EDITOR BLOG
雑誌ジャーナリズム大賞とオリンパスの人事
ブラックアウト期間を終わってでてきたら喜ばしいニュースが二つ。
ひとつは山口義正記者が弊誌におけるオリンパス報道で、第18回雑誌ジャーナリズム大賞を受賞することになりました。95年から毎年、編集者の投票で選ばれるもので、主宰者の講談社から大賞受賞の知らせを受けました。30日に授賞式です。山口記者、おめでとう。
もうひとつは、オリンパスのポチが出世したこと。
オリンパスの4月1日付の人事には苦笑しました。拘置所行きとなった菊川元会長のポチだったお二人が、みごと出世を遂げていらっしゃった。これまた、おめでとう。あなたがたはその厚顔無恥で歴史に残るポチ・サラリーマンの鑑です。
まず、広報・IR室長だった南部昭浩氏。みごと財務本部長・経営企画本部長の重要ポストを射止めました。FACTAの追及にはまったく答えず、必要なことはすべて開示しているとの大ウソをつき通し、はては当初記者会見ではFACTAを「場所がないから」と締め出した張本人です。
株式市場を欺き通し、オリンパス株をどん底に陥れた広報の中心人物で、FACTAに内通した人物は誰かと嗅ぎまわり、市場にも一言も謝らなかった彼が、これからはオリンパスの財務の柱になるのです。また不正をやってもバレさえしなければ、上場廃止にならないと高をくくったんでしょう。これからも株主のカネを横取りし続けるのでしょうか。
そしてもう一人は秘書室長だった百武鉄雄氏。彼は南部氏の後釜の経営企画本部広報・IR室長だそうです。
社内通報制度に従って上司の行動を通報したところ左遷された浜田正晴氏の事件(東京高裁でオリンパス側が敗訴)で、森・濱田松本法律事務所の女性弁護士と組んで浜田氏いじめに精を出したことで、ネットではすでに有名人でした。
昨年大みそか、このブログでも取り上げたので記憶にある方も多いと思います。秘書室長の百武氏の名で菊川元会長に白金の隠れ家を提供したことが暴露され、会社のカネを使って部屋代ばかりかペット代まで支払っていたことが明るみにでたからです。拘置所行きの命運が定まった上司に、最後まで忠誠を尽くすポチの鑑として、このブログでもほめたたえてあげました。
いやはや、すごい会社です。なにひとつ反省していない。それどころか、居直りです。頭を下げるなんて気はさらさらない。彼らは当局に呼ばれないんですかね。あの広報のウソの落とし前、どうつけてくれるのか。泣かされた株主の方々、菊川元会長のペット代は誰のカネだったんでしょうか?
外部勢力を駆除した功績を認められてのご出世でしょう。オリンパスは事実上の銀行管理会社ですから、粉骨砕身、三井住友銀行から降臨される木本泰行会長に、これから二人はゴロニャンの日々となるのでしょう。
オリンパス社員にはご愁傷さまと申し上げましょう。ヒラメばかり闊歩する会社の末路は歴史が証明しています。オリンパスが汚名をそそぐ日は永遠に来そうもありません…。
また会見からFACTAを締め出す日も遠くはないでしょう。
オリンパスの“別件”で群栄化学をやるなら
3月7日付読売新聞朝刊によれば、オリンパスの飛ばし請負人、グローバル・カンパニーの横尾宣政代表ら3人が警視庁にオリンパスとは“別件”の詐欺容疑で再逮捕されるという。
“別件”と言っても、被害者がオリンパスではなく群栄化学(東証1部)だった点が違うだけで、舞台になったのはオリンパスの損失穴埋めに利用されたアルティスなど国内3社。オリンパスはこの3社を700億円以上も出して買収したが、群栄にも3社の株を高値で売り付け3億5000万円を詐取したという容疑だ。
実は、2011年11月22日のこのブログで「群栄化学は何してる?」と題して書いているから、ブログでもプチスクープしたことになる。警視庁もたぶんヒントにしたのだろう。読売によると、群栄の元役員は「だまされた」と言っているそうだから、ブログで書いたように横尾グループの餌食になった企業はまだあるということだ。
そう、警視庁も新聞もそろそろ気づいているはず。横尾が社長のテクノマイニングの事業化支援サイトに休眠特許の技術資産を公開した大企業がありましたよね。101期事業報告書の15ページで堂々紹介してるんだから隠れもない。そろそろ、とぼけてないで、群栄みたいにリリースで釈明したらいいのに。先に市場でうわさが立ってますよ。
子会社で問題を起こし、海外で無謀な買収をし、トップが老害ワンマンで、日経とも仲良しという、オリンパスそっくりの条件がそろっているだけに、ま、無理もないのでしょう。
さあ、新聞記者のみなさん、リークばかりでなく、すこしは自力で開拓しよう。FACTAは次号の編集作業でしばらくブラックアウトしますので。
セラーテムのフィナーレ
池田社長、宮永元CFOら3人が逮捕されました。これで「FACTA銘柄」にまた鉄槌が下ったことになります。
さて、1年半前の10年9月号でスクープしたFACTAの取材に対し、けんもほろろだった大証ジャスダックはセラーテムを6日に監理銘柄にしましたが、その先はどうするのでしょうか。ジャスダックの上場廃止基準に照らしても、金商法違反(偽計)容疑ですから、「その他事項」の虚偽記載にあたるはずです。
さらにこういう説明があります。
適時開示規則や企業行動規範に違反した場合,最も厳しい措置は上場廃止ですが,一度の違反で上場廃止にまでは至らないケースであっても,その重要性に応じてペナルティ措置としての公表措置(2回目以降は警告と呼びます)を講ずることがあります。繰り返し違反を行う企業は上場会社としての資質に欠けると判断されることから,大証市場では,5年間に3回の公表(警告)措置を講じた場合には上場廃止とします。
FACTAの報道から、大証ジャスダック(旧ヘラクレス)はセラーテムに対し一度も警告の公表措置をとらなかった。われわれの指摘を無視し、一貫してセラーテムを守ってきたのです。
セラーテムと裏表になっているチャイナ・ボーチーを1部に上場させている東証も同じでしたね。何度も取材し警告を発したのに、山西省の発電所建設予定地にペンペン草が生えていて建設などまったく進んでいない証拠写真を撮ってきても、FACTAはシカトされ続けてきた。
投資家保護が聞いて呆れる。東証・大証の両トップ、斉藤惇社長と米田道生社長は、株主たちに土下座しても足りないでしょう。大証広報、胸に手をあてて考えてほしい。君の罪は万死に値する。
偶然だろうか、けさ届いた新聞の折り込み広告に「東証IRフェスタ2012」のチラシが入っていた。今週の金、土に東京国際フォーラムでやるんだそうな。キャッチフレーズが笑わせる。
日本力――今と未来をあなたに伝えたい
本気かい。東証・大証自身のIRはどうなっているの?人に教訓を垂れる立場かい。あんたらに上場の資格はないと思う。心ある人はフェスタに出て、東証幹部をつるし上げてほしい。
そして、ふーむ。「今と未来」だけで、過去は伝えたくないってことか。だがFACTAはそう甘くはありません。まだまだ材料はあるのです。彼らがいっそう困惑するようなスクープを近く抜いて差し上げましょう。
hangoverとoverhang
自分も新聞1面の最下段にあるコラム(朝日なら「天声人語」、日経なら「春秋」)を書かされていた時期があるから、あんまり後輩のことは言いたくないが、ある知人からこんなメールが届いた。
日経の一面に昨日(2月29日)登場した「債務の二日酔い(Debt hangover)」なる言葉。正しくは勿論Debt Overhang(債務過剰状態)。裏の理屈までわかっていて、overhangをひっくり返したのなら、筆者(署名記事でしたね)を尊敬するが、記事のトーンからはそういう諧謔性は感じられない。今朝の「春秋」までが「債務の二日酔いなる表現を・・・初めて知った」とやっている。我々ももちろん初めて知りました。だって、日経が昨日初めて「発明」した表現なのだから・・・がんばれ、日経!
ひとこと付け加えておくが、あちらではdebt hangoverという言い方もdebt overhangという言い方も両方存在する。フレーズ自体は日経の発明ではないが、訳語の「二日酔い」は、ま、発明に近いかな。あるサイトでは前者が
A situation where agents (firms, governments, individuals) hold too much debt holding back normal economic activity.
後者が
a similar situation. Debt overhang occurs when the interest burden of existing debt is greater than the profit the firm can generate from its core business. Debt overhang was a situation faced by many banks during credit crisis.
と書いてあった。
ということは、このメールの筆者が言うとおり、両方の表現とも、雪崩の前の雪庇のように、債務過剰でにっちもさっちもいかない状態を言うのであって、「二日酔い」という訳語よりも「後遺症」「重荷」くらいのほうが妥当なニュアンスだろう。エルピーダもギリシャも、二日酔いなんて生易しいものじゃない。それくらいは春秋子としても知っていなくちゃ。
現にOxford Dictionaryにも後者の意味が併記されている。
1a severe headache or other after-effects caused by drinking an excess of alcohol.
2a custom, habit, feeling, etc. that survives from the past:
山口瞳まで繰り出しちゃあ、ちょっと勇み足だろう。笑えないぜ、芹川と省太よ。
大鹿靖明『メルトダウン』のススメ
講談社のノンフィクション本で、かつて日経の同僚だった牧野洋君の『官報複合体権力と一体化する新聞の大罪』(1680円)と、朝日新聞記者の大鹿靖明君の『メルトダウンドキュメント福島原発第一事故』(1680円)が、それぞれ売れていると聞く。
牧野君とは欧州で一緒に仕事をしたし、先日、アメリカから帰省されたときも、お土産をいただいた関係でもあるので、書評は遠慮して推薦だけにとどめよう。大鹿君も優秀なジャーナリストとしてよく知っているので、慶賀に耐えない。
そこで『メルトダウン』。FACTA最新号でも「崖っぷち東電」特集としてインタビューを含め5本の記事を掲載しているので、震災1周年というだけでなく、今もホットイシューだから、ここで取り上げたい。
エコ派の反原発本は掃いて捨てるほどあるし、専門家と称する人々の弁明本、窓際に追いやられた鬱憤晴らし本、出版社に煽られた頑張ろう本、たかりと善意の区別がつかないボランティア本まで、本屋の店頭にはいろいろ並んでます。ちょっとした「ワンエフ」(福島第一原発の隠語)エンサイクロペディアができるんじゃないかしら。せめて一冊なりとも読むとしたら、どう選べばいいのだろう。
大鹿君の本はお薦めできる一冊。炉心溶融をめぐる悲喜劇の名場面集のような構成だからだ。しかも場面の取捨選択と設定が巧みだ。冗長な歴史なら誰でも書ける。が、クローズアップした場面の点描画で、読者に全体像――凡庸なリーダーたちが愚行に愚行を重ねていくプロセスが、どのように累積したかを見せる手腕はなかなかできるものではない。
このブログでも何度か言及し、私が称賛する戦史家のアンソニー・ビーバーの筆法がそれにあたるが、すでにライブドアやJAL破綻の著書のある大鹿君の書きぶりもその域に近づいていると思える。
腰巻にも引用されている、1号機建屋が爆発したときの首相官邸総理執務室の光景は慄然とする。テレビで放映された映像を見て、寺田学補佐官が駆け込み、菅直人首相が絶句する。広報担当の下村健一内閣審議官が、爆発は起きないと主張していた原子力安全委員長に「斑目さん、今のはなんですか?爆発が起きてるじゃないですか」と問い詰めたところだ。
そのとき斑目は、福山の記憶によれば、(その後頻繁に見せることになるのだが)「アチャー」という顔をした。両手で顔を覆って、「うわーっ」とうめいた。頭を抱えたまま、そのままの姿勢で動かない。
誰が見てもひどい。この場面は民間事故調(北沢宏一委員長)の報告でも出てくるんだけど、作者は福山哲官房副長官と下村審議官へのインタビューから構成しているようだ。
この場面だけで菅政権と原子力ムラの「愚者の船」が見えてくる。菅政権は組織的意図的に記録を取らなかったせいで、こうした執務室の内側の証言は今後とも貴重である。
おそらく後世まで何が起きたかは諸説紛々になるのだろう。汗牛充棟の瑣事が山のように重なり、それ自体がバベルの塔のようになったとしても、この場面はいつまでも日本の原子力行政の、いや政治権力の無能の象徴として残るだろう。
本書が点綴する名場面はそれだけではない。震災のわずか4日前に東電の武藤栄副社長の部下たちが原子力安全・保安院を訪ね、「取扱注意お打合せ用」と題したペーパーで想定を超える10メートルの津波に襲われる可能性があり、対応を12年10月に行うつもりがあると報告していたことなど、いくらでも挙げられる。作者の意図は明らかだろう。
エリートやエグゼクティブや選良と呼ばれる人たちの、能力の欠如と保身、責任転嫁、そして精神の荒廃、可能な限り記録しよう。それが私の出発点だった。(あとがきより)
メルトダウンしていたのは人間たち、それもエリートを自負する人々なのだ。それを書こうとした大鹿君の心意気やよし。そんな彼をなぜか査問にかけている新聞社はどうかしてる、と思うけど。
AERAの親会社の顧問弁護士から、本誌に事実の摘示の申し入れがありましたので、ひとつだけ摘示します。
実は記事の最後の1行だけ事実ではなかった。「赤いアサヒ」に対するちょっとしたメッセージだったのですが、どうやら気づいてもらえなかったみたいですね。
Divina Commedia
Vien dietro a me, e lascia dir le genti
Das Kapital
Segui il tuo corso, e lascia dir le genti
能力の欠如と保身、責任転嫁、そして精神の荒廃……それは朝日のエリートのことではないのか?
セラーテムとネクスコ西
やっぱり深追いすべきだった、とちょっと落ち込んでいました。
AIJ投資顧問は昨年7月に取材を開始していたのにスクープにできなかった。当時の証券取引等監視委員会は、そんなクレームはいくらでもあるといった反応で、せっかくの端緒が生かせなかったのは反省。
一方で、この週末にFACTAのスクープ報道の正しさが2つ証明されました。それをささやかな慰みとしましょう。
ひとつは26日に読売が報じたネクスコ西(西日本高速道路株式会社)疑惑。新名神高速道路の建設で価格が入札前に漏れたとの疑いで、清水建設社員宅などに兵庫県警が偽計容疑で家宅捜索した。これは本誌2011年8月号の「また『蛆』がわいたNEXCO西」で報じたものがやっと実ったということです。公取への「談合ですよ」とのメッセージでもあったわけですが、地元の警察が入ったのですね。
2008年7月号国税に「道路の悪玉」密告状
2010年5月号民営「西日本高速道路」の闇
2010年6月号NEXCO西「石田帝国」の落日
2010年8月号「西日本高速道」にトドメ刺した調査委報告
さてもうひとつはセラーテム(大証ジャスダック上場)です。26日午後7時のNHKニュースで「中国企業買収で虚偽発表か摘発へ」と報じられました。証券取引等監視委員会が強制調査に乗り出した模様です。しかし正直、ああ、今ごろか、という気持ちもないわけではありません。
第一報「『中国のハイエナ』が大証裏上場」を報じたのは2010年9月号です。それからセラーテムと表裏一体のチャイナ・ボーチー(東証1部上場)とともに、これらは市場で「FACTA銘柄」と呼ばれるようになるのですが、1年半も執拗に追及を続けてきたのですから。ちなみに、NHKの報道を受けて、第一報の記事をフリーコンテンツとして公開しましたので、定期購読者でないの方もぜひご一読を。
2010年10月号窮鼠セラーテムの「お笑い」弥縫策
2011年3月号東証の「時限爆弾」チャイナ・ボーチー
2011年6月号「チャイナ・ボーチー」上場廃止へ
2011年11月号セラーテム「強制調査」で崩壊へ
2012年1月号連れ安「FACTA銘柄」を東証放置
さあ、東証と大証。この始末、どうつけてくれるのか。
今朝にかけて報道各社がNHKに追随。それらによれば、セラーテムが2009年12月に中国系ファンドを引受先として行った第三者割当増資は「架空増資」であり、監視委は「株価つり上げが目的の不正(金融商品取引法の偽計)」だったと見て強制調査に踏み切ったとのこと。本誌が既に報じてきた内容を踏襲しており、新味はありません。
ただ、先陣を切ったNHKの報道には2つの興味深い暗示がありました。このニュースは十中八九当局のリークですが、NHKのアナウンサーが読んだ原稿の中には、「監視委が中国の金融当局に協力を要請した」というくだりがあった。これは、セラーテムの強制調査に先だって監視委が中国証券監督管理委員会(CSRC)と接触していたことを意味します。中国側の協力が得られる目処がなければ、当局はわざわざNHKに教えないでしょう。
2008年の“アジア・メディア事件”では、東京証券取引所が同社を上場廃止にし、会社の資金を持ち逃げした中国人創業トップを北京市公安局に告発。しかし、結果として誰も制裁を受けることなくうやむやに終わり、日本の個人投資家は泣き寝入りを迫られました。今回は、日中当局の連携によって中国にいる詐欺師にも制裁が加えられるかもしれません。この点は大いに期待して見守りたいと思います。
もうひとつの暗示は、ニュースに登場した匿名の証券コンサルタントの「明らかになったケースは氷山の一角」というコメントです。これは、セラーテム事件が他の企業や組織に飛び火するという意味でしょう。少なくとも、不正人脈が水面下で繋がっている東証1部上場のチャイナ・ボーチーへの影響は避けられないはずです。
FACTAはセラーテムの疑惑を取材する過程で、監査法人、社外取締役、証券取引所などにも取材してきました。常識で考えてデタラメだらけの企業だったにもかかわらず、彼らは異口同音に「問題ない」「わからない」などと回答していました。
セラーテムは今朝、一連の報道を受けたプレスリリースを発表。監視委の強制捜査を受けたのは事実だが「金融商品取引法に違反するような行為は行っていない」と主張しています。確かに現時点では、監視委が東京地検に告発し、起訴されると決まったわけではありません。しかし時間の問題でしょう。実際に起訴する際は、当局はセラーテムの不正に見て見ぬふりをしてきた(もしかすると不正を幇助していた)監査法人、社外取締役、証券取引所の責任にもきっちりとメスを入れていただきたい。
セラーテム事件は、監査法人、社外取締役、証券取引所のチェック機能が働かなかったという意味でオリンパス事件に酷似しています。ついでに言えば、報道各社がFACTAのスクープに一切触れていないのもオリンパスの時とそっくり。それはさておき、マスコミは中国の二流詐欺師を悪者にするばかりでなく、彼らを日本に招き入れ、不正を幇助した日本人や、不正を知りながら見て見ぬふりをしてきた日本人の責任も厳しく追求すべきです。
それができなければ、日本の資本市場はますます「田舎市場」として世界の笑い物になるだけでしょう。
オリンパス菊川前社長らの逮捕について
ブログを再開した途端に、東京地検特捜部がオリンパスの前社長兼会長、元副社長ら3人を逮捕したとの報が入ってきた。容疑は金融商品取引方違反(有価証券報告書の虚偽記載)である。
ここまではすべて予想どおりで、意外性はない。
ただ、関与したグローバル・カンパニーの横尾宣政社長やアクシーズ証券の中川昭夫ら旧野村組など4人も一気に逮捕したのはちょっと意外。下手をすると、彼ら飛ばし請負人を立件できないのでは、と危惧していたが、ようやくメスが入る。期待としては海外にまで捜査の手を伸ばしてほしいということだ。
密かに心配だった自殺者が出ていないのは幸いである。店晒しのプレッシャーに耐えられなくなって死人が出てしまうと、とたんに世論の潮目が変わり、捜査が急に失速することがよくあったからである。
関係者が次々に呼びこまれるだろうが、「洗いざらい喋ってすっきりした」という心理はいいが、何のために会社に尽くしてきたのか、と空しくなって、自己懐疑の泥沼に陥ることがないよう祈りたい。
こういう事態が想定されたので、次号(FACTAオンラインは2月18日公開)は、長野刑務所で服役中の堀江貴文・元ライブドア社長に獄中から寄稿していただいた。彼のブログでもたびたびオリンパスについて言及、ライブドアが東証から一発退場で上場廃止となったのに比べ、不公平ではないかという疑問を投げかけていたからです。
その問いかけには意味があると本誌は考えました。検察の国策捜査の恣意性と東証などの上場基準のいい加減さ、さらには日本のメディアの退廃など、日本の資本市場をめぐる根本的な欠陥を指摘しているからです。題して
特別寄稿獄中のホリエモン「オリンパス」に憤る
もちろん、ホリエモンが本誌に寄稿するのは初めて。このちょっと変わったタッグマッチをぜひお読みください(※特別寄稿までの経緯は、堀江氏のメールマガジンおよびブログに掲載される予定です)。
ブラックアウトを出て、いきなりADELE
訃報に接した。元国税庁長官の磯辺律男氏が亡くなった。12日の日曜に永眠されたと知らされた。私は社会部初年兵時代にロッキード事件に遭遇し、国税庁クラブの応援に駆り出された際、東京国税局長だった磯辺氏のお世話になった。
ほとんどネタは取れなかったが、右往左往している若い記者を鷹揚に受け入れてくれた。今日の私があるのは彼のおかげです。毎年、2月5日はロッキード記念日。「2・5会」と称して当時の国税記者と国税職員が集まって磯辺さんを囲む会を開いていたが、2月3日に開いた今年の会には入院中で出席できなかった。去年までは飲みっぷりもよくお元気だったが、主賓不在のその会から10日足らずでお亡くなりになったのは寂しい。
享年89歳。小生はまだ往生できずにあくせく事件を追いかけています。いつも奥様から会で配られるバレンタインのチョコに、お礼も言えず、人知れず涙がほほを伝いました。
さようなら。私にとってのロッキード事件は磯辺さんがすべてでした。
さて、歌手ホイットニー・ヒューストンがバスタブで溺死した悲しいニュースを聞いたばかりです。グラミー賞はその事件ですっかり影にかくれてしまいましたが、ヒューストンがグラミー賞を6回受賞したというなら、今年は南ロンドン出身のアデルが、最優秀歌曲賞をはじめ6部門で受賞したことのほうが、私にとってはニュースでした。
友人がユーチューブに投稿したことがきっかけでデビューしたアデルですが、南ロンドン出というのがいい。かつて留学費の乏しい夏目漱石の下宿もあったクラパムもそうだが、日本で言えば山谷か西成とでもいえばいいだろうか。インパキが多く住んでいるから大久保と言うべきか。
90年代は私もロンドン住まいしていた。当時、テムズ川の南岸100メートル以南はぶらぶら歩くな、と言われたくらい治安のよろしくない地域だった。ダニエル・デイ・ルイスが主演した「マイ・ビューティフル・ロンダレット」にも雰囲気がよく描かれている。原作のクレイシもインパキ系だった。
さらに、敬愛する悪役俳優、ゲイリー・オールドマンも南ロンドン出身じゃなかったかな。要するに「不良の町」なのである。
そこから出てきた歌手が、ガガのような「演出された不良」であるわけがない。写真で見ると、顎が割れていて、ふてぶてしい面構え。ビデオクリップでは、カメラマンが苦労したであろう太目の姉チャンだ。
ある人は一目見て、「ヤンキーそのもの」と評した。うれしくなる。南ロンドンの不良は、ダイエットなんてする余裕はないのだ。ジャンキーフーズをむしゃむしゃ頬張り、がっつり食って迫力満点。
しかし、声は素晴らしい。CDアルバム「21」(彼女の年齢)のRolling in the deepはほれぼれする。実はふと耳にして、誰だかよく知らずにいち早く買った。受賞に先んじて。
アデルに乾杯!そして密かに大往生を遂げた磯辺さんの冥福も祈ろう。
ブラックアウトに入ります
編集期間なので、しばらくブログはお休みします。
「ついに出たグロスマン『人生と運命』邦訳」のブログについて、大阪大学の方からご指摘がありました。最後の作品『すべては流れゆく』を未訳としましたが、『万物は流転する』というタイトルで1972年に邦訳されていたようです。中田甫訳、勁草書房の現代ロシア抵抗文集の第六巻。知りませんでした。ご指摘ありがとうございます。ただ、入手はちょっと骨。齋藤さんには新訳をお願いしたい。
タイトルがヘラクレイトスから来ていることは察せられるが、グロスマンはどういう意味で使ったのだろう。読んでいないからわからないが。
ついに出たグロスマン『人生と運命』邦訳
2007年12月6日のこのブログ「何を今さらカラマーゾフ」でこう書いた。
ロシア語は私の領分でないから言うが、日本のロシア文学者はそもそも怠惰ではないか。ずっと待っているが、いまだに翻訳されない大著がある。ワシーリー・グロスマンの「人生と運命」(Zhizn i Subda)。軍史家のアントニー・ビーバーが英訳した「赤軍記者グロースマン独ソ戦取材ノート1941-45」のほうが先に邦訳が出てしまったのは皮肉で、ロシア文学者にとっては恥ずべき事態でないのか。
これは、光文社文庫版の亀山郁夫訳『カラマーゾフの兄弟』に時ならぬブームが起きたとき、それを批判した文章だった。それから4年余、ついにみすず書房から齋藤紘一訳『人生と運命』1が出版された。
江湖の喝を癒す、と大仰に言う気はないが、拍手を送りたい。実はあのときHarvill版の英訳ペーパーバック871ページを読み始めていた。第2部まで入って、おおよそ半分まで達したが、人物が多くて錯綜し、しかも虚構の人物と実在の人物が交錯しているから、迷子になって頓挫した。
しかも英訳版は登場人物リストがあるだけで(邦訳もそれは踏襲している)、注もなければ地図もない。トルストイの『戦争と平和』だって、日本人は注と地図なしには読めない。20世紀の『戦争と平和』と言われる『人生と運命』も、スターリン時代のロシアの基礎知識がない人にはハードルが高い。
しかし、そのハードルを越えて、ともかくも邦訳を完成させた人がいたのだから感心した。ロシア文学を専攻した人ではない。驚いたことに東大理学部化学科を卒業し、通産省(現経産省)に入省したキャリア官僚のOBである。通産省では工業技術院総務部研究開発官、環境庁では環境庁長官官房審議官などを歴任したあと、日本規格協会理事、独立行政法人「製品評価技術基盤機構」理事長を経て、翻訳家に転じた。ロシア語は在学中に、あのロシア文学者、米川正夫氏の三男、哲夫氏に学んだという。
1943年生まれだから、68歳か69歳のはずだが、官僚およびその後の「渡り」人生にけりをつけて、第二の人生でこの大著に挑むとはあっぱれ、いや、羨ましいと言うほかない。
なにしろ邦訳は全3巻のうち、第一巻だけで495ページもある。翻訳を完了してから持ち込まれたので、2、3月に立て続けに第二巻、第三巻が出るそうだから、ようやく通読できそうだ。
先のブログでは、匂いだけでもと思って、英訳から冒頭部分の一部をむりやり翻訳した。
低い霧が漂っていた。道路沿いの高圧電線に反射する前照灯の光茫が見える。
雨は降っていなかったが、地面は露で濡れていた。信号がアスファルトにぼんやりと赤い光点を投じている。何マイルも先の収容所の息づかいを感じる。道路も線路も電線も、すべてがそこに収斂していく。ここは直線の世界だ。矩形と平行四辺形の格子が、秋空と霧と大地そのものを劃していた。
齋藤訳ではこうなっている。
地上には霧がかかっていた。幹線道路沿いにのびる高圧電線に、車のヘッドライトの光が反射していた。
雨は降っていないが、明け方の路面は霧でぬれていた。停止信号がともると、濡れたアスファルトの上に滲んだ赤っぽい染みができた。収容所の息づかいが何キロも手前から感じられた――電線、幹線道路、鉄道線路がますます密度を濃くしながら、そこへと続いていた。それは直線で埋めつくされた空間、大地と秋の空と霧を切り裂く、直角と平行四辺形の空間であった。
やはり重訳では隔靴掻痒なのだ、と思い知らされた。もちろん、まだ通読していないので、書評などできるはずもないが、やはりグロスマンのスターリングラードなどでの従軍記を含むビーバーの『赤軍記者グロースマン』くらいは事前に読んでおくのが礼儀だろう。
グロスマンの従軍記にかなり依拠しているビーバーの戦記の傑作『スターリングラード』も、『人生と運命』の時代と戦況を鳥瞰するためにはやはり必読だと思う。
さらに、私がアンチョコにしたのは、ユダヤ人のグロスマンとエーレンブルグが共同で収集し、編集したナチス占領下のロシア系ユダヤ人虐殺の記録の英訳、The Complete Black Book of Russian Jewryである。これまた大判で579ページもある大著で、旧ソ連では小説『人生と運命』とともに発禁とされた。
その凄絶な場面の連続には圧倒される。ユダヤ人はほとんど絶滅させられたのに、どうやってこの臨場感のある記録を集めたのだろうと思う。が、グロスマン自身、ウクライナにいた母親が虐殺されて、その瞼の母にこの『人生と運命』は捧げられている。彼の執念が黒書であり、小説なのだ。この悲劇の膨大な集積を見ると、グロスマンを駆り立てた熱塊、その悲嘆が少しは理解できる。
ヴィーチャ、私は前線とは反対のユダヤ人ゲットーの有刺鉄線の中にいます。
という文章で始まる第一部18の手紙は、殺される前に母が遠い地にいる息子に託した最後の手紙という設定だ。でも、これはグロスマンが亡き母に憑依して、自分にあてて書いた血を吐くような架空の遺書なのだろう。この章だけでも読むに値する。
通読したら、次はグロスマンの最後の作品『すべては流れゆく』(未訳)を読みたい。齋藤さん、よろしくお願いします。
日下成人氏と枡澤徹氏に
2011年12月号「決定版オリンパス『不正人脈』」の記事8ページ3段目の「同窓生である安城市の建設業者、日下成人氏」から「同窓生である」を削除し、図中の「旭丘高同窓」を削除します。
日下氏から、巨額損失隠しの中心である菊川剛会長の出身高校、愛知県立旭丘高校の「同窓」ではなく、「愛知県立安城東高校」出身であるとのご指摘をいただき、卒業証書のコピーまで頂戴したからです。その他の記述については、具体的な根拠の開示がなく、取材にも応じる意思がないことを明言していますので、そのままとします。
日下氏は記事掲載前に二度にわたる本誌の電話取材を拒否し、その後も取材されたことについては知らぬ存ぜぬで、再度の確認に「取材には応じないことにしている」との返答をいただきました。さらにいったんは本誌と面会を約束しておきながら、理由不明のまま直前にキャンセルするなど一貫しない対応でした。その点については何の言及もありません。
本誌は桝澤徹氏(旧ジェイブリッジ社長)らシンガポール・香港を拠点とするグループに支配される多摩川ホールディングスに、日下氏が社外取締役として関与した経緯を取材したいと考えております。このグループとオリンパスの損失穴埋め協力グループとの接点が解明途上にある以上、当然の取材行為と考えます。それを抜きにただオリンパスとは無関係だと主張するなら、株式公開企業の役員という公的な立場にある氏に対し堂々と取材に応じるよう求めます。
なお、シンガポールに建築賞受賞の「マスザワハウス」を建てた桝澤氏(最近売却したとの噂ですが)も、大同小異の抗議文を本誌に送ってきました。お二人が共同戦線を組んだのなら、本誌にとっては疑惑解明の絶好のチャンスと考えます。お二人ともぜひ表に出てくるよう、期待してやみません。
斉藤惇東証社長はロバの耳
1月31日の定例会見で、斉藤惇東証社長はオリンパスの上場維持と特別注意銘柄への指定についてこう述べていました。
「間違った判断だとか、意外だったとの声はあまり聞こえていない」
鼻白む、とはこれを言う。まわりに異を唱える人がいない環境で、聞こえてこないとは情けない。知人から、こんなメールが届いた。
東証と二人三脚で市場浄化を進めるセックの元調査官で「粉飾ハンター」の異名を持つ公認会計士の宇澤亜弓氏が最近、自らのフェイスブックで、甘い判断を下したとして東証を批判、さらに虚偽記載を行った企業に厳しい措置をとらないままでは「粉飾大国」になると強い危惧を吐露していました。
知り合いの宇澤氏ですが、すでにセックを退いたとはいえ、口数が少ない元調査官としては異例の発言でもあり、個人的にはおもしろいと思っていますし、やはり、これが世間の相場観だと思います。
さっそく宇澤氏のフェイスブックをのぞいてみた。うなずける。FACTAは「粉飾ハンター」の意見と同じである。
「朝日新聞の『某重大事件』」の背景1
朝日新聞および朝日新聞出版の代理人、秋山幹男弁護士から1月27日付の「通知書」をいただいた。本誌が最新号に掲載した「朝日新聞の『某重大事件』」に対する抗議と訂正要求である。それをこのブログに掲載する予定だが、いきなりでは読者でない方々には分からないと思うので、正月明けに本誌が両社広報に送った質問状から順次載せていこう。
朝日新聞社
朝日新聞出版
広報担当者御中
AERA記者退職についての質問状
ファクタ出版株式会社
月刊FACTA発行人阿部重夫
拝啓
初春の候、ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。弊誌は調査報道を中心とした月刊誌で、オリンパス報道でもご承知かと存じます。昨年来、大相撲の野球賭博でも名前のあがりました日大相撲部出身者の取材を進めているなかで、この疑惑に関連して御社の週刊誌AERA記者が民族団体の取材中にトラブルが生じ、昨年3月に退社したとの情報を得ました。12月27日には著名ブロガーがこの件について「週刊AERA記者が美人局にひっかかったらしく、朝日新聞と標榜右翼が師走を暴走」とのブログをネット上で公開したことはすでにご存じと思います。当局ではすでに周知の事実のようですが、弊誌は御社に事実関係を確認したく、お忙しいところ恐縮ですがお尋ねする次第でございます。
そのあらましは以下の通りです。
1) 弊誌が当局などから取材したところによりますと、S記者は取材経験が浅く、D代表代行などとの接触によりトラブルに巻き込まれたとのことですが、そもそもはなぜ、誰が、何の目的で取材を命じたのでしょうか。
2) 朝日新聞および朝日新聞出版がこのトラブルを知るところとなったのは、相手側から朝日新聞出版に届いた抗議の文書だったとのことですが、その内容はどのようなものでしたか。
3) 朝日新聞および朝日新聞出版では、その時点でD会が警察当局から「反社会的勢力」との認定を受けていると認識し、恐喝の可能性があると考えましたか。そのうえでどのようなトラブル解決法を実施したのでしょうか。
4) 弊誌の取材ではD会の代表代行がこのトラブルに至る過程で深く関与しており、単なる男女間の個人的なもつれではなく、意図されたものと疑える事実があったにもかかわらず、警察への被害届を出さず、記者個人の謝罪文と謝罪金の支払いで済ませることはコンプライアンス上問題があると考えませんでしたか。
5) 弊誌の取材でも、上記のブログでも、池口恵観師インタビューなど民族団体関連の記事を度々書いているAERA元副編集長がこの件に関与したとされています。1987年の阪神支局襲撃事件(赤報隊事件)、93年の野村秋介事件以来、民族団体に対し朝日はいかなる情報収集と対応策をとってきたのでしょうか。
6) 秋山耿太郎社長ら朝日新聞本社幹部はどのように対処したのでしょうか。トラブルが明るみに出た時期は、読売新聞の内山斉社長退陣が確実とされた時期でもあり、秋山社長の日本新聞協会会長就任の妨げになるとの危惧が社長室にはありましたか。
7) 2015年まで2期4年の協会長を務める予定の秋山社長は今年、代表取締役会長に就任する意思を内々漏らし、昨年失敗した社主、村山美知子氏の養子が決まるまで辞めるわけにいかないとのお考えとのことですが、事実でしょうか。
以上でございます。大変恐縮ですが、弊誌の締切もありますので、来週1月12日(木)までにご回答をいただければ幸いでございます。できれば、朝日新聞取締役(出版担当兼社長室長)粕谷卓志氏、朝日新聞出版社長の宇留間和基氏、同コンプライアンス担当の高橋和志氏、AERA編集長(1月10日から前編集長)の尾木和晴氏、同記者の藤生明氏と大鹿晴明氏に取材させていただければ幸いです。もしスケジュール調整がつかないようであれば、メールまたはFAX、あるいは郵送などによる文書回答でも構いません。
よろしくご一考のほどお願い申し上げます。 敬具
1月6日
これに対する朝日側の回答は1月10日に届いたが、なかなか強硬なものだった。まず朝日本体から。
ファクタ出版株式会社
月刊FACTA発行人阿部重夫殿
朝日新聞社広報部
部長中邨清一
冠省
貴殿から朝日新聞社広報担当者宛ての2012年1月6日付「AERA記者退職についての質問状」を受領しました。以下の通り回答します。
株式会社朝日新聞出版発行の週刊誌「AERA」記者の退社に関してご質問をいただきました。同記者は、当社とは別会社の朝日新聞出版が採用した社員であり、その退社については朝日新聞出版が対応しました。朝日新聞出版に関する他の質問事項についても、同社から貴殿に回答sると承知しています。
なお、ご質問の「6)」の中に、同記者の退社と日本人分教会人事を関連付けたお尋ねがありますが、当社の秋山耿太郎社長ら幹部が同記者の退社について何らかの「対処」をした事実はありません。
同記者が退社したのは3月である一方、日本新聞協会の内山斉・前会長が協会長退任の意向を表明したのは4月下旬です。従って、同記者の退社をめぐって当社の車緒汁が「秋山社長の日本新聞協会会長就任の佐俣紅なるとの危惧」を抱くはずがありません。
また、ご質問の「7)」で指摘されたような事実は一切ありません。
以上の通り、貴殿は著しく誤った憶測に基づいて質問されており、ご指名の当社関係者が貴殿の取材をお受けする必要はないと考えます。
当職が本書面で貴殿の質問の誤りを明確に指摘したにもかかわらず、貴誌が当社およびその関係者の名誉、プライバシーを侵害する記事を掲載した場合は、断固たる措置を講じます。決して事実に反する記事を掲載しないよう強く求めます。草々
ひとこと添えよう。読売新聞の内山社長が渡邉恒雄・読売新聞本社グループ会長兼主筆の逆鱗に触れて協会長を退くのではないかとの観測は、前年の秋から流れていた。本誌も10年9月号で報じている。ライバル紙の動向に注視を怠らない朝日社長室がそれを知らないはずがない。
だいたい、秋山社長自身、電通の故成田豊最高顧問とともに、ナベツネ、内山と席を囲み、ふたりの間のただならぬ緊張を目にしていたはずである。それを知らぬは広報部長ばかりなりだ。こんな自信たっぷりに「危惧を抱くはずがありません」などと断言すると、朝日の情報力を疑われますよ。
ともあれ、この返答により誰にも取材させてくれないことが分かった。同日、回答はもう一通届いた。朝日新聞出版からである。それは次回に。
岩下尚史『ヒタメン』――半玄人の告白
いまどき、江戸・明治風の擬古文など綴る人はめったにいない。ゆくりなく、とか、疝気筋、とか、後生楽、とかをつかう作者(岩下尚史)は、わざとらしいと言われるのは承知の上なのだろう。その文章修業、さしずめ泉鏡花あたりに属魂だった時期があるにちがいないと見た。
風姿花伝に言うとおりである。「よきほどの人も、ひためんの申楽は、年寄りては見られぬもの也」。なるほど、岩下氏も例外にあらず。長く住む三軒茶屋の人に聞けば、昔は白皙の美青年だったけれど、ちかごろはちょっとお肥りになって、だそうな。
が、文章は脂がのっている。芸者論とその続編の名妓の資格は、いまは亡きワンダーランドの楽しみを満喫させてくれた。そのあとの駄作の小説紛いはひょいと跨ぐとして、「三島由紀夫若き日の恋」の副題のついた今度の『ヒタメン』は、これまためったにお目にかかれない、というより羨ましいインタビュー本である。
座談の名人というのがいる。噺家ではない。昔なら漫画家の近藤日出造、大宅壮一あたり。今はさあ、どこぞに、という塩梅だが、インタビュイーを喋る気にさせる、そそのかしの才は、文章の才と同じく天賦のものと言うほかない。
岩下氏も自覚しているように、天は二物を与えず、とやら。彼の文章の才は技巧が先走って嫌味が鼻につくが、三島結婚前の幻の「X嬢」の口を開かせたそそのかし、これは尋常ではない。というより、その秘密(三島の秘密ではない)を覗きたい一心で読みとおした。
ジャーナリストがいかに嫌われ者かは、ガマ面の都副知事が、歯牙にもかけられなかったことでよくわかる。金田中や若林、伊勢半やゑり萬など固有名詞の注は、むろん素人にはありがたいが、花柳界や梨園にちょっと詳しいくらいで、どうしてオトせたのか。これはジャーナリストのプロも虚心坦懐、腰を低くして学びたい。
ヒントは49ページにある。いや、速読したいなら、そこから読むべきである。三島の『沈める瀧』の冷感症の主人公、顕子を評した、平林たい子の寸鉄人を殺す評がある。
だけども、あの女の部分は、第一、どんな女か、女が読めば判りませんよ。水商売の女か、つまりクロウトかシロウトか、全然判りませんよ。
赤坂の料亭若林の娘で、ふだんから芸者衆と親しく、歌舞伎役者の楽屋にも出入りして、想像を絶する着道楽の世界で何不自由なく育った“半玄人”の恋人をモデルとしたから、無理もないこと、というのが岩下氏の見立てである。本人の文章を引こう。
『仮面の告白』以来、“女嫌い”を看板の小説家が、自己変革を遂げるために、“運命愛”の相手として見出した貞子さんが、“おんな”のなかでも希少なる“半玄人”であったことは、三島由紀夫にとって、まさに“千載一遇”の女人であったにちがいない。
ここで巻を置いてもいい。あとは「目の下一尺の鯛」を釣るかわりに土左衛門を拾う、落語の「骨つり」のようなものだ。三島の片思いの残骸をがさごそ漁るだけである。
しかし、幼稚園から白百合育ち、慶応女子高を出て、あとは花嫁修業のこの十九歳の娘。待合の世界で育っただけに、落魄の貧乏官吏の息子で、筆一本で一家を支えていた作家を手玉にとるくらい、朝飯前のしたたかな女だったと思える(金田中あたりで知ったかぶりすると、どんなに恥をかくか、しっかり徳子ママに教えてもらおう)。
白百合?慶応?と聞いて、娘時代にさんざん遊んでも、いつのまにかお金持ちの令夫人に収まる怜悧な女たちを思い浮かべた人がいた。3年間、付き合っても結婚する気などさらさらなく、ふっと理由も分からず会わなくなる。
それにね、これは申し上げにくいんですが、当時のわたくしの胸の内を思い返しますと、公威(三島)さんがあれほど打ち込んで、わたくしを大切に想って呉れていたほど、こちらのほうでも恋していたかと申しますとね、正直、それが一寸あやしいんです。(中略)ちょうど小学生が朝になれば顔を洗って、鞄を提げて学校に通うのと同じよう……
三島はフラれたのである。やがて画家杉山寧の娘と見合い結婚し、その不毛に直面した三島が、別の男と婚約していた貞子と、日比谷のアメリカン・ファーマシーで出逢う場面は残酷すぎる。けれども、それを語っているのが、背を向けて立ち去った貞子なのだ。
岩下とのインタビューで、一度も三島を悪く言わなかったという。が、こうして秘密を明かすことは、夫も死んだから何ともないのだ。人生も終り近くなって明かしたくなったのだろう。『天人五衰』の終章を思い出す。膵臓癌を患った本多は、月修寺で八十三歳の門跡、聡子に対面する。彼女は男を覚えていない。「それも心々ですやさかい」と言われて、本多は茫然と夏の庭をみつめる。
この庭には何もない。記憶もなければ何もないところへ、自分は来てしまったと本多は思った。
忘却のほうがまだましだった。聡明なる岩下氏は、なぜ打ち明け話の相手役に指名されたか、いまは透けて見えるはずだ。己れをただの着飾った性悪女と見せない、もうひとりの心酔者が必要だった。しかも、男でもなく、女でもなく、無害な「両棲類」を。
大雪の緋チリメン
私は生前の三遊亭圓生にただ一度、インタビューさせていただきました。それがなんと、私が新聞記者になって初めての取材でした。
中野坂上に近いマンションを訪ね、ドアを開けたら奥様がソファに寝ていらした。落語家は長屋に住んでいるものと思っていたので、思わずうふっと思いました。
でも、それから先は厳しいの一語。何を聞いても(トンチンカンな質問で、師匠、ごめんなさい)、フン、てな顔でした。以来、私は記者の才能がない、とコンプレックスになりました。
でも、師匠の「松葉屋瀬川」を聞いて、思わず涙したのです。あの若旦那が、朝から雨が降って、やきもきして、ついに雪になり、そして八つ(午前2時)に廓から籠が着き、武家仕立ての客がさっと衣を脱ぐと緋縮緬(ちりめん)。待ちかねた花魁。善治郎が階段から転げ落ちて「あ、痛い」「会いたかった」の洒落は最高でした。
きょうも大雪。思わず「雪や、こんこん」と歌ってしまいますが、FACTAも緋縮緬を見せたいと思います。
Express FACTA
まだ試作品ですが、第一号は「政々堂々」の長谷川幸洋さんにお願いしました。本日、定期購読者限定でメールマガジンを配信いたします。ぜひ、お読みください。
東証の出来レース
ブラックアウト期間が終わってすぐ、東証自主規制法人がオリンパスの上場維持と上場契約違約金を発表した。予想通りで何の意外性もないが、結論先にありきだったことの釈明が何もないのでひとこと言いたくなった。
12月の産経を筆頭に大手新聞紙上で何度も事前に報じられ、そのたびに「一部報道は東証の発表したものではない」とのエクスキューズのリリースを1月10日、13日、18日、19日、20日に5度も出している。そして、事前報道とぴったり同じ発表をしたのだから、滑稽だと思わないのだろうか。
誰かがリークしたと考えるのが筋だろう。東証の上場部も広報も、単に責任逃れでこんな白々しいリリースを出しただけなのだ。自主規制法人の5人の理事による議論が始まる前からの情報漏れは、おひざ元の東証事務方からである可能性がもっとも大きい。理事の顔触れはこうだった。
東証自主規制法人理事長林正和(元財務次官)
同常任理事武田太老(元東証)
同常任理事美濃口真琴(元東証)
理事(外部、非常勤)藤沼亜起(元日本公認会計士協会会長)
理事(外部、非常勤)久保利英明(元日本弁護士連合会副会長)
最初からプロパー出身が二人もいる。東証の退場審査がユルユルで、幾多のハコ企業を黙認してきたが、その問題の上場審査部門の当事者だったのだから、そもそも資格がないと言っていい。
本誌は鳴り物入りで東証に上場した中国株、チャイナボーチー、新華ファイナンス、アジア・メディアがいずれもインチキ企業であることを誌面で追及してきたが、08年に上場廃止となったアジア・メディアを除き、残る2社についてはいまだに音沙汰なしで泳がせている。東証や幹事証券、監査法人への責任追及を恐れて及び腰だった彼らが、オリンパスに厳罰を食わせたら天に唾するようなものだろう。
理事長の林氏にいたっては、株式会社後の財務省(大蔵省)天下りポスト確保が最大の使命であり、もとから何もしない腰掛けだった。中国株の処分についても、本誌は本人に直に質したことがあるが、「うちがやることには限界があって」と言い逃れに終始していらした。
林さん、胸が痛まないのか。自主規制法人の名がおこがましい。これは歴史に残る「お手盛り」決定であり、本誌は「日本の資本市場を三流にした張本人」としてあなたを断罪する。
政府と事務方が上場維持の結論を導こうとすれば、最初から天下り票1、民僚票2の「基礎票」が3票は確保されていて、民間票は2票しかないから、いとも容易なことはよくわかるだろう。もとから、そういうからくりなのだ。そこに判断を委ねた段階で、もう勝負あったと言える。
しかも知り合いだから書きにくいが、民間票のうち藤沼氏は新日本監査法人出身。新日本はオリンパスの監査法人であり、調査委員会を設けて責任逃れに必死の当事者だから、議論しにくい立場にある。これが取締役会なら、当事者ゆえに資格なしとして外されてもおかしくない。
構造的に「結論先にありき」を許す構成なのは、霞が関の審議会の常套手段であり、社長のイエスマンだけで異論が出ないようにしてきたオリンパスの取締役会や監査役会などと、まったく同じなのだ。オリンパスのガバナンスを云々する資格が、東証の自主規制法人にはない。
だから、リークが起き、コップの嵐のような新聞の報道合戦が起きる。飼い犬根性の記者たちが、出来レースのなかで踊ってみせる光景には、吐き気を催す。
記者諸君、恥ずかしくないのか。後ろをふりむいたエミールは、探偵たちが誰もついてこないと知って、いたく落胆しています。
上場維持と同時に発売した本誌は、オリンパスの法律顧問だった大手法律事務所、森・濱田松本法律事務所の責任を追及する記事を掲載しました。取締役も監査役も社内委員会が責任を追及し、監査法人に関してもあずさ、新日本のそれぞれが責任の有無を議論されているのに、法律事務所がカヤの外でいるのは不思議だからです。
そこで森・濱田に送った質問状を公開します(ただし第8問については、本誌の勘違いがあり、弁護士の固有名詞が出てくるので、ここでは省略いたします)
森・濱田松本法律事務所
広報担当御中
オリンパス問題についての質問
ファクタ出版株式会社
月刊FACTA発行人阿部重夫
拝啓
時下、ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。さて、ご承知のようにオリンパスの不正経理問題については、弊誌の報道がきっかけになり、1月10日には取締役責任調査委員会の報告、および同社による現旧取締役に対する損害賠償請求訴訟の提起が発表されました。そこでオリンパスの法律顧問だった森・濱田松本法律事務所にも、この件についてのご見解を求めたいと存じ、お忙しいところ恐縮ですが、以下の8点についてお尋ねしたいと考えております。お忙しいところ恐縮ですが、よろしくお願い申し上げます。
1)事件発覚後、貴事務所はオリンパスの法律顧問を辞したとのことですが、この事実確認と、なぜ顧問を辞したかをお聞かせください。またオリンパスにアドバイスしていた宮内隆弁護士と高谷知佐子弁護士の責任をどうお考えですか
2)昨年12月16日にオリンパスの第三者委員会が発表した報告書では、10項目にわたって事件が発生した原因を分析していますが、法律顧問としての責任を貴事務所はどう考えていらっしゃいますか
3)一連の損失先送り目的のM&Aが審議された取締役会では、法律顧問として何をアドバイスしていたのでしょうか。なぜ、国内3社のM&Aについてオリンパスに開示させなかったのでしょうか
4) 英国ジャイラスのM&Aにあたって売買契約書を作成したのは米弁護士事務所ワイル・ゴッチャルですが、オリンパスに紹介したのは貴事務所でしょうか
5)第三者委員会に協力した須藤・高井法律事務所、デロイトトーマツFASなどの法律事務所やコンサルティング会社は、日ごろから貴事務所とM&Aの資産査定や案件紹介などで協力する親密先ではないのでしょうか
6)08年から10年にかけてジャイラスに関連する取締役会は毎回10-30分程度で終了しています。08年2月8日に開いた取締役会でも、問題の国内3社の子会社化が審議されていますが、審議時間は75分にすぎません。米国など海外の企業では、「取締役として十分に情報を収集しなかった」と善管注意義務違反で取締役責任が問われるケースにあたりますが、法律顧問の貴事務所が指導した形跡がないのはなぜでしょうか
7)ウッドフォード元社長は昨年10月11日に「当社のMA活動に関する深刻なガバナンスの問題」と題したプライスウォーターハウス・クーパース(PWC)による不正調査書を菊川前会長ら首脳陣に加え、貴事務所の宮谷弁護士にも送っています。宮谷弁護士はこれを受けてどのような行動をとったのでしょうか
8)=略
質問はあらまし以上です。弊誌の締切もございますので、大変心苦しいのですが、できれば14日までに、遅くとも16日までにご回答いただければ幸いです。ファクス、メール、郵送、は直接インタビューでも構いません。ご一考のほどお願い申し上げます。敬具
1月11日
これに対する森・濱田サイドからの回答書は1月14日に書面でいただいた。以下の通り(ただし、第8問の回答については同じく省きます)
ファクタ出版株式会社
月刊FACTA発行人阿部重夫殿
森・濱田松本法律事務所
拝復
時下ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。
貴殿からの2012年1月11日付「オリンパス問題についての質問」(以下、単に「質問書」といいます。)に対し、以下の通りご回答いたします。
まず、弁護士は法律上守秘義務を負っておりますので、オリンパス株式会社と弊事務所との関係等に関する具体的なご質問についてお答えすることができない点につきまして、ご理解をお願いしたします。
ただし、ご質問を拝見しますと、弁護士業務について誤った事実認識がおありのように思われますので、その点につき指摘させていただきます。
弁護士は、いわゆる顧問弁護士であっても、依頼者からの具体的な委任を受けてはじめてその業務を遂行する立場にあります。この点、取締役、監査役、会計監査人のような会社法に基づく権限・責任を有する会社の機関とは全く異なります。したがいまして、依頼者が具体的に依頼しない限り、顧問弁護士が取締役会に出席したり、取締役会の議案や議事運営について業務を行うこともなければ、M&A案件や契約等へのアドバイスを行うこともありません(これらについて情報を得る立場にもありません。)
この点、貴殿は、質問書記載のご質問に置いて、いわゆる顧問弁護士であれば、当然に依頼者の事業活動全般について把握し、取締役会の議案・運営や依頼者の行うM&A案件、各種契約等について、網羅的かつ継続的にアドバイスを行っていたはずだとの前提に立っておられるようですが、上記のとおり、これは弁護士業務についてのの誤った事実認識であります。したがいまして、かかる誤ったご認識のもと、貴誌が、あたかもオリンパス株式会社の不正経理問題について、弊事務所に責任の一端が認められるかのような報道記事を仮に掲載したとすれば、結果として事実に反する誤った報道がなされ、貴誌の信頼性を著しく損なうとともに、弊事務所の信用を不当に毀損する事態を招来しかねないことを、厳に指摘させていただきます。
冒頭にお書きした守秘義務の制約のため、遺憾ながら、ご質問に対してはこれ以上の具体的な回答ができませんが、オリンパス株式会社の不正経理問題について弊事務所ないしその所属弁護士の責任を云々される事実関係は一切ないものとの認識でおります。
以下略
本書面が、貴誌による今後の正確な報道の一助となれば幸甚です。
敬具
この回答に対し、それでも責任があったと本誌が考える根拠は今号の記事をお読みください。第7問のCCリストを写真で掲載し、それが解任前の代表取締役社長兼CEOからの「具体的な依頼」があったことを明示していると考えます。それを宮谷弁護士がなぜ無視したかを答える義務は、オリンパスへの守秘義務とは別問題ではないでしょうか。
閑話休題 ビクトリア・フォールズ
ブラックアウト期間中ですが、オリンパスの取締役責任調査委員会報告が出たので少しコメントします。
報告の111pにウッドフォード氏の指摘に対する取締役の反応が出てきます。弊誌を「信用性に乏しいタブロイド誌で、面白おかしく書いたいわゆるガセネタではないか」と評したそうです。さて、誰でしょうか。
閑話休題バンジージャンプのロープが切れて奇蹟的に生還したオーストラリア人女性のニュースについてひとこと。
かれこれ15年前になりますか、実は独りで出張取材中に小生もあの橋の上からジャンプしました。もともと高所恐怖症で、とてもあんなところは御免でしたが、青年協力隊の誰かにどうせ行くなら肝試しと言われて、無謀にも試みた次第です。いや、怖かった…。
テレビで見るようなジャンプ台はなく、当時は鉄板一枚の上を進んで、えいやっと飛び出すだけ。足がすくんで前に進まず、やめようと思ったら、カウントダウンで背中を突き飛ばされました。
心臓がとまるかと思い、一瞬、記憶喪失。ザンベジ川の彼方の空しか覚えていません。高さ110メートル、ジャンプ前に心臓発作や事故があっても賠償を求めない誓約書を書かされ、当時は1ジャンプ100ドルでした。
共同の記事ではワニの生息する川とありますが、そりゃもっと下流はそうかもしれないけど、橋の真下にワニが口をあけているわけではありません。これを書いた記者は、行ったことないのかもしれませんね。その数百メートル下流では、ラフティングをやっていて、小生もライフジャケットをつけて挑戦したぐらいですから。激流をパドルでかいてみごとに転覆。ボートの6人が投げ出される憂き目にあいました。
ま、アフリカで何をやってたのかしらん。ジンバブエはいまよりはまだ治安もよく、ボートで乗り合わせた白人夫婦に「どちらから?」と聞いたら、オーストラリアと言ってたので、南半球同士で来やすいのでしょう。
とにかく、あの高さから水面に落下して助かったなんて、信じられません。画面でみるたび、あのときの恐怖がよみがえってブルル。
映画『ミッション・インパッシブルゴースト・プロトコル』で、イーサン・ハントがブルジュドバイの高層階からガラス窓を外して、身を乗り出すシーンがありますが、ああいういたたまれなさ。胸が締め付けられ、血圧が上がります。
生還した女性、美人でしたが気が強そう。小生なら寝込んでしまうところです。ああ、altophobia!
株価でみると、オリンパスも上場維持で生還ですかね。
ウッドフォード元社長にひとこと
正月明けですが、例によって編集期間に入るので、しばらくブラックアウトに入ります。
このブログで年末に触れた菊川剛前会長兼社長に対するオリンパスの「隠れ家提供」は、読売新聞と朝日新聞が7日付で追いかけたようです。会社側は「第三者委員会の事情聴取に応じるため用意した」と提供を認めて弁明していると書いてありますが、川崎の自宅マンションからの往復にどんな支障があったのでしょうか。
さらに第三者委員会の聴取と、菊川氏が隠れ家に持ち込んだペット(どうやら猫らしい)代支払いにどんな因果関係があるのか、記者が突っ込んでくれていないのが寂しい。後追い記事を載せるなら、それくらい付加価値を付けないと。
ウッドフォード元社長がプロキシ―ファイト(委任状争奪戦)からの撤退を表明したこと、東京証券取引所の自主規制法人も上場維持を決める模様であること、高山修一社長ら経営陣10人に賠償請求すべきとの報告書がまとめられたことなどが報じられています。
これらはすでに12月から予想されていたことで、格別コメントするまでもないでしょう。幕引きを急ぐ政府、そして主取引銀行の意向が反映されるであろうことは、弊誌前号の「オリンパス『外資排除』工作」ですでに報道しました。今後の弊誌報道はこれら黒幕たちへ焦点を移すことになります。
オリンパス内外で醸成された「反ウッドフォード」の壁の前で、撤退を決めたウッドフォード元社長にひとこと。貴殿が取締役社長としてウィッスルブロワー(内部通報者)の役割を果たしたことは立派でした。「善管注意義務」という当たり前のことをしたにすぎないとはいえ、日本企業の大半でなおざりにされてきたことを浮き彫りにしました。
それはオリンパスがいかに誹謗中傷しようとも、誰にも否定できない貴殿の功績です。洗脳されたオリンパスの役員や中間管理職がどうあがこうとも、貴殿の主張が正しかったことは社外の心ある人々、世界のビジネスの常識を知る人々はみな知っています。
プロキシ―ファイトに勝ち目がないとみて、ここで手を引くのは賢明だと思います。FACTAが創刊以来戦っているこの日本の「見えざる障壁」は、失われた20年の元凶だけにそうやすやすと壊れません。この無念はいずれ当方で晴らします。
お別れに中島みゆきの「あばよ」でも。
なにもあの人だけが世界中でいちばん
やさしい人だと限るわけじゃあるまいし
たとえばとなりの町ならばとなりなりに
やさしい男はいくらでもいるもんさ
そう、腐ったオリンパスは君に似合わない。
オリンパスの鑑、百武鉄雄秘書室長を褒め讃える
ことし1年、オリンパスとは水面下でさんざん攻防戦をしましたが、最後にサラリーマンの鑑というべき忠犬に讃歌を捧げたい。百武鉄雄氏、オリンパスのグループ経営統括室経営企画本部秘書室長のことです。
本誌は11月25日付で彼が署名し、オリンパスの社印まで捺してある文書を入手しました。そこに元社長兼会長の菊川剛氏への涙ぐましいまでの忠勤ぶりが現れています。まさに菊川氏を「最高領導者として高く仰ぎ奉じる」日本のポチの模範です。
百武氏署名のこの文書、「定期建物賃貸契約書」とあって、今は東京地検特捜部の聴取を受ける身の菊川氏の隠れ家を会社が提供しているとの内容です。
賃借人オリンパス株式会社
入居者菊川剛
物件名オークウッドアパートメンツ白金
物件住所〒108-0072東京都港区白金2-7-6
部屋番号1401号室2ベッドルーム65平方メートル
入居日11年11月28日
退去日11年12月28日
月額賃料500,000円
となっています。この文書が本物であるならば、過去20年間、隠しに隠して膨らんだ損失穴埋めのために株主資本を毀損して1340億円をねん出した張本人、しかも株価も会社の評判も地に落とした経営トップが、夜討ち朝駆けの取材攻勢から逃げ隠れするために、オリンパスがその隠れ家の家賃を負担して事実上、匿っているということではありませんか。
社印があるということは、高山修一社長のご裁可もおりているのでしょう。記者会見で前経営陣の責任を問う、などと殊勝に頭を下げていたのが、すべて嘘っぱちであることがよくわかります。
オークウッドアパートメンツ白金といえば、目黒通りに面していて、シェラトン都ホテルの斜め前、都内でも閑静な高級住宅街です。御年71歳の菊川氏が、小菅拘置所に放りこまれるまで、せめてお寛ぎくださいと用意したのでしょうか。
しかも、オリンパスは菊川氏のためにインターネットとペット代を支払っています。ネットは賃料に含まれていますし、これからの長い長い裁判闘争には必需品ですから、やむをえないということでしょうか。しかしペット代とは驚きです。ペット保証金に20万円、ペット清掃代に8万円も払っているのです。菊川氏は、悶々の日々を慰める犬か猫を抱いて、この隠れ家にお住まいということなのでしょうか。
ご家族については、協議離婚で生前相続、なんて噂も社内では流れていますが、真偽は別として、孤独な元社長兼会長を慮って百武秘書室長のかゆいところに手の届くような心くばりは素晴らしい。
この文書、再契約のハンコが捺されていますから、11月28日以前にもオークウッド系列の賃貸マンションを借りていたのでしょうか。もしかすると、12月28日の退去日以降もまた再契約しているかもしれません。それとも年末はこっそり自宅に舞い戻っているのでしょうか。
しかし、今期の決算でこの隠れ家代とペット代、あわせて月78万円をオリンパスはいったいどの項目に計上するのでしょうか。またまた「のれん代」?「会議代」「福利厚生」「交際費」……新日本監査法人や東京国税局が認めてくれるとは思えませんが。
これがオリンパスの本質でしょう。なんの反省もしていないことは明らかです。傷心の菊川氏を癒すのがペットだとしたら、秘書室長をペットにして飼えばいいでしょう。
百武氏、秘書室長に抜擢される前は、人事部人事グループリーダーとしてご活躍でした。とりわけ彼を有名にしたのは、東京高裁でオリンパスが敗訴した例の内部通報者左遷事件です。
オリンパスの顧問だった森・濱田松本法律事務所の女性弁護士と百武氏は、なんでもこの内部通報者を産業医に診断させようと強要したなどとネットでも批判されています。でも、裏側からみれば、会社のため、というより上司のために粉骨細心、ひたすら尻尾を振って出世を遂げるオリンパス社員のお手本ではないでしょうか。
彼だけではありません。ポチ諸君は、この百武氏に見習おう。ピョンヤンの泣き女、泣き男のように、ウソ涙を流して大仰に菊川「将軍様」の凋落を嘆き、最後の最後まで忠誠を。
来年もよいお年を。
オリンパス家宅捜索の感想
まあ、予想どおりの展開といったところでしょうか。しかし結論が先にありき、でないことを検察、証券監視委、そして警視庁には祈ります。
横尾宣政氏について一言。野村企業情報にいた時代から、「おれがおれが」で上司の言うこともまるで聞かず、確か1年で元に戻された過去もあるようです。その時代の話をもしかしたら聞けるかと思い、風月堂前6Fに行こうとしたのですが、タッチの差で逃げられてしまいました。ロマネコンティのコレクションは国税に押収されることになるのでしょうかね。