粉飾揉み消しとFMH社長の「耳栓」

フジサンケイの「万骨」 4

粉飾揉み消しとFMH社長の「耳栓」

ウィッスルブロー(内部告発)の笛が鳴った。親会社FMHのコンプラ推進室が弁護士チームに任せた調査は、ジャニーズ性加害調査と並行していたが、結論は月とスッポン。「臭いものに蓋」はそもそもFMH社長が耳栓をしているからか。才人の敏腕プロデューサーだったが、経営者になると「超小心男」に化けてしまった。29日まで全文無料、その後は一部有料

 

クリエーターの乱 4

 

5月20日、ポニーキャニオンは取締役会を開き、次期常勤役員を内定した。

代表取締役社長吉村

取締役副社長井上信悟

常務取締役小林一樹

常務取締役深町徳子

常務取締役村松克也(昇任)

取締役大熊一成

取締役菊池貞和 (新任)

 なるほど、本シリーズ「万骨」の批判に耳をふさいで、「現体制温存」でいこうとお決めになったわけですね。砂地に頭を隠したダチョウですか。でも、マイナビ・日経就職人気ランキングで、ポニーキャニオンは23年卒で15位、24年卒で19位とじりじり後退、今年の25年卒予定者では人気が離散することもありうる。あちこち火がついて、フジサンケイ・グループ代表の日枝久氏にまで怪文書が届く事態になっても知らないよ。

むろん、こちらは正攻法ですが、ネットが炎上すると、どんな暴衆を生むか、こればかりは予測できませんからね。「楽しくなければテレビじゃない」――名キャッチフレーズのブーメランである。いまどきの「蜜の味」は、あられもない修羅場の内幕劇。親会社フジ・メディア・ホールディングス(FMH)ごと唐竹割りにして進ぜよう。

インハウス弁護士の内部通報

ポニーキャニオンの堤防決壊は、正式には1年2カ月前の昨年3月19日に始まった。上記の人事で再任される予定の深町徳子常務の足元からである。深町氏担当の法務本部法務部の弁護士、榊原拓紀氏からポニーキャニオンの内部監査室(古宇田ふるうた隆之介室長)に対し、吉村社長の非違行為についての内部通報の文書が提出された。

企業所属の弁護士はおしなべて揉み消し役と言っていいが、そのインハウスの弁護士から逆に内部告発が出てきた。その名を聞いて、あれっ?と思う人は、ウィッスルブロワー(内部告発者)に詳しい人だろう。詳しくは次回の「万骨」5をご覧ください。今回は始まりを告げる呼び子役だった。

榊原氏の内部通報の内容は「万骨」1で詳述したとおり、『けいおん!』ゲーム化での吉村社長および深町常務の対応と、その2人が実質決めた賞罰委員会の厳罰処分への疑義である。レジェンドベースボールの曖昧な始末のつけ方と比べて、あまりにも均衡を欠いていると批判した。

その12日後の3月31日、つまり23年3月期末に経営本部長を解任されることになっていた吉田周作氏(同日付で執行役員エグゼクティブディレクターに降格)から、親会社FMHのコンプライアンス推進室(坪田譲治室長)に対し、外部弁護士の代理人を立てて内部通報が寄せられた。その内容は経営企画として吉田氏が対処した『けいおん!』やレジェンドの案件だけでなく、前回取り上げたBelieveとの提携中止や、5月15日に東京地裁で初公判が開かれた刑事事件――シンガーソングライターのaiko担当だったポニーキャニオン元本部長の特別背任も含む広範な問題を提起していた(5月30日、6月26日にも追加通報)。

ジャニーズ調査と並行して

するとFMHコンプラ推進室から、榊原氏の内部通報と一括して扱いたいとの提案があり、そのまま両案件一括でFMH主導の調査が始まった。

調査にあたったのは、FMHが依頼した三浦法律事務所(創立者の三浦亮太弁護士は森・濱田松本法律事務所出身)である。法人パートナー、尾西祥平弁護士をリーダーとし、パートナーの辻勝吾氏、アソシエイトの河尻拓之氏らのチームである。

尾西チームはポニーキャニオンの全社員の1割以上にあたる関係者約50人をリストアップし、5月の連休明けからヒアリングを始めた。吉田、榊原氏の初ヒアリングは5月10日に行われた。「なるべく早く」と要望したのに、3月の通報から約40日も待たされたため納得がいかなかった。吉村社長続投を内定する5月下旬のポニーキャニオン取締役会に差し障りが出ないよう、引き延ばしたのではないかとみている。

ちょうど英国BBCの報道をきっかけに、ジャニーズの創業者、ジャニー喜多川氏(故人)の性加害問題で、大手法律事務所の西村あさひの木目田きめだ裕弁護士が危機対応に失敗。改めて「外部専門家による再発防止特別チーム」(林真琴・前検事総長ら3人)で調査をやり直し、23年8月29日に性加害を認める厳しい内容の最終報告書をまとめた時期である。尾西チームの調査はそれと並行して進められたのだが、10月26日夕、お台場のフジテレビ本社メディアタワー棟24階、アクアブルー会議室で行われたFMH最終報告会の内容はそれとは月とスッポンだった。

内部通報の最終報告会が開かれたお台場のフジテレビ本社
(メディアタワー棟は後方のビル棟)

FMHコンプライアンスの「見て見ぬふり」を裏書きするように、問題点をぼかして骨抜きにしていた。最終報告は指摘された16件の「非違行為」のうち6件に焦点を絞っているが、そのなかの「会計関連の件」は、この「万骨」シリーズでも初登場である。尾西チームの辻弁護士は口頭でこう述べた。

EY(EY新日本有限責任監査法人)の指摘に応じて速やかに応じてはおりますので、会計上重大な問題があることまでは認められないと考えております。ただですね、過去にそうしたEYの指摘を受けている案件があるというところですとか、一部の事案においてはですね、役員の方が管理しているというところが確認できましたので、やはり会計に関するガバナンスとしてより透明性の高い会計処理を行うようにしていく必要があるんじゃないかということを、我々指摘しています。

きれいごとである。ひと昔前、株主総会の最前列で「異議なし!」を連呼していた与党総会屋とそっくりではないか。「指摘した」とおっしゃるが、最終報告は内部通報者に全文が非開示で、口頭だけだからどう「指摘した」のか分からない仕組みになっている。

経理担当役員が粉飾操作

実は2017年3月期決算をまとめる作業中、在庫金額が急に増えているのがおかしいと感じ、当時の経営情報管理統括だった吉田氏本人が出荷データなどを調べて、粉飾操作があることを突き止めたという経緯がある。辻弁護士の奥歯にものの挟まったような言い訳は、その裏事情を如実に物語っている。

一言で言えば、吉田氏の上司だった経理担当の小林一樹取締役(当時)と第一ディストリビューション統括(同)の村松克也氏が関与しており、監査法人EYにそれを報告したのが発端だった。

この記事は有料です

会員登録・ログインして記事を読む