外資規制「ガラパゴス」の黄昏

フジサンケイの「万骨」 6

外資規制「ガラパゴス」の黄昏

放送法の外資規制の障壁を乗り越えて、デジタル・プラットフォーマーという「進撃の巨人」が視聴者もスポンサーも奪っていく。業法と許認可権限頼みの総務省は、LINEヤフーとのトラブルで躓き、自縄自縛のカカシ状態。日枝FMHに打って出る勇気と体力はあるのか。 2日間は全文無料、以後は一部有料。

 

クリエーターの乱 6

 

BS朝日で4月6日から再放送が始まった。2010年にテレビ朝日で放映された全8話の連続ドラマ『熱海の捜査官』である。オダギリジョーと栗山千明主演で、二階堂ふみがチョイ役のミステリーだが、そのシュールなコメディーは、デヴィッド・リンチ監督の『ツイン・ピークス』のパロディー、いや、監督・脚本の三木聡の尋常ならぬこだわりを示す怪作だった。それにしても、なぜ今ごろ?と思った。

案の定、放映の時間帯が前番組の都合でズレたり、CS朝日で4話まとめて再々放送するなど、露骨な穴埋め扱いが痛ましい。舞台の熱海が黄泉だったというオチも、今の視聴者に分かるかどうか。そして、番組の最後に流れるエンドロールで、3人のプロデューサーのうちの一人の名に目を止めた人がいただろうか。

日枝広道氏――フジサンケイ・グループ代表、日枝久氏の息子である。フジテレビが電通と組んで視聴率三冠王を誇った時代に電通に入社した。有力者の子弟のコネ採用は、フジテレビも電通もよくあったから、広道氏も雑誌で〝七光り〟を散々揶揄された。

電通でも「七光り」が効かない

しかしプロデューサーとしては、この『熱海の捜査官』をはじめ、それなりに面白い作品を世に送っている。テレビドラマでは小泉今日子原作、門脇麦主演の『戦う女』(フジテレビNEXT、2014年)や柳楽優弥主演の『オレは死んじまったゼ!』(WOWOW、23年)、映画では藤原竜也の『鳩の撃退法』(21年)、香川照之の『宮松と山下』(22年)などに関わった。ところが電通では局長年次なのに、幹部の役職に就いていない。

24年1月にスタートした早野傑社長の電通新体制では、5人の取締役にも13人の執行役員にも広道氏の名はない。18年3月、電通コンテンツビジネス・デザイン・センター(CBDC)のD&Pルームディレクター配属の人事発表があったきりだ。これは早野電通が、すでに〝日枝フジメディア〟の利用価値を見限ったということではないのか。

コンテンツ・クリエーターとしての道を見いだしたであろう広道氏にとって、〝七光り〟がかえって邪魔というのは気の毒である。だが、ネット広告への進出に失敗、新入女子社員の自殺と東京五輪汚職でミソをつけた電通の焦りは、ブランド(スポンサー)よりコンテンツと銘打ってスタートしたCBDCが、いつのまにか空疎なAX(Advertising Transformation)を謳うパワポの絵空事に変じたことでも明らかだ。

プロデューサー広道氏の不遇は、コンテンツへのこだわりを失い、袋小路に陥った民放の広告代理店モデルの貧すれば鈍すの縮図といえる。もしいま『熱海の捜査官』を放映する意味合いがあるとすれば、『北斗の拳』の決め台詞と同じく「おまえはもう死んでいる」と宣告することにある。

無理もない。電通版「日本の広告費」によると、2019年(1~12月)にインターネット広告費がマスコミ4媒体(テレビ、新聞、雑誌、ラジオ)を初めて逆転し、首位に立った。従来のネット広告費に「物販系ECプラットフォーム広告費」と「イベント」を加えると2兆円台を突破、コロナ禍を経た2023年には3兆3000億円と、総広告費の45%を占めるに至っている。4媒体の落ち目は止まらず、もはや勝負あったと言っていい。

希望退職に対象の8割集まる

テレビ広告の減収に直面したフジテレビは21年11月、持株会社フジ・メディア・ホールディングス(FMH)社長と兼任だった金光修社長が、取締役会で「ネクストキャリア支援希望退職制度」の実施を決めたと発表した。

■対象者…満50歳以上、かつ勤続10年以上の社員

■募集期間…2022年1月5日~2月10日(後に1月31日に前倒し)

■退職日…2022年3月31日

■優遇措置…通常の退職金に加え特別優遇加算金を支給するとともに、希望者に対して再就職支援を実施

若返りが主目的と金光氏は強調しているが、要するに高禄の50代社員はお払い箱、人件費の安い若手を中途採用するというのだ。人数制限がなかったため、400人強の希望退職対象年代のうち8割が説明会に参加したという。退職金とは別に支払われる「特別優遇加算金」は、2022年3月期決算で総額90億円が特別損失として計上されることになっていた。これを機に沈む船から逃げ出すように、有力プロデューサーや中堅社員、さらには女子アナまで、将来を嘱望された人材の流出が続いた。

新聞はもっと悲惨だ。鹿内家二代目の春雄時代にはフジサンケイ・グループの中核とされ、三代目を解任した日枝クーデターの舞台となった産経新聞社でも、いま凄絶な人減らしが進行中だ。24年3月期決算も減収減益で、売上高が前期比5.8%減の741億4000万円、当期純利益は34億円の赤字に転落した。特別損失として特別退職金で23億8200万円、減損損失で9億7100万円、事業構造改善損で2億4000万円を計上した。

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