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最後からの二番目の真実

化血研評議会で何が起きようとしているか

12月12日、化血研の木下統晴理事長は臨時評議会を開き、1号議案として「事業の一部譲渡の件」を提案します。「一部」を理由に評議員会に「お伺い」(決定ではない)したうえで、理事会決議で譲渡を決める段取りです。「一部」といっても化血研の事業の大半を占めているのですが、この屁理屈は評議会決議をスキップして理事会で決めようという狙いです。さらに①三事業一体、②雇用維持、③熊本の拠点維持の最低三条件も、木下理事長の古巣である譲渡先のMeiji Seikaファルマに譲歩して「努力目標」に格下げされます。

厚生労働省のトラの威を借りる木下理事長のこうした無理無体は、11月20日発売のFACTA12月号で「木下化血研が『無議決権株』トリック」でいち早く報じられています。同記事はオンライン上で有料でしたが、評議員会の前に関係者のほか、広く厚労省行政に関心のある方々にもう一度考えていただくため、無料化しますのでぜひご一読ください。

地銀の一角にアパートローン撤退の観測

金融庁や日銀が目の敵にしている「アパートローン・バブル」にいよいよ本格的なブレーキがかかろうとしているのか。アパートローン(アパート・マンション建設向け融資)に積極的な銀行の一角が融資から撤退するとして、信用調査会社に問い合わせが相次いでいるという。

2015年の税制改正により、更地にしておくよりもアパートを建てた方が土地の評価額を引き下げられるようになったことによる税金対策や、日銀のマイナス金利政策で土地持ち富裕層に新しい資産運用法になるという巧みなセールストークで、アパートを建てる地主が増加。アパートを一括借り上げして「家賃収入を保証」をうたい文句に、サブリース業者が受注競争を始めた。

しかし需要を度外視したアパート建設により空室が多く目算外れの物件が続出、一括借り上げしたアパートを転貸しできなくなったサブリース業者が、一方的に家賃を引き下げたり、一括借り上げを打ち切ったりした。当然、ローンの返済に行き詰まる大家が増えた。

アパートローンの焦げ付きが増えれば、金融機関の経営を直撃するため、日銀や金融庁はアパートローンの過度な拡大にたびたび警鐘を鳴らしてきた。そうした中で飛び出したのが、前述した地銀撤退の噂だ。

噂の主になったある地銀は「アパートローンは中止していない。個人向け融資には以前から重点的に取り組んできた経緯があり、融資拡大の姿勢は従来と同じ」と言うが、信用調査会社には「10月下旬に開かれた取締役会では撤退に賛否が分かれたが、頭取が経営トップの判断として撤退を決めた」などと妙に具体的な話も飛び交っている。

これだけ具体的な話が出てきているのだし、アパートローンの拡大が突出しているとして、日銀や金融庁の報告書でも名指しで牽制されていた銀行が、この期に及んで行政に楯突くとは考えにくい。一方、アパートローンに積極的な別の銀行は、融資姿勢についての質問にダンマリを決め込んでいる。他行の融資姿勢を、息を潜めて見極めようとしているのか。

投資家は敏感だ。「サラリーマン大家さん」の個人投資家は「この銀行が融資姿勢を変えると、アパートの市場動向は大きな影響を受ける」として、売りに出されていたアパートの購入を踏みとどまった。

サブリース業者の苦境を伺わせる話もある。アパートの備品を契約通りに更新していないとの批判を受け、ある業者は各室に備え付けのテレビを、リースの液晶テレビに切り替えようとしている。ところがリースの交渉を持ちかけた先が有名なハコ企業で、しかもハコ企業側で精査したところ、持ち込まれたリース条件ではほとんど利益が出ないことがわかり、ハコ企業側から断ったという笑えない話もある。

わざわざハコ企業をビジネスパートナーに選ぼうとしていることと言い、ハコ企業にも相手にされなかったことと言い、サブリース業者の苦境が透けて見えるようだ。

国の規制改革会議などではサブリースはもてはやされてきたが、今夏から苦境は見えていた。

レオパレス21の受注高は8月以降、前年同月比でマイナスが3ヶ月連続となり、大東建託でも4-10月の受注はマイナス3%。毎年受注を活発化させる9月も、マイナス11%と落ち込んだ。この時点ではサブリース契約の一方的な中途解約を巡ってアパートの大家から訴えられるケースが相次ぎ、社会問題化したのが響いたことは容易に察せられる。

焼き畑農業的な経営のツケが回ってきたといえるが、そこに銀行の融資撤退や縮小が加わるなら、過払い金問題で壊滅状態に陥った消費者金融のようにバブル破裂で痛い目をみるのだろうか。

化血研・木下統晴理事長に告ぐ

化血研は11月20日に評議員会懇談会を開く。評議員会でなく懇談会としたのは、事業譲渡について評決を避けるため、木下統晴理事長のクーデターの黒幕(個人の弁護士から化血研の顧問弁護士に昇格)である千葉泰博弁護士が、化血研の全部譲渡でなく一部譲渡だからと説明、譲渡の内諾を得るためである。つまり評議員会を「飛ばし」て理事会で最終決定に持ち込もうとしているわけだ。さて、評議員会はどう判断するのか。

実に姑息な手だが、地元紙の熊本日日新聞の報道を見ていると、おそらく県民は何も知らない。そこで本誌が10月20日発売号(11月号)で詳細に報じた舞台裏をオンラインでフリー掲載にするのでご覧ください。さらに最新号(11月20日発売号)でも続報「木下化血研が『無議決権株』トリック」を載せていますのでお知らせします。いちだんと内情を深掘りしてあります。

8日から木下理事長は、化血研所員に日を分けて順次、事業譲渡の説明会を開いた。その録音を聞くと、弊誌を悪しざまに言っている。所内であっても中傷すれば名誉棄損にあたると化血研広報に警告したが、それを無視したようだ。よろしい、売られた喧嘩は買いましょう。いずれ録音をこのブログで公開するが、概要を先に書くと、

訳のわからない雑誌には本当のことやデタラメが書いてある。
熊日、日経、薬事日報の報道はよくなってきた。
だれかが怪文書を色々な相手に時期を考えて出している。北朝鮮と同じだ。

どこがデタラメか、具体的に指摘してほしいと広報にメールしたのに、なしのつぶて。
根拠が示せないなら犬の遠吠えという。どっちが北朝鮮と同じか。
化血研で降格人事の恐怖政治を敷き、厚労省のトラの威を借りるだけ。
木下理事長はいまや「ミニ塩崎」化したらしい。

彼に告げておく。FACTAは御用新聞ではない。
大政翼賛報道しかできないメディアは愚民政治と同じである。

ジャパン・クオリティ神話の崩壊――日産、神鋼「企業統治」再考

書いている側もよくわかっていないのではないだろうか。日産自動車やスバルの無資格検査、神戸製鋼所のデータ改竄などを、コーポレート・ガバナンス(企業統治)の機能不全に結びつける新聞記事の論調にそう感じずにいられない。

たとえば神戸鋼がアルミや銅などの製品強度を改竄していた問題について、日本経済新聞の10月18日付の記事「神戸製鋼、『お粗末』な企業統治のツケ」では「経営陣による統治が及びにくい体制になっていた」と書かれている。産経新聞の同14日付記事でも「同社の企業統治は全く機能しておらず」と書き、東京新聞も同21日付の記事で企業統治の欠如を指摘している。

これらの記事では「経営トップの意思や監督が企業の隅々にまで行き渡っている」という意味で企業統治という言葉が使われたり、リーダーシップの欠如をガバナンス不在と表現したりしている。

一連の不正は広い意味での企業統治、つまり企業倫理の問題に含まれるのだろうが、厳密に言えば企業統治は株主による経営監視を目的として、その負託を受けた社外取締役が経営陣の暴走を防ぎつつ、効率をアップさせるための制度だ。

日産や神戸鋼などの不正は、経営トップが暴走したり、指示したものではない。

むしろ一連の不正は内部統制上の問題であろう。内部統制は「業務の有効性と効率性」「財務報告の正確性」「法令遵守」「資産の保全」を目的としている。企業統治と相互補完的に重なる部分も多いが、取締役や監査役が主体となって製造や営業の現場を監督するというベクトルの違いがこもっている。

不正に手を染めた企業も、それを報じている側も、企業統治や内部統制についての理解があやふやなのは、言葉の定義そのものがきちんと定まっていないせいでもあるだろう。それだけ企業統治や内部統制は時代の流れに伴って求められるものが移り変わり、日本人に理解しにくく、浸透もなかなか進もうとしない。確かに企業統治や内部統制について書かれた種々の解説を読むと、その内容はまちまちで会計士や学者の間でも手探りのような状態だ。

しかし海外で企業統治の確立が求められるようになった経緯を見る限り、経営陣を監視して事業の規律を高め、財務報告をより正確にすることなどが狙いだったことに違いはない。

「ジャパン・クォリティ」の神話が崩れたいま、記事の揚げ足取りをしようというのではない。日経平均株価が21年ぶりの高値を回復した背景には、アベノミクスの柱のひとつであるコーポレート・ガバナンス改革が外国人投資家に評価されたこと肌身に感じている市場関係者は意外に少ない。

コーポレート・ガバナンス・コードやスチュワードシップ・コードの導入によって経営者と株主の間に建設的な対話の機運が生まれ、外国人投資家は驚くほどの熱心さで優良銘柄を丹念に物色しているのだ。

ここでもう一度、企業統治や内部統制の改革に光を当て、ねじを巻き直してはどうか。

中国政商「郭文貴」追撃ブログ9 女性秘書「拘束」後の自白画像

いやはや逞しいというか、ごりっぱというか。

香港の大手タブロイド紙「東方日報」が、9月19日にオンライン公開したFACTAの郭文貴スクープをさっそく翌20日にパクっていた(「FACTAが報じた」という体裁だから、正式にはパクリとは言えないが、無断で盛大に引用しているから、そう言っても言い過ぎではなかろう)。

郭文貴東京買醉醜態片曝光 豎中指狂嘔吐

後ろ姿とスクランブル入りで顔が見えないとはいえ、郭文貴より先にハイヤー車内で嘔吐して失神しているキャピタル・パートナーズ証券の崔建雄も、これで祖国に錦を飾ったことになりますな。香港紙ではフリーペーパーの「am730」からは正式に転載要請がFACTAに来ていたが、皮肉なことに有料の東方日報のこの盛大な引用のせいでキャンセルしてきた。パクったが勝ち、の中華世界らしい。

それにしても、ネットでさらしものにするリンチの先進国、中国の突出ぶりはすさまじい。香港返還後に親中色を強めた東方日報が、いかに多くの「郭文貴叩き」記事を載せているかは、サイトの下にずらりと並ぶ関連記事でよくわかる。郭文貴は華人社会では悪玉にせよ善玉にせよ、隠れもない大スターなのだ。

郭文貴叩きの矛先は彼の周辺にも及んでいる。郭の秘書兼愛人の一人という噂もある屈国姣は、顔写真入りでユーチューブにさらされている。週刊誌の風俗記事ばりに、モンタージュや漫画をふんだんに盛り込んである。

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屈国姣は中国当局の手で香港から拉致され、大陸で拘束されているらしい。その拘禁先で撮影されたのか、化粧っ気のない顔でカメラの前に座り、郭文貴のもとで働き、その"悪事"に加担したと告白する証言をしている画像が、これまたツイッターで流れている。1930年代のスターリン粛清化のソ連人民裁判を思わせる仮面のような表情である。




郭文貴は2016年8−9月の東京滞在時、「屈国姣」名義のクレジットカードで決済しているが、同行していたのは別の女性秘書らしい。彼女は汐留のホテルに宿泊し、そこから通っていたという。東銀座の「大上海」の酒宴にもいた可能性があるが、ユーチューブ画像には映っていない。赤坂までSBIの二人を送ったハイヤーを、携帯電話で呼びもどしたのは、このもう一人の秘書だろう。

すでにボディーガードの張志偉のパスポート画像がツイッターでさらされていることはこのブログで書いたが、郭自身の香港発行とアブダビ発行のパスポート画像も流れている。名前はどちらも漢字名が「郭浩雲」、英文名は広東語読みの「Kwok Howan」になっている。

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アブダビのパスポートには、郭がアラビア服のクーフィーヤ(頭巾)をまとって写っている。アブダビを首都とするアラブ首長国連邦(UAE)では、石油開発やインフラ建設などに従事する出稼ぎ労働者を中心に人口の7割以上を外国人が占めていて、UAEパスポートを持つ本国人は特権階級。外国人がUAE籍を取得するのは極めて難しいという。



それを郭が所持しているのは、トニー・ブレア元英首相を介してアブダビ王室に深く食い込んだ証拠だろう。だが、それをこうしてネットにさらす中国当局の徹底ぶりにもあきれるしかない。

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中国政商「郭文貴」追撃ブログ8 FT香港報道で浮かんだ中国富豪2人

新生銀行に中国資本が食指を動かしていることは、英フィナンシャル・タイムズ(以下FT)も9月26日、香港特派員のヘンリー・スペンダー記者が報じた。
https://www.ft.com/content/b7a325fc-a1ca-11e7-9e4f-7f5e6a7c98a2

日本政府保有分と肩を並べ新生銀株の17%程度(FT記事では20%強)を保有する大株主の米ファンド「JCフラワーズ」が、株の買い手を探しているという記事である。興味を示したのが、中国の安邦生命(Anbang Insurance)の呉小暉(Wu Xiaohui)会長と、「明天系」と呼ばれる新興企業グループを率いていた富豪、肖建華だという。

正直言ってFTの情報は古い。安邦生命は創業トップの呉が小平の孫娘を娶ったことで有名だが(離婚説もある)、17年3月時点の新生銀行有価証券報告書で同社株1.55%を保有していることは、FACTAがいち早く8月号で「中国『安邦生命』が新生銀行大株主の怪」と報じている。FTは取材が甘く、すでに安邦が新生の第11位株主であることを確認していない。

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「中国のバフェット」とも呼ばれた呉小暉会長



他方、肖建華は山東省出身で1990年に北京大学法学部を卒業。90年代後半から複数の上場企業の実質支配権を次々と手中にして「明日系」を作り上げた。その黒幕は江沢民・曽慶紅に連なる共産党のグループとも囁かれているから、ある意味で郭文貴と似た「政商」とも言える。

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中国共産党幹部の「白手套」と呼ばれる肖建華



呉と肖に共通する中国語のキーワードは「白手套」。直訳すると「白い手袋」だ。見た目は清潔だが、手袋の下に隠れている手は真っ黒に汚れている。要するに、有力者のために進んで汚れ仕事を手がける代理人のことである。近年は共産党高官のために不正蓄財やマネーロンダリングを引き受ける政商の意味で使われることが多い。
大手邦銀では唯一公的資金が未返済で、中途半端なビジネスモデルで低迷を脱出できない新生銀行は、中国の大物「白手套」の2人にとってお手頃な「不良廉売品」に見えたのだろうか。

問題はこの2人とも、失踪していて中国当局に拘束されていると見られることだ。肖建華は今年1月、香港のフォーシーズンズ・ホテルから拉致され行方不明になった。彼のブログなどもすべて抹消され、中国当局によって大陸に連行されたとの見方が有力だ。安邦生命も中国保険監督管理委員会(保監会)の規制強化の標的となり、5月に新製品発売を3カ月禁止とする処分を食った。そして6月には会長の呉小暉まで拘束され、取り調べを受けている。

10月18日に開幕するの共産党大会(19大)を前に、習近平政権にとって目障りな白手套ははすべてお取り潰しなのだろうか。ともあれ、この2人の新生銀行買収の「意欲」は、当局の摘発を受ける前のことであり、今となっては政争の激流に呑まれた過去の話。だから、FTもその切れっぱしを摑めたのだ。

FTもこの程度か。いわんや、FTの親会社の日経はおろか、日本の全メディアが、お膝元で起きた郭文貴の東京ご乱行のニュースを、1行たりとも追いかけられないのは情けない。日本の当局もFACTA以上の情報は持っていないぶっちぎり状態だけに、画像等これだけ物証を大盤振る舞いしているのにシカトするしかないのだろう。

いまどきの警視庁公安記者さん、恥ずかしくないの?少しは意地を見せなさいよ。

中国政商「郭文貴」追撃ブログ7 財新網と「五毛」ツイート

9月25日、中国の調査報道メディア「財新」が、FACTA10月号がスクープした郭文貴が1年前に東京に来ていて、日本の証券会社幹部と会い、新生銀行買収について密談していた可能性があるとの件を、本誌誌面の写真入りで報じた。
http://finance.caixin.com/2017-09-25/101149932.html

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本誌記事でも触れたが、財新も記者が日本で取材している。われわれの記事と比べて、あっと驚く新事実はなかったが、より詳しいディテールが含まれていた。以下にかいつまんで紹介しよう。

・「大上海」店員の証言
ユーチューブに画像が流れた2016年8月31日の酒宴について、東銀座の中華料理店「大上海」のある店員は1年前の出来事を覚えていたという。なぜなら客がマオタイ酒を5本も注文したから。客の1人は「(自分は)すごい投資家だ」と自称。別の客は「この人は日本の首相にだって会えるんだ。今回は彼(首相)の時間がなかったが」と語っていた。そう店員は財新記者に打ち明けている。

FACTAも「大上海」に取材したが、応じた店員(中国人)は1年前の酒宴を知らず、じぶんはその後で店員になったからと述べ、店員が入れ替わっていることを強調した。日本語で取材したので、警戒されたのかもしれない。

・新生銀買収を提案したのは筒井・崔
2017年1月、キャピタル・パートナーズ(CP)証券の筒井豊春社長と崔建雄が新生銀行株51%を買収するプランを郭文貴に提案した。郭は興味を示し、1月から2月にかけて郭本人とCP担当者との間で電話会議が何度も開かれた。その際に郭は、自分は表面に出ず、対外的にはアブダビと米国金泉公司(郭が米国に設立した投資会社)が買収する形にするとの意向を示した。米国金泉の表向きの代表者は郭の代理人の余建明(William Je)。しかし4月に郭がインターポールの指名手配を受けたことで計画は暗礁に乗り上げた。

・財新記者にシラを切る
財新記者の取材を受けた筒井は、郭文貴とは面識がないと主張。「そんな反体制の人物と、どうして私が付き合うのか?」と一蹴したそうだ。アブダビと新生銀行の交渉の仲介をしたことも否定。その一方、新生銀行がCPの株主であることや、4〜5年前に顧客のために新生銀行の買収案を検討したことを認めたという。

・ロンドン交渉の同席者
2017年5月末から6月上旬にかけて、JCフラワーズとアブダビ側がロンドンで交渉した。その際、JCフラワーズは社員の槇原純を派遣した。だがアブダビ側と買収価格が折り合わず、交渉は決裂した。アブダビ側は新生銀行の長期的な事業計画を提示せず、全面買収の意向も示さなかったという。

ちなみに槙原純とは三菱商事の元社長・会長の槙原稔の長男で、ゴールドマン・サックス証券を経てネオテニー会長を務め、現在はニューヨークにいる。新生銀行の前身、日本長期信用銀行が破綻し、米企業再生ファンド、リップルウッドなどが組成した投資組合「ニューLTCBパートナーズ」に10億円で売却されたときに、外資主導による再建を後押ししたのが槙原父で、新生銀行発足時の取締役にも加わっている。

以上だが、在外中国人が書いたと見られる外野席のツイッターが騒々しい(中国国内からはツイッターへのアクセスが遮断されている)。在日中国人は70万から80万人、彼らの間で郭文貴事件は知らぬ人がないくらい有名だから無理もない。勝手にFACTA誌面をスキャンしているものもある。



(誌面のスキャンつきツイート)







この3つのアカウントはいずれも郭に批判的なツイートが目立つので、当局に雇われたいわゆる「五毛」(ネット書き込み要員)かもしれない。FACTA記事のオンライン掲載から短時間でツイッターに流れたことを見ると、いよいよその感を強くする。日本内外のネット要員はかなり強力なのだ。

中国語の文面を翻訳すると、1本目は「日本メディアが重大報道、郭文貴がブレアなどの要人を通じてカネを騙し取り、銀行買収の陰謀」

2、3本目はほぼ同じで、2本目が途中で切れているので3本目をざっくり翻訳(※カッコ内は本誌の補足)すると、
「中国に対して友好的ではない日本メディアが、G(郭文貴)の問題で積極的に(真相を)暴き出す姿勢を取った。日本最大の経済メディアの1つであるFACTA誌が、カバーストーリーで『中国の政商が日系銀行の買収を画策』という記事を公開、雑誌10月号に全文を掲載する。記事はGが日本で起こされた1件の交通訴訟を明るみに出し、彼が腐敗大陸から来たスパイであり、身分を偽って日系銀行SBIの買収を画策したと糾弾している」

おやおや、新生銀行とSBIを取り違えている。記事理解のリテラシーの低い「やらせネトウヨ」はどこにでもいるらしい。

積水ハウスの地面師事件と「ハコ企業」社長

新宿や六本木、新橋、銀座......この数年、地価の上昇に伴って、月刊誌FACTAでも都内で地面師が暗躍する詐欺事件をたびたび報じてきた。大手の不動産会社さえもやすやすと手玉に取る手口の鮮やかさもさることながら、次第に被害規模が大きくなり、表社会を浸食し始めている様が際立ってきた。

登記のオンライン化に伴って、法務局のファイルに綴じられている土地の登記簿を抜き取って改竄するという"古典的"な手口は通用しなくなり、地面師たちは詳細な役割分担を決めてグループで事件に加わるのが最近の特徴だ。高度なノウハウやディープな情報を持った専門集団が離合集散を繰り返しながら新たな事件を起こす。近年、地面師事件では多くの場合、複数のグループが関与しているとの疑いが濃いのは、そうした背景があってのことだろう。

たとえば建設会社の営業部長は信託銀行と親密になろうとするという。相続に絡んだ再開発可能な土地の出物がどこにあるのかを信託銀行は知り尽くしているからであり、地面師グループにもそうした情報やノウハウを集めることに長けた人物が、金融機関や弁護士、司法書士などからそれとは分からない形で情報を引き出す役割をになっているのではないか。そうした細分化された役割の中で、だまし取ったカネをどのようにロンダリングするのかも重要な仕事だろう。

興味深い話を聞いた。積水ハウスの事件では関与が疑われているグループの裏側に、意外な人脈の存在が浮上しているというのだ。東京・五反田の一等地にある日本旅館の跡地を舞台として、地面師に63億円をだまし取られた積水ハウスの事件は、すでに警察に被害届が出されており改めて説明する必要はあるまい。

積水ハウスの事件に関わったとみられる中心人物と、FACTAでも「最後のハイエナ」として取り上げてきたジャスダック上場の「ハコ企業」の社長が並んで写っているツーショット写真があり、これをある週刊誌が入手したそうだ。一時はシンガポールに豪邸を構えていたこの社長、日本に舞い戻って怪しい事件の周辺でまだ出没しているとは驚きだ。

このハコ企業の社長はこれまでも金融詐欺まがいのトラブルを繰り返し、そのたびに被害者から裁判を起こされ、証券取引等監視委員会もその動向を監視している人物。法廷に出頭した姿を見かけたことがあるが、すっかり貧相になって金融ブローカー顔になっているのには驚いた。この社長は、地面師がだまし取ったカネを海外で溶かし、カネの出所を分からなくしてしまう役割を担っている可能性を疑わずにいられない。

ひとつの地面師事件に様々な役割の専門家が加わる手口は、経営不振に陥った上場企業を舞台に行われる「M資金詐欺」などの不公正ファイナンスとよく似ている。カモにする投資家を集めることに特化した専門家もいれば、ハコ企業が資金調達する際にそのスキーム評価を専門に行う特定少数の会計事務所もある。増資を引き受ける投資ファンドや投資組合も顔ぶれが決まっていることが多い。

専門家が不公正ファイナンスの特定分野にだけ協力し、それが終わると別のファイナンスに関わる離合集散のシステムが出来上がっており、それだけ大きなビジネスとして定着しつつある証左であろう。尻尾をつかまれないよう分業するハイエナの群れは、いわば「分身の術」で当局の追及を免れようとしているのだ。

数年前に地面師事件が増え始めた頃から、証券監視委は不公正ファイナンスに不動産を絡める動きにも目を配るようになった。ハコ企業に対して不動産を用いた現物出資による増資が勢いを増しているからだ。地面師詐欺と不公正ファイナンスが共通の資金洗浄ツールを持つ時代が到来したのかもしれない。

中国政商「郭文貴」追撃ブログ6 アンダーソン・毛利の三流弁護士

ハイヤーのエコリムジン東京と運転手が、キャピタル・パートナーズ証券とSBIリクイディティ・マーケットの社長、社員計4人に損害賠償を求めた訴訟、東京地裁(ワ)19602号は、9月14日に第一回弁論が開かれた。

担当は東京地裁民事43部(市川多美子裁判長)で、原告側は訴状でZhang ZhiWei氏としていた人物が実際には郭文貴氏であり、被告側は敢えて事実と異なる主張をしていたと指摘した点について、裁判長が被告側の見解を質した。

被告SBIの訴訟代理人(アンダーソン・毛利・友常法律事務所の松村卓治弁護士、河合健弁護士)は、次のような発言をした。

(1)Zhang氏が郭文貴という名前も持っていることは知っており、Zhangという名は通称の一つだと認識している
(2)郭文貴という名前も本名がどうか分からない
(3)Zhang氏が実際には男性秘書の名であるということについては、今回の原告書面で初めて聴いた

などと述べた。よくもまあ、法廷で口から出任せをしゃあしゃあと。すでにこのブログシリーズ3でZhang ZhiWeiを漢字で書くと「張志偉」であり、顔写真付きのパスポートがツイッターで公開されていることを示した。このヘッポコ弁護士2人は、クライアントからちゃんと聴取していないだけでなく、自力での調査能力もないことを露呈している。この手抜き、将来は暗いね。


松村卓治弁護士




河合健弁護士

この件で当初、被告側の代理人に立ったのは星野健秀弁護士で、虎ノ門で事務所を開いている東京第二弁護士会所属の個人弁護士だった。




おやおや、どんなご縁でと思ったら、東北大学法学部を1974年に卒業して、短期間大手企業に勤務したとやら。あはは、野村證券である。なあんだ、SBIの総帥、北尾吉孝とキャピタル・パートナーズ証券社長の筒井豊春と同期じゃないか。おやおや、仲のよろしいことで。ややこしい案件だけに、同期の桜にお願いしたわけか。しかし9月はじめにFACTAからの質問状を受けて、痛くない(?)ハラを探られることを恐れたか。



そこで有名弁護士事務所に駆け込んだのだろう。松村は53期で反社やコンプラ、河合は62期でフィンテクが専門とかで、とにかく中国のインテリジェンスが絡んだ案件なぞ手掛けられる経験もなさそうだ。中国語もからきしではないのか。そのくせ、「原告らの書面に出てくる出版会社はFACTAという会社で、SBI社との間でいろいろ訴訟があり、SBI社が勝訴しており、まともな出版会社ではなく、その報道はおよそ信用できないことを申し述べておきたい」と一丁前の口をきいている。

「勝訴」は北尾らの勝手な解釈で、それが証拠にこのホームページには彼らが訴えた記事が訂正も修正もなく掲載されているし、その英文翻訳記事は、海外読者のためにSBIがどんな会社かすぐ分かるようフリーで掲載されている。くやしくて北尾は刑事告訴したが、東京地検は不起訴にした。それも知らずに松村、河合は、クライアントの言い分を丸のみして、裁判所で失敬な放言をしている。このお二人こそ「まともな弁護士ではなく、その発言は信用できない」と申し述べておきたい。

が、本件ではすでに大恥をかいたも同然である。松村、河合は「いずれにしても秘書ではなく後部座席のZhangこと郭と熊の個人的な親交の会食であるとする主張に変更はない」と述べているからだ。ブハハ、前回ブログで重光達雄SBI常務が同席した証拠があがっているじゃないの。では、なんで熊の上司が一緒にいたのか、それをなぜ隠しているのか、ちゃんと落とし前つけていただきましょう。

彼らは論理的にも破たんしている。原告側は「被告熊が郭文貴と長年の友人ならばZhang氏と郭文貴が同一人物と勘違いするはずはなく不合理である」と指摘した。原告側に座布団1枚!すると「長年の友人ではなく、友人というよりも知人に過ぎない」と述べた。だからどうなの?重光が同席する口実にも何にもなりゃしない。

アタマ悪っ!さあ、両弁護士がくじけないよう、みんなで励ましのお便りを出そう。
takaharu.matsumura@amt-law.com
ken.kawai@amt-law.com

中国政商「郭文貴」追撃ブログ5 東京の中心で「青山!」と叫んだ男

さて、エコリムジン東京の運転手にとっては、赤坂1丁目近くで最初の客に嘔吐され、車内を汚されてしまった災難が、もう一度繰り返すどころか、もっとひどい大トラを乗せることになった2回目の送りドライブの音声である。

■2016年8月31日15時59分〜16時01分
ハイヤーは東京・昭和通りを銀座 8 丁目付近を通って銀座東5丁目信号で U ターン。1回目のドライブでSBIの熊が嘔吐し、座席の掃除をさせられた運転手の口から思わず愚痴が漏れる。
運転手:This is my first experience anyway.(こんな目に遭うのは初めてだよ)

■16時01分
車は電源開発先を左折する。「大上海」の店先に 3 人の男が待っている。
ボディーガードの張志偉 はグレーのスーツで携帯を持ち立っている。紺のスーツに水色のワイシャツの崔建雄(キャピタル・パートナーズ証券)と、上着なしで白いシャツの郭文貴は酔いつぶれている。
運転手:So persons are chunked up?(みなさん酔いつぶれてるんですか?)
張志偉:No Problem. Go to ○○Hotel.(大丈夫だ。ホテルへ)
運転手:This seat cannot sit down.(こちらのシートには座れません)

■16時02分
ハイヤーの前を右から左へ郭文貴が横切る
運転手:This side.(こちら側です)

■16時03分
ハイヤーが発車。銀座 6 丁目 新橋演舞場付近まで、中国語の酩酊した声が続くが、聞き取りにくい。
張志偉:今天都关。(今日はみんな閉店してます)
郭文貴:Is Miyake closed?(ミヤケは閉まってるのか?)
張志偉:Closed(閉まってます)
郭文貴:Aoyama?(青山は)
張志偉:Aoyama closed(青山も閉まってます)
郭文貴:Aoyama closed?(青山も閉まってるのか?)
張志偉:Yes. 因为这两三天他们都关门,因为有地震,是这样。(はい。ここ2、3日みんな閉まってるんです。地震がありましたからね。そういうわけです。)
酔いつぶれた郭を何とかホテルに連れ帰ろうと、ボディーガードの張は「地震が起きた」などとその場しのぎの嘘をついている。たぶんよくあることなのだろう。「青山」はわかるが「ミヤケ」とはどこのことか。いずれにしても、郭は東京の地理をけっこう知っているようだ。何度も訪日していることが伺われる。

■16時03分
運転手がホテルに電話する。
運転手:ホテルカーの〇〇です。お疲れさまです。あと 10 分くらいで到着しますけ
れども。あの、かなり酔っていらっしゃいまして。ご自身で歩けるかどうかわか
らない状態で。はい、よろしくお願いします。
郭文貴:I wanna...(※聞き取れない)
張志偉:No problem,hotel?(大丈夫だ。ホテルへ)
運転手:Going back to Hotel.(ホテルへ戻りますね)
郭が後席のティッシュ箱を前席に投げつけた?
張志偉:Quickly,Quick,Quick.(急いで)

■16時06分
晴海通り東銀座付近でビニールをこするような音、張志偉が郭文貴にビニール袋を渡して吐かせたのか?
張志偉:那个...(※聞き取れない)
崔建雄:Sorry,I'm Sorry.(すみません。ごめんなさい)
後席で気絶していた崔が、ここで一瞬目を覚ましたのか。郭は隣で吐き続けている様子。数寄屋橋交差点にさしかかる。

■16時08分
張志偉:老板,你开车慢点儿...(ボス、[運転手に向かって]少しゆっくり運転してくれ。※その先は聞き取れず)
你开慢一点儿(少しゆっくり運転してくれ)
張は慌てているのか、英語でないと通じない運転手に向かって中国語で指示を出している。

■16時10分
後席で郭文貴が騒ぎ出す。
郭文貴:找个咖啡厅喝...(どこかカフェを見つけて...)
張志偉:老板,Hotel.(ボス、ホテルに戻りますよ)
郭文貴:Coffee,Coffee,Coffee,Coffee,Coffee!(コーヒー、コーヒー!)
I say Coffee,Please...。这儿...。(俺はコーヒーって言ってるんだ! 頼むよ。※その先の中国語は聞き取れず)
張志偉:你看一下,崔总。(ちょっと見て。崔さん)
「崔总」は直訳すると「崔社長」という意味だ。中国では実際の肩書きと関係なく、企業で一定以上の地位にある管理職を取り巻きが「社長」と呼ぶ習慣がある。日本語の「シャチョーさん」「ブチョーさん」のニュアンスに近いか。いずれにしても張志偉のこのひとことは、郭の隣に座っていたのがキャピタル・パートナーズの崔だった証拠だ。

郭文貴:Office? OK.(事務所? OK)
Coffee,咖啡啊(コーヒー、コーヒーだ! ※前席の背もたれを蹴りながら?)
張志偉:你,这样,到酒店休息了,他这样真不行了...。(ボス、こういうのは、ホテルに着いたら休みましょう。こういうのは本当にダメです...)

■16時12分
日比谷交差点を右折。
郭文貴:Coffee!(コーヒー!)
運転手:Omotesando(表参道)?
郭文貴:Yea,Go,Go!(そうだ、行け!)
運転手:Omotesando(表参道)?
郭文貴:Yea. Go,Go. (そうだ、行け!)
運転手:Omotesando is the upset direction to the hotel.(表参道はホテルとは逆方向ですが)
郭文貴:Yea. Don't go back to hotel. I want to go to outside.(わかってる。ホテルには戻るな。俺は外に行きたいんだ)
Aoyama(青山),Aoyama. You know,I want go to Aoyama.(青山だ、青山。俺は青山に行きたいんだよ)
運転手:Aoyama? OK.(青山ですか。はい)
郭文貴:Coffee,I want to go to Coffee.(コーヒーだ。俺はコーヒーを飲みに行きたいんだ)
運転手:Coffee? OK.(コーヒーですか、はい)
運転手は呆れ果てたのか、青山へ向かえと騒ぐ郭の要求を適当にあしらっている。前席の背もたれを蹴るような音
郭文貴:陈酒,啊...(酒だ...)
張志偉:什么东西?(何ですって?)
郭文貴:陈酒...(酒...)
張志偉:它没有...(ありませんよ...)

■16時13分
日比谷通り、第一生命ビル付近
後席から酩酊した中国語が聞こえるが、意味不明。
前席の背もたれを蹴るような音

■16時13分
嘔吐したような音

■16時17分
ホテルの車寄せ到着

■16時18分
ホテルマンが介抱か?
郭文貴:No!(やめろ!)
ホテルマン:あれはやばいな...

そこから先は訴状に書いてある。ホテル従業員が車椅子を用意したが、酒乱の郭は車椅子や車の後部席を蹴飛ばした。そこで張が郭を背負って、ホテルの303号室に連れていった。他方、崔は車から降りられず、失神状態で車内にとどまった。17時40分ごろ、やっと目を覚ましたが、まだ悪酔いは引かず、車から出たものの、ホテルに隣接する大手町ファーストスクエア敷地内で再び横になり、嘔吐を続けて19時近くに知人が迎えにきたというから、3時間ほどのたうちまわっていたことになる。

目もあてられない。これだけ迷惑をかけて、知ったことかと尻をまくる気がしれない。が、このご乱行の裏に隠れているもののほうが、よほど根は深いのである。

中国政商「郭文貴」追撃ブログ4 車内でのゲーゲー会話

東京地裁民事43部に提出されたエコリムジン東京の訴状には、郭一行が送迎につかったハイヤーBMW740Liが、東銀座の中華料理店「大上海」から客5~6人を二度に分けて送ったことが記されている。

1回目大上海→六本木1丁目(SBI本社のある「泉ガーデン」)へ
乗客2~3人SBI関係者2~3人(?)
2回目大上海→大手町(郭の宿泊先ホテル)へ
乗客3人郭文貴とボーディーガード張志偉、キャピタル・パートナーズ証券崔建雄

このうち1回目の乗客数がはっきりしないのは、前回のブログで「人肉捜索」を呼びかけた「第6の男」が乗っていたかどうかがなお不明だからだ。


追撃ブログ1で公開した車内で暴れる郭の映像は、2回目のドライブのものだろう。

1回目の画像はユーチューブにはない。それをいいことに、SBIは本誌質問状への回答で、SBIリクイディティ・マーケット取締役事業本部長の熊龍豹が個人的に出席した会合だったと回答し、ほかに誰が出席したかをほっかむりで済まそうとした。

ユーチューブ動画は2回目の助手席に乗った張志偉が撮っていたから、SBI側のメンツは、運転手に名刺を渡した熊以外は面が割れないだろうと高をくくったのだ。だが、実は1回目の送りドライブにも画像と録音がある。そこには、SBIホールディングス取締役常務(SBIリクイディティ・マーケット社長)の重光達雄がはっきり確認できる。ハイヤー運転手に以下の写真で確認してもらった。頭隠してシッポ隠さずとはこれを言う。

20170922001.jpg


動画は証拠資料として原告側弁護士が裁判所に提出するだろう。そこで、ここでは会話のほうを文字で再現させてもらおう。録音では2人の人物と運転手の声が聞こえる。嘔吐したのは熊だから、もう1人は必然的に重光である。1回目のドライブが大上海を発車した時点で、第6の男も乗っていたかどうかは調査中だが、なかなか嘔吐シーンは迫真的で、ついつい胸にこみあげるものがありますよ。



■2016年8月31日15時34分 赤坂1丁目ATT新館付近
重光:そこ、がーっと行っちゃって。車寄せに着いたら、トイレすぐあるからな。
大丈夫か。大きくゆっくり息を吸っときゃ大丈夫。
熊:はい。はい。
重光:そうだ。そうだ。もうちょっとだ。
(重光が熊に話しかけ続ける)

■15時35分赤坂1丁目桜坂付近
重光:これ(坂を)上がっちゃおうか。ここで上がっちゃおう。
大丈夫か。

熊:はい。

■15時36分赤坂1丁目霊南坂教会付近
(熊が後席で嘔吐)
重光:ここで一回停めようか。
(アークヒルズ・エグゼクティブタワー付近の路肩に停車)

重光:出ちゃえ。出ちゃえ。そんなことやらずに出ちゃえ。
それはちょっとやばいな。運転手さんに任すしかないわ。

運転手:ちょっと、ご連絡先をいただけますかね。後でクリーニングの問題も出てくると思いますので。

重光:うん、ねえ、うん。

(ドアが開く音。重光と熊がハイヤーから降りる)

重光?:熊ちゃん、名刺渡して。吐いちゃって。我慢せずに吐いちゃって。
名刺だけ渡して。何かあったら。このクルマじゃまずいもん。
はい、はい、これ渡して。相談してやろう。
はい、ここでいいよ。あと、このクルマじゃ、迎えに行けないでしょう?

運転手:そうですね。

重光?:申し訳ないね。じゃあ、何かあったら言って。

(ドアが閉まる音)

このあと、路肩に停車したまま後部席を運転手が掃除。嘔吐物を拭き取ってから運転席に戻る。

■15時47分運転手の携帯が鳴る。郭の女性秘書から呼びだしか。

運転手:OK, Hello. Yes speaking. OK, I will go now. About 15 or 20 minutes at the restaurant. OK.

ハイヤーが発車し、大上海に向かう。

SBIホールディングスは、弊誌報道について17年9月19日、この会合は郭と熊の「個人的付き合いから生じたものに過ぎない」とするリリースを発表した。そこでも往生際悪く、親会社HD常務である重光社長の同席を伏せたままだ。なぜ?すでに裁判でも原告側弁護士が、「SBIの熊は『会食は、中国の友人を紹介するという訴外Zhang(実は郭文貴)の呼びかけに個人的な興味から参加したものに過ぎず』などと主張しており、今回の情報はかかる主張の虚偽性を裏付け、熊及びSBIの主張全体の信用性を低下させる重大な事情といえます」と準備書面で主張しているはずだ。

これだけ明々白々な証拠があるにもかかわらず、隠し通せると思っているのが浅はかである。すくなくとも、この裁判は敗色濃厚と思えますな。

次回は、2回目のドライブの郭文貴らの会話を公開しよう。

中国政商「郭文貴」追撃ブログ3 第6の男を「人肉捜索」

中国には「人肉捜索」と呼ばれる人探しの手段がある。それにならって、FACTAも問題の動画に映っている人物の写真を公開して、それが誰かを特定する情報を募ってみようか。人探しで「クラウドソーシング」を試みようというのである。

インターネット浸透では日本より先行している中国で「人肉捜索」がはやったのは、やはり党幹部や官僚の大トラ、小トラが横暴を極め、そのトラの威を借る小役人や警官らが、市民に暴力を振るうなどの事例が続出したためだろう。例えば警官の悪行を通行人がスマホで撮影し、動画をSNSにアップする。するとネットユーザーがたちまちその警官を特定し、市民の抗議が警察署に殺到して謝罪に追い込まれるといった事件がしばしば起きる。スマホというユビキタスなツールを武器に、権勢をカサに着る木っ端役人を「懲罰」しようというのだ。

それを「人肉捜索」とドギツい名で呼ぶところが中国らしい。正面から立ち向かえない相手に、衆を頼んで成敗しようというのだろう。それを今回のケースに応用しよう。ユーチューブで流れた動画第3弾である。まずその魚拓をここに載せる。



実はこの第3弾、これまでのように16年8月31日の「大上海」昼下がりの酒宴シーンが映っている部分がある。先の2本の動画と違っているのは、顔のスクランブルが少ないことだ。AVじゃあるまいし、そんなのを喜んでどうするのかと言うなかれ。

もしこれが郭文貴周辺から何らかの方法で略取した中国インテリジェンスの仕業だとすると、画像処理がいささか杜撰なのである。郭の酒びたりを満天下にさらすための画像だから、郭以外の同席者の顔にスクランブルをかけているうちに、面倒になってきたのか、それとも同席者も同罪だから、ま、いいかとなったのか......横顔はほぼ丸見えで、斜め正面の顔が見えてもほったらかしにしたようだ。

ここらが中国的ズボラというか、人権意識やプライバシーに鈍感なお国柄らしい。あるいは、これを編集した人間の悪意もあるのだろうか。ともかくこの隙はFACTAにとって、いや、日本の当局にとってもチャンスである。その場面を切り出してみよう。

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さあ、この人は誰でしょう。「大上海」にいた人物として、郭文貴、ボディーガード張志偉、キャピタル・パートナーズ崔建雄、SBIリクイディティ・マーケット重光達雄と熊龍豹の5人までは画像等で確認できた。高価そうな白いブランドシャツを着てイスに座った郭が肩に手をかけて、朦朧とした顔の「第6の男」と相対している。やや年配で髪を左で分けている(賠償訴訟の被告であるキャピタル・パートナーズ証券の筒井豊春社長は髪を右から分けている)ので、この「第6の男」は日本人なのか中国人なのか、これは読者からの朗報を待とう。



情報はleaks@facta.co.jpまで。編集部への電話、FAX、手紙等でも構いません。もちろん秘密は厳守します。人肉捜索、よろしく。

さて、この場面を含む第3の動画にもキャプションがついている。

オープニング 「郭文贵的亲密关系」(郭文貴の親密な関係)

※7秒〜1分50秒にかけての録音のテロップは、郭が何者かを褒め殺しにしている様子だが、何について、どういう場面で、誰にむかって語っているのかは一切不明。これは郭の会話を盗聴しているぞという脅しかもしれない。

2分前後から画像が出てくるが、グラスを傾ける郭に顔を寄せている男は、スクランブルがかかって見えない。その次のシャンデリアのある部屋で、白人らしい2人の男と顔を寄せ合う画像が出てくるが、これもスクランブルで顔が見えない。ただ、「大上海」にはこのような個室はなく、宿泊した東京のホテルにもこのような個室はないから、東京ではない可能性が高い。その後に2分10秒前後から問題の場面になる。

第6の男は黒いシャツを着ていて、その黒い木のイスといい、室内の光の具合といい、すりガラスといい、現場を見てきたから、確かに「大上海」と断言できる。後ろには白と赤の貴州茅台酒のボトルが見える。テーブルに置かれた皿やコップの配置から、他の動画と同じく昨年8月31日の酒宴で撮られたものなのは間違いない。郭は酩酊したうつろな目つきで第6の男の首筋に手を回したり、顔を撫でたり、抱き合ったりしている。

最後はまた、「大上海」の店前で、メガネをかけた背広の男性(キャピタル・パートナーズ証券の崔か?)ともつれあう場面になる。

さて、呂律のまわらぬ口で、彼らはいったい何をしゃべっていたのか。まだほかにも記録がある。それは次に。

中国政商「郭文貴」追撃ブログ2 倒れるまで鯨飲する山東商人

ユーチューブに載った奇怪な嘔吐動画のテロップに出てきた「小訴訟」とは何か。

王岐山のスキャンダルを暴露した郭文貴は、その口を封じようとする中国のインテリジェンス(公安省、国家安全省、中央紀律検査委員会の合同チームとされる)と暗闘を繰り広げている。そんななか、ツイッターやユーチューブに郭の醜聞を暴露する謎のアカウントが複数出現した。郭の暴露に対して暴露をぶつける当局のカウンター攻撃だろう。

8月13日、そのうちのひとつが「小訴訟」の資料をツイッターでさらした。日本の民事訴訟の訴状コピーで、驚いたことに東京地裁の事件番号がついている。民事43部が担当する平成29年(ワ)第19026号で、738万8482円の損害賠償請求訴訟である(このツイッター・アカウントは9月20日時点では凍結されたため、今は見ることができない)。訴訟の日付を見た。告訴日は17年6月8日、第一回口頭弁論の期日が7月12日である。おやおや、直近に起きたばかりの訴訟なのだ。

はて、訴状は東京地裁10階で閲覧できるが、コピーはできないはずだ。
日本ですら当事者以外は誰も知らない訴訟を、東京地裁にわざわざ足を運んで、人目を盗んで写し取ったとは思えない。郭の身近にスパイがいるのか、ハッキングか、あるいは誰か関係者を拿捕してスマホやPCなどの機器を押収したかして、訴状の画像を入手し暴露に及んだ、というのがいちばんありそうなケースだ。そんなことがやれるのはインテリジェンス機関、それも相当手荒なチームだろう。いずれにしても空恐ろしい。

原告は株式会社エコリムジン東京と運転手。被告は以下の4人で郭は入っていない。
キャピタル・パートナーズ証券社長筒井豊春
社員建雄
SBIリクイディティ・マーケット社長重光達雄
(取締役事業本部長)龍豹

訴因の記述は、ユーチューブの嘔吐動画を裏書きするものだった。
2016年8月31日午後0時半、東京・大手町のみずほ銀行本店上階にある超高級ホテルの御用達ハイヤー会社であるエコリムジン東京は、宿泊客のZhang ZhiWei(実は郭文貴)の依頼で東銀座の中華料理店「大上海」まで、郭と男女の秘書の3人を送った。郭一行はそこでキャピタル、SBIと飲食した。

同3時過ぎに会合が終わり、SBI側の客2人(3人?)を先に東銀座から六本木の泉ガーデンヒルズまで送ったが、深酔いした熊龍豹の気分が悪くなり、3時36分ごろ車内で嘔吐した。SBI出席者が下車した後、運転手は郭の女性秘書から電話を受け、東銀座に車を戻した。待っていた郭とキャピタルの崔も泥酔しており、二人ともやはり車内で嘔吐した。郭は「青山でコーヒーが飲みたい」などとわめいて車内で暴れた。大手町のホテルの車寄せで郭はホテルが用意した車いすを蹴飛ばし、秘書に背負われて部屋に帰った。崔は車から下りられず、5時40分ごろ目を覚ましたが、隣の大手町ファーストスクエアビル敷地内で再び嘔吐を繰り返したという。さぞかしホテルも困り果てたろう。

まさに中国政商とのランチミーティングで、日本の証券マンが昼下がりから調子に乗って貴州マオタイ酒の杯を重ね、へべれけになって大恥をかいたという次第だ。山東省の農村部出身で酒ガブ呑みが当たり前の郭の毒気にあてられたのだ。ただし訴訟になったのは、とんだ敗着だった。ハイヤー会社のBMW740Liが汚れて、内装まで貼り替えねばならず、車が使えない休業期間も含めて賠償請求したところ、キャピタルの筒井社長が「車の保険で支払えばいい」と請求に応じなかったからだ。銭を惜しんで密事露見とはこれを言う。

ガブリと喰らいついたのが、中国のインテリジェンスだったから、相手が悪い。郭は王岐山のスキャンダルを暴露して、党大会(19大)前の中国政局を混乱させた、けしからぬ国賊だから、何が何でも信用を貶めようと、総力をあげて粗探しをしたのだろう。キャピタルもSBIも思わぬ動画が公開されて慌てふためいたに違いない。

ツイッターでは、郭のボディーガードとおぼしき人物のパスポートまでさらされた。Zhang ZhiWei (張志偉)とある。顔つきからみると、車内で助手席に座り、後部席の郭と崔の醜態をスマホで撮影した男である。これではもう中国公安部の入管を通過できまい。事実上の指名手配である。お気の毒に、中国当局による見せしめなのだろう。とにかくこれで、郭が中国金泉集団所属の「張」の名でチェックインし、東京では偽名で動いていたことが分かった。いかにもスパイのエージェントらしい。原告側弁護士は訴状提出段階では、Zhangの正体が分からず、訴外としていたが、ユーチューブの画像などでその正体を知ったため、訴状を修正して郭を被告に加える方針だ。



実は前回の動画以外にも、ユーチューブには別の場面が載っている。それも魚拓を取ったから、ここにさらそう。





これにもテロップがついている。
オープニング「瘾者郭文贵」(依存症の郭文貴)

テロップ8秒「酗酒」(大酒飲み)

※11秒〜2分05秒にかけての録音のテロップは、郭と秘書の会話と思われる。これも誰が録音したのか、それとも盗聴しているのか。東京の嘔吐事件とは関係ないので省略する。

テロップ2分07秒「瘾毒」(麻薬依存症)

テロップ2分33秒「酒瘾」(酒依存症)
ボートの上で酒を飲む郭。
途中から「大上海」での酒宴になる。郭は鼻をかんだりしているが、上体が揺れて酩酊している。シャツの胸をはだけようとするが、吐き気がこみあげてくるのか、また口をぬぐい、肘をつきうつむいて肩をたたかれている。

テロップ5分09秒「酒精中毒」(アルコール中毒)
救急病院らしいベッドで郭が横になって点滴を受けている光景が映る。ただし東京で撮影されたものではないようだ。

エンディング「每次直播上场前郭文贵都要喝一瓶茅台...」(毎回(ネット)生中継に登場する前、郭文貴はいつも芽台酒を一瓶飲んでから...)

まだ動画はある。それは次回に。

中国政商「郭文貴」追撃ブログ1 ユーチューブに嘔吐動画

インテリジェンスが「知性」だけでなく、「情報工作」を意味することは、日本でもようやく浸透してきた。CIAやMI6の「I」はインテリジェンスの略なのだ。だが、知ったかぶりでインテリジェンスを語り、それを商売にするイカモノ評論家が横行するようになった。本物に肉薄したこともないくせに、ジェームズ・ボンド気取りでかっこをつける。ああ、なんとおぞましい。

FACTAは「インテリジェンス」など標榜しない。一介の報道メディアでいいから、ドブ板取材でどこまで行けるか、とことん突き詰めたい。海外インテリジェンスのママゴトのような日本のインテリジェンス----内閣情報調査室、警察庁公安・外事、公安調査庁なんかぶっちぎってやる、という気概である。国家機関を出し抜けなければ、あらゆるリスクを背負って、割の合わない民間ジャーナリストとして生きる価値はない。

FACTA2017年10月号(9月20日発売)は、中国のインテリジェンス、国家安全省の根幹を揺るがしかねないスキャンダルに迫るスクープ記事を載せた。ネトウヨ好みの空想まじりの陰謀論ではない。この東京に現実に中国の政商兼スパイ(エージェント)がやって来て、東証第一部上場企業の銀行を裏口買収しようとした「謀略」を暴いたのだ。

記事はサスペンス仕立てにしていない。現実はもっと凄まじい。あまりに複雑だから相関図をつけたが、その壮大な金脈と人脈は錯綜した現代の縮図なので、わかりにくくても四の五の言わせない。大域性こそ現実なのだ。ユーチューブあり、ツイッターあり、東京地裁の訴状ありと、真偽とりまぜた情報の洪水を、あなたも自力で泳ぎきらねばならない。そしてJアラートだけでなく、あなたのすぐ隣にも脅威が迫っていることを自覚したら、この命懸けの取材を応援してください。

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8月半ば、グーグルの動画サイト「ユーチューブ」に、スマホで撮ったらしい奇妙な動画が載っているとの情報を得た。車内で客が嘔吐しているという。悪趣味な暴露、というだけではなかった。明らかに精悍な顔をした男が主人公で、あとの登場人物にはスクランブルがかかっていてテロップもあるから、誰かが編集した画像であることは明らかだ。

タイトルは「郭文贵小官司后面的真相」(郭文貴の小訴訟の背後にある真相)

クレームなどでいつ消されるか分からないので、「魚拓」を撮って証拠としてここに保存しておこう。ただし、嘔吐シーンなんて見て気持ちのいいものではないから、食事どきは避けたほうがいい「閲覧注意」である。



精悍な男は、タイトルから察するに「郭文貴」という中国人である。
その名を聞いたとたん、FACTAは反応した。17年6月号の「王岐山一族の『醜聞』暴露した逃亡スパイ」、7月号の「王岐山を襲う『HNAゲート』」、9月号の「中国買収王『海航集団』の躓き」として続けざまに報じたばかりだったからだ。15年に失脚した国家安全省次官、馬建の"手先"のエージェントで、中国の対外インテリジェンスの総元締めの下で握った機密情報、とりわけ習近平の懐刀で、その政敵を次々に葬ってきた中国共産党中央紀律検査委員会書記、王岐山の弱みを知っているキーマンとされてきた。それがユーチューブの画像で醜態をさらしているのみならず、嘔吐した現場が東京だというのだから聞き捨てならない。

画像を見ると、最初に廊下らしきところを郭が歩いてきて、窓外に緑が見える豪華なコンドミニアムの一室であることが知れる。ここは東京ではない。郭自身のブログやツイッターを見れば、彼が購入して自邸としているニューヨークの「シェリー・ネザーランド」18階のようだ。セントラルパーク東南角、五番街に面し、プラザホテルの真ん前にあって、並びにはティファニー本店やトランプタワーもある超一等地である。窓外の緑はセントラルパークなのだ。調度なども一級品である。

それからいきなり泥酔の場面だ。背中しか見えない濃い背広の男に、郭がもたれかかっている。ほとんど正体を失っている。郭は男に抱きとめてもらいながら、カメラ目線で指でさしたり、片目をつぶったり、舌をだしたりとおどけているが、足もとがおぼつかない。背後に店の看板らしきものが見え、凝った書体だが、辛うじて「大上海」と読める。
東銀座、電源開発(Jパワー)本社の南隣、ビルの一階にある中華料理店である。

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ただし、現在は店名は同じでも、外観ががらりと変わって、安っぽくなっている(下の写真)。郭がもたれかかった「大上海」の看板も、メニューの写真に化けていた。店に入ったら、高級店ではない。60席ほどの黒い木のイスとテーブルがならび、個室はない。調理場は丸見えである。ごくふつうのサラリーマンが寄りそうな庶民向けの中華料理店だから、ご興味のある方は実地探査されるがいい。

ちなみにランチはセットで880円、量もどっさりで、コスパはいいが、味は大衆的だ。銀座といっても、郭のような富豪が豪遊する場所とは思えない。なぜ、こんな店で?それに、昼からあんな大酒をくらってベロベロなのに、ほかの客はどうしたのだろう。それとも貸切?ここは国安省御用達のお店なのか。店員に聞いたら、1年前とは店員全員が入れ替わっているそうだ。もしかすると、オーナーごと居ぬきで代ったのかもしれない。足跡隠しに?




さて、車内の嘔吐シーンである。郭は後部席の左側にいて、蹴ったりして暴れている。ティッシュ箱が運転席のほうに飛んできた。もう一人は後部席の右側で、はだけたシャツに嘔吐物を散らしたまま、完全に失神している。奇怪なのは助手席にガードマンらしき体格のいい男が座っていて、この画像全体をスマホで撮影していることだ。なぜ、こんなぶざまな姿をわざわざ撮っているのか。

エンディングのテロップは
「东京小官司至今仍未结束」(東京の小訴訟は今もまだ終わっていない)

小訴訟? それは何のことか。次をご期待。


偶然か、日立と東芝に見る親子上場問題

これも親子上場があぶり出した、大株主と少数株主の意見対立のひとつだろうか。日立製作所が子会社の日立国際電気の売却を中止した一件である。


日立国際電気は、いずれも上場していた国際電気と日立電子、八木アンテナを2000年に統合させた子会社で、半導体製造装置や無線通信システムや放送・映像機器を主力としている。しかし日立がグループ全体の事業を見直した結果、もともと外様大名扱いだった日立国際電気は戦力外通告を受け、売却されることになった。

それでもエポックメイキングなM&Aになるはずだった。日本の電機・自動車メーカーがグループ企業を同業他社に売却することはあっても、海外の投資ファンドに売却したケースはまれと言われるなかで、それを日立がやろうというのだから。しかも日立がこの2年ほどの間、グループの全体を大きく変容させつつあるのは、「東芝の轍は踏むまいとしているのだろう」として、日立の本気度を示す案件でもあったのだ。

一方、売却先になっていた米投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)は、他のファンドと異なり、日本の基幹産業である電機・自動車分野でM&Aの実績をあげることに特化してきた。外食産業や食品などには目もくれず、日立案件を手掛けることを大きな目標にしていたのだ。

しかし半導体製造装置の需要拡大が株価を大きく押し上げ、これがM&Aの足を引っ張った。日立国際電気の売却価格は、日立の決算説明会でも「売却価格が安すぎるのではないか」と無遠慮に質問が浴びせかけられたほど安かった。

売れるときに売ってしまいたいとする日立と、1円でも高く売れた方がいい日立の株主の間で利益や意見が食い違うのは当然だった。日立国際電気の株主にとっても、売却価格が高くなれば埋もれていた株式価値が顕在化することにつながる。日立は親子上場の問題に足をすくわれて子会社売却に失敗したと見えなくもない。

親子上場の問題が最も先鋭的に表出したのは東芝と東芝プラントシステムの現預金問題だった。16年3月期末時点には855億円あった東芝プラントのグループ預け金は17年3月期末にはゼロになり、一方で東芝のバランスシート上、17年3月期の現預金は前期比で2374億円減って7076億円になった。すでに大幅な債務超過に陥っている東芝にとって預け金の引き出しは痛かろう。

しかし東芝プラントやその少数株主にとって、先行きが不透明な東芝に現預金を預けっぱなしにすれば、万一の時には大きな損失につながる恐れがあり、東芝プラントの経営陣は善管注意義務違反があったとして株主から訴えられても何の不思議もない。

現に東芝プラントの株主である香港の投資ファンドのオアシス・マネジメントが、東芝に低利・無担保で預けられていた資金を回収せよと2年もかけて働きかけ、ついには横浜地裁から仮差し止め処分まで受けてグループ預け金を奪還した。

東芝はまた、半導体部門の東芝メモリを売却しようとしてダッチロールを繰り返しているが、ウェスタン・デジタル(WD)と組んで独占交渉権を得ようとしているのが、何の因果か、このKKRなのである。こちらは非上場だから親子上場問題ではないが、土壇場でライバルのベイン・キャピタルがアップルと組んで新提案を出したことでもつれている。海外ファンドが絡むと、日本の大企業が抱える矛盾があらわになる構図は共通している。

日本の主力産業で親子上場の問題が相次いで浮上したのは、単なる偶然だろうか。他国ではほとんど見られないとされる親子上場は、株式市場に残る未開な風習として制度そのものを見直す局面に差し掛かっている。

ジャパンディスプレイ「社外取」多すぎて船山に上る

中韓の有機ELパネル攻勢でいよいよ苦境に追い込まれた「日の丸液晶」ジャパンディスプレイ(JDI)が、銀行などの取引金融機関に総額1000億円規模の支援を求めた。筆頭株主の産業革新機構(INCJ)が債務保証を付ける形で、リストラ費用や運転資金を調達し、人員削減も進めるという。債務保証を付けてもらわなければ資金調達できないのなら、JDIの自律的な財務活動は一段と厳しい制約が課せられるようになったと見ていいだろう。

実は6月末にかけて信用調査会社のもとには、JDIの経営状況や運転資金を心配する取引先企業からの問い合わせが殺到した。取引先企業は本気で資金繰り破綻を心配していたようだ。

8月9日に第1四半期決算の発表を予定しており、そこで今回の資金調達について何らかの言及があるとみられ、JDIの生産拠点がある地域の取引先から今も問い合わせが絶えず、不安は収束していない。なにしろ昨年夏にも金融支援を求め、今年3月には経営陣の刷新を発表し、出直しをはかったばかりなのだ。

ここまで経営が悪化した原因について市場では、JDIの中小型液晶を搭載する米アップルのiPhoneの販売動向やiPhone8が有機ELに乗り換えるかどうかもさることながら、経営陣にも責任の一端があるとの見方で概ね一致している。JDIに対する投資家の評判は決していいとは言えず、これまで「経営陣が自分たちの会社についてきちんと把握できていない」といった諦めにも似た批評はあちこちから聞こえてきたからだ。

加えて筆頭株主である革新機構が、JDIの経営にくちばしを挟みすぎる点も挙げられてきた。JDIはソニーと東芝、日立製作所の中小型液晶ディスプレイ事業を統合した寄り合い所帯。そこに革新機構出身者などが役員として加わり、オールジャパンの色彩が強まったが、結果から見れば"船頭多くして、船山に上る"。経歴だけは華々しいが、金融機関やコンサル会社出身者が多く、事業の目利きや企業の再建が本当にできるのかと疑われている。

7月26日に東京証券取引所が発表した「東証上場会社における独立社外取締役の選任状況及び委員会の設置状況」によると、独立社外取締役が全取締役に占める割合が3分の1を超えている企業は増えたとは言え、東証1部市場の27.2%でしかない。一方、JDIの取締役は7人で、うち5人が社外取締役。さらにそのうちの3人が独立社外取締役で占められており、JDIは形の上でこそガバナンスの優等生ということになるだろう。しかしそれでもJDIの経営に浮揚力が働かないのは、社外取締役制度が毒にも薬にもなり得る性質のものであることを示している。

革新機構に対する投資家の不信感を反映してか、JDIの今年の株主総会では議決権行使にちょっとした株主の抵抗の痕跡が見られた。野村アセットマネジメントが18日に開示した議決権行使の個別開示によると、JDIが提案した取締役選任案のうち、新任の2人の社外取締役にNOを突きつけたのだ。反対を受けたのは、勝又幹英・産業革新機構社長と東伸之・同機構投資事業グループ・マネージングディレクターの二人。結局、選任案は可決されたが、他の新任取締役の選任案には賛成票が投じられたのに、革新機構の二人だけは反対票が投じられたのだから「跳ねっ返りの運用会社が一社抵抗しただけ」では済ませられない。

産業革新機構と言えば、東芝の半導体事業売却でも大きな役割を担っているだけに、この体たらくでは懸念の声が聞こえてきそうだ。落伍した大企業のタンツボと化しつつある革新機構は、いずれ「骨壺」に成り果てるのではないかと。

外国人投資家の「目と耳」リサーチマンを侮るな

上場企業が株主と向き合わなければならない株主総会が、今年もピークを越えた。

死に体の東芝は言うまでもなく、子会社富士ゼロックスの粉飾が明らかになった富士フイルム、モノ言う株主に取り憑かれた黒田電気と川崎汽船など、今年も企業と株主の間で火の出るようなバトルが多かった。株主総会が特定の日に集中する傾向は一段と弱まり、企業が株主と向き合う傾向が鮮明になってきた。

取締役の選任や株主還元、経営効率の改善などで厳しい要求を突きつける存在と言えば、やはり外国人投資家なのだろうが、日経平均株価が2万円台を回復し値固めする展開の中で、外国人投資家は意外におとなしい。

東京証券取引所が毎月発表する投資部門別売買状況で外国人投資家の売買動向を探ると、月ごとに買い越したり、売り越したりで、方向感は乏しい。今年1月から5月までの累計でみると、やや買い越しとなっている程度。もちろん外国人投資家特有の季節的な要因が働いているせいでもあるのだろう。

しかし外国人投資家が水面下で何をしているのかを探ってみると、興味深い点が浮かび上がってくる。

外国人投資家は地理的環境や言葉の問題もあって、日本企業に対する投資判断には自社や投資銀行のアナリストの意見を参考にするほか、独自にリサーチ業者に情報収集を依頼することが少なくない。海外の機関投資家幹部と食事を共にすると、「○○research」などの社名が書かれた名刺を持った人物が陪席することがあるが、彼らは投資家の目や耳、手足となって働く子飼いのリサーチ業者の調査マンなのだ。

今年はこうしたリサーチ業者がてんてこ舞いの忙しさだという。株主総会が多く開かれるシーズンであることも影響してか、機関投資家から個々の日本企業についての調査依頼が次々に舞い込んでいるのだ。日本でコーポレート・ガバナンス・コードが整えられ、個々の企業でガバナンスがどのように強化されているのか、そうした企業で株主還元がどうなっていくのかを探るのが依頼内容だ。

また投資家向けの行動原則であるスチュワードシップ・コードに賛同する機関投資家が増え、企業側が投資家の掲げる要求とどう向き合おうとしているのかも彼らの関心事のひとつ。関心事と言うには当たり前の内容で、目新しさもないが、こうしたありきたりのポイントに外国人投資家の視線が集まるのは、日本企業の間でガバナンスが徐々に改善し、これが株主還元につながるとの期待があるためだ。

特にこの数年は、投資銀行のアナリストやストラテジストさえ気付かぬうちに株主還元を積極化している企業が増えているという。外国人投資家はそうした銘柄にまで目を配っているほどだから、市場での自己株式取得を発表しながら、実際にはほとんど取得していない"なんちゃって株主還元"の企業はバレバレだ。経営トップが投資家と向き合おうとしない企業や、規制に守られて経営効率が改善しない企業は市場で淘汰されていく。

と同時に、ゴマスリの推奨レポートしか書かない証券会社やナントカ総研の大甘アナリストたちも、彼らリサーチマンに出し抜かれ、粉飾のお目こぼしまで暴かれるケースも出てくるだろう。バランスシートの紙背に徹する眼光を持たない愚物は、アナリストを名乗る資格などないのだ。

3年目に入る森信親金融庁長官の「浄化」がやっと効いてきたというべきか。それが、掛け声倒れの感が強いアベノミクスの数少ない功績かもしれない。

最新号で「築地・豊洲に小池『隠し玉』」を解説

東京都の卸売市場の築地・豊洲移転問題は大詰めを迎え、週明けにも小池百合子知事が最終決断を発表します。すでに先週から週末にかけて、新聞やテレビなどでさまざまに報道されていますが、FACTA最新号が原案の解説記事を掲載します。移転するか残留するかの二者択一でない「アウフヘーベン」案とはなにか、FACTA編集部が肉薄して正確に解き明かします。ぜひご覧ください。


リニア新幹線とJR東海のPER

これまでFACTAでも何度か取り上げてきた東海旅客鉄道(JR東海)のリニア中央新幹線が本格的に着工し、同社のバランスシートに最初の変化が表れた。リニア新幹線は東京・名古屋間だけで総工費が5兆5000億円、東京・大阪間では9兆円を超えるビッグプロジェクト。その先に収益上あるいは、財務上の問題がどうなるのかおぼろげに見えてきたことになる。

まず気になるのは巨額の資金調達と、財務構成の変化だ。財政投融資制度を活用し、独立行政法人の鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄道運輸機構)が資金調達し、これをJR東海に同じ条件で又貸しする。昨年11月に改正された鉄道建設・運輸施設整備支援機構法を受けてこうした資金調達が可能になり、JR東海は17年3月期末時点で"中央新幹線建設長期借入金"として1兆5000億円を新たな長期負債として計上した。

ムーディーズでは鉄道運輸機構の格付けをA1としているのに対し、JR東海はAa3。格付けが低い鉄道運輸機構が調達したのと同じ条件で、JR東海が同機構から借り入れるのはどこか珍妙な構図だが、それは措くとしよう。今期もさらに1兆5000億円を借り入れ、鉄道運輸機構からの借り入れは3兆円まで膨らむ。17年3月期末時点で連結自己資本比率は38%にまで低下しており、単純に計算すると今期末はさらに34%前後にまで低下する。ムーディーズがAa3格にふさわしい財務内容と見てくれるかどうか。

固定資産に目をやると、建設仮勘定にも大した変化はなく、本格的な着工が始まったとは言え、かなりゆっくりとした滑り出しだ。しかし今後は活断層をいくつもぶち抜いてトンネルを掘る難工事になるのは間違いなく、追加費用の発生が抑えられなければ財務内容はさらに悪化する。

工事が完了した後にも難問が立ちふさがる。格付け機関が指摘しているように、JR東海の債務返済能力は在来の新幹線の収益力に依存している。その収益をリニア新幹線と在来の新幹線とで分け合っては共倒れになりかねないことは、JR東海やトヨタ自動車などが共同で設立したエリート養成校・海陽学園の生徒でなくてもわかる理屈だ。

市場はこれをどう見ているか。JR東海株はこの数年勢いよく上昇しており、市場はリニア新幹線を問題にしていないようにも見えるが、そうではない。5月30日時点で東日本旅客鉄道(JR東日本)、西日本旅客鉄道(JR西日本)、九州旅客鉄道(JR九州)とPER(株価収益率)で比較すると、これら3社が13倍以上となっているのに対して、JR東海だけは10倍そこそこでしかない。さらに関東や関西の私鉄大手と比べると、市場の評価の低さは歴然として隠しようがなく、こうした構図はこの数年変わっていない。

本来、鉄道事業は安全で安定的な運行が社会的要請になっているはずだが、「現在の新幹線の技術はどれほど高度なものでも、在来の鉄道技術を磨き上げた延長線上にある。リニア新幹線にはそうした基盤や背景がない」と新幹線技術者も指摘するところだ。国鉄民営化30年を振り返ると、やはり旧国鉄が蓄積してきた過去の資産と技術あればこそだったが、それと断絶した「未知との遭遇」に市場はやはり甘い顔を見せていない。

運行には原発一基分の電力が必要との論文も発表されるなど、エネルギー面からも問題が指摘されている。そうえいば、沸騰水型原子炉(BWR)メーカーだった東芝が2006年、54億ドルのバカ高値で加圧水型原子炉(PWR)メーカーのウェスチングハウスを手中に収めるという大胆な「クォンタム・リープ」でもてはやされた。だが、11年後の現在、その重荷で債務超過に転落、存亡の危機に直面している。それを思うと、リニア新幹線の先行きを手放しで楽観できない。

東芝「解体」――半導体部門売却の是非

企業解体か、存続か、それとも法的整理か――。東芝の動きを、過去の企業再生や法的整理の事例に照らし合わせると、その行く末がぼんやりと浮かび上がるのではないか。


民事再生法や会社分割など、2000年前後に整備された法制度によって企業再生の手法は拡充した。それとともに「企業そのものを再生するのではなく、企業が抱える個々の事業を存続して再生させ、それによってできる限り雇用も維持する」――という考え方に変わっており、東芝と重なる部分が少なくないからだ。

2001年に会社更生法の適用を申請した新潟鐵工所の場合、スポンサー企業を見つけるのが困難で、プラントエンジニアリングや造船、変速機、原動機などの事業部門をさらに細かく切り分けてIHIや日立グループなど多くの企業に売却した。新潟鐵工所を再生するのではなく、事業の存続と再生を優先させたもので、同社は2007年に清算業務を完了して解散している。

私的整理と法的整理、会社分割を数年にわたって併用したのは旧ハザマ(現安藤ハザマ)だ。2003年に私的整理と同時に建築部門を切り出していわゆるグッドカンパニーとし、不良資産と化した土地・建物を多く抱えていた不動産部門をバッドカンパニーとして両社を分離した。資本関係をなくする会社分割である。グッドカンパニーに社員を移してこれを存続させる一方で、バッドカンパニーは不良資産や債務を引き継がせて社名を青山管財に変更し、2006年に民事再生法を申請。清算への切り替えを前提とした民事再生法申請だった。

東芝はどうか?実際に法的整理や会社分割(4月24日に発表した東芝の会社分割は、資本関係が維持されるため、旧ハザマとは異なる)に踏み込んだかどうかを除けば、事業を切り売りし、ウエスチングハウスのようなバッドカンパニーの切り離しに乗り出したことは、新潟鐵工所の事業売却やハザマの会社分割に重なる。

すでに水面下では取引金融機関の間でメーン寄せが進んでいると聞くから、当面は法的整理ではなく、債権放棄による私的整理を意識しているように思える。

では、どの事業を中心に再生を進めるのか。

虎の子の半導体事業を売却するのは「愚の骨頂」との意見もあるが、すでに債務超過に陥った東芝にとって、半導体ビジネスのように好不調の波が激しく、大規模な設備投資とその更新が欠かせない事業を抱え続けることが現実的な判断かどうか。銀行の顔色をうかがいながら設備投資を決めるのでは、経営判断にスピードが求められる半導体ビジネスでの勝ち残りはおぼつかない。傷口をこれ以上大きく広げる恐れがある選択肢は選びにくいし、東芝を支える金融機関も同意しないだろう。成長性は乏しくても安定した事業を軸にグッドカンパニーをつくるしかあるまい。

三洋電機がそうだったように、すでに東芝は人材を含む経営資源を他社に供給する存在になった。好むと好まざるとに関わらず、事業譲渡先で「東芝○○」として社名にその名残を留めつつ、事業と雇用を次世代に引き継ぐことが東芝に残された仕事なのだろう。

ただ、原発子会社ウェスチングハウスの連邦破産法11条申請で東芝の連結から切り離し「リスクを遮断した」(綱川智社長)といっても、親会社の債務保証8000億円が残っている。ウェスチングハウス再建計画でこの債務保証を圧縮すれば、米連邦政府がジョージア州の原発2基につけた政府保証83億ドルを発動させざるをえなくなる。この軛がある限り、東芝がグッドカンパニーへ小さく生まれ変わるのはラクダが針の穴を通るように難しい。