もみ消しワンワン、豊橋市議会議長の密談

「産廃」の関心領域シリーズ 3

もみ消しワンワン、豊橋市議会議長の密談

自治体の腐敗は、公益通報者保護法を踏みにじっても「法的に問題ない」と言い張る兵庫県の斎藤知事だけではない。豊橋市役所も前回「ここ掘れワンワン」記事で頭隠して尻隠さず。今度は市議会で質問を端折る事件が起きた。事前に議長が疑惑の社長に面談、その連絡が漏れて……またワンワン騒ぎ。=全文無料記事

前回、令和2年11月に出回った怪文書について記した。

「突然ではありますが、ゴミを成和環境(株)に委託している皆さんには事実を伝えたいのでお送りします。この手紙は成和環境(株)が長年に渡り皆さんを欺き、環境汚染している事実を内部告発するものです」(原文ママ)と始まるこの文書は、成和環境に廃棄物処理を委託している排出事業者に送られたものであることはすでに述べた通りだ。

大手企業に届いていた告発文

その中にはコンプライアンス(法令遵守)にやかましい上場企業も少なからず含まれている。彼らは内部統制報告書でコンプライアンスがきちんと機能していると謳い、監査法人からお墨付きを得ているはずなのだ。彼らが豊橋市の産廃問題をどう捉えているのか、そして上記の告発文が出回ったときにどう対応したのか、10社ほどの上場企業に質問状を送った。

・令和2年の告発文を受け取ったかどうか

・告発文の内容が正しく、会社としてその存在を認識していたのなら、排出事業者にも責任の一端があるのではないか

・この問題により地元農業に風評被害が生じたり、地元民に健康被害が及ぶ可能性もあるが、どう対応していくか

以上が質問状の要旨である。環境会計が導入され、環境保全にかかるコストを損益計算書や貸借対照表に反映させなければならない、SDGs(持続可能な開発目標)の時代なのだ。トヨタ自動車や中部電力、三菱ケミカルグループ(2022年7月商号変更)、花王、カゴメ、東京製鐵といった企業群は回答してくれた。中には一般消費者の日常生活に密接に関わる日用品や、口に入る食品の製造を手がける企業も含まれており、彼らはおざなりな対応で済ませることはできないのだ。

その一方で上場企業と言っても、豊橋市やその周辺に本社を構える地方企業はSDGsのような国際的な潮流に対する視野を持たないのか、沈黙したままだ。

質問はそれぞれの本社に質問状を送り、回答した企業には私から電話をかけて追加取材も試みた。その結果、新たな発見があった。

ほとんどの企業は告発文を受け取っており、それらをまとめると「毎年、適正処理確認を行っている」「行政から問題ないと回答があった」とのことである。つまり令和2年の時点で豊橋市の環境部廃棄物対策課はそうした調査に乗り出し、「問題なし」の結論を出していたのだ。

この点について廃棄物対策課に確認を取ったところ、その調査はずさんとしか言いようがないものであることが浮かび上がる。

豊橋市周辺の地図。海岸線の赤い点線で囲まれた部分が西七根地区(グーグルアースより)

告発文には昨年土砂崩れを起こした西七根について言及した箇所があり「恐ろしい問題が潜んでいます」「許可がない農地などにも廃棄物を埋め立てています」「管理型処分場の敷地を勝手に広げています」などと書かれているのに、廃棄物対策課の調査は西七根から離れた中間処分施設の弥栄工場だけ。西七根はスルーしたのだ。このときに廃棄物対策課が調査を腹芸で済ませず、西七根の調査をきちんと行っていれば、結果は大きく変わっていたかもしれないのに。

市役所うやむやで苦しい成和

皮肉なことに、豊橋市の「臭いモノにフタ」の姿勢が成和環境を苦しめている。私が排出事業者を取材したところ、報道を受けて「どういうことか説明して欲しい」として排出事業者が成和環境を突き上げていると言う。ところが豊橋市役所が処分の有無さえもはっきりしない形でうやむやにしてしまった(ただし、これとは別に成和環境はJA愛知みなみから廃棄物を受け取り、マニフェストの一部が記載されないまま運んでいたことが発覚し、市役所から今夏、指導票の交付を受けた)ため、免罪符代わりに顧客に提示できる文書がない。排出事業者にはコンプライアンス上の懸念だけが残ってしまうのだ。まして前号に添付した埋め戻し動画まで出てきたのだから、排出事業者は心穏やかではいられまい。

ここで話が変わる。今回のキモはむしろここからだ。

9月2日午前10時、豊橋市役所西館8階の議場で9月の市議会の一般質問が始まった。これから3日間にわたって20人余りの豊橋市議が市政や市民生活などに関する問題について質問するのだ。各市議の質問内容は、質問する市議の順に事前に市議会のHPで公表されている。その最終質問者は公明党市議団の宍戸秀樹市議。宍戸市議が演台で最後に繰り出したのは、成和環境が市内西七根に大量の産業廃棄物の不法投棄をしていたのではないかという疑いについてである。

私を含めた関係者は「ひょっとするとこの質問が取り上げられないかもしれない」と少し冷ややかな目で見ていた。それと言うのも、議会や市政の公平性の根幹を揺るがすような事態が水面下で進行していたからだ。

「市議会に出ない」と社員に報告

会期が始まる直前の8月30日のことだ。渦中にある成和環境の小島達也社長が、伊藤篤哉市議会議長と面会して話し合っている。その内容を小島社長が社員向けにコミュニケーションアプリを通じて連絡しており、その文面は以下の通りだ。送信時刻はこの日の16時19分となっている。

お疲れ様です。

先ほど市役所に行き廃棄物対策課との打ち合わせ後、○○(筆者注:成和環境社員の実名)さんと伊藤篤也(同:「篤哉」を誤記)議長に会ってきました。

今回の件(ここ掘れの件)は議会に出ることはないと確認してきました。

と書かれている。「ここ掘れの件」とは、私の連載第2回「ここ掘れワンワン、豊橋試掘の茶番劇」の記事を指すのだろう。見出しをパクって“符丁”にしていただき、お礼を申しあげよう。ただし、含み笑いをこらえて。

成和環境の不法投棄疑惑が隠し切れないほど大きくなり、豊橋市役所の環境部廃棄物対策課が成和環境の社員らを伴って、この6月19日に現場を掘り返してみた。ところが再崩落の危険があるとの理由で、2カ所を深さ50センチほど掘り、小さな木片やペール缶などが出てきたところで試掘を中止し、「埋め戻しは認められない」との判断を導き出した。それは一連の問題そのものを土中に埋め戻し、皆で頬かむりを決め込もうとするようなものだ。

ところが豊橋市役所と成和環境のこうした目論見を木端微塵にしてしまうかのような動画があった。地元住民が撮影したその動画には、埋め戻し作業中の成和環境社員が「会社の指示で廃棄物を埋め戻している」とあけすけに話す内容なのだ。私の記事には、その動画https://youtu.be/J4KBMjS18usが字幕付きで添付されている。YouTubeで公開したので、もう一度ごらんになりたい方は下線部をクリックしてください。

なにしろ埋め戻し作業をしている社員の言葉である。誰もこれを無視できない。

小島社長の連絡は、この記事と動画を強く意識したものだろう。その短い文面を素直に読む限り、<(話し合いの結果)不法投棄の問題が議会で話し合われることはない>と受け止めることもできる。市議会の直前に、密室で問題をもみ消そうとしていると受け止められてもおかしくない。渦中の会社の経営トップが市議会議長と密室で談合し、議会で取り上げるかどうかを調整していたのであれば、公平性や透明性の点で大問題である。

「全国ニュースになるんじゃないかな、これ?」

一部の議会関係者がこう言って懸念を示したほど、豊橋市の環境行政は病的で、その根は深い。業者と市役所、そして市議会までもが癒着し、毒が回っているかもしれないのだ。

豊橋市議会2024年9月例会の日程表(豊橋市議会HPより)

実はこのやり取りに関する情報と資料を入手した私は、一般質問が行われている3日夕刻に市議会事務局庶務課に質問状を送った。上のようなやり取りがあったとすれば、<市民に対する重大な背信行為であり、議会の公平性を担保できず、議長はその適格性を問われかねない。面会の事実の有無及び、経緯と目的をコメントして欲しい>という質問内容である。

質問状を出したのが一般質問も終わっていないタイミングだったため、議長も十分な時間が取れまいと思い、回答の期限は「(質問終了後の)6日正午までにお願いします」としておいた。

質問は出たが尻切れトンボ

翌日4日の最終質問者として演台に立ったのが、宍戸市議であることはすでに触れたとおりだ。市議会のHPによると、宍戸市議の質問項目は大きく2つ。一つは「家庭ごみに関する対応について」で、もう一つは「(西七根で)表出した廃棄物の試掘を行った経緯や目的、実施方法について」である。さらにこれに付随する詳細な質問項目が用意されていたようだ。

9月4日の一般質問の宍戸秀樹市議の質問項目(豊橋市議会HPより)

ところが宍戸市議の追及は、廃棄物について3点ほど質したところで尻切れトンボになってしまった。種井直樹環境部長を相手に一問一答の質問が始まってまもなく、試掘についての詳細な質問は半分以上が取り下げられてしまったのだ。実際に質問され、環境部長が回答したのは、わずかに「試掘を行った経緯や目的、実施方法について」「試掘の結果、具体的にどのような物が出てきたのか」「埋め戻しがなかったと判断した理由について」だけである。その答弁はこのストイカや中日新聞ですでに報じられた内容と同じであり、通り一遍で木で鼻をくくったような内容だった。

しかし質問を取り下げた宍戸市議にまで<毒が回っていた>のかと言えば、それはわからない。市議は自ら埋め戻しが疑われる現場を訪れて確認しているし、質問を終える前に「自体の大きさに鑑み、このままにしていくことが残念でなりません」とも発言したからだ。

さらには取り下げた詳細な質問項目――「土砂崩れを起こした箇所の土壌調査を行ったのか」「法面を作ってそこにあるものに土をかぶせただけとあるが、従業員からその話を聞いたのか」「試掘調査をこの事業者(成和環境)に委ねた理由」「試掘の深さを50センチにとどめたが、それ以上深く行うことは可能か」――を演台で敢えて読み上げてみせ、「一部の方の顔を立てるために、今回の質問は取り下げます」と意味深長なことを言っているからだ。その態度は、一連の問題をうやむやにしたり、ひた隠しにしようとしたのではなく、むしろ問題点を市議会という公の場でぶちまけてしまおうとする姿勢に見えた。

その点について後日、宍戸市議に直接取材すると、「当日朝に詳細な質問を提出したのでは、時間が足りず対応しきれない」として、一部から叱正を受けたためだという。たしかに私が事前に入手した、市役所の答弁案も上記の3点のみ。小島社長と伊藤議長が面会したのと同じ頃、つまり8月30日15時40分に作成されたものらしく、この時点で質問が3つに限定されていたことを濃厚に示唆しているし、宍戸市議が詳細な質問項目を「当日朝に通告した」こととも一応辻褄が合う。

さらに8月30日に成和・小島社長と伊藤篤哉議長が面会して「議会で取り上げない」と申し合わせていたことも、それに関して私が市議会事務局に質問状を送っていたことも宍戸市議は把握していなかった様子だ。

面会したが「単なる挨拶」

さて、回答期限を6日として豊橋市議会の伊藤篤哉議長に送った質問状の回答についても触れておかねばならない。市議会事務局庶務課の職員が伊藤議長に聞き取る形で私のもとに送られてきたそれは、噴飯物だった。

豊橋市議会の伊藤篤哉議長(伊藤氏のHPより)

伊藤議長は面会の事実を認めたうえで「旧知の知人による単なる挨拶」と説明。小島社長が社内向けに「議会に出ることはないと確認してきた」と連絡した点については「(西七根の件の)新聞報道があった後に市の環境部から報告を受けたが、近頃は議会の中の話題にも上がらないという話はした」とのことだ。

伊藤議長、どんな顔をしてこんな苦しげな言い訳をしたんですか?

宍戸市議は12月の市議会でも廃棄物対策課長に質問するつもりだという。ついでに言えば、ストイカでは前号の他にも動画のストックがあるし、関係者の会話を収めた音声ファイルはさらにたっぷりとある。これらが公開されれば市議会の炎上は必至だ。

しかし、その前に豊橋市長選が控えており、12月の市議会に豊橋市長として議場に姿を現すのは誰か、予断を許さない。何しろ、浅井由崇・豊橋市長が取材をかわし、一連の問題について頬かむりしている理由や背景を取材しているうちに、市長自身が廃棄物問題とは別に抱えている様々な問題が次々と浮かび上がってきたからだ。(続く)■

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