首相も感染、4回目接種の落とし穴

コロナ「興亡」記 ワクチン接種4

首相も感染、4回目接種の落とし穴

とうとう岸田文雄首相まで新型コロナウイルスに感染し、8月30日まで療養することが決まった。しかし公邸隔離3日後の24日、オンライン会見で首相が感染者の全数把握を見直すと表明、感染が首相本人に及ぶのを防げないという状況のなかで、コロナをインフルエンザ並みに格下げする第一歩を踏み出す皮肉な状況となった。しかし第7波がなぜ過去最大の大波となったか、は不問に付されたままである。 無料記事、約7,300字

6月末に始まったコロナ第7波は、第6波を上回る感染者および重症者の殺到で、医療機関と保健所の現場が疲弊、報告作業の負担が重すぎて治療に支障が出るとの全国知事会や医師会などから悲鳴があがった。全数把握の緩和は、すでに政府の対策分科会の尾身茂会長らが8月2日に提言している。しかし岸田政権が「行動制限なし、経済回復優先」の方針を第7波の襲来にも動かさなかったことに、根本的な疑念が募る。またもや繰り返された医療機関のひっ迫も、この「無為」に原因があるのではないか。

第7波の山は、過去の6波に比べ段違いに大きかった(厚生労働省統計、8月19日時点)

医療体制のひっ迫は、患者数が等比級数的に急増して、発熱外来などに感染者が殺到しただけでなく、医師や看護師など医療従事者にも「院内感染」が広がり、人員不足で救急患者の受け入れの制限や手術の延期といった医療体制に支障が出た面も大きい。

7月25日のNHK報道では、東京・府中市の榊原記念病院で7日以降、およそ800人の職員中70人が感染もしくは濃厚接触者となり、心疾患の救急患者受け入れを10日間ストップ、予定していた手術も8件が延期になった。沖縄の豊見城市の友愛医療センターでも、約1400人の医師・看護師らのうち100人が感染・濃厚接触者となり、コロナ中等症患者や緊急手術を必要とする患者の受け入れを制限せざるをえなかった。福岡大学病院でも120人が感染もしくは濃厚接触で病棟2棟が閉鎖され、東京大学医学部付属病院も院内感染で3割が稼働できなかった。

こうした事例は全国に広がり、医師や看護師の欠員が出て、医療機関のひっ迫を一段と増幅させる結果となった。では、医療従事者に対する4回目のワクチン接種はどうだったのか。4回目接種の内容が決まったのは、4月27日の第32回ワクチン分科会である。その内容は

・重症化予防を目的として、4回目接種を特例臨時接種として位置づけ
・① 60 歳以上の者及び②18 歳以上で基礎疾患を 有する者その他 重症化リスクが高いと医師が 認める者
・3回目接種からの接種間隔は少なくとも5か月以上空ける
・ 60 歳以上の者については原則どおり適用 、 60 歳未満の者については現時点では適用しない

自治体に対しては、2022年4月28日の第13回説明会で、5月下旬から4回目開始と通知された。この時点で、医療従事者、高齢者施設関係者、警察・消防関係者などエッセンシャルワーカーには、特段の言及がない。本来は年齢制限なく、接種を一律に「努力義務」(予防接種法9条)とすべきだったが、60歳未満のエッセンシャルワーカーのうち、医療従事者、高齢者施設関係者のみが7月末以降に接種対象となったものの、「18~59歳の基礎疾患を有する人」と同じく、緩い「勧奨」(予防接種法8条)どまりとなった。

ワクチン接種は法律で義務化されていないため、政府は予防接種法附則7で、厚労相が自治体に接種を指示することができるようになった。あくまで強制ではなく、「奨める」(勧奨)と「受けるよう努める」(努力義務)の強度の違いでしかない。感染者と濃厚接触せざるをえないエッセンシャルワーカーは、主力が60歳未満なので、一律「努力義務」にして積極的に接種を急ぐべきだったのではないか。

60歳未満の医療関係者は当初、基礎疾患のある人(糖尿病、高度肥満などが基礎疾患とされ、高脂血症はなぜか外された)に限定され、しかも接種券も各居住の自治体任せになった。21年の1、2回目はワクチンを各医療機関が請求し、接種券がなくても事後の接種券回収でも良かったが3回目以降、厚労省はワクチン配布を接種予定数に限定した。各医療機関はたとえ職員であっても(明日、コロナの患者を処置して感染する危険のある医療関係者でさえ)接種券なしで接種することができなくなった。これが接種が遅れた理由の一つと言える。

それ以外のエッセンシャルワーカーは、オミクロン株になって若年層の感染が広がっているにもかかわらず、警察・消防関係者だけでなく、保育園、幼稚園などの従事者、さらに郵便、宅配、交通機関などまで接種対象外とされた。これが3回目接種による抗体が減衰して無防備のエッセンシャルワーカーを、現場に大勢送り出すことになった。幸い夏休みと重なって、保育園や交通機関などでの将棋倒しは避けられたが、医療従事者となるとそうはいかない。

確かに、7日間平均の新規感染者数は5月13日の全国39,962人以降徐々に減りつつあり、それが底を打って反転するのは6月20日の13,655人(2022年8月18日のオープンデータによる)だった。海外でもほぼ高齢者にしか打っておらず、5月下旬の4回目接種開始時点では成人全員に「努力義務」を課す決断は難しかったかもしれない。ただ、7月の参議院選挙前に第6波が鎮静化していてほしいという岸田政権の希望的観測と「油断」が、対コロナで最前線に立つエッセンシャルワーカーのアキレス腱を見逃すことになったともいえる。

それにしても、厚労省は姑息なことをやる。抜けていた60歳未満の医療従事者への接種が、どの時点から「対象外」からこっそり「勧奨」にシフトしたかを、政府の資料で追跡してみた。

厚労省は自治体向け説明会で「新型コロナウイルス感染症に係る予防接種の実施に関する手引き」という資料を出している。2022年4月28日の第13回説明会で、5月下旬から4回目開始と通知してから、以下のように3度の改訂でも、60歳未満の医療従事者は対象外だった。

新型コロナウイルス感染症に係る予防接種の実施 に関する手引き(8版)令和4年5月25日

新型コロナウイルス感染症に係る予防接種の実施 に関する手引き(8.1版)令和4年6月13日

新型コロナウイルス感染症に係る予防接種の実施 に関する手引き(8.2版)令和4年7月22日

そのp123には「第5章 追加接種(3回目接種、4回目接種)」の「1.追加接種の枠組み(3)対象者」として、「イ第2期追加接種(4回目接種)」が挙がっている。

第2期追加接種(4回目接種)については、3回目接種の完了から5か月以上経過し た以下の者を対象に、1回行うこととする

・60歳以上の者
・18歳以上歳以上60歳未満の者であって基礎疾患((第2章2(2)アの表1に掲げる基礎疾患をいう。))を有するものその他新型コロナを有するものその他新型コロナウイルス感染症にかかった場合の重症化リスクが高いと医師が認めるもの(以下「(以下「60歳未満の基礎疾患を有する者等」という。)

ご覧のようにどこにも医療従事者などエッセンシャルワーカーへの言及がない。ところが、新型コロナウイルス感染症に係る予防接種の実施に関する手引き(第8.3版)令和4年8月1日になると、いつのまにか後段に「並びに医療従事者等及び高齢者施設等の従事者」が加わっている。

第2期追加接種(4回目接種)については、3回目接種の完了から5か月以上経過し た以下の者を対象に、1回行うこととする

・60 歳以上の者
・18 歳以上60 歳未満の者であって、基礎疾患(第2章2(2)アの表1に掲げる基礎疾患をいう。)を有するものその他新型コロナウイルス感染症にかかった場合の重症化リスクが高いと医師が認めるもの並びに医療従事者等及び高齢者施設等の従事者

「対象外」になった60歳未満の医療従事者には当然、接種券が届かないので、例外的な扱いが必要になる。p141には「接種券が届いていない追加接種対象者に対して接種を実施する場合の例外的取扱い」の記述があり、接種券がなくても医療従事者が勤務先で打つ場合は打てると書いてあるが、あくまでも「接種対象者」に限られているため、「対象外」では落ちこぼれてしまう。

接種券は、接種実施医療機関等が接種対象者であることを確認する上で必要なものであることから、接種券が届かない追加接種対象者からの接種希望があった場合にも、まずは市町村への接種券発行申請を促すなど、引き続き、接種券を活用した接種実施を原則とすること。

ただし、ワクチン接種の予約に突然のキャンセルがあり、準備していたワクチンの廃棄を防ぐために、急遽接種を希望する者を募って接種を行う場合や、勤務先の医療機関で追加接種を受ける医療従事者や職域で追加接種を受ける者について、接種券発行の手続が間に合わず、接種日前に接種券 が届かなかった場合等、市町村からの接種券発行を待つことが必ずしも適当ではない場合においては、例外的な対応として、接種券が届いていない追加接種対象者に対して追加接種を実施することも可能とする。

この場合の事務運用については、「例外的な取扱として接種券が届いていない追加接種対象者に対して新型コロナワクチン追加接種を実施する際の事務運用について」(令和3年 11 月 26 日厚生労働省健康局健康課予防接種室事務連絡) 及び「 追加接種の速やかな実施のための接種券の早期発行等について 」(令和4年1月 27 日厚生労働省健康局健康課予 防接種室事務連絡) を参照すること。

おそらく7月に入ってBA5の感染急拡大で「院内感染」が広がり、泥縄式に医療従事者等を追加して「穴」を埋めようとしたのだろう。が、8版の5月25日に始まり、8.1版を経て、8.2版の7月22日まで、60歳未満の医療従事者を「対象外」としたまま放置していた判断ミスに、厚労省は口をぬぐって知らん顔である。

その隙をコロナウイルスは容赦してくれない。オミクロン株変異種BA2からBA5への入れ替えが急激に進むとともに、BA5の実効再生産数が1.2~1.3程度と高かったため、いったん底入れした感染者数が第6波を上回る大波となって全国に広がった。

しかし政府の反応は鈍かった。内閣官房コロナ対策推進室にシミュレーションモデル(COVID-19 AI & Simulation Project)を提供している名古屋工業大学の平田晃正教授のチームは、第7波の予測を次々に上方修正せざるをえなくなった。6月時点ではピークはお盆前後、都の新規感染者数で8000人程度と楽観視していたのだが、行動制限を行わず経済活動を優先する政府の方針と実効再生産数の高さから、7月11日にはピークの中央値を1万4000人に修正、同19日には2万人、同26日には4万人に引き上げた。修正値を追いかけるように実数のドットが上へ上へと駆け上がる。

内閣府COVID-19 AI・シミュレーションプロジェクト
平田晃正(名古屋工業大学)BA.5系統による陽性者数等のプロジェクション #4公開日2022.08.16

参議院選終盤の7月8日、奈良・近鉄大和西大寺駅前で2発の銃声が響きわたり、安倍晋三元首相が「心肺停止」で生死不明のさなか、厚労省と都の幹部が今後のコロナ対応をめぐって霞が関で会議を開いた。厚労省側は榎本健太郎・医政局長、佐原康之・健康局長、大坪寛子・大臣官房審議官(医政・精神保健医療担当)ら、東京都側は西山智之・福祉保健局長、佐藤智秀・健康危機管理担当局長らである。

その発言メモを見ると、厚生省本流の医政局長らを差し置いて、仕切っているのは女性医系技官の大坪審議官である。彼女は菅義偉官房長官の懐刀、和泉洋人・首相補佐官に取り入り、ミャンマー出張の際に同補佐官とコネクティングルームを予約したと週刊文春に暴かれた人である。補佐官との京都出張のツーショットまで“盗撮”された。菅政権退陣とともに、その和泉氏も後ろ盾となっていた杉田和博・官房副長官も政府外へ去り、影が薄くなるかと思いきや、厚生省に戻って大臣官房の審議官、それも筆頭格の座を射止めた。いまや「厚労省の女帝」と呼ばれる所以である。

省益を守ってテコでも動かない霞が関官僚を、局長級以上の人事権を握る官房長官のトラの威を借りて怒鳴りつけた和泉流を見習って、今度は厚労省の省益を守って門外漢には居丈高にふるまい、ねじ伏せるのが得意技だ。22年6月人事でも医薬品産業振興の担当が外れただけで、みごとに筆頭審議官留任。7月8日は参院選がじき終わり、前総理が撃たれるという状況まで織り込んで、政治判断するのは「この私」と言わんばかりだった。

来週半ば(7月14日)に専門家アドバイザリーボード会議を開催し、現在の感染拡大の評価をすることになる。国の方針を大きく変える局面にはないと考えており、重点措置や緊急事態宣言という話にはならない。医療提供体制はこの間、しっかり準備しておりジタバタしない。旅行支援について7月中旬に判断するといってきたが、どのようにいつ打ち出すのか、感染拡大、選挙終了という要素に加え、安倍前総理(銃撃)の事件もあり、政治日程が不透明で現時点ではわからない。

「国の方針」とは、経済活動回復のため行動制限はしない、という岸田政権の方針にほかならない。要は、嵐の過ぎ去るのを待つだけの「無為」の策である。それを「大きく変える局面にない」と考えるのは、だれが考えるのか。専門家会合はまだ開かれていないから、そのシナリオをつくる自分、もしくは厚労省の事務方ということだろう。過去の医系技官でこれほど上から目線で威張る人がいたろうか。

厚労省の事務次官や医政局長らには事前に根回しをしたのだろうが、彼らは文系なので彼女に異論を挟むことができない。急激なBA5株の拡大に浮足立つ自治体を前にして、彼女は4回目ワクチン接種の効果について懐疑的であることを隠さない。

薬事審議会の資料はすべてホームページに公開しており、これまでも説明している通りだが、4回目ワクチン接種については、感染予防効果が少なく、効果も1カ月で減衰するといった論文もある。対象者は安全性や効果を総合的に判断している。4回目接種が幅広い世代に有効であるというエビデンスがあれば、自治体側や医療側から示してほしい。

明らかに大坪氏は4回目接種の効果に否定的な予断があるようだ。二言目には「エビデンスはあるか」と問い詰めるのが彼女の口癖だが、「おまえは専門家でもない癖に口をだすな」と言っているにひとしい。出身の慈恵医大では准教授どまり、教授になれないと知って霞が関に転じただけに、周囲が門外漢ばかりとみると攻撃的になる。しかし彼女の予断もまたイスラエルやカナダ・オンタリオ州の報告などの聞きかじりで、確実なエビデンスを握っているわけではない。

自治体によっては対象者の判断にばらつきがあり、現場が混乱しているという都側の指摘に対しては、「対象者を行政が判断しなくていい。医師が判断すればよいと説明している」とつっぱねた。二重の意味で彼女らしい。ひとつは「行政は判断しない」という厚労省の保身――薬害エイズ以来の責任を取らない姿勢を貫徹していること。もうひとつは、医師である私以外は判断する資格がないと言っているにひとしいからだ。

有効性の「エビデンス」が国内で出てきたのは、8月17日である。国立感染症研究所が発表した「新型コロナワクチンの有効性を検討した症例対照研究の暫定報告(第4報)」。これはすでにアルファ株とデルタ株で有効性が確認されたmRNAワクチン(ファイザー製とモデルナ製)について、オミクロン型での有効性を検証したもので、7月4日~31日までに関東地方の複数医療機関の発熱外来等を受診した1624人を対象に、検査前に基本属性、新型コロナワクチン接種歴などを含む問診票に記載したデータから集計した。

この期間はBA5型が75%を占めていた時期であり、武漢で発生したアルファ型対応の現行ワクチンが、さんざん変異を重ねたオミクロンBA5型にどこまで効くかの「エビデンス」にあたる。海外でのBA5型への予防効果の比較研究はごくわずかで、疫学的な暫定評価として感染者におけるワクチン2回接種または3回接種のオッズがBA1/BA2とBA5とで大きく変わらないという結果がイギリスやポルトガルから報告されたにとどまる。

国立感染研の今回の結果は以下の通り。

BA5流行期においては、2回接種後5カ月後には発症予防効果は低程度だったが、3回目(ブースター)接種により発症予防効果が中〜高程度まで高まる可能性が示された。2回目接種と比較した3回目接種の相対的な有効率についても同様に、一定程度見込まれることがわかった。BA1/BA2に対する有効性と比較して一定程度有効性が減弱する可能性が示唆されたが、BA5流行期においても、2回目接種から半年弱後の有効性は低下した一方、ブースター接種によりワクチン有効率が高まるとされた。

ただし、有効率は1、2回目接種の時より予防効果が落ち、2回目接種と比較した3回目接種の相対的なワクチン有効率を算出したところ、3回目接種14日から3カ月では46% 、3回目接種後3カ月以降では30%であった。また4回目接種のBA5予防効果については、接種後のサンプル数が非常に少ないため、今回の報告では除外して解析したとしている。

国立感染研のオミクロン株ワクチン有効性研究暫定報告(第4報)より

国立感染研の脇田隆宇所長を座長とする「新型コロナワクチンの製造株に関する検討会」も8月4日、オミクロン株への対応をとりまとめているが、その中でも「従来の武漢株と現在流行しているオミクロン株との間の抗原性の差と比較すると、 オミクロン株の中での亜系統間の抗原性の差は大きくないことも示唆されている。オミクロン株対応ワクチンについて現在までに示されたデータの範囲内では、従来型ワ クチン(武漢株)と比較して、ワクチンに含まれる成分と異なる亜系統のオミクロン株に対しても中和抗体価の高い上昇が見られるなど、オミクロン株に対するより高い有効性が期待される」と重症化予防の有効性を認めている。

この「エビデンス」を大坪氏はどう考えるのか、ぜひ聞いてみたい。だが、厚労省はわれわれの情報開示請求にまったく応じず、大坪審議官も文春砲に懲りてか、いっさい表に出てこない。

武漢株対応のmRNAワクチンが、ウイルスの変異が進むにつれて回を追うごとに予防効果が減衰しているのは周知のことだ。名工大・平田モデルのシミュレーションでも、減衰は歴然としている。無症状感染が拡大しているのもそれと表裏である。

内閣府COVID-19 AI・シミュレーションプロジェクト
平田晃正(名古屋工業大学)BA.5系統による陽性者数等のプロジェクション #5公開日2022.08.18

米FDA(食品医薬局)は6月30日、秋に開始する新型コロナワクチンの追加接種を巡り、現在主流となっているオミクロン株の新たな派生型「BA4」「BA5」を標的に加えるよう、製薬各社に推奨した。これを受けてファイザーとモデルナは、従来型(武漢株)とオミクロン株BA4/5対応の2価ワクチンを開発中で、ファイザーは8月22日、この2価ワクチンの承認をFDAに申請、9月にも承認される見通しとなった。

武漢株対応の従来ワクチンの4回目接種の効果がさほど期待できないなら、この新型2価ワクチンを日本が承認し、輸入するのを待つほかないが、新ワクチンの接種可能な体制が整うのは早くても年末とみられる。それまでの「隙間」をどうするのか。結論としては、大坪審議官は従来ワクチンの追加接種に慎重になりすぎたのではないか。

65歳の岸田首相も8月12日に4回目のワクチン接種を行っていたにもかかわらず感染したから、やはり4回目接種は予防効果が乏しいと居直るのか、それとも抗体が十分できる前に感染したとみるか、首相周辺に出入りする無症状感染者にはもうお手上げだから、インフルエンザ並みに格下げして集団免疫をめざすしかないとみるのか。首相自身の感染は「行動制限なし」の是非を問うリトマス試験紙になりうる。

しかしタラレバだとしても、第7波の襲来に合わせて、せめて「60歳未満」のエッセンシャルワーカーにも追加接種を「努力義務」として積極的に打っていれば、医療機関などのひっ迫を緩和することができたのではないか。大坪氏をはじめとした厚生行政の中途半端な消極姿勢が、国民のあいだにワクチン接種への不信を招き、ファイザー製が払底して、余ったモデルナ製を廃棄するというアンバランスにつながったことも忘れてはなるまい。

そして8月24日、感染者の全数把握の見直しが岸田首相自身により発表された。把握の対象を重症化リスクの高い高齢者と基礎疾患を持つ人らに限定、厚生労働省令の関連規定を改正する。重症化リスクが低い患者を含め、医療機関がコロナ患者だと診断した人数は引き続き保健所への報告を求める方向だ。個々の患者の詳しい情報の届け出は重症化リスクの高い人に限定する一方、都道府県の感染動向を把握するには、感染者数の集計は続ける必要があると判断した。

数は把握しておくが、個別は年齢や既往症で限定するというこの方式、医療従事者の4回目ワクチン接種で「穴」をつくったのと同じ発想である。しかも判断は自治体に丸投げだ。ただ全数把握のために医師は患者の問診票1件につき3万1000円という高額の報酬を得ていて、バイトに問診票打ち込みの代理をさせてはいけないなどの制限があるのも、病院経営への補助金の側面もあったからだが、それを減額するのかどうかは分明でない。医療事務の軽減は、システムの修正や要員の手当てなど抜本策が必要だが、度々問題が報告されたHER-SYS(新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム)の電子カルテ連動など根本策にも触れていない。小手先の域を出ないのだ。

一時取り沙汰された、自治体指定の病院だけが患者の情報を届け出る「定点把握」の導入は、新ワクチンの予防効果測定の精度が大幅に落ちる懸念もあるので採用されなかったが、引き続き検討するとしている。高リスクの患者に対象を絞る手法との併用も視野に入れるが、指定病院の選定方法などについて専門家の意見を踏まえ、導入の可否や時期を探るという。

全数把握の緩和と合わせて、政府は水際対策の見直しも表明した。これは次回に取り上げよう。■