福島「大キリン」美談、有証の針小棒大
           中国の三一重工が提供したコンクリートポンプ車からの水注入で、福島原発4号機の爆発は防がれた(東京電力提供)

Abalance集中連載 6

福島「大キリン」美談、有証の針小棒大

忘れもしない。3・11東日本大震災で、水素爆発の危機を救った中国・三一重工のポンプ車「大キリン」。だが、その美談の裏で「私が提案し奔走した」と手柄話を吹聴したのが、Abalanceの実質オーナー、龍潤生取締役だ。日中友好の架け橋とテレビにも登場したが、大活躍なんてとんでもない「白髪三千丈」。三一重工も迷惑顔だが、そこにこの裏口上場企業の素顔が見える。=一部有料

Abalanceについての一連の記事には、公認会計士や弁護士らによって証券取引等監視委員会に提出されたものなど、いくつもの報告書が登場してきた。Abalanceの経営実態や経営の在り方に対して、それだけステークホルダーの間に疑念が渦巻き続けていることの証左なのだが、今回また新たに2つの報告書を引っ張り出してこなければならない。

ちょうど1年ほど前、つまり2023年12月から2024年1月にかけて、Abalanceへの融資を継続すべきかどうかを巡って、ある金融機関が調査会社に報告書の作成を依頼した。依頼内容はその経営実態や風評といった信用力全般だ。

ここで「依頼した」と断定的な書き方をするのは、調査会社が実施したヒアリングの対象に、筆者自身も含まれていたからだ。調査会社からは依頼主の金融機関がどこであるのかが明かされることはなかったが、国内の金融機関と見て間違いないだろう。

その最終的な調査結果がどういう内容だったかは知るよしもないが、金融機関の融資状況をみれば推測は容易だろう。

逃げ出す金融機関

それから9カ月ほど経って株主に発送された株主総会招集通知に掲載されている金融機関別の融資残高を見ると、主要取引銀行からの融資残高は2024年6月30日現在で350億円に萎み、前期比では58億円も減った。金融機関からの長短借入金は同70億円減の513億円である。その一方、支払利息は6億円近く増えて20億5000万円となっていることから推して、金利が引き上げられている。借り入れが減っているのに金利が引き上げられているのだから、Abalanceに対する金融機関の目がどういうものか、容易に推測できる。

連載第3回の「Abalance、宮城では信金に『目くらまし』」で登場した大阪厚生信用金庫も逃げた。太陽光発電所の施工業者に対してAbalanceが工事代金の未払いを続けた結果、施工業者が工事を続けられなくなって、工事現場から建設機械を引き揚げた。しかしAbalanceは大阪厚生信金から融資を引き出すために、この施工業者に現場を再開するフリをさせた――という話だった。大阪厚生信金は2023年6月末には38億円の融資残があったが、これが2024年6月末にはゼロになったのだ。

上記の融資残高を見る限り、国内金融機関は軒並みAbalanceへの融資額を減らしており、新規に融資に応じた国内金融機関は見当たらない(表に登場する徳島大正銀行との取引は2022年以前から続いていると見られ、新規の融資ではない)。新規融資に応じているのはベトナムの銀行ばかりと言ってよく、融資を受けているのはベトナムで太陽光発電パネルを生産している子会社のVietnam Sunergy Joint Stock Company(VSUN)が中心とみられる。VSUNが無傷で残っている限り、ハコに過ぎないAbalanceがどうなろうと、致命傷にはならないのかもしれないが、頼みの綱であるはずのベトナム各行からの融資さえ細ってきていることが表から読み取れる。

余資貸し借りも取りやめ

バランスシート上、2024年6月期末時点での短期借入金は288億円であるのに対し、長期借入金はその半分にも満たない127億円。海外の製造拠点を拡充しようとしているのだから、財務の常道としてその資金は借り換えの忙しい短期借入金ではなく、資本や長期借入金といった足の長い資金で手当てすべきはずなのに、銀行が半身の構えになっているせいでそれが難しくなっているのだろう。

傘下に収めた明治機械との余剰資金の貸し借りも取りやめが発表され、こうした状況を見た公認会計士から「Abalanceの資金繰りはかなりタイトになっているのではないか」との声が漏れるのも無理はない。

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