「産廃」の関心領域シリーズ 6
「立ち往生」豊橋新市長ダンマリの罪
連立与党の自公が衆議院で過半数を割った余韻もさめぬうちに、11月10日の豊橋市長選挙でまた予想外の結果が出た。現職の浅井由崇氏が次点で敗れ、豊橋アリーナ計画中止を旗印とした41歳の前市議、長坂尚登氏が第36代市長に当選した。自民推薦の近藤喜典氏は第3位となり、深刻な保守分裂で責任のなすりつけ合いが続く。市議会との対立で新市長は立ち往生、産廃不法投棄も沈黙している。で、ストイカが贈る心づくしのクリスマス・プレゼント。=全文無料
まず言っておこう。本サイトの「関心領域」シリーズは、政治的なキャンペーンではない。豊橋市が地元の里山を末代まで汚す「隠れ産廃」を自浄できるかどうかを問うている。政争はあくまでも余波にすぎない。
12月2日から始まった豊橋市議会での長坂尚登・新市長の姿勢には失望させられた。「ストイカ」が報じた産業廃棄物処理業者の成和環境(豊橋市)による西七根での不法投棄疑惑について、筆者は新市長に質問状を送った。
先の市長選ではアリーナ問題が大きな争点でしたが、西七根の拙稿に対するアクセスなどから推して、西七根問題は隠れた争点ではなかったかと考えています。
そこで長坂新市長に改めて西七根の問題にどう取り組むお考えか、伺いたく存じます。
(1)西七根の問題をどう認識しているか。
(2)問題の全容を明らかにし、その解決に向けて取り組むお考えがあるかどうか。また具体的にどのように取り組むおつもりか。
さらに「浅井前市長は市民の期待に応えず、説明責任さえ果たさないまま市長が交代しましたが、それだけで終わりではありません。我われの批判対象が浅井前市長から長坂市長に切り替わるだけであるならば、今回の市長選の結果を、豊橋市民の勝利とは呼べないと思うのです」とも書いた。
新市長への質問に失敬な回答
しかし筆者の期待は裏切られ、失望は怒りに転じた。豊橋市役所の広報広聴課から返ってきたのは、木で鼻をくくったような回答だった。
問(1)について
この質問における「西七根町の問題」とは何を指すのか、時期、場所(範囲)など具体的にご教授お願いします。
問(2)について
一つ目のご回答を踏まえ、山口様が意味する「(問題の)全容」、「解決」について、ご教授お願いします。
慇懃無礼とはこのことか。就任早々、この態度では先が思いやられる。どたける浅井前市長時代の豊橋市役所と何も変わらない。こんな失敬な回答に、市長は事前に裁可を下したのか。市職員が書いたもので、市長は与り知らないなどという「言い訳」は通用しない。これは市長も了解していたはずだ。
腹に据えかねることがもうひとつある。今回の市長選でまかれた長坂候補の選挙ビラと折りこみ広告である。前市長が市職員に対しパワハラを働いていたことをスクープした本サイトの記事「どたける浅井(由崇)・豊橋市長に公開質問状」の一部を無断引用して、「浅井市長のパワハラ体質が報じられました」と、あっけらかんとパクリ掲載した。
「ストイカ」記事を無断引用
12月の豊橋市議会で、市はその内容を確認するよう求められるとともに、長坂市長は記事を無断で借用したのではないかと問い詰められた。市長はダンマリを決め込んでいるようなので、筆者が市長に代わってお答えしよう。
この記事には長坂候補を応援する意図などなかったし、選挙ビラの作成に当たって、長坂陣営からは筆者にもストイカ編集部にも、引用の承諾を求める連絡は一切なかった。いくら豊橋市民のために無料公開とした記事とはいえ、無断で選挙に流用するなどの勝手を「ストイカ」は断じて許さない。
しかも筆者の記事をパクっておきながら、「西七根町の問題とは何を指すのか」だと?中日新聞でもこの問題が取り上げられ、議会でも質問されているのに「時期、場所など具体的に」だと?東大大学院情報学環で何を学んだのか。おとぼけでメディアにケンカを売る気ですか?
西七根の産廃問題にまともに取り組むつもりがないのは、市役所でこの問題を扱う環境部の種井直樹部長も同じだ。12月10日の一般質問で松崎正尚市議(自民党豊橋市議団)と宍戸秀樹市議(公明党豊橋市議団)の二人から西七根問題についての質問があった。いずれの質問も「土砂崩れを起こした箇所を再調査する考えはあるか」に集約できる。
種井環境部長の真っ赤なウソ
これに対して種井部長は再調査をするつもりはないと回答し、これに付随して「市民からの問い合わせはなかった」と説明している。
しかしこれはウソだ。土砂崩れが起きた自治会から市役所に通報したとの証言があるし、そもそも不法投棄が疑われている成和環境は廃棄物回収車を洗浄した際の汚水を垂れ流しているとして、市に通報があったのをきっかけに市民から厳しい目を向けられているのだ。
さらに種井部長は「今回試掘を行った場所は、実際に造成を行った者(筆者注:産廃を埋め戻した成和環境社員のこと)と通報者双方の意見を聞いた上で決定した」と答えているが、これも真っ赤なウソ。
たしかに市役所の環境部廃棄物対策課は6月、試掘に先立って不法投棄を市役所に通報した人物との間でどのような試掘調査を行うのか、すりあわせをしている。しかし種井部長の発言を聞いたこの通報者に、改めて経緯を確認したところ「大きな地図でこの辺りに埋まっていると説明したが、最終的にどのポイントを掘削するかといった詳細については何も聞かれておらず、(実質的には)成和環境の言うままに掘削ポイントが決まってしまった」という。透明性を確保するため、第三者による試掘調査を求めたが、それもかなわず、通報者の要望は無視され、強引に仕組まれたような試掘調査だったのだ。
ICレコーダーに録音あり
ついでに言えば、この席には筆者や豊橋市議の中西光江議員(共産党豊橋市議団)も同席しており、実際にどのようなやり取りがあったかどうか、中西議員に確認してみるといい。中西議員は市議会の環境経済委員会のメンバーだったことから、筆者が同市議団を取材した際、「(廃棄物対策課の説明の)冒頭だけでも聞いてみませんか」と声をかけ、中西市議は結局約2時間半の説明に最後まで付き合ったのだ。
説明の模様はICレコーダーで録音されており、環境部長も議会でウソをつくなら、自らのクビをかけるお覚悟なのだろう。どこまでウソをつき通せるのか、見ものだ。まさか成和環境とグルじゃないでしょうね。それは警察の符丁で「サンズイ」と言うのですよ。
ここに表れているのは臆病さと裏腹の、小役人らしい底意地の悪さなのか、それとも市長にメディア対応を献策するブレーンの無能さがそうさせたのか。市議会のインターネット中継を見る限り、質問に対して質問で返してまぜっかえすだけの長坂市長らしさも、先のツッケンドンな返答ににじみ出ている。
記事を無断で使っておきながら、簡単な質問にさえ答えようとしないのなら、こちらも黙って引っ込むわけにはいかない。オーケー、売られたケンカはすべからく買うべし。拙稿のタダ食いを見逃しはしない。
所詮ワン・イシュー(単一の政策目標、ここでは豊橋アリーナ問題)を掲げて当選した市長は、わずかなシンパを除けばほとんど市議会で孤立無援のうえ、先頭に立って市政全般を推進するだけの力量があるはずもない。
長坂市長もパワハラ疑惑
長坂新市長を戴いて始まった12月の市議会は、一般質問が一巡し終わらないうちに早くも市議たちの包囲網に手足をからめ捕られてしまっている。ある豊橋市議は「議会の決議を軽視しており、何の相談もない。浅井市長の在任時は是々非々でやってきたが、長坂市長に対しては厳しく対応せざるを得ない」と憤りを隠そうとしない。
無理もない。議会運営どころか、市政全般が滞り始めているのだ。
豊橋市民は知るまいが、実は長坂市長にはいくつか秘密がある。一部の市議が独自に市職員に対して二度にわたって、パワハラ・セクハラの有無についてアンケート調査を実施。長坂市議(当時)にパワハラがあったとの結果がまとめられ、市議会の各派代表者がこれを回覧した。議会関係者によると、「長坂市議は深夜に市職員にメールを送りつけ、朝イチで返事が来ていないと叱責する」などの声が多々あったという。
自分を棚に上げて、選挙では浅井前市長のパワハラを攻撃していたのだから、開いた口が塞がらない。まだある。
市長選時にはれいわ新選組から、選挙事務所で使うための什器を無償で譲り受けており、これが公職選挙法違反に問われる恐れがある。長坂市長はこれについてもいずれ市議会で追及を受けるかもしれない。
政倫審もナメていた根本議員
だが、攻める自民党サイドも一枚岩ではない。豊橋を地盤とする愛知15区の根本幸典・衆議院議員は、先の市長選で自民党推薦の近藤喜典候補から票をひっ剥がして、無所属の浅井市長(当時)を応援。これによって生じた支部のねじれが、保守の票田に亀裂を生み、敗因につながった。
しかも旧安倍派の根本議員は、裏金問題でクローズアップされた上に、文藝春秋で統一協会とのつながりが暴かれながら、政治倫理審査会では「(選挙時に電話作戦に加わったスタッフについて)思想信条を確認していない」などと、まともに説明しようとしなかった。
(余談になるが、書き留めておきたい。根本陣営には豊橋市内に居住する統一協会員の住所・氏名・電話番号などをまとめた名簿がある。地域でのまとめ役になっている女性支援者に目印を入れたり、個々の協会員との親密度や接触状況まで記したもので、筆者もそれを入手している)
そんな人物が豊橋を牛耳っているのだから、地元で自民党の党員が減り始めているというのも無理はない。根本議員は政倫審の前日に地元関係者との会合で「自分の中で想定問答集ができているし、弁護士との打ち合わせも済ませている。後は読む練習だけしておかないと」「残念ながら私よりも注目されるのは萩生田(光一・元自民党政調会長)さんだから、私のことはほとんどテレビに出ない」などと政倫審を乗り切る自信を見せており、その音声データが残っている。地元民から「裏金や統一協会などの問題に、正面から向き合うつもりなどまったくない」と言われても文句は言えまい。
不信任案提出で自公が割れた
そこに持ってきて、根本議員の取り巻きである丹羽洋章県議も「長坂市長に対する不信任案決議に賛成しない市議は除名だ」と言い出し、12月27日に長坂市長の不信任案を提出する準備を進めている。
ところが長坂市長が東海テレビで、豊橋アリーナ問題では「住民投票も選択肢の一つ」と述べ、市議会でも同種の答弁をした。これに公明党市議団が揺らいだ。本心では、不信任決議の打ち返しで市長が市議会を解散することを恐れていただけに、「住民投票をするのなら、無理して不信任案を出すには及ばない」と離反してしまった。
これでは不信任案が通る見通しが立たない。「裏切りだ」といきり立つ自民に、公明党は「上からの指示」の一点張りで耳を貸さないという。自民内の亀裂に、自公の離反という二重苦になったことを、根本氏らは市議や県議には伏せて強行しようと、あくまでも不信任案提出にこだわっている。
問題はそれだけではない。豊橋商工会議所会頭の神野吾郎氏(サーラコーポレーション代表)ら地元経済界も、れいわ新選組や市民団体が後押しする長坂氏に市長の座をさらわれ、豊橋アリーナの実現が危うくなるなかで、今度こそと市長候補の一本化をめざすが、浅井氏の再度かつぎ出しでは元の木阿弥。根本議員と丹羽県議が突っ走る強引な一本化工作は、神野氏ら地元財界人にええかっこしいしたいだけなのはミエミエだ。
そこに降ってわいたように、東京・平河町の自民党本部から「地区支部長に問題はないか」という党員アンケート調査の依頼が届いたという。根本氏は我が身にハネ返るのを恐れて、この調査を事実上ネグる指示を出しているとか。ふーん、それならストイカから、森山裕幹事長と選挙対策の元締め、元宿仁事務総長に「愛知15区の混迷は根本支部長に問題あり」とささやこうか。
皮肉なことに「成和環境の西七根問題が豊橋のパンドラの箱であり、いったん蓋をあけたら大変」という危機意識が豊橋でも浸透してきた。だが、政治家と市役所の責任逃れの前で、立ち往生しているのが現状だ。当選後1カ月余りで市政全般が滞ってしまった長坂市長。この膠着を打破するには、思い切った大掃除が必要なようだ。豊橋政界は叩けばホコリが出る。それは次号以降のお楽しみに。■