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最後からの二番目の真実

沈黙しちゃったアコーディア

本誌最新号で「アコーディア『S-REIT』浮上」を報じたが、25日現在、同社は東証1部上場企業だというのに、リリースも何も出していない。シカト?そうはいきません。全国130コース以上のゴルフ場を保有するアコーディアの会員や株主から問い合わせが殺到している。知らぬ存ぜぬで通すつもりなのだろうか。それなら、本誌が同社に9月10日付で送った質問状と、同社の回答を例によってこのブログで公開しましょう。まず質問状です。



アコーディア
IR広報担当者様

アコーディア資金調達をめぐる質問状



ファクタ出版株式会社
月刊誌FACTA発行人阿部重夫



拝啓
時下ご清祥のことと存じあげます。弊誌は調査報道を中心とする総合誌で、昨年来のPGMの敵対的TOBについても報道しております。PGMのTOB失敗後も弊誌は両社の動向をフォローして参りましたが、以下のように確認したいことがございます。お忙しいところ恐縮ですが、ご返答いただければ幸いです。

1) アコーディアがシンガポールの不動産投資信託(S‐REIT)による資金調達を検討中で、8月には取締役会の承認を得たというのは事実でしょうか。

2) 2年債の社債100億円の償還期限が到来するまでに、臨時株主総会を開いてS‐REIT上場の承認を求める予定はありますか。

3) 上記の取締役会の承認が事実なら、適時開示事項に該当すると考えますが、御社顧問の森・濱田松本法律事務所の石綿学弁護士から開示を求められませんでしたか。

以上です。大変恐縮ですが、締め切り直前で9月13日(金)までにご回答いただければ幸いです。よろしくお願い申し上げます。

9月10日




これに対し9月13日付でファクスで回答書が来た。



ファクタ出版株式会社御中

株式会社アコーディア・ゴルフ



ご回答



9月10日付けで頂戴いたしましたご質問の事項を決定した事実はございません。従いまして、現在、適時開示すべき事項は存在いたしません。

ご理解いただきますよう、よろしくお願い申しあげます。

以上



ここで解説しよう。

「決定した事実はございません」がミソである。これは質問状の「取締役会の承認を得たというのは事実か」という質問を微妙にずらして、はぐらかしている。裏読みすれば、「取締役会承認」は株主総会決定とは違うから、「決定した事実はない」と答えたにひとしい。つまり否定できなかったのだ。

そこまで読み切って弊誌10月号は、アコーディアがシンガポールで不動産投資信託(REIT)を上場し、最大2000億円を調達する予定だが、それは「危ない橋」だと報じた。

実は9月中旬時点でそのスポンサー探しをフィナンシャルアドバイザー(FA)の大和証券がやっているのだから、外に漏れるのは当たり前なのだ。

本誌より前に通信社などがそれを漏れ聞いて、アコーディアに問い合わせしたはずである。同社はそれをにべもなく否定した。「他と同じ回答にしとけ」とFACTAを見くびったのが仇。否定リリースも出せない窮地に陥ったのである。

さあ、これからどんな発表をするのか楽しみである。会見冒頭、「ファクタへ虚偽の回答をしたのみならず、適時開示義務を無視したことをお詫び申し上げます」と言ってもらおうか。

北海道新聞に没にされた書評



池上彰に「目からウロコ」と絶賛されたベストセラー『デフレの正体』の著者が、異次元緩和に踏み切ったアベノミクスに放つ起死回生の書である。

デフレの原因は人口減という彼の主張は、追い詰められた白川日銀が最後にすがったが、黒田日銀がジャブジャブの金融緩和に踏み切ると、影が薄くなった。アベノミクスが今後頓挫すれば、「やっぱり」とリベンジのチャンスが訪れようが、藻谷氏はそんな他人任せにあきたらず、「里山資本主義」に血路を開こうと打って出た。

日本政策投資銀行で全国津々浦々を回り、町起こしや村おこしのコンサルをしてきた人だけに、本領は徹底したミクロの積み上げにある。その帰結としてNHK広島と組んで「里山」のノスタルジアから論を組み立てようとした必然はよく分かる。

対置されるのは「マネー資本主義」。アベノミクスのような「お金をぐるぐる回せば万事が解決する」式のマクロ経済政策は、マッチョな拝金主義の疑似共同体とされ、尻尾を追ってぐるぐる回りする犬のように体力を消費するという。だから、生きていくために必須の水と食料と燃料を得るには、サブシステムとしてマネーに依存しない経済を導入しようというのだ。

ちょっとエコ、ちょっと自然に優しく……得意のミクロの事例を列挙して、“実感”からその可能性を謳いあげる。だが、そこにすれ違いが生じる。マクロとミクロが同断に論じられないことは経済学のイロハ。「里山」というサブシステムの部分解は、デフレというマクロ症状を治癒する解にならない。「里山」は朱子学でいう「修身斉家治国平天下」へのノスタルジアである。

藻谷氏とともにNHK取材班はオーストリアに範を求めてその林業依存を「理想郷」として描く。「兎追いしかの山」に癒される人々は多かろう。過疎の町や村にも生きる希望があるというのは心強い励ましだ。藻谷氏という「ハーメルンの笛吹き」に、ひとつだけ反問したい。マネーなき資本主義って何?

「オリンパス」の風化と嫌な空気

FACTAがオリンパス事件を最初に報じて2年余りが経ち、早くも事件が風化し始めているようだ。事件から引き出されたはずの教訓が、まるで生かされていない事例がぽつぽつと表れているのだ。

ある大手商社はオリンパス事件の発覚直前に社外取締役制度を採り入れ、コーポレート・ガバナンスに一家言を持つ人物を招いた。ところがせっかく招いた人物がガバナンスについて積極的に発言したことがよほど気に入らなかったらしく、社外取締役を解任したくなった。おおっぴらに解任すれば目立つため、社外取締役の任期をわずか2年と定め、任期が到来したこの4月にクビを切った。

ガバナンス問題の専門家からは「月に1~2回の出社に限られる社外取締役が社内の事情を把握するには時間がかかるのに、任期が2年とは短すぎる」との声が上がっている。

社外取締役に招かれるのはもっぱら官僚OBになった。社外取締役や監査役はこれまでにも増して官僚の天下り先となっている。別の大手商社では社外取締役に、外務省出身でプロ野球の「飛ぶボール」問題で火だるまになった加藤良三・日本野球機構コミッショナーが就いている。飛ぶボール問題で加藤コミッショナーがどのように振る舞ったのかを見れば、官僚OBが社外取締役の責任をどの程度積極的に果たすのかはかなり怪しい。企業は社外取締役制度を採り入れたと言っても、形だけなのだ。

こんな話もある。ある企業法務系の専門誌ではコーポレート・ガバナンスをテーマとした論文を専門家に依頼して掲載したが、論文作成に当たって出版社から付けられた注文は「オリンパスについては触れないで欲しい」というものだったそうだ。

損失隠しに手を染めた旧経営陣に対する有罪判決が下った今、「いつまでもオリンパスを叩き続けるのは生産的ではない」という考え方で“オリンパスに触れるな”と言うのなら頷けるが、そうではないらしい。

オリンパスの不正会計を見逃した新日本監査法人とあずさ監査法人に対し、日本公認会計士協会が7月に「お咎めなし」とした時もそうだ。プレスリリースの表題は「精密機器の製造販売事業会社の審査結果の公表について」。表題にも本文にも、新日本やあずさの名前は見当たらず、オリンパスの「オ」の字も出ていない。

何だろうか、この嫌な空気は。

周囲の雰囲気や意向を忖度して口をつぐみ、見て見ぬふりをしてこっそり丸く収めようとするのは、やはり日本人や日本企業が抱えている病理的な部分だ。これでは組織も社会も根腐りしてしまうことを、日本人や日本企業はオリンパス事件を通じて改めて考えさせられたはずではなかったか。

FACTAはオリンパス事件を通じ、ガバナンス問題だけでなく、会計監査の問題や内部告発など、様々な問題を根こそぎ暴いた。しかし上に記した事例を見る限り、日本社会はオリンパス事件を経てなお、何も変わっていないのだ。この貧しい成果をジャーナリズムの勝利とは到底呼べない。

(この記事は本日ロイターに配信したものです)

武富士(TFK)更生計画に関する質問状2 Jトラスト宛て

武富士の管財人に質問状を送ると同時に、昨年、更生会社のスポンサーになったJトラストの藤澤信義社長にも質問状を送った。

Jトラストへの質問状は以下の通り。




Jトラスト株式会社
代表取締役藤澤信義

TFK更生計画に関する質問状



拝啓
時下ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。弊誌FACTAは調査報道を中心とした月刊誌で、LM法律事務所の小畑英一弁護士が管財人を務めた武富士、ロプロなどのほか、管財人代理を務めた日本航空、SFCGなどの経営破たんと企業再生について、度々報じたことがあるのでお見知りおきかもしれません。弊誌の綿密な調査報道は、日本振興銀行の木村剛元会長や、オリンパスの菊川剛元社長の逮捕、起訴につながったことは、関係当局や内外メディアでもよく知られ、政界、官界、経済界に多くの読者を持つ雑誌となっております。

さて、今回はTFK(旧武富士)の更生計画について、A&PフィナンシャルからJトラストにスポンサー契約を切り替えた件を追跡取材しています。ご承知のようにA&P代表である崔潤氏から、小畑管財人およびJトラストの藤澤信義代表取締役に対し、東京地裁に民事訴訟が提起されていますが、これに関連して以下の5点につき、事実確認およびご見解をお尋ねしたいと考えました。お忙しいところ恐縮ですが、当時の経緯などについてご返答をいただけましたら幸いでございます。

① 武富士スポンサー選定の第一次入札で、御社のほかA&P、TPG、サーベラスの計4社に絞られた後、御社が一番札だったにもかかわらず外されたと噂されていますが、それは事実ですか。外された理由は何だったと考えますか。

② 2011年4月に武富士のスポンサー選定入札から降りて以降、あらためて小畑管財人側と接触を始めたのはいつか。


③ 同年11月に韓国金融監督院がA&Pに対し営業停止処分を行う可能性があると韓国紙が報じた後、A&P代表の崔潤氏と接触し、どのような折衝が行われたのでしょうか。その仲介に泉信彦管財人代理はどう関わっていましたか。

④ 同年12月19日時点までA&Pフィナンシャルと武富士支援について協働体制を協議していたにもかかわらず、その後、A&P側への通告等なしに小畑管財人との間で単独支援を決めてしまったのは信義則上問題がなかったのか、その見解をうかがいたい。

⑤ 崔潤氏が小畑管財人と藤澤代表取締役を相手取って起こした民事訴訟では、小畑管財人とJトラストが組んで、A&P外しのために12月20日の50億円不払いでスポンサー解除の理由づくりを行ったと主張され、録音資料などの証拠が提出されていますが、これにはどう反論しますか。

以上でございます。ご回答は直接面談、ファクス、メール、電話などいかなる形でも構いません。ただ、記事は次号(8月20日刊行)掲載を予定しておりますので、まことに恐縮ですが、締め切りの都合上、8月13日(火)を期限とさせていただきます。この件に関しては小畑管財人にも関連質問をさせていただいております。

お手数ですが、よろしくご一考のほどお願い申し上げます。

敬具

8月8日



これに対し、Jトラストおよび藤澤信義氏の代理人であるアンダーソン・毛利・友常法律事務所から8月12日にファクスで回答があった。



ファクタ出版株式会社
月刊FACTA発行人兼編集主幹
阿部重夫

TFK更生計画に関する質問状の件



アンダーソン・毛利・友常法律事務所
(担当・弁護士柔正・弁護士佐藤剛史)



前略

当職らは、崔潤氏からJトラスト株式会社及び藤澤信義氏に対して現在東京地方裁判所に提起されている民事訴訟につき、Jトラスト株式会社及び藤澤信義氏の訴訟代理人を務めております。

さて、貴社がJトラスト株式会社代表取締役藤澤信義宛に2013年8月8日に送付された「TFK更生計画に関する質問状」につきまして、当職らは、Jトラスト株式会社及び藤澤信義氏の委嘱を受けて、Jトラスト株式会社及び藤澤信義氏に代わり、ご連絡申し上げます。今回、頂戴したご質問につきましては現在訴訟係属中であるため、回答を差し控えさせていただきます。

また、今後、本件に関して、Jトラスト株式会社及び藤澤信義氏に対するご連絡事項がございましたら同社および同氏でなく当事務所宛にご連絡ください。

以上、ご了解のほど宜しくお願いいたします。



両回答とも事実上のノーコメントだが、記事にも書いたように、小畑弁護士の回答のほうが“脅し”文句を含んでいるが、どこが事実と違うのかの具体的な指摘がない。

武富士(TFK)更生計画に関する質問状1 小畑英一管財人宛て

FACTA最新号(13年9月号)では、巻頭記事に「武富士『更生』逆転劇の闇」を掲載しています。この記事では、武富士の管財人である小畑英一弁護士(LM法律事務所)に対して、弊誌は質問状を送りました。小畑氏の回答とともに、このブログで公開します。

まずFACTAの質問状から。



LM法律事務所
小畑英一先生

TFK更生計画に関する質問状



拝啓
時下ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。弊誌FACTAは調査報道を中心とした月刊誌で、小畑弁護士が管財人を務めた武富士、ロプロなどのほか、管財人代理を務めた日本航空、SFCGなどの経営破たんと企業再生について、度々報じたことがあるのでお見知りおきかもしれません。弊誌の綿密な調査報道は、日本振興銀行の木村剛元会長や、オリンパスの菊川剛元社長の逮捕、起訴につながったことは、関係当局や内外メディアでもよく知られ、政界、官界、経済界に多くの読者を持つ雑誌となっております。

さて、今回はTFK(旧武富士)の更生計画について、A&PフィナンシャルからJトラストにスポンサー契約を切り替えた件を追跡取材しています。ご承知のようにA&P代表である崔潤氏から、小畑管財人およびJトラストの藤澤信義代表取締役に対し、東京地裁に民事訴訟が提起されていますが、これに関連して以下の5点につき、事実確認およびご見解をお尋ねしたいと考えました。お忙しいところ恐縮ですが、当時の経緯などについてご返答をいただけましたら幸いでございます。

①2011年12月20日夜にA&Pフィナンシャル側に対して武富士のスポンサー契約について解除事由が生じたと伝える以前に、他のスポンサー候補と何らかの形で接触していた事実があるか(12月12日付ロイター通信報道等で少なくともTPGと接触していた事実が窺われるが、それについての見解も含めて)。

②泉信彦管財人代理(またはアドバイザー)が同年12月8日にA&P側と接触し、Jトラストとの協働に向けて協議を始めているが、これは小畑管財人の指示又は容認の下で行われたものか。

③同年12月20日に行われたA&Pと小畑管財人との協議ではJトラストも入れた協働支援体制について少なくとも方向性が確認されているが、その後、スポンサー契約が正式に解除される12月28日までの間、A&Pを蚊帳の外に置いた形でJトラストの単独支援へと話がまとまっていった経緯について、その理由は。また信義則上問題がなかったについての見解は。

④泉信彦氏との管財人代理あるいはそれに類する契約は現在も続いているのか(契約が終了しているのなら、その時期は)。

⑤管財人業務の一部について「クレディエンス」から出向者の受け入れを行っているようだが、これはいかなる契約の下で行われているものか。また、その契約期間、契約金額等はどうなっているのか。契約時期によっては泉信彦管財人代理(またはアドバイザー)の関係先に該当した可能性があり、その際、利益相半取引に当たる恐れがあるが、それについてのご見解をうかがいたい。

以上でございます。ご回答は直接面談、ファクス、メール、電話などいかなる形でも構いません。ただ、記事は次号(8月20日刊行)掲載を予定しておりますので、まことに恐縮ですが、締め切りの都合上、8月13日(火)を期限とさせていただきます。この件に関してはJトラスト側にも関連質問をさせていただいております。

お手数ですが、よろしくご一考のほどお願い申し上げます。

敬具

8月8日



これに対し、8月12日にFACTA編集部にファクスで回答書が届いた。

回答書は以下の通りである。



ファクタ出版株式会社
阿部重夫殿

更生会社TFK株式会社
管財人小畑英一
同管財人代理
弁護士柴田裕之



回答書



前略
当職は、更生会社TFK株式会社の管財人でございます。

さて、貴殿より、平成25年8月8日付「TFK更生計画に関する質問状」との書面を拝受しましたが、同書面にも記載されているとおり、現在、A&Pフィナンシャル等との間で訴訟手続が係属していることから、同書面起債の質問事項へのご回答は差し控えさせていtだきます。

なお、同質問事項には、事実と明白に異なる内容が多数含まれておりますので、この点、念のため申し添えいたします。

以上


『ライス回顧録』のススメ――熊本日日新聞寄稿

熊本日日新聞の書評欄で私が担当している「阿部重夫が読む」のコラムで、ブッシュ大統領の最側近だったコンドリーザ・ライスの『ライス回顧録』を書評しました。巻末に解説を書いている手嶋龍一氏から勧められました。イラク侵攻の03年、拙著の中公新書『イラク建国』で米軍統治が失敗するだろうと予言しただけに、その当事者である回顧録の書評は、むしろ使命かと思って引き受けました。

ところが、どっこい、2段組みで696ページもあって、7月下旬にズシリと重い本が届いてから、フーフー言いながら読みました。すでに第一期ブッシュ政権の国務長官だったコリン・パウエル、国防長官だったドナルド・ラムズフェルドの回想録を読んでいたので、細部の比較が面白く、ディテールが好きな人間には、いくらでも読み応えがあります。どこか、別荘地の緑陰で涼風に吹かれながら、どっちの言い分が正しいのだろうと想像をたくましくしたいところですが、あいにくそんな稼業ではない。

この暑いのに別件でソウルまで飛んで取材、かの地もうだるように暑く、とんぼ返りした翌日に書評締め切りという綱渡りの日程でした。ま、どうにか読み終えて、ライスという優等生の限界が透けて見えたのは収穫です。米国の大統領とか、国務長官のポストは、およそ個人の能力を超えた過酷な仕事なのかもしれません。ふと、マキャベリの「フォルトゥーナ」と「ヴィルトゥ」が思い浮かびました。

前者を「運」と訳すのも、後者を「徳」と訳すのも、『君主論』と『ディスコルシ』の趣旨とはずれてしまうのですが、やはりそこに残る政治の割り切れなさの世界に、ライスも呻吟したのだと言えましょう。



歴史の一回性と決断の是非

コンドリーザ・ライス『ライス回顧録ホワイトハウス激動の2920日
(集英社4400円+税)

スタンフォード大学教授からワシントンに乗り込み、ブッシュ大統領の最側近として国家安全保障担当補佐官と国務長官をつとめたコンドリーザ・ライスの自叙伝である。その経歴自体、ハーバード大学教授からニクソン政権に入り、米中接近とベトナム戦争終結を果たした「冷戦外交の鑑」ヘンリー・キッシンジャーに匹敵する。

彼女の輝かしい軌跡はしかし苦渋に満ちている。9・11テロの惨事を防げなかった国家安全保障の元締めとして、またアフガニスタンとイラクの泥沼に苦闘した外交の元締めとして。

原題「これ以上の栄誉はない」(No Higher Honor)からも、「されど」というアイロニーの倍音が聞こえる。歴史の一回性のもとで下した決断が、是だったか非だったか。自伝を執筆しながら彼女の胸を噛んでいた問いは、それ一つだったに違いない。

その問いにどう答えるか。古代ローマのギリシャ人歴史家、プルタルコスの顰みに倣おう。主著「対比列伝」(英雄伝)はローマ人(今)とギリシャ人(昔)の対比だが、アイデアは素晴らしい。絶対の規範のない政治の世界では、相対的な物差ししかないからだ。結果がすべての政治においては、人がなし得るのはタラレバしかない。

「ブッシュの戦争」が壮大な失敗だとしたら、どこで誰が何を誤ったのか。ことごとに内部対立したブッシュ政権の4人――チェイニー副大統領やラムズフェルド国防長官らネオコン派と、パウエル国務長官やライスらハト派の死闘から、それが窺えるはずだ。

「私は国務長官として、世界の現状が課してくる制約に常に自覚的だった。“可能性の技術”を実践しようと肚を決めていた」

本書の末尾にある言葉だ。もちろん、19世紀ドイツの鉄血宰相、ビスマルクの「政治とは可能性の技術である」を踏まえている。しかしそこに限界が見える。彼女は複雑に絡み合った難題に直面すると、数多くの「可能性」の中から忍耐強くベストの解を探しあてようとする。が、こんがらがった結び目を一刀両断にしたがるラムズフェルドにはこう映った。

「ライスは、省庁間の意見の違いを大統領に解決してもらうのは、自分の個人的落ち度になると思っていたのだろう。〝勝者〟と〝敗者〟が生まれるような、明快な決定を強要するのを避けた」(『真珠湾からバグダッドへラムズフェルド回想録』)

予定調和は「角の立つ問題」の後回しとツジツマ合わせを生む。しかしライスの回顧録は、口出しを嫌がるラムズフェルトの独善と狭量を批判し、責任転嫁を指弾している。

「ドン(ラムズフェルド)とジェリー(ブレマー・イラク連合暫定施政当局代表)の関係がうまくいっていないのは、ドンが戦後イラクのことを傍観していたからだ」

2006年、彼女はバグダッドを視察、深い絶望を覚えた。「大統領、私たちが今やっていることはまるで機能していません。本当に。失敗しようとしているんです」。チェイニーは沈黙していた。

気になる記述がある。同年10月、彼女は第一次政権の安倍首相と会談した。ブッシュが好感を持った小泉前首相と対比して安倍首相は「控えめで感情を見せず、形式のなかに本音を隠してなかなか奥が見透かせない」日本人の典型だが、北朝鮮に限っては「とても強硬な姿勢を見せた」と評している。オバマ政権の安倍〝冷遇〟の兆しが垣間見える。ポスト・オバマが誰になろうが、「木を見て森を見ぬ」日本への懐疑はワシントンに定着しているのだ。

フィリップ・K・ディックの処女作を翻訳しました

8月13日(同9日配本)に平凡社からフィリップ・K・ディックの幻の処女作を翻訳した「市に虎声あらん」(2400円+税)を出版します。

彼は映画「ブレードランナー」や「トータル・リコール」「マイノリティー・リポート」の原作者として知られるSF作家ですが、本来は純文学志向でした。この作品は25歳になる1952-3年に書いた普通小説で、カルトやマッカーシズム、核実験などを背景にした不思議な作品です。

終末観の漂う表紙は一見、夕日のように見えて、実は太平洋上で行われた核実験の写真です。現代のアミターユス(阿弥陀)はこういう来迎図で出現するのかもしれません。

一読、こんな若くしてすでに完成された作家だったという驚き。処女作らしく、後年のテーマがすべてぶちこまれています。しかも、ジョイスを模した前衛的手法を試みていて、そのショッキングなバイオレンス描写は、SFでは見せなかった彼の一面です。

それにしても事件取材の切った張ったの日々に、「酔狂」にも翻訳?そんな暇がよくあったな、とお叱りを受けそうです。

FACTA創刊から丸7年を過ぎ、余裕ができて「余技」に走ったわけではありません。原文を読んで、訳してみるかと思い立ったのはもう5年前になります。当時はまだ現役の編集長で、てんてこ舞いの日々でした。

確かに四半世紀前にディックのSFを2冊翻訳したことがあります。しんどくて、こんな辛気臭い作業など二度とやるまいと思いました。それから、スクープを追うほうが並みのミステリーを読むより面白くなり、現実の事件の推理と駆け引きとスリルの日々で、何も振り返らなくなりました。

でも、小説とはまるきり無縁の、殺伐たる資本の世界をひた走っていると、ヤマギシ会に材をとった女仕置人みたいなカルト小説が絵空事に見えてしかたがない。世界はもっとリアルで激烈なのに、その興奮を薄口にするのはもったいない。

そこに、埋もれていたディックの処女作が世に出てきました。一読して、ほかに訳す人など出てこないと思ったのが第一です。もう半世紀以上も前の世界なのに、リアルに人声と荒い息が聞こえる。

ときに酔眼朦朧の夜更け、あるいは寝ぼけ眼の早朝、一日二ページのペースでぼちぼち翻訳していきました。そこに何か見知らぬ世界が出現すると信じて。

そういう寡黙な作業は、取材の過程とそう変わりません。スクープからも翻訳からも、世界の「開かれ」Lichtungがあっていい。ここにはもう一つのアメリカが、くっきりと捉えられています。ご笑覧ください。もし気に入ったら、誰かにご紹介もお願いします。

週刊ポスト連載 伊藤博敏「黒幕」に期待する

20年来の畏友であるフリーランス・ライターの伊藤博敏氏が、満を持して連載を開始した。

題して「黒幕」――主人公である石原俊介氏は4月に亡くなった情報誌「現代産業情報」の発行人で、事件取材に携わるジャーナリストの間では知る人ぞ知る存在だった。私もバブル崩壊後の90年代に彼を知り、たびたび謦咳に接し、ときに銀座の飲み歩きに付き合ったから、その通夜に参列した。

晩年はFACTAが追及した日本振興銀行をめぐる対立もあり、「恩知らず」と言ったという話も聞こえてきたから、出入り禁止(自粛?)状態だった。「兜町の石原ですが」とかかってくる電話も絶えていた。

伊藤氏から昨年、ガンで入院したとの話を聞いて、「そろそろ会おうかな」と思っていた矢先の訃報だった。80年代バブルから90年代のバブル崩壊にかけては、石原氏がもっとも輝いていた時代だった。その裏情報に、どのメディアも歯が立たない時代が確かにあったのである。

兜町のオフィスは、彼のメガネにかなったジャーナリストだけ出入りを許され、新聞もテレビも週刊誌も一流の事件記者なら、一目置かずにはいられない存在だった。どこであんな情報を入手できるのか、それが悔しくて夜も眠れぬ日が続いた。

没後、「現代産業情報」は廃刊となり、最終号は伊藤氏の追悼と廃刊の弁が掲載されていた。月2回、あのグレーのニュースレターが来なくなると、やはり寂しい。途方もなく大きな穴があいた気がする。

世間的には一介の情報屋だが、警察も検察も目を凝らしていた。彼の真の姿を書けるのは、伊藤氏のほかにはありえない。「現代産業情報」を継ぐのでは?と言われたほど、それを支える人物の一人だったからだ。

実は彼から、連載タイトルの相談を受けた。「黒幕」はやや大げさすぎ、私のつけた仮題のひとつは「影法師」だった。週刊誌では迫力が乏しいと採用にならなかったが、じぶんを大きく見せるという意味で、石原氏の実像は「影法師」に近かったと思う。

伊藤氏の仮タイトルは「最後の情報屋」である。「最後」に彼の思いがこもる。ネット掲示板やツイッターなどSNSの横行で、情報屋の存在意義は薄れた。「現代産業情報」も最後のほうではパワーの衰えが目立ち、喉元をえぐるようなエグい情報が離れていたことを示していた。

情報がカネになる時代は終わったのか。その問いは他人事ではない。伊藤氏とともにわれわれも、また大手メディアも、自らを顧みながら生きる道を探さなければならないのだろうか。連載が悲調を帯びるのは自然のなりゆきである。

ちょうど連載開始直後、アマゾンCEOのベゾフが、名門紙ワシントン・ポストを買収したと報じられた。どこも大変なのだ。人知れぬ情報はまだいくらも埋もれているはず、と信じるしかない。

「インデックス摘発」の陰で消えたオンラインゲーム企業幹部

ゲーム業界関係者の間で、ある人物の行方が密かな話題となっている。

かつて弊誌でも採り上げたことのあるオンラインゲーム企業の幹部社員のことだ。謎の多い人物で、会社勤めの身でありながら世田谷区で経営コンサルティング会社を営み、6月に民事再生法を申請したインデックスに勤めていた頃には循環取引に関わったと言われる。そればかりか外国企業を交えたM&A(企業の合併・買収)でも、こっそりキックバックを受け取っていたのではないかという疑念が投資家の間で持ち上がっている。

このいわくつきの人物は5月頃にも「行方が分からなくなったらしい」との風評が立ち、最近になって再び「(インデックスの循環取引に関わって)逃亡したらしい」「警察から勤め先に正式な身分照会が何度かあり、勤め先は事件になる前に辞めさせたがっている」といった情報が飛び交っている。

この人物はインデックス在籍時代にその複数の子会社で取締役を務め、そこから日本振興銀行(インデックスは一時、振興銀行の循環取引の舞台となった「中小企業振興ネットワーク」に参加していた)へ資金を貸し付けることもあったようだ。その中にはすでに債務超過に陥り、営業の実態がなくなっている子会社もあるから、2010年に日銀出身の木村剛前会長が逮捕されたのをきっかけに振興銀行が破綻に追い込まれ、貸付金が焦げ付いたとみて間違いない。

こうした事案なら警視庁捜査二課が関心を持つと思いきや、むしろ暴力団犯罪を担当する組織犯罪対策部の方が強い関心を持っているようだ。

08年にはインデックスが保有していた学習研究社(現学研ホールディングス)株をこの人物が広域暴力団、山口組に流出させていたのではないかと疑われるなど、反社会的勢力との接点とみられる人物だからだ。これでは勤め先も単なるうわさ話として片付けるわけにはいくまい。

流出した学研株はその後、どうなったか。東証一部上場の不動産会社で、インデックスの大株主でもあったテーオーシーの10年3月期有価証券報告書をみると有価証券明細表に突如、学研の117万株を保有していることが記載されている。インデックス保有分の約4分の1弱に相当する規模で、流出株の一部をテーオーシーが回収したのではないかと勘繰る向きもあったが、テーオーシーは「市場で買い集めたもの。(流出株を)回収したわけではない」と説明、学研は流出株のその後について回答を保留している。

ファクタがこの人物とインデックスについて本格的に追い始めたのは、昨年に先のオンラインゲーム企業がSAP(ゲーム提供業者)の大手を350億円以上で買収してからだった。インデックスの経営が行き詰るのは時間の問題だと見ていたためでもあるが、それ以外に株式市場に対する信頼が大きく揺らぎかねない問題が背後に隠れているとみられるからだ。このSAPは創業者が広島のヤミ金融業者でアルバイトをしていて逮捕されたことがあり、いわくつきのためアングラとの関係を疑われて上場できなかったのだ。

当時、インデックスの落合正美会長は、この人物が落合氏の個人会社の仕事に関与していたことは認めたものの、その英語力を生かして「海外の事業を見てもらっていた」と強調、SAP買収の裏側については知らないと否定している。

インデックスの循環取引や粉飾決算について記事を掲載したのは、この350億円がどこに流れたかという問題の本丸に攻め入る前の外堀を埋める作業に過ぎない。

(この記事は26日にロイターに配信したものです)

TBSラジオ「大沢悠里のゆうゆうタイム」22日午前9時出演します

TBSラジオの長寿番組「大沢悠里のゆうゆうタイム」で、参院選から一夜明けた22日月曜朝(午前9時から1時間ほど)選挙特集をやるそうです。

鳥越俊太郎さん、余良正男さんと小生の3人で出演して選挙評と参院選後の政局予想を頼まれました。大沢さんはたびたび番組に呼んでいただいたご恩があります。ただ、鳥越さんも余良さんも毎日新聞出身で、小生ひとり違う新聞出身で色合いが違うのでいいのかしらとちょっと逡巡しました。

鳥越さんはお互い社会部時代にロッキード事件取材の現場にいたことで、よく存じあげている尊敬すべき先輩です。余良さんは政治部出身で、小生が半年ほどBS11のキャスターを務めていた時代に、毎日新聞編集局と同じフロアだったものですから、論説委員の方々とご一緒する機会がありました。

その意味では気心知れた方々ですので、久しぶりに話もはずむかと引き受けました。自民圧勝という予想通りの結果ながら、いろいろ面白い芽も出て来ました。自民党から元新聞記者2人が当選しましたが、不思議なことにいずれも日経出身です。私にも少し語れることがあるかなと思います。

新聞では取り上げられない内情やアングルでお話しようと思います。TBSラジオは954kHz。よろしくお願いいたします。


オリンパスとインデックス「第三者委員会」の罪

オリンパス事件で損失隠しを手引きした横尾宣政被告らが6月11日に組織犯罪処罰法違反の容疑で東京地検特捜部に再逮捕され、その翌日には循環取引による売上高の水増し計上の疑いで、証券取引等監視委員会がインデックスに強制調査に踏み切った。この2社に共通するのは、不正の発覚に当たって第三者委員会を立ち上げたことだ。

第三者委員会には弁護士や公認会計士などが担ぎ出されるし、日本弁護士連合会も弁護士向けにわざわざガイドラインを設けているくらいだから世間の信頼は大きい。しかし起用された弁護士たちの意思とは関係なく、ロクでもない目的に使われることがあるようだ。

オリンパス事件では最高裁判事や東京高検検事長を歴任した弁護士が第三者委員会に担ぎ出されたが、関係者によるとこうした起用には理由があり「第三者委員会の調査中に警察や地検が容疑者の身柄をさらわないよう、遠慮させるため」だという。弁護士を交えた第三者委員会を立ち上げた企業に対して、捜査当局はある程度、時間的猶予を与えるのが暗黙の了解になっているようだ。

オリンパス事件では元会長の菊川剛被告らに対して7月3日に判決が下されるが、一方で横尾被告らは容疑を否認しており、公判さえ始まっていない。事件が大騒ぎになっていた一昨年の秋に第三者委員会が立ち上げられ、一カ月もかけて調査を行っていたから、横尾被告らにとっては証拠を隠滅する余裕を十分に与えてしまったのではないか。

しかも元副社長の森久志被告や元監査役の山田秀雄被告は第三者委員会の事情聴取に素直に応じたため、3~4日で調査が済んでしまったが、菊川被告だけはなかなか聴取に応じようとしなかったため、森被告らとはその後は毎日雑談を交わして事情聴取の体裁だけは整え、警察や地検に身柄をさらわれないようにブロックすることになってしまったという。

その結果、3月末の人事異動を控えて捜査当局は十分な時間を確保できず、予め調査の範囲を狭めていた第三者委員会の報告書から、さらに踏み出すことはなかった。そればかりか容疑を否認する横尾容疑者らの反論を突き崩せず、公判前整理手続き中の今も捜査当局は細々と情報を集めている。

第三者委員会の調査中に容疑者を逮捕できないわけではないが、何とも歯がゆい話だ。

一方、インデックスは監査法人から繰延税金資産などの不正計上を指摘され、5月に第三者委員会を立ち上げたが、その調査報告がまとまるのを待たずに監視委員会の強制調査が入った。監視委員会は当然、東京地検への刑事告発を視野に入れているに違いないが、ぐずぐずしていられないはずだ。

FACTA7月号では落合会長の資産管理会社傘下の経営コンサルタントについて触れ、その融資先や取引先には事業の実態がないペーパーカンパニーや休眠会社も少なくないことも指摘したが、もちろんこれらは実地で確認済みだ。報道機関や捜査機関の追及をかわそうとしているのか、インデックスや落合正美会長の周辺では、彼らがどのような人物や会社と関わってきたのかを裏付ける不都合な痕跡を消そうとする動きがすでに始まっている。

(この記事は本日ロイターに配信したものです)

本誌公開質問状に対するカーチスの回答

6月18日にファクスで届いたカーチス経営管理本部経営企画部の回答は以下のとおりである。



6月12日付FAXお問合せへのご回答

平成25年6月18日
株式会社カーチスホールディングス
経営企画本部経営企画部

平成25年6月12日付にて記者よりお問合せのございました質問につき、下記の通りご回答申し上げます。

―記―



貴社がご指摘されているような「野村不動産が仲介しようとしましたが、冨田社長がこれを断ってわざわざN氏に任せた」という事実はございません。

そもそも当社は物件の売主でも買主でもなく、仲介を依頼する立場にはありません。従って、コミッションの扱いについてもそれを差配する立場にございません。

当社といたしましては、適切な社内手続きを経て不動産の処理を進めたものと認識しております。何卒ご理解賜りますようお願い申し上げます。

以上



炯眼な読者はすでに見抜かれたことと思う。この回答は、本誌質問状の②(冨田社長とN氏の関係)について触れていない。これは意図的でしょうね。そこで言質をとられたくないのでしょう。

改めて聞きます。冨田社長はN氏と知己なのか否か。おふたりともSFCGおよびその関連会社出身ですから、知人だったはずである。では、どういう関係にあり、N氏がこの物件の売却に関与した事実を冨田社長が知っていたかどうか。そう突っ込まれるのが嫌で、質問をまたいだと思われます。

カーチスの株主に対してもこれは回答義務があると思う。「物件の売主でも買主でもなく」とあるが、代物弁済の物件である以上、大島氏関連の資産会社に対する貸付金の回収率に関わるのだから、カーチスがこの件のステークホルダーであることは否定できないはずである。

この物件(土地・建物28件)の一覧表でも出しましょうか。それぞれからいくら回収できたのか、回収率は100%ではないでしょう。その損失を圧縮するために、カーチス経営陣は何もしなかったのでしょうか。こんな回答では国税も通らないでしょう。

因縁のカーチス(中古車販売)に公開質問状

大島健伸のSFCGが、リーマンショックのあおりで破綻してから、カーチスは弊誌のウオッチ対象である。

現在の冨田圭潤社長は知らないかもしれないが、実はジャックス以来、その変遷を追跡してきた。ライブドアオート、ソリッド・アコースティック・グループ、SFCG、日本振興銀行とあきれるほど、カーチスは転戦してきた。

いまはKABホールディングス合同会社の傘下に入っているが、歴代社長が逮捕されるという不祥事続きの呪われた企業なのだ。が、日本振興銀行が破綻したあと現経営陣が生き延びたのは七不思議である。

と、いうわけで質問状を送った。6月12日に証券取引等監視委員会が、同じ振興銀傘下にいたインデックスの強制調査に踏み切ったからだ。当然、当局は振興銀傘下企業の実態も知ろうとしている。

で、カーチスについての疑惑を質問状にしたわけである。質問したのが下版間近だったので、弊誌最新号(7月号)ではまだ取り上げていない。でも、重大問題だと思うので改めて問いたい。





株式会社カーチスホールディングス
代表執行役社長冨田圭潤

大島健伸氏資産管理会社からの代物弁済について

ファクタ出版株式会社
月刊FACTA発行人阿部重夫



拝啓
梅雨の候、ご清祥のこととお慶び申し上げます。弊誌は09年にスクープした日本振興銀行事件以来、同行の中小企業振興ネットワーク傘下にあった企業の追跡取材を続けておりますが、本日(6月12日)、証券取引等監視委員会が傘下にあったゲームソフト制作会社インデックスに対し、循環取引による粉飾決算の疑いで強制調査に入りました。

ご承知の通り、カーチスもSFCG破綻で振興銀行傘下に入った企業です。その後の経過についても御社をフォローさせていただいております。大島氏資産会社への貸付金回収について、冨田社長はSOA元社長のN氏を指名し、大島氏側が代物弁済で提出した不動産案件を処分する度に、返済金以外にN氏がコミッションを得ていたとの情報があり、以下の件をお尋ねします。

1) 不動産売却で優先担保を持つ関西アーバン銀行などの了承を得るため、野村不動産が仲介しようとしましたが、冨田社長がこれを断ってわざわざN氏に任せたのはなぜでしょうか。

2) N氏はカーチスの代理人として関与したのか、冨田社長個人の代理人として関与したのか、いずれでしょうか。

3) このコミッションについて冨田社長は承知していましたか。

4) このコミッションは全額N氏の所得になったのでしょうか。

5) このコミッションの税務処理がどうされたかご存知でしょうか。

本件について、弊誌は東京地裁民事13部で平成22年3月26日に行われた和解文書と不動産目録を入手し、このコミッションは本来、カーチスへの返済金に含まれて損金の圧縮に充当すべきではなかったかと考えております。今後の振興銀行傘下企業への国税、警察なども含めた捜査の進展によっては重大な問題をはらんでいると思いますので、冨田社長にご見解をうかがいたく、お忙しいところ恐縮ですが、6月18日(火)までに面会、メール、ファクス、文書、電話いずれでも結構ですが、ご回答いただきますよう、お願い申し上げます。敬具

6月12日



これに対し6月18日、カーチスから回答書が届いた。それは次に紹介しましょう。

FACTAインタビューの誤記をお詫びします

最新号(13年7月号)70ページ掲載のFACTAインタビュー及び、目次でインタビューのお名前を誤記しました。「名和和男氏」とあるのは「名和利男氏」の誤りですので訂正いたします。

このオンラインでは修正しましたが、雑誌は間に合わず、読者のみなさまに配布されてしまいました。

ご本人および読者のみなさまにご迷惑をおかけし、心よりお詫びいたします。

FACTA編集部


インデックス強制調査(振興銀行「残党」の地下茎を追う2)

編集のピークでブログを書いている暇はないのだが、6月12日、ジャスダック上場のゲームソフト制作会社インデックスに対し、「循環取引」による粉飾決算(金融商品取引法違反)の疑いで、証券取引等監視委員会が本社や創業者である落合正美会長の自宅などに強制調査を行った。

本誌はすでに最新号(13年6月号)で「『落合インデックス』が決算修正で瀬戸際」を報じており、いわば予告記事でスクープしたことになる。フリーで閲覧できるようにしたのでご覧ください。

また、それを踏まえてロイター配信とこのブログで、5月27日に「振興銀行『残党』の地下茎を追う」でも、企業名を伏せてその内実を続報している(通信社配信のため、固有名詞のリスクを相手先に取らせることができなかった)が、ここで改めて社名を入れて再録します。





振興銀行「残党」の地下茎を追う2

もう3年経った。FACTA調査報道の標的となり、2010年には木村剛前会長が逮捕されて経営破綻した日本振興銀行の周辺が、今ごろになってにわかに慌ただしくなってきた。警視庁が5月15日に同行傘下だった経営コンサルタント「日本イノベーション」の元社長ら3人が資産隠し(詐欺破産)の容疑で逮捕したのがそのひとつだ。

ちょうど同じころ、同行との間で融資や出資によって捻出した資金を循環させてきた上場企業群のひとつ、インデックス(ジャスダック上場)に対して「架空増資の疑いで捜査が始まる」「課徴金が科されるだけで済むらしい」などといった様々な観測が株式市場で次々と浮かんでは消えた。火のない所に煙は立たぬ。やはり水面下で何らかの動きがあると見るべきだろう。

日本振興銀行とその融資先だった上場企業群(「中小企業振興ネットワーク」と称した)を巡っては、資金の使途や流れがはっきりしない企業買収や第三者割当増資、融資が繰り返されてきた。逮捕者も出たが、その容疑は銀行法違反(検査忌避)だけで、「大山鳴動、ネズミ一匹」となっている。木村前会長を逮捕した警視庁捜査2課も当時の関係者も、「数千億円の預金がどこかに雲散霧消したのに、検査忌避だけじゃ……」ともの足りなそうな顔をしている。

そうしたなかで、奇妙な会社の存在が浮かび上がってきた。前述した上場企業インデックスのオーナー、落合正美会長が代表を務める資産管理会社、落合アソシエイツの傘下で、経営コンサルティング業を営む子会社、AAアドバイザーズがそれだ。この会社の名はネットで検索してもHPさえ見つからず、件の上場企業の公表資料にもほとんど名前が出て来ない。

このコンサル会社の商業登記を調べたところ、中核事業は病院経営のコンサルティング業務と貸金業。経営の悪化した病院に入り込んでカネを貸し付けるのだろうが、4人いる取締役のうち一人を除くと、ITや金融、不動産関係者ばかりで、とても病院経営のノウハウを持っているとは思えない顔ぶれだ。

これまでタッチしたことのない病院経営支援や貸金業に手を出したところで、ノウハウもあるまいに、何をやろうというのだろう。近頃、病院を舞台とした金融詐欺も起きているだけに、怪しさは増すばかりだ。

しかも取締役の面々について素性を調べてみると、そのうちの一人は別の金融コンサルティング会社の代表を務めており、HPに記載されているその実績たるや、目を見張るものがある。株価が100円にも満たないボロ会社や、継続前提に疑義の注記がついた投資会社、債務超過の物流会社、過去に複数の経済事件に関わった投資会社など、息絶え絶えの企業や脛に傷を持つ企業のエクイティ・ファイナンス支援に特化しているのだ。

そしてもう一人の取締役は、こうした事件ではおなじみの大手証券OBであることも判明した。

これらの人物や企業は日本振興銀行の事件とは直接的な関わりはないのかもしれないが、プレイヤーが重複していることから考えて、彼らは地下茎でつながっていて、このコンサル会社こそが結節点と見るのが自然だろう。これまで日本振興銀行の周辺には浮上していなかった人物や企業が、こんなところでつながっているとは驚きだ。

この上場企業(インデックス)と資産管理会社(落合アソシエイツ)、コンサル会社(AAアドバイザーズ)の三者間で、出資と融資、債務保証などで資金を循環させる一方で、銀行からの借入金を焦げ付かせており、捜査当局はどこかで資産隠しを行っているのではないかと動静をうかがっている。

アンジーの乳房はパーツか――寄稿コラム「時代を読む」最終回

新潟日報など日本海側の地方紙に寄稿していたコラム「時代を読む」は、FACTA創刊時から7年に及ぶ長いお付き合いだったが、このほどその最終回を掲載させていただいた。3カ月に一度のローテーションでしたが、これほど長きにわたり掲載させていただき、関係者の方々に心よりお礼申し上げます。

何のテーマで締めくくろうかと考えましたが、ちょっと意表をついて、乳がん遺伝子について。刺激的なタイトルに見えますが、ビッグデータ時代に個人はどう生きるか、を書いたものです。フィリップ・K・ディックに「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」というSFの傑作がありますが、アンジーも身体を機械のパーツのようにみなすアンドロイドになっていくのでしょうか。

そんなことをコラムに書いたのは、近くディックの普通小説の翻訳を出版するせいかもしれません。詳細が決まったら、またお知らせしましょう。



アンジーの乳房はパーツか

ハリウッド女優アンジェリーナ・ジョリー(アンジー)が乳房を切除し、ロサンジェルス・タイムズへの寄稿で自ら公表した。遺伝子検査で乳がん確率が87%、卵巣がん確率が50%の遺伝子BRCA1がみつかったからだという。

一瞬、思った。アンジーの決断はひとごとではない。30億のDNA塩基対が全て判明する遺伝子検査が劇的に安くなる「遺伝子革命」が、ヒトの行動を変える実例がこれなのだ、と。

すい臓がんで逝ったスティーブ・ジョブズがこの検査を試みた4年前は10万ドル以上かかったが、今は簡易キットで299ドル、来年には全検査でも100ドルに下がると言われている。

今はやりの「ビッグデータ」の宝庫とはあなたの遺伝子なのだ。誰しも遺伝子の「傷」(スニップ)を持ち、血液検査のように一覧表で「○○がん確率」を知る時代が目前に迫っている。

推進者であるNIH(米国立衛生研究所)のフランシス・コリンズ所長が、自ら検査してアンジーと同じBRCA1がみつかった衝撃を自著で書いている。「男性でもいたたまれない。娘に遺伝していないか」と心配で悩んだ、と。

アンジーは祖母も母も乳がんを患い、母は10年間の闘病の末、6年前に56歳で世を去った。アンジーは養子3人に加え、夫のブラッド・ピットとの間に双子を含む3人の実子を産んだ「6人の母」。子どもたちに同じ不安に苛(さいな)まれないよう、いずれ卵巣も切除するという。

そこまでやるか。いくら大スターの資産家だからできるとはいえ、サイボーグのように人体のパーツを外して捨てられるだろうか。80年代のSF「ニューロマンサー」さながらだが、魂なき肉体を廃品と見ず、本人の亡骸(なきがら)と見て丁重に葬る日本ではそこまで割り切れまい。

スニップはどんな人でも100カ所以上ある。いちいち臓器を捨てていたら、人体がなくなるし、完璧な人間などいない。日本人なら欠陥遺伝子と“共生”しつつ、発症するまで節制に努め、こまめに健康診断して、いざ発症したら初期段階で手術という微温的な処方を選ぶだろう。

アンジーだって、術後の乳がん確率がゼロになったわけではない。全摘ではなく、部分切除のあとはインプラントだそうだが、この断固としたがんとの戦い、彼女の心身観も影響していそうだ。

彼女は刺青(いれずみ)マニアだった。かつての愛人の名は今やレーザーで消して、子どもたちの名が入っているという。父は名優ジョン・ボイトだが、早く別れて母子家庭で育ち、十代で自殺衝動に駆られたこともあり、葬儀屋志望だった。

精神病棟の少女たちの葛藤を描いた映画「17歳のカルテ」でアカデミー助演女優賞を受賞したが、自らの思春期を投影して地で演じたのでは?その強烈な自我は自らのイメージづくりに発揮され、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)親善大使を務めて、エチオピアやベトナムなどの児童3人を養子にしたのは、率先垂範のつもりだろう。

他方、度を越したメディア干渉をニューヨーク・タイムズが暴露している。乳房切除も、徹底した計算ずくで生と死の境の綱渡り、自らの人体を交換してみせる人為の演出でないとは言えまい。だが、それが「人為のユートピア」アメリカの本質でもある。

人為でも力ずくで自然に変える―それが遺伝子操作なら、まさにアメリカの権化だろう。「白鯨」の作家、ハーマン・メルヴィルがこう書いている。



「〈死〉そのものが〈生〉に変わるということは、まったくアメリカの驚異なのだ。それゆえ政治制度までが、他の国ならば人為性の極みに見えるはずなのに、自然法の神的徳性をまとっているように見える」



まさにアンジーは人為の女神。日本でこの割り切りに対抗するとすれば「何ンゾ鬼アラン、又神アラン、生テ働ク処、コレヲ神トスベキ也」という無鬼(無神)論を書いた江戸時代の大阪商人、山片蟠桃くらいか。

(注)BRCA1という悪名高い遺伝子が出てきますが、「BRCA」とはbreast cancerの略です。


振興銀行「残党」の地下茎を追う

もう3年経った。FACTA調査報道の標的となり、2010年には木村剛前会長が逮捕されて経営破綻した日本振興銀行の周辺が、今ごろになってにわかに慌ただしくなってきた。警視庁が15日に同行傘下だった経営コンサルタント「日本イノベーション」の元社長ら3人が資産隠し(詐欺破産)の容疑で逮捕したのがそのひとつだ。

ちょうど同じころ、同行との間で融資や出資によって捻出した資金を循環させてきた上場企業群のひとつに対して「架空増資の疑いで捜査が始まる」「課徴金が科されるだけで済むらしい」などといった様々な観測が株式市場で次々と浮かんでは消えた。火のない所に煙は立たぬ。やはり水面下で何らかの動きがあると見るべきだろう。

日本振興銀行とその融資先だった上場企業群(「中小企業振興ネットワーク」と称した)を巡っては、資金の使途や流れがはっきりしない企業買収や第三者割当増資、融資が繰り返されてきた。逮捕者も出たが、その容疑は銀行法違反(検査忌避)だけで、「大山鳴動、ネズミ一匹」となっている。木村前会長を逮捕した警視庁捜査2課も当時の関係者も、「数千億円の預金がどこかに雲散霧消したのに、検査忌避だけじゃ……」ともの足りなそうな顔をしている。

そうしたなかで、奇妙な会社の存在が浮かび上がってきた。前述した上場企業のオーナーが代表を務める資産管理会社の傘下で、経営コンサルティング業を営む子会社がそれだ。この会社の名はネットで検索してもHPさえ見つからず、件の上場企業の公表資料にもほとんど名前が出て来ない。

このコンサル会社の商業登記を調べたところ、中核事業は病院経営のコンサルティング業務と貸金業。経営の悪化した病院に入り込んでカネを貸し付けるのだろうが、4人いる取締役のうち一人を除くと、ITや金融、不動産関係者ばかりで、とても病院経営のノウハウを持っているとは思えない顔ぶれだ。

これまでタッチしたことのない病院経営支援や貸金業に手を出したところで、ノウハウもあるまいに、何をやろうというのだろう。近頃、病院を舞台とした金融詐欺も起きているだけに、怪しさは増すばかりだ。

しかも取締役の面々について素性を調べてみると、そのうちの一人は別の金融コンサルティング会社の代表を務めており、HPに記載されているその実績たるや、目を見張るものがある。株価が100円にも満たないボロ会社や、継続前提に疑義の注記がついた投資会社、債務超過の物流会社、過去に複数の経済事件に関わった投資会社など、息絶え絶えの企業や脛に傷を持つ企業のエクイティ・ファイナンス支援に特化しているのだ。

そしてもう一人の取締役は、こうした事件ではおなじみの大手証券OBであることも判明した。

これらの人物や企業は日本振興銀行の事件とは直接的な関わりはないのかもしれないが、プレイヤーが重複していることから考えて、彼らは地下茎でつながっていて、このコンサル会社こそが結節点と見るのが自然だろう。これまで日本振興銀行の周辺には浮上していなかった人物や企業が、こんなところでつながっているとは驚きだ。

この上場企業と資産管理会社、コンサル会社の三者間で、出資と融資、債務保証などで資金を循環させる一方で、銀行からの借入金を焦げ付かせており、捜査当局はどこかで資産隠しを行っているのではないかと動静をうかがっている。

(この記事は本日ロイターに配信したものです)

SBIが「韓国でババつかみ」報道をコンファーム

先週の5月16日(木)にSBIホールディングスが奇怪なリリースを流した。

韓国一部メディアの報道を事実上否定するもので、事情を知らない人には寝耳に水。そこで本誌は慎重に事実かどうかを確認した結果、韓国報道通り、SB傘下の韓国の現代スイス貯蓄銀行(商号変更後はSBI貯蓄銀行)で、巨額の追加不良債権3765億ウォン(約345億円)が発生していることを韓国金融監督院(日本の金融庁に相当)がつかんだのは事実と判明した。

SBIのリリースでは、13年3月期の連結決算ですでに織り込んでいるとしているが、当局者によると、この追加不良債権345億円は昨年12月に現代スイスを自己資本不足に追い込んだ不良債権とは別で、韓国で報道されたように、監督院が資本不足を理由に他の貯蓄銀行と同じように整理に踏み切れば、SBIが3月に投じた200億円強の増資は全額欠損になる可能性があるという。

発端は16日のヤフー掲示板。韓国のサイト「MT」が報じた記事(原文はハングル)の日本語訳が載ったのだ。



現代スイス貯蓄銀、数千億の追加不良摘発

記事入力2013-05-15 19:13 |最終修正2013-05-15 20:58

貯蓄銀行構造調整の過程で生き残った業界1位現代スイス貯蓄銀行が金融当局の検査の結果、数千億ウォン規模の追加不良があることが明らかになった。現代スイス貯蓄銀行を買収した日本のSBIグループは、不良規模だけの大規模な増資を再び行わなければ退出される状況だ。

15日金融圏によれば、金融監督院は、預金保険公社などと一緒に最近、現代スイス貯蓄銀行の定期検査を終えた。今回の検査は、日本のSBIグループが増資に現代スイスを買収した後、実際の国際決済銀行(BIS)基準の自己資本比率の要件を満たしているかを確認することに重点が当てられた。

検査の結果、追加で確認された不良規模が数千億ウォンに達することが分かった。 不動産景気の低迷が長期化するにつれ、住宅関連部門ローンの大量不良が発生したためだ。検査の結果を反映した第3四半期(3月末)の累積当期純損失は、なんと3765億ウォンに達する。これにより、日系投資銀行グループであるSBIは大規模な増資が避けられない状況だ。現代スイスは昨年の金融当局からの構造調整(少ない是正措置)を猶予受けBIS比率を7%に合わせるように要求された。



実はこれは記事の半分の翻訳だった。後半は以下の通り。



SBIは去る3月約2000億ウォン規模の有償増資で現代スイスを引き受ける際に、この比率(去年末基準)をぴったりと合わせておいた状態だった。しかし、去る3月末基準で金融監督院が再度調査したところ、数千億ウォンが足りなくなったことが判った。

貯蓄銀行業界筋は、日本SBIは引き受ける際よりももっと多い3000~4000億ウォン規模の有償増資を更に行わなければ、当局が要求する健全性比率を合わせられないと言った。

現在、SBI側は一気に巨額の調達することは難しく順次に有償増資を行うようにしいてほしいと金融当局に要請している。

万が一、SBIグループが追加有償増資を諦めると、現代スイス貯蓄銀行は退出を余儀なくされる。この場合、既に投資した2000億ウォン以上の損害を被ることになる為、何とか有償増資を行う予定。

金融当局は検査結果を基に近い内に金融委員会会議等で現代スイス貯蓄銀行に対する有償増資期間付与等を決める予定。

SBIグループは現代スイス貯蓄銀行の既存筆頭株主であるSBI Finance Koreaを支配する持ち主会社で、80個余りの金融子会社をもっている総資産24兆ウォンの日本最大手クラスの投資金融グルーブ。



これに気づいたSBIが火消しに走ってリリースを流したというわけである。



現代スイス貯蓄銀行に関する一部韓国メディアの報道について

2013年5月16日
SBIホールディングス株式会社

当社子会社である現代スイス貯蓄銀行に関して、同社においてこのたび3,765億ウォン(約345億円相当)の損失が見込まれているとの報道がされておりますが、本件は当社が5月9日に発表済みの2013年3月期連結業績において既に織り込んでおり、本件によりさらなる損失が発生する可能性はありません。さらに、今後同社において発生する損失につきましても、同発表済みの当社業績において保守的に織り込んでおります。

当社は現代スイス貯蓄銀行の買収に際しては韓国金融当局と緊密に連携しながら進めており、今後も当局との協議を進めながら必要な措置を取ってまいります。



FACTAでは慎重にコンファーム作業を進めた。韓国当局である金融監督院の検査が、ここに書いてある通りだったのかどうか、ハングル語報道のため少し時間がかかったが、判明したのはやはりBISが求める自己資本(7%)に不足することになり、SBIに対し345億円の追加増資を要請するか、現代スイスの認可取り消しに踏み切るか、のいずれかではないかという。

「保守的に織り込んでおります」が空々しい。増資引き受け前までの保有株式(20・9%)の評価を額面に切り下げたが、それだけで済むのかどうか。「当局との協議を進めながら必要な措置を取ってまいります」の言葉が、もの悲しそうに聞こえる。

将軍様は追い出した韓国の前会長に吸い取られるだけ吸い取られて、最後はポイなのか。もちろん、現在のSBIに345億円の捻出は途方もなく重い。また子会社売却に走り回っているとの情報もあり、韓国の泥沼は将軍様の首を締めつつあるようだ。

金融“半グレ”が狙う「薬局」や「太陽光」

SNS(交流サイト)や太陽光発電プロジェクト、被災地の復興など、大きな資金が動き、多くの人が集まる分野には反社会的勢力も集まるものだ。これに企業の合併・買収(M&A)が絡んでくると、金融の“半グレ”たちも集まる。

今、この半グレたちが食い物にしようとしている業界をご存じだろうか。ドラッグストア業界がそれだ。コンビニが全国的に飽和状態に近付いている一方、店舗展開に伴って中小薬局の買収競争が盛んに行われているのが背景になっている。

調剤薬局を展開する、ある上場企業の幹部によると「かつて人材派遣業のM&Aで暗躍し、荒稼ぎした連中が中小薬局のM&A市場に流れ込んできている。ウチの会社にも売り込みに来るが、買収金額や手数料をかなり吹っ掛けられる」という。

ドラッグストアの大手企業が、個人経営の“街の薬局”を買収する際、顧客数や不動産価格、薬剤師の人件費を把握すれば割と簡単に買収金額が算出できてしまう半面、もともと中小薬局の買収は不動産投資の側面が大きいうえ、「投資資金を10年くらいで回収できれば」とアバウトに考えて、買収金額はどんぶり勘定になりがちだ。半グレたちにとっては付加価値部分に当たるのれん代の見積もりを恣意的に行えるため、つけ狙いやすい。

太陽光発電ビジネスでも同じことが言える。

FACTA5月号では東証マザーズ上場企業が中国人に乗っ取られた経緯を報じたが、これも実際には価値が把握しにくい非上場企業と上場企業の間で株式交換を行ったのが仇となった。この中国人の会社による「裏口上場」とみた東証が一時、上場廃止猶予期間とし、昨年9月に解除された企業である。

米企業買収に失敗して債務超過に陥ったこの上場企業に中国人を引き合わせたのは、かつて大手証券の株式公開チームに在籍していた人物で、この「裏口上場」にも関わった。

しかも、この上場企業が立ち上げた子会社には、沖縄を根城とする反社会的勢力との関与が強く疑われる人物の影までもちらついていた。同社が参加しようとした太陽光発電プロジェクトでは、他の参加企業がこれを懸念、経営上の諸問題を解決しなければプロジェクトには参加させられないと文書で通告し、最終的に同社を排除した。企業も怪しげな連中の介入を阻止しようと、必死なのだ。

前述の調剤薬局でも金融の半グレたちが社内に潜り込もうとしているが、社長自身が彼らの動きを監視し意識的に遠ざけているという。必要以上の資金が巻き上げられないようにするためでもあるが、万一、こういう手合いに自社の株式が渡ってしまえばどんな目に遭わされるか分かったものではないからだ。

時々刻々の株価を把握できる上場企業と違って、非上場企業は値があってないようなものだから、半グレたちはここに目をつければ荒稼ぎしやすいのだろう。大した価値のない美術品がバブル期に高騰したような、あるいは霊感商法で「これを買えば幸せになれる」と言って安っぽい壺やブレスレットを法外な値段で売りつけるようなものかもしれない。

アベノミクスの験もあって株式市場の活況が続いているから、企業のM&A意欲は旺盛だ。加えて不動産市場に資金が本格的に流れ込んでくれば、半グレの培養地になってしまうだろうし、彼らに食いつかれた企業はいずれ株式を握られて蚕食される。脇の甘い会社は生き残れない。

「いつかはゆかし」のステルスマーケティング

人を操ろうとネットの裏側から自作自演の「ステマ」。暗くってやりきれないね。FACTA創刊前にこのブログを始めて、ソニーの「ステマ」を暴いたら、サーバーが落ちるほどPVが殺到したことを思いだします。ああいうことをやらせてるソニーの暗さが、やっぱりその後の無残な凋落を招いたのだと思う。

FACTAのスクープに対しても、さまざまな「ステマ」で攻撃されたことは、とっくに勘付いていますが、まともにお相手をすると、こちらまで暗くなるので見て見ぬふりをしてきました。

でも、そろそろ「ステマ」に鉄槌を下さなくちゃならないようです。いい事例が手元にあります。本誌が4月号で載せた「『いつかはゆかし』の化けの皮」のアブラハム・ホールディングス(アブラハム・プライベートバンク)です。あれだけアラームを鳴らしたのに、何をぐずぐずしているのか、消費者庁が突破口を開かないため、まだ