無縫地帯

塚田一郎副大臣失言辞任の「忖度」下関北九州道路、必要なのに叩かれる深刻度

国土交通省副大臣の塚田一郎さんが、保守分裂となった福岡県知事選で麻生派の一員として応援演説し安倍晋三さんと麻生さんのお膝元故に「忖度した」と発言、辞任に追い込まれる事態となりました。

統一地方選のさなかに自由民主党の国土交通省副大臣の塚田一郎さんが下関北九州道路を安倍政権実力者である安倍晋三総理や麻生太郎財務大臣のお膝元であることに引っ掛け「忖度した」と発言した騒ぎは、そのまま発言での騒動の責任を取っての塚田さん辞任という結論に落ち着いたようです。

仮に正直者であったとしても、立場上言ってはいけないことを口に出してしまい、みんなに迷惑がかかるあたりは困惑しかなく、しかも塚田一郎さんは麻生派であるあたりに派閥の領袖の暴言癖という特殊スキルを一身に相伝したと見受けられます。

塚田国交副大臣が辞任=忖度発言、事実上の更迭-政権、選挙への影響懸念:時事ドットコムpol https://www.jiji.com/jc/article?k=2019040500396

そもそもこの下関北九州道路は地元からの要請が強く、本州と九州を結ぶ関門トンネルとの重複インフラとはいえ輸送力や陸路が迂回路しかない現状を考えれば必要なインフラ計画であったことは間違いありません。だからこそ、本件下関北九州道路は与党・自民党と公明党だけでなく、共産党以外のすべての政党が容認していたわけでして、地元の負担を考えて国直轄事業として08年に一度凍結された建設計画を復活させた経緯があります。

塚田氏は福岡県知事選の自民推薦候補の集会で応援演説し、道路建設を推進する県選出国会議員らが副大臣室を訪れ「これは総理と副総理の地元の事業だ」と迫られたと明かした。「私はもの分かりがいい」と応じたとした上で「総理とか副総理がそんなこと言えない。私は忖度した」と語った。
下関北九州道路建設、「総理と副総理の地元」と迫られ…塚田副国交相「私が忖度」
この図の通り、関門橋・関門トンネルは陸路で言えば本州と市街地を一時間半ほど迂回しなければならず、この下関北九州道路が完成すれば30分ぐらいで行き来できるようになるため、地元からの要望が大きく、むしろ公明党が熱心に推進しようとしていた計画であったとされています。

詳しくは、こちらの地図をご覧ください。

忖度発言、地元統一選に影響アピール材料が一転、疑惑の的に(ヤフーニュース毎日新聞19/4/4)

また、国土交通省も2019年度は周辺自治体に対する建設計画のための調査費を予算化したのみで、具体的な計画に踏み込むにあたってはもう少し先の着手になるため、副大臣である塚田一郎さんは本件では文字通り何もしていません。

しかも、よりによって福岡県知事選での応援演説での塚田一郎さんの失言であり、その福岡県知事選は3選を目指す現職の小川洋さんも自民党系で、麻生太郎さん以下麻生派が応援する元厚生労働官僚の新人、武内和久さんが擁立されることで保守分裂になっています。その武内さんの応援演説で「麻生さんに忖度した下関北九州道路」という文脈で失言をして騒動にならないはずもなく、引責辞任自体は残念でもなく当然という事情があります。

福岡県知事選で雪崩現象追い詰められる麻生太郎(HUNTER(ハンター) 19/3/13)
福岡知事選で麻生副総理が現職批判(毎日新聞 19/2/3)

一方で、先にも述べた通り関門橋と関門トンネルは一部老朽化と渋滞が問題視されるうえに市街地を迂回していてやや遠いこともあり、下関北九州道路の建設は必要という地元の声が強いにもかかわらず、塚田さんの発言で「忖度道路」扱いにされてしまい、どうにもならなくなる可能性があります。

これは、動物や食料品に対する検疫や集約化された畜産事業の拡大でどうしても産業獣医師の人材育成が必要なのに、その獣医学部新設において安倍晋三さんとのお友達批判をされて立ち往生した加計学園のスキャンダルにも一種通じるものがあります。政治が英断を下して国民に必要とされる政策を先導して実現していくはずが、うっかり政治が関与したために通常の承認プロセスさえも問題視されて国会で延々質問されてメディアで叩かれることでかえって着手も実現も遅れてしまうという日本の残念な民主主義の現状とがあるように感じます。

勝手に忖度された安倍晋三さんも貰い事故的な感じもしないでもありませんが、そもそもが副大臣として塚田一郎さんを起用している以上、直接的には政権への影響は避けられないだけでなく、間接的にはやっぱり安倍政権は人事もお作法も長期政権ゆえの緩みが酷くなってきているなあという印象は受けます。「安倍さんに替わる人材がいない」というのは事実なのでしょうが、もはや大正義である自民党でさえ安倍さんの後を襲う人材がいないというのはかなり困惑する事態です。いまでは総裁4選の話まで出てきていますが、本当にいないのでしょうか。世界的な景気拡大で日本銀行の支援もあって安倍政権は安定した経済運営をできていましたが、今年来年から世界的な不況になっていく可能性が低くないことを考えれば、いま以上に慎重な対応が政権として求められるべきはずです。

今回は、下関北九州道路の建設自体は共産党以外反対する政党はいなかったわけで、共産党はまあご高説拝聴してそうですかそうですねと聞き流すとしても、余計なことを言って騒動を引き起こした塚田一郎さんに対して総叩きし、福岡県知事選への影響はあったし仕方なかったよねで終わらせるぐらいが一番良いような気がします。もちろん、麻生派が強行した自民党推薦の問題も含めて麻生太郎さんの求心力は低減してしまうかもしれませんが、外相である河野太郎さんの総裁選出馬も含めてそろそろ次の世代、新しい政治、国民のニーズをくみ上げられる仕組みの充実にどんどん舵を取ってほしいなあと願う次第です。