EDITOR BLOG

最後からの二番目の真実

SBIホールディングスに対する公開質問状

最新号では、証券界の異端児と言われ、野村証券出身で退社後はソフトバンクの孫正義社長と組んでCFO(最高経営責任者)となり、その後、独立してSBIグループの総帥になった北尾吉孝氏のファンド運営がどのようになされているかを深く追跡した記事を載せます。

この8月に運用を終えたファンドの一つ、匿名組合の運用実績がどうのようなものであったかを、公開企業および未公開企業の投資先全社の固有名詞と、その簿価、売却金額、損益を1円単位まで丸裸にしたリストを掲載するとともに、SBIホールディングスに対して送った質問状とその回答をここに公開します。

オリンパスのケースでは、これまで調査報道にとって厚い壁だったSPC(特別目的会社)のベールを剥ぐことができたのですが、今度はもう一つの壁である匿名組合のベールを剥ぐことができました。それは我々が内心密かに誇っている成果です。

40年近く前の「田中金脈」追及報道で文藝春秋が土地や法人の登記簿謄本からさかのぼる手法を開拓し、私も90年代のバブル崩壊期までその手法に準拠していましたが、不良債権処理の過程でSPC、匿名組合、LLP(有限責任事業組合)などが認められるようになり、さらに海外も使われて、飛ばしの多くが見えなくなりました。

今回、FACTAがチャレンジしているのは、今まで難攻不落だったこのビークルを突破することで、創刊以来、悪戦苦闘の末にこじあけることに成功し始めました。その手口が解明されることは、証券取引等監視委員会や金融庁、検察庁にも新たなフロンティアを開拓することになるでしょう。

下記は、明けた突破口からFACTAがいかに追及していくかの一端です。




SBIホールディングス
広報担当者御中

KLabおよびエフオーアイに関するお問い合わせ

ファクタ出版株式会社
発行人兼編集主幹阿部重夫

拝啓
師走の候、時下ますますご清祥の段、お慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚くお礼申し上げます。弊誌は調査報道を中心とする月刊総合誌で、最近のオリンパス報道でも内外で高く評価されました。次号(12月20日号)では、今年9月27日に東証マザーズに上場しましたKLabと、10年6月15日に東証マザーズ上場廃止になりましたエフオーアイについて取材した記事を掲載する予定です。この件についていくつかの確認と、御社のご見解をうかがいたく、書面で恐縮ですが、質問状を差し上げた次第です。

質問は以下の6点です。

1.SBIグループのSBIブロードバンドキャピタル株式会社(代表者、中川隆氏)が運営する「SBIブロードバンドキャピタル投資事業匿名組合」(1号~4号)は、上場前に3回にわたりKLabの未公開株を取得したのは事実でしょうか。

2.その平均取得株価はいくらだったのでしょうか。

3.上記の匿名組合が、上場に4カ月強先立つ5月13日、SBIホールディングスCEOが代表の「SBI-R&D投資有限事業組合」「無限責任組合SBIインベストメント」にこのKLab株を売却したのはなぜなのでしょうか。

4.SBIグループのSBI証券は、KLab株上場の副主幹事証券でしたか。事実だとすれば5月時点で初値(3970円)の見当はついているはずで、5月時点での売却は匿名組合投資家の「得べかりし利益」を自社系に移す利害相反行為の恐れがあったと考えられないでしょうか。

5.この匿名組合は、粉飾で上場廃止になった「エフオーアイ」にも投資し、損失を計上していますが、エフオーアイ代表取締役が元SBI社員だったのは事実でしょうか。

6.SBIはエフオーアイに損害賠償請求はしていますか。

質問は以上です。ご多忙中のところ大変恐縮ですが、次号の締切もございますので、12月9日(金)までにご回答いただければ幸いです。ご回答は直接取材、書面、ファクス、メールなどいかなる形でも結構です。よろしくお願い申し上げます。敬具

12月5日



これに対するSBIホールディングスの回答は、オリンパスなどと違い、たいへん懇切丁寧なもので、担当者のご尽力に感謝します。しかしながら、この回答をもって「なるほど」と弊誌も納得したわけではありません。その理由は、最新号の「北尾SBI『金の卵』簒奪商法」をお読みください。

本誌にはまだ追撃する弾があって、この一見もっともらしい釈明に対し、さらなる批判を加えていますので、詳しくは記事をご覧ください。



ファクタ出版株式会社
発行人兼編集主幹阿部重夫様

頂戴いたしましたご質問につき、以下のとおり回答申し上げます。

質問1に対する回答

SBIブロードバンドキャピタル投資事業匿名組合(以下「本匿名組合」といいます。)は、2006年12月26日から2009年2月27日までに、㈱USENやKLab社元役員4名等から、3回にわたりKLab株式を取得しています。

質問2に対する回答

2011年4月の株式分割考慮後の平均簿価は、約1,125円です。

質問3に対する回答

まず、本匿名組合によるKLab株式の売却先は、「SBI-R&D投資事業有限責任組合」であり、SBI-R&D投資事業有限責任組合の無限責任組合員が「SBIインベストメント株式会社」という位置付けとなります。それぞれに売却したわけではございませんので、その点、予めご確認下さい。

ご質問の点ですが、KLab株式会社については、売却に先立って同社に対し実施したヒアリングの結果、2011年5月の時点で、主幹事証券の上場審査の進捗状況から(本匿名組合の契約期限である)2011年8月末までに上場(IPO)できるスケジュールではないとの説明を受けたという背景がございます。それに加え、当時、主幹事証券からは、株式市場の環境を考慮して本匿名組合の全保有株式のロックアップが求められておりました(なお、ロックアップを受けると、原則として上場日から6ヶ月間売却できません。)。

こうした事情を踏まえ、匿名組合契約に定める本匿名組合の運用期間である2011年8月31日までには、当該株式を株式市場で売却することは不可能であると判断いたしました。

また、本匿名組合においては、その組合契約上、運用期間終了後(9月以降)に清算期間を設けて投資証券を保有し続け、清算手続きの中で投資証券売却のタイミングを図るということは規定されておりません。そのため、投資証券の処分につきましては、本匿名組合契約の定めに従い、契約期間中、すなわち運用期間中である2011年8月31日までに行うべく売却を進めておりました。

以上のような事情により、IPO前の2011年5月13日に、SBIインベストメント株式会社が無限責任組合員を務めるSBI-R&D投資事業有限責任組合に対し、1株当たり1,490円で売却いたしました。

質問4に対する回答

SBIグループのSBI証券は、KLab株式会社の副幹事証券会社であります。

もっとも、ご承知のように公募価格の決定に際しては、主幹事証券会社と発行会社が協議して決定することとなっており、副幹事証券会社が発行条件の決定に関与することはございません。SBI証券が副主幹事証券会社であることは2011年5月の売却とは全く関係ございませんので、その点、誤解なきようお願い申し上げます。

本匿名組合として、2011年5月の時点でKLab株の上場時の初値について、見当が付いていたという事実はございません。

本匿名組合におきまきましては、あくまでIPO手続きが本格化する以前の2011年5月時点に公知となっている情報を元に、本匿名組合の組合員の利益を害することのないよう第三者たる外部の専門家(監査法人・税理士法人等)に株価の算定を依頼し、その算定結果に基づいて1株あたり1,490円の売却価格の決定を致しました。

本件取引は以上のような経緯で実行されており、ご質問にあるような、利害相反取引(利益相反取引)との関係でも公正に行われたものと理解しております。

なお、結果的にではございますが、この売却株価1,490円は上場時の目論見書に記載の「想定発行価格(1,540円)」と比較しても妥当なものと考えております。

質問5に対する回答

エフオーアイの代表取締役専務の上畠氏は、2000年4月28日にSBI(当時はソフトバンクインベストメント㈱)に入社し、2001年6月12日に約1年1ヶ月の在職期間をもって同社を退職しております。その後は、当社グループのファンドの投資先の経営者として接触はございましたが、それ以上の特段の関係はございません。

質問6に対する回答

2010年10月26日付けで、主幹事であるみずほインベスターズ証券とFOIの監査を担当した公認会計士3名を共同被告として、東京地方裁判所に対し、損害賠償請求訴訟を提訴しており、当該裁判は現在も係属中です。被告の選定については、弁護士の意見を踏まえ、勝訴判決の実現可能性(回収可能性)の観点より決定いたしました。なお、FOIの経営陣は、刑事被告人となっており、その個人として財産状態からも賠償能力なしと判断し、被告対象といたしませんでした。

以上



もちろん、SBIグループ傘下のSBI証券はネット証券最大手であり、デイトレーダーの方々にも人気が高いことは承知しております。しかし日経ビジネスの特集では、心なしかやつれた北尾氏の写真が載り、SBIグループで何が起きているのか、今後ともFACTAは追っていくことをお約束します。

目黒のサンマでなく「目黒の8万」 財務事務次官・勝栄二郎氏の家賃

昨日は東証上場の新華ファイナンスへの質問狀とその回答書を公開しましたが、今日は「影の総理」とされる増税総司令官の勝栄二郎・財務事務次官に関するやり取りを公開したいと思います。

この不況下で増税を強行しようとしている野田佳彦総理の背後で黒衣に徹しているのが財務省一家ですが、そのトップが住んでいるのが家賃激安の公務員住宅です。写真を撮りに行ってみましたが、一等地の高台のはなに城塞のように聳えたって、下々を睥睨するような12階建ての立派な集合住宅でした。

あきれるというより、こんなところに住んでいながら、「民間社宅なみ」と強弁する神経には恐れ入ります。だいたい、大企業でもこんな一等地に250戸もの社宅を抱えるところはそうはありません。首都高速の音もこの高台のうえまでは届かず、閑静かつ景色のいい場所でした。

これを役得とみる意識がまったく欠けているお役人に、「官のムダ削減はもう限界だから、あとは増税で税収増を図るしかない」と言う資格があるのでしょうか、というのが素朴な疑問です。

というわけで、FACTAは財務省に以下のような質問状を送りました。



財務省広報室御中

勝栄二郎事務次官の公務員住宅について

ファクタ出版株式会社
発行人兼編集主幹阿部重夫

拝啓

師走の候、時下ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。弊誌は調査報道を中心とする月刊情報誌で、最近はオリンパス報道などでお聞き及びかと存じます。さて、財務省は12月1日、国家公務員宿舎を今後5年メドに25・5%削減する(5万6千戸減)計画を発表されました。そこで弊誌は、財務省事務方の最高責任者である勝事務次官が入居されている公務員住宅について取材を進めています。朝霞、方南町問題など公務員住宅は国民の関心事ですので、事実確認も含めて以下の質問にお答えいただければ幸いです。

1. 勝事務次官は東京都目黒区××の公務員住宅に入居していますか。

2. お住まいの広さは何平米、民間でいう4LDKでしょうか。

3. 次官の入居棟は築5~10年と考えてよろしいですか。

4. 民間サイトが国家公務員宿舎法や関連法規などから試算した家賃は、90平米、築10年の4LDKで月85860円ですが、勝次官も月8万円台の家賃を支払っていると考えていいでしょうか。

5. 渋谷に近い周辺相場は、同条件なら30万円をくだらないと思われます。差額分について民間では家賃補助とされますが、勝次官はこの差額について課税されていますか。

6. 勝事務次官の年収はいくらですか。公務員住宅に入居している理由は何でしょうか。

あらまし以上です。個人のプライバシーを盾に回答を保留なされば、歴代政権のもとで不退転の決意で増税路線を進めてきた財務省トップのしめしがつかなくなることを危惧します。ご多忙中まことに恐縮ながら、締切もございますので、12月9日(金)までにご回答いただけますよう、心よりお願い申し上げます。敬具



税制改正大綱の議論のまっただ中だったので、香川俊介官房長はカッとしたらしい。財務省の知り合いからたちまちメールが飛び込んできて、ぜひご説明をと言われました。上司思いのその熱心さには心を打たれますが、FACTAは個人攻撃を狙いとする雑誌ではありません。これはあくまでも仕事、と公式回答を求めました。さて、財務省がどんな回答を書いてくるかと楽しみにしていましたが、まったく想定の範囲内で、正直がっかりさせられました。12月9日付の回答はこうです。



ファクタ出版株式会社
発行人兼主幹阿部重夫様

公務員住宅にかかる件について

ご質問頂きました件につきましては、特定職員の個人情報であるとともに、政府関係者の安全確保等にかかる危機管理体制上、外部への漏出防止を徹底するとされていることから、お答えすることはできないことについて、ご理解のほど、宜しくお願い申し上げます。

なお、幹部職員に貸与される宿舎は、通常e企画(80㎡以上)となります。宿舎使用料は、国家公務員宿舎法に基づき、標準的な建設費用の償却額、修繕費、地代等に相当する額を基礎とし、かつ、居住の条件その他の事情を考慮して、個々の宿舎毎に、決定しております。

課税の取扱いにつきましては、民間企業の社宅と同様、所得税法等の定めに従って、適正に取扱いがなされております。

災害対策本部の本部長等を務める立場にある事務次官は、政府の迅速な対応が求められる事件・事故等が発生した際、緊急参集する必要があります。緊急参集する必要がある職員等については、国家公務員宿舎への入居が認められています。また、事務次官職の年収は、一般職の職員に関する法律上、2200万円程度となっています。

(参考)「政府関係者等への攻撃等に対する危機管理体制について(申し合わせ)」(平成20年12月4日副大臣会議)(抄)

各府省は、平成20年11月18日に発生した元厚生事務次官等連続殺傷事件を重く受け止め、この種事件による被害の再発防止を期し、政府関係者等への攻撃に対する管理体制を強化する。

職員の個人情報の漏出防止の徹底
職員六等、府省関係者の氏名・住所等が記載されている資料の取扱いに留意するなど、職員の個人情報への漏出防止を徹底する。



財務省としては、他の問い合わせもあり、この回答(事実上の無回答)でご理解いただきたいという態度です。もちろん、勝次官が暴漢に襲われることなど本誌も望みませんが、これだけ書面では厳重警戒を言っている割に、現地を視察してみると、まるでノーガードでした。

しかしながら、こちらの取材に対し、国家公務員の幹部職員(指定色俸給表適用クラス)4231人のうち、公務員宿舎に入居しているのは2277人。そのなかでe規格に該当するのは1202人。勝次官も当然、その中に含まれているはずですが、財務省はわざわざ内訳を裁判所748人、法務省242人、防衛省65人としてきて、つまり判事と検事と防衛関連が大半だと強調しています。

しかし、残る147人のうち財務省が何人かは明かしていません。

さらに、過去にも家賃などの宿舎使用料の改定が行われており、昭和62年24.5%、平成4年18.5%、平成16年12.3%、平成19年12.3%と逐次上昇してきたことを強調していましたが、デフレ下で上げるというのはもとがあまりに安すぎたからでしょう。目黒のケースのようにそれでも市価の3分の1なのですから。

税金については、民間相場との差額ではなく、固定資産の評価額に一定割合(ケースバイケースで分からないようになっているところがミソ)をかけて基準価格を割り出したうえで、その基準価格との差額が50%以上の場合は税金を払うことにしているそうです。



それは「民間と同じです」と強調していましたが、価格ではありません。民間の社宅と同じという意味です。こういう形式だと、基準価格を芽いっぱい低く見積もる操作が可能になっていると思います。国税庁は身内ですから、次官に気配りするのは当然でしょう。

この公務員住宅の一帯は、江戸時代は鷹狩の猟場だったようで、維新後は陸軍の乗馬学校などがあり、敷地内には明治天皇や大正天皇がそこから乗馬の様子を見たという「天覧台」の石碑が立っています。

そういえば「目黒のサンマ」もここらがいわれでは?笑点のダジャレみたいですが、「目黒のサンマ」ならぬ、「目黒の八万」。だれか、思いっきりカラシのきいた落語にでも仕立ててくれないでしょうか。

オリンパスよりも悪質な新華ファイナンス

ブラックアウト期間中ですが、次号記事に関連して、あちこちに質問状を発していますので、次号の刊行に先だって、その応酬を事前に公開していきます。まずは中国銘柄。

FACTAが不正会計疑惑を指摘した上場企業はオリンパスだけではありません。2004年に東京証券取引所の中国系企業第1号としてマザーズに上場した新華ファイナンス(現新華ホールディングス)は、オリンパスよりも悪質で日本の資本市場を愚弄する存在と言えます。

本誌7月号の記事(「東証赤っ恥『新華』創業者起訴の真相」)で報じたように、創業者で前CEO(最高経営責任者)のフレディ・ブッシュを含む元役員3人が、在任中のインサイダー取引、粉飾決算などの容疑で米国の裁判所に起訴されています。米連邦捜査局(FBI)が3人を捜査し大陪審が起訴を決定したということは、米司法当局が新華の粉飾決算を指摘したのと同義です。

にもかかわらず、新華は「現在の取締役及び取締役会は、本件起訴に関わる取引については、一切存じ上げません」という声明を出したきり知らん顔。オリンパスのように第三者委員会を設けて起訴事実を調査したり、過去の決算を訂正したり、会社として元役員を告発する気はさらさらないようです。オリンパス以上に悪質と言えるゆえんです。

こんな企業がなぜいまだに上場を許されているのか、理解に苦しみます。オリンパスは今日(12月14日)、損失隠しの発覚で遅れていた2011年4-9月期決算を報告し、それを受けて東証(自主規制法人)が上場廃止にすべきかどうかを審査することになっています。しかし新華のようなイカサマ企業を野放しにしている東証に、まともな判断力があるとはとうてい思えません。

本誌は6月に新華に取材を申し込みましたが、当時のCEOのジェイ・リー氏は拒否。その後、リー氏は新華を去り、11月1日付でワン・ビン氏が新CEOに就任しました。今回本誌が改めて取材を申し込んだところ、ワン氏も取材は一切お断りだそうです。

そこで、本誌が新華に送った質問状(原文は英語)と、同社IR部の濱田拓男マネジャーの電子メールによる回答文を公開しましょう。

まず質問状から。



新華ホールディングス
最高経営責任者(CEO)
ワン・ビン博士

5月10日、新華ファイナンスの元CEOであるロレッタ・フレディ・ブッシュ氏と元取締役のシェリー・シングハル氏およびデニス・ペリーノ氏が、米国の大陪審により共謀、郵便詐欺、決算書類の虚偽記載などの容疑でコロンビア特別区連邦地方裁判所に起訴されました。これに対し、貴社は5月12日に「当社は、この度、本件起訴に関する事実を認識し、現在、本件起訴の状況及び事実関係を調査中です」という声明を発表しています。

起訴状によれば、元CEOと2人の元取締役の行為は米国と日本の証券法規に明らかに違反するものです。有罪判決が下った場合、貴社は日本の金融庁および東京証券取引所に提出した過去の決算書類を修正する必要があり、それを怠れば上場廃止となるはずです。

同じく起訴状によれば、元CEOと2人の元取締役は2005~2006年頃、貴社のバランスシートを操作して資金を着服しました。あなた(ワン博士)は2004~2006年にかけて取締役を務めており、少なくとも役員としての善管注意義務があったはずです。加えて、あなたは現CEOとして徹底した調査を行い、貴社が被った損害を賠償させるため元役員らを告発する義務があるはずです。

私どもは6月に前任者のジェイ・リー氏に取材を申し込みましたが、彼は拒否しました。今回あなたが新CEOに就任し、12月16日に投資説明会を開催するため東京を訪れますので、ここに改めて取材を申し込みます。

私どもが知りたいのは、貴社が無罪を証明し上場廃止を回避するため、あなたがどのような計画を立てているかです。また、リー氏退社の具体的な理由もお聞かせください。リー氏とその他の取締役の間にどのような見解の相違が生じたのでしょうか。

以上、よろしくお願いします。



これに対する新華の回答は以下の通りです。



新華ホールディングス濱田です。
お世話になっております。

この度は当社CEOワン・ビンへの取材並びに会社説明会のお申し込みありがとうございました。

ただ残念ではございますが、当社としては今回の取材の申し込みをお断りさせていただき、また会社説明会へのご参加もご遠慮いただきたい意向です。

米国起訴の件につきましては、まだ裁判の途中であることに加え、当社のリーガル・カウンセル(米国)からの助言もあり、現在のところマスコミの皆様からのご質問に対して、いかなるコメントも控えさせていただいている状況です。

会社説明会に関しては、今回開催の目的は、あくまで「個人投資家」向けに当社の現状と今後の見通しをご説明させていただくことにあり、マスコミ向けでは無いということが理由です。

また、前CEOのジェイ・リー氏の退任に関しては、11月1日に公表させていただいております「代表取締役の異動に関するお知らせ」をご覧下さい。

以上、ご意向に沿うことができませんで、誠に申し訳ございませんが、何卒ご理解の程よろしくお願い申し上げます。



参加もご遠慮いただきたいとは、オリンパスとそっくりです。新華の濱田氏の対応は、本誌を会見からも排除したオリンパスの最悪の広報室長、南部昭浩氏と同じ。新華もその轍を踏むのでしょうか。

ところで、ワン氏はこのたび来日し、12月16日に東京で投資家向けの会社説明会を開きます。マスコミの取材を拒否するのは自由ですが、ワン氏には株主に対する説明責任があります。説明会に出席する投資家の方には、ぜひ弊誌に代わって彼に直接質問をぶつけて頂きたいと思います。

またブラックアウト期間です

オリンパスの高山社長が、取締役の総退陣を口にし、12月14日には滑り込み中間決算発表を行う前の佳境ですが、また編集の「籠の鳥」になります。しばらくは何が起きてもコメントできなさそうです。


オリンパス第三者委員会報告

12月6日に東京・大手町のファーストスクエアでオリンパス第三者委員会(甲斐中委員長)の報告が発表されましたが、私は所用があって行けず、山口記者と弊社社員に行ってもらった。

報告は会見後に見たが、ワクワク半分、ドキドキ半分である。ワクワクは新事実があるかどうか、ドキドキはFACTAが今まで報じた部分で違いがあるかどうか。入試結果を見に行くようなものだ。

結論から先に言うと、カネの流れの細部、とりわけ飛ばしスキームと穴埋めスキームの細部は、さすがに内部資料を入手できた委員会だけに、目新しい部分があった。ディテール大好き人間の私にとっては興味をひく部分もあり、細部へのこだわりをかなり満足させてもらえた。



ほっとしたところもある。われわれが苦心惨憺、取材から組み立てた推論の構図と大枠はほぼ同じだったからだ。外部取材者は委員会と違って、足りないピースを組み合わせてジグソーを組み立てなければならない。はるかに労力が要る孤独な作業だった。委員会にとって、なまなかな調査では許されないというプレッシャーを与える存在であったなら良かったと思う。

要約版を通読した段階で、一言だけ言わせてもらおう。

報告書はマネーフローおよびスキームについてはよく書けていると思うが、われわれが直近の12月号で載せたような「不正人脈」の相関が弱い。委員たちも認めているように、オリンパス内部の資料と事情聴取に依存しているため、「外部協力者」の調べが遅れている。そこは強制権限のある捜査当局にお任せなのだろうか。

委員会はオリンパス役員一掃を提言しているが、オリンパスの管理職および関係者は、いまだにFACTAの内部情報源はどこかとしきりに嗅ぎまわっている。いやな体質は変わっていない。そろそろあきらめて、まっとうな会社への道筋を模索すべき時期だ。そうでないのなら、相関図はそのイヌたちにまで及ぶだろう。

手嶋龍一著『ブラック・スワン降臨』



FACTAの連載コラム「手嶋龍一式intelligence」でカバーしてきた世界が、著者手嶋氏の書き下ろし本になりました。タイトルは『ブラック・スワン降臨9・11-3・11インテリジェンス10年戦争』(新潮社税別1500円)です。12月7日発売です。

その後書きを頼まれたので、手嶋氏の応援団としてこのブログに掲載します。なお、この後書きの圧縮版を新潮社の「波」12月号に載せています。また、これとは別に、今週末の熊本日日新聞の書評欄でこの本を取りあげ、まったく別の文章を載せる予定です。

以下に載せる後書きのタイトルは「ロゼッタ・ストーンの沈黙」です。



たった一片のピースから、ジグソーパズルの全絵図面を復元できるか。

不可能?いや、それが手嶋龍一氏の言う「インテリジェンス」――錯綜する情報の分厚いヴェールからコアを透視する行為の本質だと思える。

漫然と集積される「インフォメーション」からそれは抽出できない。そこで必要になるのは、内部情報を暴くスパイまたは告発者の存在か、物事の本質を見抜く勘か、脳細胞に蓄えた過去の記憶か、さんざん苦汁をなめた経験か、なにかこの世のものならぬ霊感か。

いずれでもあっていずれでもない。インテリジェンスの原語はラテン語のintellegentia である。inter(中を)lego(読む)作業、すなわち「内在する物語を読む」ことに尽きる。インテリジェンス・オフィサーとは、優れた物語の紡ぎ手なのだ。手嶋氏を衝き動かしているのも、この内在する物語を語る本能だろう。

本書は巻頭、いきなりアンドリューズ空軍基地内のゴルフ場に読者を連れていく。そこでプレーするバラク・オバマ大統領と、シークレットサービスのイヤホンに飛び込んでくる交信。閑暇を盗んで気晴らしに出向いたかのように見せかけ、ハーフで切り上げたこのプレーが、実はパキスタンで進行中のジェロニモ作戦(ビン・ラディン急襲作戦)の目くらましだったことが明らかになる。

9・11テロ以来、10年目にして米国がようやくこの宿敵の射殺に成功したこと自体は、すでにさんざん報じられた。そのディテールも作戦後に溢れた報道を丹念に読めば、入手不可能なインフォメーションではないだろう。

ほんとうの眼目は、手嶋氏が映画の脚本のように組み立てた「物語」にある。

アフガニスタン侵攻以来、戦略的にも経済的にも莫大な支援を注ぎ込んだパキスタンに対し、事前通告もなく領土内に密かに侵入し、国家主権を踏みにじって「ワールド・トレードセンターの復讐」の実行を命じた大統領の決断の物語が語られているのだ。

手嶋氏の意図は最後に明らかになる。東日本大震災の翌早朝、首相官邸からヘリで飛び立ち、東京電力福島第一原発に降り立って、危機の陣頭に立つパフォーマンスを演じながら、海水注入に手間取って炉心溶融を起こした菅直人総理を対置させているからだ。官邸で怒鳴りまくって実は決断を回避していた無残な物語である。

そう、決断の前に万全の情報などほとんどない。

オバマ大統領もアボタバードの現場に投入したステルス機能を持つ最新のブラックホーク改良型ヘリコプターが墜落する事態に見舞われ、1980年にジミー・カーター大統領がテヘランの米大使館員救出に失敗したイーグル・クロー作戦が頭を一瞬よぎったことだろう。

すべては一回性の出来事で、決断はそこにしかない。

「想定外」といった言い訳はありえない。手嶋氏が言う「インテリジェンス・サイクルの欠如」とは、単に日本の官庁の組織問題ではないのだ。情報の不完全性のなかで、なおジグソーの全絵図面を透視して決断できるための方法論である。

それはひとえに、瞬時に物語を構築する能力があるか否かだろう。菅総理の無残はそうした能力の欠如に由来する。しかし市民運動家上がりで上昇志向だけの貧相な総理を責める「憂国の論理」や「リーダー論」に、手嶋氏は安易にくみしていない。

憂うべきはむしろ、なすすべもなかった首相官邸および霞が関のガバナンス(統治)の根源的かつ日常的な退廃にある。本書でオバマと菅の「決断」を対照させたのは、情報のSchwarzwald(黒い森)に深く分け入って、鬱蒼と茂った昼なお暗い木立にLichtung(間伐地)を切り拓き、「内在する物語」を開示するためだったと思える。

本書は書下ろしであるが、エピソードの多くは、私が創刊した月刊誌FACTAで6年近く前に始めた「手嶋龍一のintelligence」の連載コラムでカバーしている。

しかし編集者としては内心、アクロバットかなと思っていた。雑誌は常に現在進行形である。一回性の現実の連鎖しかない。そこでは否応なく、全知全能の「神の目」のような擬装、つまり知ったかぶりが常に求められる。

手嶋氏のコラムも2ページ見開き、一回読み切りだから、そこで切り取れる情報も断片を免れない。あでもないこうでもない、という逡巡は読者を惑わせるだけだ。

しかも、テーマはインテリジェンス――全知全能の「神の目」のないところを出発点とするのに、知ったかぶりの擬装をしないでコラムが成立するのだろうか。

「インテリジェンス」は古代文字の解読に似ている。ジグゾーパズルのピースそれぞれの形状や色彩を記憶して、ひとつひとつ嵌めていく忍耐の作業。やがて浮かび上がる壮大な絵図面にひそやかに覚える喜び。大英博物館でロゼッタ・ストーンを見るとき、いつもそう思う。

だが、あの暗色の花崗閃緑岩に刻まれた碑文、エジプトの神聖文字(ヒエログリフ)と民衆文字(デモティック)とギリシャ文字の同文が並んでいるという、奇跡のような僥倖がインテリジェンスには期待できない。
手元にあるのは、ギリシャ語でいう απαξ λεγμενον(hapax legomenon =一回限りの言葉)だけ。この一片だけのピースで、あなたはヒエログリフを完璧に解読したシュンポリオンになれるか。

ロゼッタ・ストーン発見のきっかけになったナポレオンのエジプト遠征のように、幸運の女神がインテリジェンス・オフィサーに微笑んでくれるとは限らない。それが単に情報を盗むだけのエスピオナージ(潜入工作)との決定的な違いだろう。

インテリジェンスには深い思索がなければならない。その黒い森にぽっかり浮かぶLichtungには、lumen naturale(自然の光)が木洩れ日のように差す、とマルチン・ハイデッガーは言う。けれども、苔むしたままのロゼッタ・ストーンが、人知れず草陰に埋もれて沈黙していても不思議ではない。

hapax legomenonにはしかし、別の攻略法がある。

シェイクスピアを例にあげよう。全作品88万語のうち、固有名詞を含めて使われた語彙は2万9千語と驚くべき言語の魔術師で、だからこそというべきか、一度しか使われなかった言葉がある。「恋の骨折り損」第5幕第1場のHonorificabilitudinitatibus。小田島雄志訳では窮して原語のまま、ジュゲムの呪文にしている。

しかし、二度出現する単語、三度、四度……と並べていくと、出現頻度がk番目の単語が、全体の単語数のk分の1を占めるという自然言語の確率分布「ゼフの法則」に近づく。

これこそ「天の秘鑰」なのだ。

ビンラディンの隠れ家が突き止められたのは、クーリエ役であるアル・クウェイティ(実名シェイク・アブ・アハメド)の追跡に成功したからだ。全世界の通信の奔流に聴診器をあて、天文学的な頻度の交信から一人の男のキーワードを割り出すには、確率分布の統計数理を使って一回性の壁を破ったに違いない。

数理の手品?いや、そんなことはない。グーグルなどの検索エンジンは誰もが日々体験している。あれはインターネットと同じく、軍事技術の転用なのだ。

手嶋氏の「物語」はそこまで垂鉛をおろしている。

ウッドフォード氏が抗議辞任

連絡がありました。プレスリリースの内容を見ると、これまでの主張の延長線上にあり、この問題から身を引くというものではないようです。

リリースでは、高山修一社長以下、オリンパスの現取締役会は、菊川前会長らが延命のために指名した顔ぶれであって、損失隠しや同社長解任に加担した役員からなり、企業再生を担うレジティマシーがないという理由で、取締役会の総退陣と臨時株主総会の開催を要求しています。

私も先週のパネルディスカッションやブログ、また最新号の「社外取締役」の記事にあるように、高山社長自身にレジティマシーがないと考えています。菊川「一味」の社外取締役に推薦されて、社長に就いているからです。

そのうえに社内では、「ガイジンに会社を乗っ取られるな」など恐怖心をあおることを社員の前で言い触らし、管理職には「会議室には盗聴器が仕掛けられているかもしれない」などと、FACTAが違法取材を行っているかのような流言飛語をまきちらしている現状には、あきれるほかありません。

先週、ウッドフォード氏はいきなりの社長解任は「私のトラウマになった」と言っていましたが、こういう卑劣な保身策に走る取締役たちはさっさと総退陣すべきで、その範を示すために自分が先に辞めるという判断はまっとうだと思います。

リリースの日本語訳は以下の通り。




平成23年12月1日

各位

オリンパス:再生への道

私は、平成23年10月14日にオリンパス株式会社のすべての役職を解任されて以来、同社の一取締役として職務に当たって参りましたが、本日、同社の取締役を辞任致しましたので、ここにご報告申し上げます。

これまで半生を捧げてきたオリンパスを辞するとの決断は、私にとって苦渋の選択でありました。しかしながら、平成23年11月29日付の高山社長のメッセージ(「経営体制の刷新」と「将来ビジョンの提示」の検討体制の構築について)を目にするに及び、それが私に残された唯一の選択肢であるとの判断から、このたびの決断に至りました。

11月25日に東京において開催されたオリンパスの取締役会に出席して以来、私は、オリンパスの再生に向けて如何なる形で経営陣の刷新が行われるかという点について、非常に強い懸念を有していました。それでも、信頼に足る再生策が打ち出されることに一縷の望みも抱いていました。しかし、11月29日付の上記高山社長のメッセージに照らすと、高山社長及び現経営陣が、引き続きオリンパスの経営陣刷新についても主導的役割を担い、その結果、かかる現経営陣がオリンパスの新経営陣を指名し、又はその指名に少なくとも何らかの影響力を行使するであろうことが容易に想像されるところです。

高山社長及び現経営陣がいくらオリンパスの改革及び再生を約束しても、かかる約束は、極めて信頼性に乏しいものであり、オリンパス及びその将来にさらなる害を及ぼすものに過ぎません。過去の過ちに関与した現経営陣の面々が、オリンパスの新たな経営陣の選定に関わるなどということは、極めて不適切であると言わざるを得ません。そのような類の、会社にとって重要な判断というものは、株主の手によって下されるべき性質のものですし、現経営陣から完全に独立した新たな経営陣が一刻も早く選任されるべきです。

今後、私は、オリンパスの新たな経営陣を構成する取締役の候補者を提案すべく、本件に関心を有するあらゆるステークホルダーと連携していきます。そして、かかる提案につき株主に判断の機会を提供するために、現経営陣に対し、直ちに臨時株主総会を招集することをここに正式に求めます。このような危機的状況において、会社の舵取りを誰に任せるべきかについては、何よりも株主に判断の機会が与えられるべきだと考えます。

ここで一つ明確に申し上げておきたい点があります。私は、オリンパスを去るために辞任をするわけではありません。オリンパスという会社、その製品、従業員、そしてその将来に対する私の情熱は、全く揺らいでいません。オリンパス自体は素晴らしい会社であり、たまたま一部の経営陣の手によって誤った道に陥ってしまったに過ぎません。最高レベルのコーポレートガバナンスを実践すれば、オリンパスは、再び競業他社がうらやむような世界水準の企業として復活する力を十分に兼ね備えています。それを実現するためにオリンパスに復帰し、そこでリーダーシップを発揮することを、私は切に望んでいます。しかし、株主による判断の機会が持たれることがない中で、私にできることは、オリンパスが再生の道を確実に歩むことができるよう、過去の過ちに関与していない新たな経営陣への早期刷新を促すことであり、そのためには、私自身の辞任が必要不可欠と判断致しました。

私の辞任が、現経営陣の方々にとって、自らの過去の過ちを真摯に反省し、オリンパスの危機的現状を招いた自らの責任を自覚するきっかけとなればと願っています。そして、それらの方々が、臨時株主総会後に身を引くという、オリンパスのために最適の選択をされることを願っています。

今回の私の行動が、私にとってかけがえのない存在であるオリンパスの明るい未来を実現するためにベストな選択肢であると確信しています。オリンパスのためであれば、私はいかなる犠牲も厭わない覚悟です。

マイケル・ウッドフォード


問合せ先: 長嶋・大野・常松法律事務所
弁護士 荒井紀充
弁護士 清水毅
弁護士 塩崎彰久
(電話:03-3511-6274)

ウッドフォード氏と冷や汗英語

24日夜は、The Economist誌の在京外国人ビジネスマン80人と内外メディアの記者50人を集めて開かれたThe Economist Corporate Networkのパネル・ディスカッションで、オリンパス元社長のマイケル・ウッドフォード氏と〝ご対面"しました。

来日して当局(証券取引等監視委員会と地検)の任意聴取に応じたウッドフォード氏は、25日朝の取締役会に出席する予定で、その前夜に開かれることになったパネルに飛び入りで30分弱の基調講演をしたものです。東京・表参道の青山ダイヤモンドホールといえば、結婚式場で有名なところですが、この日はカメラがずらりと並んでものものしい雰囲気。会場に着いたとたんに、エライことになったと猛烈に緊張しました。ずっと使っていない英語で小生もスピーチをしなければならず、冷や汗たらたらです。


ウッドフォード氏とはメールなどでやりとりしていましたが、直に会うのは初めてで、小生より背が高く、握手しながら「貴殿の勇気ある報道を尊敬しています」と言われて恐縮しました。

かぶりつきで彼の講演を聞くことができましたが、感想は一言でいうと、なかなかの役者です。変な一般論に逃げず、解任されるときの取締役会の様子などを、相手の表情やジェスチャー入りで落語家のように演じられる人です。これはオリンパスの経営陣の能面のような表情とは対照的で、自分の言葉を持っていますから、聴衆も思わず引き込まれます。

優秀な叩き上げセールスマンだったというのもうなずけますね。はっきり言って、それだけでもオリンパス側の負けでしょう。相手の目をまっすぐ見て話しますから、当初試みた「独断専横」のイメージや、スティール・パートナーズのような「ハゲタカ」視は難しいでしょう。この演技力で、滑稽な日本の取締役たちの欺瞞を容赦なく演じてみせますから、世界的な笑いものにされた菊川氏ら旧経営陣はたまらないでしょう。

なんだかサボイ・オペラの「ミカド」を見ているようで、「ガイジン」プレジデントが東洋の珍妙なクローニーに翻弄されるさまを描かれると、これはウケます。会場は笑いの渦でしたね。しかし、それだけはありません。小生が言おうと思っていたcross share holding(株式持ち合い)の弊害をはっきり認識していて、それがこれだけ勝手放題をした経営陣に「モノを言わなかった」株主の沈黙の根幹にあると言い切っていました。単なるコメディアンではありません。

アルセロール・ミタルの脅威に怯えて持ち合いを復活させた新日鉄のような財界主流も、心して彼の言葉を聞くべきでしょう。新日鉄など日本の鉄鋼は株価200円割れと今や倒産価格です。それが「ハゲタカ」キャンペーンでモノ言う株主を排除した結果なのですから。ライブドアの話も出ましたが、オリンパスが「外資から会社を守れ」というナショナリズムを最後のよりどころとしているのは、あの度し難いTPP反対運動や、すっかり鳴りを潜めてしまった反IFRS(国際会計基準)派の時代錯誤と共通しています。

そうした「日本株式会社」の不条理に対する怒りを、ウッドフォード氏は時事通信に炸裂させました。「CEO就任は損失隠しを黙認することの交換条件」という、明らかにオリンパス側のリークに基づく記事を配信したことに対し、「Absolutely no」と声を荒げ、逆に時事の記者に返答を迫る場面がありました。FACTAの報道を何度も賞讃するかたわら、時事を「これは悪い報道」と舌鋒鋭く批判したのには恐れ入りました。彼は喧嘩上手でもあるようです。

会社側や第三者委員会、さらに当局の「大本営発表」に依存する既成メディアへの批判が、オリンパス事件で火がついたことを、記者のみなさんも肝に銘ずべきでしょう。

パネルの終盤になって、オリンパスの菊川、森、山田の三人が取締役と監査役を辞任し、高山社長が「危機乗り切りまで辞めない」声明を出したので、ほとんど同時進行となってしまいました。

しかしこれは、オリンパスが明翌日の取締役会での〝決戦″を回避して、3人を辞めさせた弥縫策でしょう。「再生の道が見えたら、いつでも職を辞す覚悟」という強弁の裏には、依然として外資に乗っ取られるなという排外主義の塊であることがうかがえます。要するにこの3人の辞任は、「無血開城」の拒否を宣言したにひとしい。

高山社長の「現経営者を中心とし、全社員、OB、関係者が一丸となって」には、本来筆頭に株主を挙げるべきでしょう。「関係者」というあいまいな言葉の中に、この企業の「反株主」的体質、会社は社員と経営陣のものだという日本企業のとんでもない誤解が潜んでいます。ことここにいたってなお、それに気がつかないという一事だけで、現経営陣は総退陣に値します。

ともあれ、パネルはニコニコ動画で同時中継され、ど真ん中に座らされた小生は、たどたどしい英語でしゃべらされる羽目になりました。ニコニコで映すなんて聞かされていなかったので、穴があったら隠れたいほど、冷や汗と針のムシロでした。ニコニコではその後の番組で、記事を書いた山口義正記者と、日経証券部で彼といっしょだった町田徹君、それに楽天の山崎元さんが、「現代ビジネス」の鼎談をしていました。

25日は外国人特派員協会で、ウッドフォード氏と清武氏のダブルヘッダー。うーむ、これも重い。ウィッスルブロワー(内部告発者)のお二人ですから。

群栄化学は何をしてる?(オリンパス関連)

オリンパスが損失穴埋めの資金ねん出のため、不当に高い値段で買ったアルティス、ヒューマラボ、News Chefの国内3社に投資していた他の企業がこっそりリリースを出しています。

東証1部上場企業の群栄化学です。11月14日のリリースは奇怪でした。この3社に対し06年に第三者割当増資で0.6~0.5%の株主になっています。そしてオリンパスと同じように、11年3月期に減損処理し、簿価1円にしました。はて、何をしていたのでしょうか。その言い訳も奥歯にもののはさまったようで、どうも解せません。



当社といたしましては、純投資として当社の業績に資するものと判断して投資を行っております。結果として減損処理を行う事態に至ったことにつきましては、大変残念であると考えております。

なお、当社においては、下記の発行会社3社及びオリンパス株式会社との間には、下記の投資による株主と発行会社という関係及び同一の発行会社の株主同士という関係以外にご報告すべき関係はありません。



ほんとですかね。横尾宣政氏のグローバル・カンパニーって、この手の妙な投資専門の請負人だったのでしょうか。とすると、そこから芋ヅル式にいろいろな上場企業が出てくるかもしれませんね。当局には「宝の山」かも。まさか、それを見過ごして、小さくフタをしようというのではないことを祈ります。

そういえば、群栄化学は損失隠しが明るみに出た林原の買収に手を挙げていましたね。元水アメ屋さんの林原と、ブドウ糖で出発し工業用フェノール樹脂は専業では国内最大級となった群栄とは相性がいいのかと思いましたけど、「損失隠し」先に吸い寄せられる妙な癖をお持ちのようです。

ところで、昨日のブログでご紹介したThe Economist Corporate Networkのセッションは、限定会員のみ参加できるものでした。問い合わせが殺到したようですので、一言申し添えます。


24日木曜にウッドフォード氏とご対面

英国のThe Economist誌が、海外企業の在日幹部を集めて朝食会などを行っているThe Economist Corporate Network主催で、11月24日午後7時からThe Olympus Affair(オリンパス事件)というタイトルで緊急セッションを開きます。 来日するマイケル・ウッフォード元オリンパス社長も出席して20分ほどレクチャーします。そのあとでパネルディスカッションとなり、私も参加して7分ほどスピーチしてからパネラーとなります。

パネラーは以下の通り。

・阿部重夫(FACTA発行人)
・Jonathan Soble(Financial Times Correspondent)
・Kenneth Cukier(The Economist Tokyo business correspondent)



オリンパス「飛ばし」の記事はとばしちゃいけない

昨日(18日)は、弊誌ウェブサイトへのアセスが集中し、サーバーが一時アクセス不能となってご迷惑をおかけしました。弊誌の想定していたトラフィックを超えてしまったためで、お急ぎの方にご不便をおかけし、お詫び申し上げます。

アクセスが集中した理由は、最新号のオリンパス関連記事2本を、雑誌発行に先行して購読者オンライン会員の皆様にウェブサイトで解禁したためです。市場関係者の注目を集めていたので、証券市場に不測の混乱を与えないよう、取引所が引けてからの解禁にしたのですが、想像以上の反響でした。

関連エピソードを一つ。同日夕、弊誌に寄稿していただいている元財務官僚で現嘉悦大学教授の高橋洋一氏から電話があり、「オリンパス人脈図、思わず笑ってしまった。バブル崩壊後とおんなじことをやってるんだ。一見複雑そうに見えても、あれを見れば構図は単純。90年代は国内の関連会社に飛ばしていたけど、00年代は海外のSPC(特別目的会社)などに飛ばしている。相変わらずの同じ手口で、まだやってるのかと思った。面白いねえ」と言われました。

彼は1997-98年の山一、拓銀、長銀、日債銀と金融機関が次々と破たんした時代、大蔵省金融検査部で不良債権の書類の山と格闘し、不良債権の査定をどうするか、隠れた名著「ケーススタディによる債権償却」(金融財政事情研究会)というマニュアル本を書いて、銀行などの不良債権担当者の必携本になっていたことがあります。

実は、「埋蔵金」男である前に、不良債権処理の手口のあれこれをもっともよく知る元実務担当者なのです。確か長銀の裁判では、証人として証言台に立ったこともあったはず。その彼が弊誌の複雑な人脈図を一目見て、たちまちその本質を見抜いたのはさすがです。こうした複雑な操作は、「ザ・ラストバンカー」という回顧録を書いた西川善文・三井住友銀行元頭取もよく知っているでしょうが、同著には具体的な手口は書いてありません。オリンパスは生きた手口のケース・スタディーなんですね。

さて、同じ日のもうひとつのエピソード。ニューヨーク・タイムズが捜査当局から得たというメモをもとに、オリンパスから1000億円以上が犯罪組織に流れたという記事を載せました。それを受け、日本の報道各社が同紙の内容を一斉に伝えたこともあり、市場には混乱が広がったようです。私も外国人投資家から「あの記事は本当か」と聞かれて、答えるのに困りました。

当局とはどこでしょうか?FBIがマネーロンダリングを疑っていて、警視庁などがそれに煽られていることは事実ですが、オリンパスの資金トランザクションからその裏付けを得ているとは思えないのです。彼らの捜査はFACTAよりよほど遅れていますから、これは自信を持って言えます。最新号「決定版『オリンパス』不正人脈」の人脈図をご覧になった方にはお分かりだと思いますが、そこに組織犯罪(ヤクザ組織)は直接登場しません。

正直、ニューヨーク・タイムズの東京発の記事には首をかしげざるを得ない。オリンパスの損失「飛ばし」の解明に、記事のほうが「とばし」ちゃいけません。胡乱な記事を書く記者は、当局の御用記者と同じく、ジャーナリズムには有害であります。

BNPパリバ(日本)への公開質問状

FACTAはオリンパスだけ報じているわけではありません。

欧州金融危機のさなか、ギリシャ、イタリア、スペインなどの国債利回りが急上昇していますが、南欧の国債保有が多く、倒産確率であるCDSのスプレッドも高止まりしたままのフランスの大手金融機関、BNPパリバの日本法人、BNPパリバ証券東京支店に対し、以下のような質問状を送りました。

広報部の回答は「ノーコメント」。といいながらも「このようにはならないと思います」と意味不明の言葉を添えました。事実確認に対してノーコメントとした回答とは辻褄があわず、「日本から撤退しないという意味ですか」と問い直しても、「そこはノーコメントです」と面妖なお答えでした。

さんざんレッドカードやイエローカードを食ったあげく、アーバンコーポレイション事件では松尾元検事総長まで駆り出して第三者委員会を設け、報告書を出しましたが、やはり根っこは変わらないようです。

次号のオリンパス報道でも、同社の前身であるパリバ証券がオリンパスの投資ファンドをいかにむしったかが明かされきます。こういうのを「懲りない面々」と言うのでしょうか。第三者委員会がエクスキューズにすぎないことを証明した点で、オリンパスの先例と言えるかもしれません。

この質問状から、次号でどんな記事が掲載されるか、お楽しみに。



BNPパリバ証券
東京支店広報部

御社トレーダーについての質問状



ファクタ出版株式会社
月刊FACTA発行人阿部重夫



拝啓

晩秋の候、時下ますますご清祥の段、お慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚くお礼申し上げます。弊誌は調査報道を中心とする月刊総合誌で、最近のオリンパス報道でも内外で高く評価されました。次号(11月20日号)で、御社のクレジット・トレーダーが顧客に安値で投資商品を販売し、キックバックを得たとの指摘を証券取引等監視委員会より受けた件を取材しております。この件についていくつかの確認と、御社のご見解をうかがいたく、書面で恐縮ですが、質問状を差し上げた次第です。

お尋ねしたい点は以下のとおりです。

1この不公正取引および監視委の指摘は事実ですか。

2取引相手のファンドにBNPパリバのOBがいることはどう考えていますか。

3取引にかかわったトレーダーとセールス担当者は監視委の指摘を受ける前に退社していますが、社内調査で事実を把握し退社を求めたということでしょうか。

4取引のあった部署の社員も9月ごろに退社していますが、この件とのかかわりはあったのでしょうか。自己都合退社なのか、それとも解雇ですか。

5取引はBB証券を通じたものと聞きます、BB市場の価格をゆがめたと考えますか。また、取引の日時と回数は把握していますか。

6上記3氏の御社での最終的なポジション名(肩書き=対外呼称)を教えてほしい。

7御社は02年の三菱電機EB債事件、08年のアーバンコーポレイション事件で、これまでも何度も行政処分を受けています。原因をどう考えていますか。

8欧州金融危機のさなかであり、今回また処分を受ければ、日本撤退を考えていますか。

以上です。お忙しいところ大変恐縮ですが、次号の締切が迫っておりますので、14日月曜までにFAX、メール、電話、文書などいかなる形でも構いませんので、ご回答いただければ幸甚と存じます。よろしくお願い申し上げます。

敬具



11年11月10日

12月号オンライン解禁について

弊誌12月号のFACTAオンライン解禁は18日正午でなく、証券取引所大引け後の同日夕に解禁することにいたします。

弊誌の記事により、株価の変動などが起き、不測の混乱を招くことを避けるためで、オンライン会員の方々にはご迷惑をおかけします。

毎月20日発売の弊誌は、地域差はありますが、その日付の前後にご購読者のお手元に届くよう雑誌を宅配便でお送りしています。ただ、FACTAオンライン会員にご加入の方に限り、毎月18日正午をもってネット上で先に読める無料サービスを実施しております。

しかし今回の12月号については、18日(金)正午では証券市場が開いている最中であり、株価を変動させる恐れがありますので、証券市場が引けた同日夕に解禁することにいたします。それ以前に弊誌をご購入したいとのご要望には、上記の理由により応じかねますのでご了承ください。

ご購読者でオンライン会員に加入されていない方は、このウェブサイトの中の「オンライン会員登録」で予めご加入の手続きをお願いいたします。年間定期購読者以外の方にはこのサービスを実施しておりませんので、早くネットで読みたい方は雑誌のご購読申し込みからお申し込みください。オンライン会員にも同時に加入できるようになっております。


FACTA出版株式会社




ブラックアウトから出ます

まず先のブログで不正確な表現があったので直します。

10月24日付で「野村の元オリンパス担当、S氏の独り言」と見出しにありますが、「元」の位置が誤解を招くので「元野村のオリンパス担当、S氏の独り言」と修正します。

報道合戦が食い散らかし状態になってきて、放置してると自分で確認もせずに、一人歩きし始めるからです。ブログで取り上げたS氏の「闇株新聞」は11月10日付「オリンパスの闇・5」でこう書いています。



一部報道機関が、私のことを「オリンパス担当の証券マン」と書いているようですが、間違いです。「担当の証券マン」だったら信義上、書きません。



その通りですね。野村を辞めてから別の外国証券会社にいて、オリンパスの損失隠しを知る立場にいたので、確かに不正確でした。訂正します。

それにしても、海外の後追いを強いられた日本の大手メディアは、ようやく当局が動き出してくれたので、当局リークに基づく「方針」原稿に舞い戻ったようです。それを「いやな感じ」というS氏の危惧はよくわかります。

某大手テレビ局にいたっては、弊誌に電話をかけてきて「入手した資料のPDFをくれないか」と、マスコミの仁義にもとることを平気で言ってきました。


「とくダネ」なんとかという番組ですが、この恥さらし担当者の名前を明かしたいくらいです。

ライバルのメディアにタダで材料ちょうだい?どういう神経をしているのか。

だから当局情報にすぐ頼る。S氏が危惧するように、決算5年分修正でお茶を濁し、責任者をできるだけ少なく絞り込んだうえで、上場廃止を免れさせるとしたら、そういう「当局」をとことん叩くだけです。

そんな言い逃れがきかないスクープを次号で放ちましょう。今度は海外メディアも黙っちゃいませんよ。わが尊敬するドイツの「シュピーゲル」も弊誌のタイトルを引用した記事を掲載してくれたので、昨日、シュテファン・シュルツ記者にお礼のメールを送りました。

日本の当局とメディアが癒着すれば、たちまち叩かれます。弊誌もS氏の心配が「杞憂」になる報道を心がけるとともに、そうしたあいまい決着には断固として闘います。

エミールより、探偵たちへ

ブラックアウト中なので一言だけ。

日本の新聞、テレビ、通信社。9日の報道はどこも食い足りない。そんなありきたりの見出しじゃ、後追いを脱せられないでしょう。

FACTAは次号もひやっとするような記事を書きます。もっと喉元を深くえぐるような。今のままでは、山高帽の本星は高枕ですぞ。

ファイト!闘う君の唄を闘わない奴は笑うだろう。


うれしいな、オリンパスの会見にでられる

本日のリリースで90年代からの損失飛ばしを認め、12時半から京王プラザホテルで社長会見だそうです。

今回はFACTAの出席が認められました。やれ、嬉しや。初対面ですね。最初の質問状以来、苦節4カ月半。ここは素直に喜びましょう。


オリンパスには「エミールと探偵たち」

今週はブラックアウト(通信途絶)に入ります。宇宙船が大気圏に再突入する際、高熱の炎につつまれて交信ができなくなる状態を、停電の意味もある「ブラックアウト」と言います。オリンパスについては逐次コメントをしてきましたが、これから編集期間に入るのでしばらく発信できなくなります。ブログは来週から復帰します。

そのあいだは「エミールと探偵たち」の一幕を眺めていよう。

エーリッヒ・ケストナーのあの本、ご存じの方も多いと思います。岩波少年文庫に池田香代子訳がありますから、未読の方はぜひ読んでみてください。

大都会ベルリンで繰り広げられるあの捕物、ありきたりの児童書にないリアリティーに満ちていて、耳慣れない地名も憧れの固有名詞でした。自分が新聞記者になったのも、もしかしたら、作者のケストナーが新聞記者だったせいかもしれません。

主人公のエミール、お婆さんに渡すおカネ(140マルク)を母親から預かって、ひとりでベルリン行きの電車に乗るのですが、ウトウトしたすきに個室で相席の山高帽の男にすられてしまいます。エミールは山高帽を目印に、大都会の雑踏をどこまでも尾行していきます。

街頭でガキ大将のグスタフに出会い、その仲間20人の協力を得て、手分けして山高帽の男(グルントアイス)の住まいを突き止めます。男が出かけるのを、町中の少年たちが湧くようにでてきて尾行に加わり、銀行まで追いかけるのです。

いつのまにか、少年たちの黒山のような群れが山高帽の男のあとにぞろぞろついてくる光景がたまらなくファンタスティックで好きでした。

さて、「エミールと探偵たち」を紹介したのは、FACTAが巣ごもり中も、他のメディアの方々がオリンパスをしゃぶった「山高帽」たちをじわじわと追い詰めるだろうと思ったからです。

7日月曜発売の週刊朝日。トップ記事はオリンパスでした。「損失隠し」。そう、いい線をいっている。ついでに、ちょっと明かすと、週刊朝日の標的は白髭橋のそばに住んでいる。記者の方には、ぜひ面を割って写真でも撮っていただきたい。

そうすれば、ご本人も慌てるでしょう。家に帰らない?でも、ホテル暮らしはもっと足がつくものです。知人宅を転々とする居候生活は辛いだろう。椿弁護士のように海外に逃げても、入管を通るだろうか。それに今度は、FBIが追ってくるだろう。

こういう時は、四の五の言わず出てくるのがいい。FACTAはずっと言い分が聞けるのを待っているのですから。それとも、あぶり出されるのを待つつもりでしょうか。グスタフのお友達のパパラッチは町中にいます。ジャーナリスト、カメラマン、みんなが追いかけている。そのあいだ、こちらは黙々と次号を作ろう。

ギリシャのようにオリンパスも烙印

オリンパスの社名の由来はギリシャの神々が住むオリンポスの山の名から来ています。そのご本尊ギリシャのダッチロール(国民投票やら首相退陣やら)を見習ったみたいに、日本のオリンパスもよれよれです。

いまやギリシャは「自助努力をしないダメ国家」の代名詞。日本のオリンパスも「自浄能力のないダメ企業」の代名詞になっています。11月4日にはとうとう、8日に予定している第2四半期決算発表を延期すると発表しました。

第三者委員会の報告を待ってなどと悠長なことを言っていますが、ほんとうはジャイラス関連ののれん代償却をめぐって、監査法人と一致しないのでしょう。

ご忠告します。FACTA次号が出る11月20日(ウェブは18日)まで、決算発表などしないほうがいい。弊誌は全容を解明する記事を準備しています。お化粧決算など発表したら恥の上塗りでしょう。

小生の日経証券部後輩で、いまは産経NYにいる松浦肇記者が、彼のブログでアルティスの株主価値評価書を徹底分析しています。評価書のPDFはこのブログですでに公開してありますが、コロンビア大学でMBAをとった松浦君のややマニアックな分析は面白い。オリンパスの第三者委員会は一人しか公認会計士がいませんが、この評価書のインチキを見抜いて、ヤメ検弁護士の方々にきっちり言ってやっていただきたい。

苦笑してしまうのは「株主価値の算定手順」のページの下にある注記ですね。



本報告書においては貴社役員が評価対象会社役員に就任しており、当該役員を含む評価対象会社の取締役会にて承認された事業計画を貴社から提供を受け、ゆえに特に修正せずに使用しており、計算上の修正も行っていない。



この公認会計士も、買う側と売る側がグルだと知っていたのだ。これはヤバいと思って、わざわざエクスキューズをこんな文章にしている。「ゆえに特に修正せず」?いかにも後ろめたそうな一文ですね。

真如苑の熱心な信者だという社外取締役は、隠れ家のオフィスに電話をかけられて狼狽していた。別の社外取締役は、2日の水曜夜に名古屋時代の部下と憂さ晴らしに飲んでいたという。「これからは楽な人生を」と思ってオリンパスの禄をはみはじめたところが、連日のように出社を余儀なくされ、ヘトヘトだそうだ。気の毒ではあるけれど、弊誌は公開質問状で早々と警告していますからね。それを無視した結果だから自業自得でしょう。

関西の株主からはどうも代表訴訟を起こされそうな形勢ですね。外国の大株主も起こすでしょう。こちらにも接触がありますよ。ふふふ、情報提供しちゃおかな。オリンパスの現取締役たちは、やがて訴訟に備えた準備に忙殺される日々となるでしょうね(代表訴訟は株主個々人でやらなければならないから、蛇の目の例のように負けると個人破産になりかねない大変な裁判なのだ)。

さて、次号のオリンパス記事は英訳版も予定しています。オリンパス経営陣と甘い汁を吸った連中はもうすぐ逃げも隠れもできなくなるでしょう。

オリンパス第三者委員会はいらない

しばらくブログを休んでいたら、もう追加情報はないのですかという問い合わせを頂いた。FACTAが鳴りをひそめる時、これは潜航取材をしている時なので、オリンパスへの取材の手を緩めていたわけではありません。先日の弊誌コラムでも引用しましたが、あいだみつをが言ったとおりなのです。



よくまわっているほどコマはしずかなんだな。



さて、11月1日にオリンパスはまたリリースを出しました。もしかしたら、11月8日の中間決算発表の延期かと思いましたら、今回の件を調査する第三者委員会を発足したという発表でした。



元最高裁判事で東京高検検事長だった甲斐中辰夫弁護士を委員長とし、ほかに弁護士4人と公認会計士1人を委員とするメンバーの顔触れです。社外取締役の林純一氏あたりが画策したのでしょうか。東大など法学部出のヤメ検、ヤメ判事ばかりで、とても金融の複雑なスキームを解明できるとは思えない。この事件の本質に迫れるのか大いに疑問です。

東京高検検事長あがりといえば、村山弘義弁護士が思い浮かびます。野球賭博事件で日本相撲協会の理事長代行を務めていますが、東証マザーズの上場第一号で暴力団まみれになったリキッドオーディオの監査役に就任して赤っ恥をかいた過去がある。当時、本人に取材したら「若い者を育ててやらねば」とかばおうとしていましたが、上場で投資家のカネをかすめとる金融詐欺の本質がまるっきりわかっていませんでした。その後、山口組関係者に地上げを頼んで「反社」企業とされたスルガ・コーポレーションの社外監査役、取締役を務めて恥の上塗りをしています。残念ながら、客を選ぶ眼力がないというのが検察現役の村山評です。

甲斐中弁護士も、最高裁判事時代の判決を見ますと、オリンパスのようなケースをさばけるタイプではなさそう。下手をすれば村山弁護士の二の舞になりかねません。

実はオリンパス、あちこち第三者委員会のメンバーを探していました。で、日比谷パークにも声をかけ、久保利英明弁護士はどうですかと言われたそうです。持ち帰って検討した結果が「久保利さんだけは勘弁してください」と断ったという。それもそのはず、久保利弁護士は東電のていたらくを見て日本企業の企業統治(コーポレート・ガバナンス)に強い疑問を呈しているので、オリンパスを調べたらカンカンに怒ることは目に見えています。弊誌10月号でも久保利弁護士のインタビューを載せているので、ご参考まで。

もしオリンパスが言いなりになりそうな弁護士を選んだのだとしたら、茶番劇の第二幕が開くだけ。第三者委員会のメンバーには気概を持った調査を求めたい。そうでなければ、FACTAが彼らが不要であることを証明するだけです。

予告します。第三者委員会が調査を始めようとした矢先、FACTAの次号で事件の全貌が解明されるでしょう。第三者委員会は何もしないうちに役割を終えるかもしれません。次号でオリンパスに群がったピラニアたちは素っ裸になります。



他意はない、とオリンパス広報

26日の会見場からFACTAが排除された件について、他の記者が聞いたところ、オリンパス広報は「会場が狭かったので」と答え、「他意はない」と弁解したそうだ。

おいおい、昨日の電話ではそんな返事じゃなかったですぞ。じゅうぶん、「他意」があったと感じましたがね。最新号の末尾で予言した「菊川さん、次はあなただ」と予告された辞任が早々と実現したうえ、我々が会見で新社長へ質問をするのが怖くて排除したのでしょうに。

それと、きのうのテレビ朝日「報道ステーション」の古舘伊知郎キャスターは、弊誌を「英語名の雑誌が」と呼んでくれたそうな。失礼ながら、わが誌のタイトルはラテン語です。よほど「FACTA」と言いたくなかったんでしょう。最新号で「古舘プロが牛耳るテレビ朝日」の記事を載せて批判していますから。ちなみに、このブログでもオリンパス関連にまじってテレビ朝日への質問状とその返答を公開しているのでご参考まで。

ところで、ロイター通信に私をインタビューした記事が流れました。海外向けの英語版ですが、オリンパスが日本の恥になっているので、少しは恥を雪ぐ(もちろん、日本の恥であってオリンパスの恥なんか知ったことではない)という意味で応じました。