないからまだマシだ。

比較的小さな銘柄であるため目立たないが、ジャスダック上場のアイセイ薬局が3月、投資ファンドのTOBによって上場廃止となる見通しであることを発表した。上場前から始めていた不正会計が発覚して前社長が退陣。上場後わずか4年足らずで特設注意市場に放り込まれるなど、何のために上場したのかよくわからない退場劇である。

実は上場企業の”不適切な会計処理”がこれほど多い年はないという。直近では日本製鋼所や中央魚類などが発表しており、昨年末には曙ブレーキ工業が売上高や営業利益を過大に計上していたことが判明。2015年度は件数ベースでは過去最高を更新している。従業員が売上高の架空計上などに手を染めるケースもあるため、損失隠しのような粉飾決算とは異なるケースも含まれるが、それにしても多い。

特に今年はまだまだ不正会計が発覚しやすい大きな要因がある。失策続きだった監査法人の尻に火が付いていることだ。

オリンパスに続いて東芝でもしくじった新日本監査法人は2月から3月にかけて、監査の手続きに法律上の瑕疵がないかチェックを急いできた。監査の質や姿勢が問題視されているのに、手続き上の落ち度がないかをチェックしているというのは的外れな気もするが、存亡をかけて後がなくなった新日本は健気にも「監査先に問題が見つかれば、企業に公表を促す」(関係者)という。

新日本だけではない。東芝のケースでは、ウエスチングハウスの減損処理を免れようとした財務部の相談に、デロイトトーマツコンサルティングが乗っていた疑いが出てきて、会計事務所の本体とコンサルの相克と矛盾が再び脚光を浴びそうだ。

ゴールデン・ウィーク前後から始まる決算発表を控えて、これ以上、不正会計が浮上してこないか。あるいは決算発表の延期や監査意見の不表明が相次ぎはしないか、括目して待つべし。

「LIXIL藤森」の墜落14――ドイツ誌記事がフリーに

LIXILのウォーター部門を統括するグローエのデヴィッド・ヘインズ会長兼CEOの解任に伴い、その引き金を引いたドイツ誌Wirtschafts Woche(週刊経済)が、記事の最終段落をアップデートして無料公開に踏み切った。タイトルは「見て見ぬふり」Augen zu und durchから「投資家の巨額のカネが消失」Viel Geld der Investoren versenktとキツいものに取り換えている。ドイツ語ですが、ぜひご覧ください。

http://www.wiwo.de/finanzen/boerse/grohe-viel-geld-der-investoren-versenkt/13045506.html

http://www.wiwo.de/finanzen/boerse/grohe-dubioses-netzwerk/13045506-2.html

さあ、いよいよ炎上です。「数寄語り」のオーナー、潮田洋一郎さん、茶碗をいじってる場合じゃありませんよ。



「LIXIL藤森」の墜落13――効果テキメン、ヘインズ陥落

ついにLIXILが,グローエのヘインズ会長兼CEOを解任した。

LIXILが3月7日夕、こっそり出したリリースと、このLIXILシリーズ第12回目のブログが入れ違いになってしまったが、やはり前回のブログで書いたWirtschafts Wocheの記事が効いたのだろう。「外圧」を使う戦術を取ってみた、と書いた途端に、これまで散々書かれてもどこ吹く風と守ってきたヘインズをあっさり見切ったというわけだ。

それにしても、この期に及んでLIXILのリリースは「Lixil Water Technologyを組織改編経営体制を強化し、内部統制を効率化を推進」などと空とぼけ、FACTAに追い詰められてヘインズの首を切ったことを認めようとしないのには呆れた。1月からLIXIL社長に就いた瀬戸欣哉の権限範囲拡大でごまかそうとする姿勢が見苦しい。


ヘインズの解任はドイツでもバーデン新聞で報じられていた。

同紙の問い合わせに、LIXIL広報は「円満な退任」と回答したそうだが、グローエのウェブサイトにはヘインズ退任のリリースさえ出ておらず、「サッカー選手がフロントとの諍いでクビになった時のコメントに似ている」と皮肉っている。

また、日経の記事も、ドイツ誌の記事などおそらく読んでもいない記者が書いたと思われ、今まで辞めなかったヘインズがなぜ、いま、この時点で辞めたのかを一言も説明していない。ドイツ誌のイラストと同じく、リリースをジャーッと垂れ流すだけの記者なのだろう。

とにかく、FACTAはまた単独で首を狩ったことになる。

「LIXIL藤森」の墜落12――ドイツ誌も追及

記者の習性として、他誌の後追いというのはできれば避けたい。出し抜かれた、と思っても、付け入るスキがないと、参りましたとばかりにシカトする。追いかけたら損、そんな気持ちはよく分かる。本誌の追及記事は往々にして「あれはFACTAの喧嘩。そっちはお任せします」といった目に遭う。事件化しないと、どこも見て見ぬふりである。

LIXIL追及の本誌独走記事に、日本の新聞や他誌の担当記者たちは、怖々と覗き見するばかりだろう。あとは、日本の当局が事件化しないことを祈りつつ……。

そうはいかない。ドイツの経済誌Wirtschafts Woche(週刊経済)の日本特派員Martin Fritz氏から連絡があり、グローエの記事が金曜発売の3月4日号に掲載された(その号の目次はこちら。グローエの記事は64ページ)。

オンラインは有料(ダウンロードに3・99ユーロ)なので、ここに転載するわけにはいかないが、Blickpunkte(視点)のコーナーにある4記事の一つ、3ページ物である。お金持ちのLIXILはちゃんと買って読むべし。ただし、藤森さん、ドイツ語読めたっけ?読めないなら、グローエのヘインズ会長兼CEOに英訳してもらいなさい。彼自身が頭をかく写真が載っていて、Viele Fragen, keine Antwort(疑問多数、答えなし)とエトキがついている。さらにその下にEr schweigt zu den Vorwüren(彼は疑惑に無言だった)とある。

そしてタイトルページには、大きくAugen zu und durch。思わずにやりとした。なかなかイケてる。だって「見て見ぬふり」という意味だもの。水が渦を巻いて吸い込まれていく排出口のイラストがついている。臭いものを水に流した、といわんばかりだ。

リードにも「グローエ:金融投資家たちに便器メーカーを売却して大稼ぎ。おそらく日本の役員たちとドイツの株主たちを犠牲にして」とある。

フリッツ特派員にFACTAは協力した。見方は同じだ。この疑惑の中心にヘインズ氏がいるのに、LIXILは彼を抱えたまま、まともに答えようとしない。だが、このドイツ誌の記事は、ドイツの証券市場監視当局に向けて発せられた。株主を犠牲にしたこの行為を、ドイツ政府は見逃すのか、と。

逃げ切りを策すLIXILに“外圧”をかける戦術である。そして、われわれも日本の証券取引等監視委員会に問いかけよう。「見て見ぬふり」をするのですか、と。

「LIXIL藤森」の墜落11――『数寄語り』の余裕綽々

あれだけ世間を騒がせたジョウユウをめぐるLIXILの「闇」にもかかわらず、事実上のオーナーでLIXILグループ取締役会会長、潮田洋一郎氏が、堂々とKADOKAWAから新著を出した。一連の不祥事の弁明といった無粋な本ではない。この「現代の粋人」が世に送ったのは、大衆化した流儀茶道や煎茶道と対比させて、選ばれた茶人(資力や知識が並みでない風流人)の数寄を明かす内容で、これでもかとばかりに名品の茶碗や茶具、書画の美しい図版を挟み、題して『数寄語り』という。漆黒のカバーには、秀吉の前田玄以宛書状や尾形乾山作の「覗獅子」をあしらうといった贅を尽くした本である。

よくよく見れば、「おわりに」の日付がちょっと挑戦的だ。


「平成二十七年師走星洲の印度菩提樹下にて潮田洋一郎」

おお、藤森義明社長のクビをスパッと切り捨て、12月23日付の日本経済新聞に載ったインタビューを受けていた時期ではないが。ふだんは日本でなく、星洲、すなわちシンガポールに住んでいるそうだから、そこでこの本を仕上げたということなのだろう。660億円の損失など俗界の瑣事なんて我が事にあらず、茶をたててはゆくりなく心を遊ばせているということらしい。なるほどね、金持ち、喧嘩せず……か。

カバー見返しの著者略歴でも「茶の湯、煎茶、書、花、能、邦楽、西洋音楽、馬術、大型二輪車等を趣味とする」とある。父に疎んじられて不遇をかこっていたころは、花柳街でうつつを抜かしていたことは聞いたが、ナナハンかハーレーまで飛ばすとは、まさに趣味の「レオナルド・ダ・ヴィンチ」。さぞかしご自慢でしょう。

資力も教養も縁なき衆生の身では、もとから近づけまい、と鼻先でぴしゃりと襖を閉じられたようなものだ。はい、おっしゃる通り、うかがい知れぬ世界でござります。でも、野暮は言うまい。ただ、そこに微かな腐臭をかぎつけた。菩提樹の下、とはすでに涅槃に横たわる仏様のつもりになっているらしい。

本の表紙の上辺に見える英語のタイトルは、Beautiful foolishness of things、言うまでもなく岡倉天心の『茶の本』の一句である。冒頭と末尾で引用しているから、この本のライトモチーフなのだろう。

「茶道の要義は不完全なものを崇拝するにある。いわゆる人生という不可解なもののうちに、何か可能なものを成就しようとするやさしい企てであるから。……茶道は美を見いださんがために美を隠す術であり、表すことをはばかるようなものをほのめかす術である。この道はおのれに向かって、落ち着いてしかし充分に笑うけだかい奥義である。従ってヒューマーそのものであり、悟りの微笑である」

このあとに「美しくおろかしいこと」が出てくるのだが、ジョウユウのスキャンダルを思うと、なかなか味わい深い。キズモノ経営者をせっせと拾ってくるのは「不完全なものを崇拝する」からなのか。人生だけでなく財務という「不可解なもののうちに、何か可能なものを成就する企て」がLIXILだったのか。だから、LIXILは「真を見いださんがために真を隠す術」にたけ、「表すことをはばかるような失態をほのめかす」ことにしたのですね。秘すれば花、それが粋人の処世ですか。

ご立派!しかし潮田氏は見たいものしか見ようとしない。二度引用する『茶の本』のお気に入りのくだり、「まあ、茶でも一口すすろうではないか。明るい午後の日は竹林にはえ、泉水はうれしげな音をたて、松籟はわが茶釜に聞こえている。はかないことを夢に見て、美しい取りとめのないことをあれやこれやと考えようではないか」という岩波文庫の村岡博訳が、気の抜けたようなつまみ食いであることは、桶谷秀昭訳を引用すれば分かる。

「現代の人類の天は事実、富と権力を求めるキュクロプス的巨大な闘争によって粉砕されている。世界は我欲と俗悪の闇の中を手さぐりで歩いている。知識は疚しさの意識よって得られ、博愛は功利のためにおこなわれる。東と西は狂乱の海に翻弄される二匹の竜のごとく、生命の宝玉を取り戻そうとむなしくあがいている。われわれはこの大荒廃を繕うためにふたたび女媧を必要としている。アバターの出現を待っている。その間に、一服のお茶をすすろうではないか。午後の陽光は竹林を照らし、泉はよろこびに泡立ち、松籟はわが茶釜にきこえる。はかないことを夢み、美しくおろかしいことへの想いに耽ろうではないか」

いまのLIXILが置かれている修羅場を書いた前段を、きれいに「……」で省略してしまっている。ワビだのサビだの、したり顔の説教を聞くたびに、天心が『茶の本』の末尾に置いた利休の辞世の偈を思いだす。

人生七十力囲希咄吾這宝剣祖仏共殺

そして利休は「提(ひっさぐ)る我得具足の一太刀、此時ぞ天に抛(なげう)つ」と叫んで腹を切ったのだ。その覚悟のない金持ち道楽の数寄など、さっさと滅びてしまえばいい。

買われた? 東京五輪5――ガーディアンがまた特ダネ

2020年東京五輪「買収」疑惑について、FACTAと共同取材中の英ガーディアンのオーウェン・ギブソン記者が、またスクープを飛ばした

ドーピング問題を機に国際陸上競技連盟(IAAF)のラミーヌ・ディアク前会長親子の腐敗を捜査し、前会長を逮捕したフランスの検察当局の捜査が拡大され、国際オリンピック委員会(IOC)による16年リオ五輪と20年東京五輪の選定疑惑の捜査も進めているという内容である。


写真にはブラジルのルーラ前大統領やサッカーの王様ペレがリオ五輪決定を喜ぶシーンが使われており、いよいよ09年に安倍晋三首相や森喜朗元首相が小躍りする写真が使われる日も近いことを暗示している。

IOCのスポークスマンは「IOCは昨年の捜査開始以来、フランスの検察と緊密に連絡を取ってきた。IOCの担当者(Chief Ethics and Compliance Officer)は、オリンピックに関する目されるすべての問題でIOCがタイムリーかつ完全な情報が与えられるよう求め、フランスの司法当局の捜査の一角となることを申請した」と述べている。

捜査に全面協力するというのだろう。鬼が出るか、蛇が出るか。「理解を絶している」というだけのわが日本のヒカリコ・スポークスパースンとはえらい違いだ。フランス当局のこの動き、ガーディアンとギブソン記者の健闘に期待しよう。

東芝解体と海外ファンドの食指

東芝の解体とその事業売却の行方に関係者が気を揉み始めている。パソコン事業や白物家電事業の切り出しと並んで注目されているのが、グループ内で医療機器事業を手掛ける東芝メディカルシステムズの売却である。収益面で足を引っ張る白物家電事業などを切り離して止血するのとは違い、収益力が強い東芝メディカルの売却は外部からの資金を採り入れるための輸血であり、ライバル企業にとっても投資ファンドにとっても関心は高い。しかし重要な視点を忘れてはいないか。

関係者が気を揉む理由は、東芝メディカルの事業領域と入札参加者の顔触れにある。東芝メディカルはX線診断システムやCTシステム、MRIシステムなどの製品ラインナップで高い収益力を誇り、比較的シェアは小さいが電子カルテも手掛けている。

一方で入札に参加したのは富士フイルムやコニカミノルタといった事業会社のほか、海外プライベートエクイティファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)なども含めて10社前後に上った。なかでもKKRは2014年にパナソニックの医療機器部門だったパナソニック・ヘルスケア(PHC)を買収しているだけに「売却先がKKRになった場合、PHCと東芝メディカルを一緒にして売却するのではないか」との懸念が浮上している。

KKRがPHCを買収した際に懸念されたのは、PHCが診療所向け電子カルテで高いシェアを持っていたことだ。電子カルテは遺伝子情報まで含めて個人情報の塊で、その蓄積につながる同事業はビッグデータを取得するうえでも大きな価値がある。蓄積されたデータが抜き取られて外国企業に売却され、二次利用されるとどうなるか。

医薬品メーカーにとって医薬品開発や営業の重要な手掛かりとなるし、保険会社にとってはどの地域にどんな保険商品を販売すればいいのか、判断材料になる。日本市場が海外企業の草刈り場と化す懸念があるため、PHCの売却に際しては日本政府が問題視したほどだ。

一般診療所向けの電子カルテで、PHCのシェアは20%強でトップ。一方、東芝メディカルは病院向けで2%のシェアを持つ。両社がカバーしている医療機関に通う患者を合計すると最低でも数百万人、カウントの仕方によっては4千万人にも上り、ビッグデータとしての価値はいよいよ高まる。医療データを保有するのは医療機器メーカーではなく医療機関だが、メーカーはメンテナンス時にデータを閲覧でき、医者のように厳重な守秘義務が課せられていないという法律上の穴がある。

パナソニック・ヘルスケアの買収金額は1650億円で、当時は政府内に「台湾の保険会社を中心とした企業コンソーシアムへの転売が前提」という情報がもたらされ、日本の医療データという個人情報が中国を含む海外にダダ漏れになるのではないかとの懸念が強まった(KKRジャパンは否定)。中国のフアーウエイ(華為技術)、アリババ、そして直近の紫光集団の米国市場参入と通信系やデータ系へのアクセスに対しては米国政府も神経を尖らせており、KKRのファンドの金主に中国マネーが流れこんでいないか調査した経緯もある。

今回の東芝メディカルの入札では、当初4000億~5000億円と言われたのが、6000億円強にまで釣り上がったとの情報もある。それだけの価値が何によって見込めるのか。今さら海外投資ファンドの入札参加にケチをつけるつもりはないが、ゲノム情報保護でも日本は法律の整備が遅れているだけに、事後の監視も含めてガードを厳重にしないと、シャープの液晶事業よりも大きな国益を損ないかねない。

買われた? 東京五輪4――ヒカリコは火中の栗拾わず

前回掲載した組織委スポークスパーソンに対する質問状に対し、なぜか組織委理事、高橋治之コモンズ会長の秘書から2月5日に返答が来た。組織委から高橋氏に質問状が回されたようで、高橋理事からの回答である。



(高橋より)

以下お答えしますが、私は電通を2009年に退職していますので、基本的に詳しい事は知りません。

1. 私は何も関与していません。No, I didn’t have any concerns about it.

2. 関係していません。No, I am not concerned.

3. 関係していません。No, I didn’t have any concerns about it.

4. 全く知りません。No, I don’t have any knowledge about it.

5. 独占マーケティング権を電通が持っているのですから、日本企業にかたよるの
は当然だと思います。

6. 私は2009年に電通を退職していますので、そのような事実は有りません。

7. 事実ではありませんし、ちなみにアフリカ票は11票です。

8. 私は全く知りません。

尚、The GuardianのGibson記者より弊社へ同じ質問状をお送り頂いたとのことが書かれておりましたが、本日時点でメール、FAX、郵便等一切届いておりません。

以上、ご確認くださいませ。
よろしくお願い致します。



さて、組織委のほうは回答しないのかと思ったが、2月8日に小野日子名の返答がきた。予想通りここに掲載するにも値しない空疎なものだった。

「ご質問は、いずれも招致段階に関するものであり、開催都市決定後に設立された東京2020組織委員会としては、これらのご質問に対してお答えできる立場にありません。東京は、IOCに東京都による提案内容を評価していただき招致を獲得したものと理解しております。
スポークスパーソン小野日子」

あらヤダ、招致委にはいませんでしたから、知ったこっちゃないんですのよ、という立派なお心がけだ。さすが世界を翔けるママさん外交官である。火中の栗は拾わない。霞が関の鑑ですな。しかも、このメールには、組織委戦略広報課から「本メールは、意図された受取人以外の方による情報の開示、複製、転送などの利用が禁止されています。誤送信等により標記の受信者様以外の方が本メールを受信された場合、誠にお手数ではございますが送信者にその旨ご連絡いただきますようお願い申し上げます」と注記がついている。この程度のことしか答えられなくて、開示、複製、転送禁止だと?ははん、笑わせるな。スポークスパーソンの発言はクオートされるためにあるんでしょうが。彼女には何の権威も責任もないと言っているようなものだ。組織委の「拠らしむべし、知らしむべからず」の典型としてここにさらしましょう。

買われた? 東京五輪3――組織委員会への質問状

2020年東京五輪には、すでに三つのスキャンダルが起きている。第一がザハ・ハディド設計の新国立競技場案の白紙撤回で、これは本誌14年9月号「新国立競技場に『森・石原密約』」、同10月号の「国立競技場解体に『天の声』」、同11月号「『戦犯』は日建・竹中・電通」の3連打スクープで火がつき、翌年のやり直しコンペにつながった。

第二がエンブレムのパクリ問題、そして第三が当初の運営費見積もり3千億円が、すでに1兆8千億円と6倍に膨れ上がり、舛添都知事自ら3兆円になる可能性を白状した野放図な運営費膨張である。本誌は今年2月号の「許せるか『放漫五輪』運営費3兆円」で報じた。


そこに振って湧いた今回の国際陸連前会長を通じたアフリカ票の買収疑惑である。東京五輪組織委にも英ガーディアン紙との共同質問状を送った。宛先は外務省出身のスポークス・パーソン、小野日子さんである。日子と書いて「ヒカリコ」と呼ぶ。元内閣副広報官・官邸国際広報室長と立派なキャリア外交官だが、ガーディアン紙の当初の記事には「「まったく知らない事」「東京が開催地に選ばれたのは開催計画が優れていたから」という白々しいコメント。「1年で地球を6・2周、海外を飛び回る外交官ママ」なんて日経におためごかしを書かれている女性に、改めて問い直すことにした。



東京オリンピック・パラリンピック組織委員会広報
小野日子様

パウンド報告についての共同質問状



月刊FACTA発行人阿部重夫
The Guardian Owen Gibson



拝啓
時下ますますご清祥のことと存じ上げます。ご承知かと思いますが、1月14日にWADA独立委員会のドーピング報告書第二弾(Dick Pound報告)が発表され、セネガル人のIAAF(国際陸連)前局長Lamin Diack氏及びその二人の息子と法律顧問への疑惑の詳細が明らかになりました。

英国紙The Guardinanやそれを受けたブラジル紙などが、2020年五輪招致でイスタンブールが東京に敗れたのは、トルコが息子の一人Khalil Diack氏が要求する400万~500万ドルのIAAF供託金を払わず、東京が支払ったからだと報じています。Khalilとトルコ関係者の間でそうした会話があったとし、Pound委員長は報告はドーピング究明が主眼でそれ以上追及しなかったが、国際刑事機構(インターポール)、仏検察庁が内偵中で、国際オリンピック委員会(IOC)も問題視していると報じられています。

FACTAはThe GuardianのOwen Gibson記者と協力し、「カネで買われた東京五輪」の真相究明を進めています。すでに小野さんは「理解を絶している」とコメントしていますが、ディック・パウンド氏は元IOC副会長・元マーケティング委員長で、電通の表も裏も良く知る人物です。われわれも内部関係者からの取材により、2029年までの国際陸連主催大会の全放送権とマーケティング権を取得している電通の関与を強く疑っています。とりわけ電通元専務、高橋治之氏について弊誌が報じた疑惑を十分研究されてから、以下のThe GuardianとFACTAの共同質問状にお答えいただければ幸いです。

1~4問はGibson記者(すでに高橋氏のコモンズにも同じ質問を送っています)、5~8問はFACTAの質問です。


1.Did Mr Takahashi ever have any concerns about the behaviour of Lamine Diack, his son Papa Massata Diack or his legal adviser Habib Cisse during his years dealing with the IAAF for Dentsu?

2. Is he concerned that Dentsu could be dragged into the scandal given its longstanding links to the IAAF?

3. Dentsu agreed that Papa Massata Diack could act as a marketing consultant in developing markets? Did he ever have any concerns about this arrangement?

4. The second part of Dick Pound's Wada report raised the possibility that Lamine Diack may have switched his vote from Istanbul to Tokyo because a Japanese sponsor agreed to back the IAAF. Does he have any knowledge of this deal? What was his view of the allegation?

5. 現在のIAAFのスポンサーはアディダスを除けば、キヤノン、セイコー、TDKと日本企業ばかりで、放送権の最大権料もTBSです。電通とDiack親子(とりわけPapa Diack)が特別な関係にあるからだと批判されていますが、石井直社長や中村潔執行役員ら電通スポーツ局幹部がDiack親子を増長させたと考えますか。

6.FIFAへの資金ルートだった ISL破綻後も、IAAFと電通の関係をつないできたのは元専務高橋氏(五輪組織委理事、コモンズ会長)と言われていますが、事実でしょうか。

7.高橋氏が東京招致にあたり「(アフリカの)40票は自分が取ってきた」と豪語したと伝わっています。電通が高橋氏のコネクションを頼り、親しいディアク氏に説得させてアフリカ票を東京に投じさせたとも言われますが、事実ですか。

8 .スイスでISLなきあと、電通の〝財布〟代わりにAthlete Management Servicesが使われてきたのは事実でしょうか。AMSは必然性もないのに、五輪やFIFAイベントなどで電通から業務委託を受け、カネのチャネルになっていますが、今回の供託金もAMSが使われたのでしょうか。

質問は以上です。お忙しいところ恐縮ですが、締め切りの都合もありますので2月8日(月)までにご回答いただければ幸いです。 敬具

2月2日



この回答は次号で。