尖閣海域 「緊迫」作られた危機
               海上保安庁サイト(https://www.kaiho.mlit.go.jp/)より

尖閣海域 「緊迫」作られた危機

日本、中国が互いに領有権を主張し、日中間の喉に突き刺さった棘ともいわれる尖閣問題――アメリカ主導の中国包囲網構築の中で更に深刻さを増し、中国が今年2月1日に海警法を施行してから尖閣水域は一触即発の如く報道されている。しかし、それは決して事実ではない。日本の愛国政治団体の用船「桜丸」と「鶴丸」の挑発的なデモ操業による「作られた危機」ではないのか。=7400字

 

直近の全国紙2紙の尖閣関連の見出しを拾ってみよう。

「尖閣沖、中国船4隻領海侵入」(朝日、2021年10月21日 5時00分配信)

「尖閣領海に中国公船4隻、政府が情報連絡室を官邸対策室に格上げ」(読売、2021年10月20日 11時20分配信)

朝日・読売新聞とも10月9日に発生した中国海警局艦艇の尖閣領海侵犯を報じたものである。中国の海警法施行以前から、日本の新聞・テレビは中国艦艇の尖閣水域に進入する度に逐一大きく報道してきた。しかし、その内容は極めて偏ったもので大きな誤解を与えている、と言わざるを得ない。日本の新聞・テレビは尖閣水域に領海、接続水域、排他的経済水域(EEZ)とその外側にある公海の4種の水域の航行制限の違いをネグって中国艦艇が侵入、侵入と大騒ぎするばかりである。こうした報道を連日見せられれば、読者・視聴者は日本国が固有の領土と主張する尖閣諸島とその領海を中国艦艇が我が物顔で遊弋ゆうよくし、中国が明日にでも上陸・占領してしまうのではないか、との危惧しか持つまい。

"侵"入なのか、"進"入なのか

まず、尖閣諸島周辺海域をつぶさに見てみよう。尖閣周辺水域は3本の線で4水域に分けられる。基点となる領土から12海里が領海、基点からは24海里(領海外12海里を含む)が接続水域、その更に外側に基点から200海里(接続水域外周から176海里)の排他的経済水域(EEZ)の3つの海域を構成し、その外は公海と4段構えになっている。重要なのは接続水域、EEZとも津軽海峡、対馬海峡などとの公海と同様、航行の自由が認められている、という点である。

中国の領有権主張の是非はともかく、領海への進入は紛うことなき尖閣を固有の領土とする日本政府にとっては侵犯ではあることは明白だが、日本の新聞・テレビが海警法施行以来逐一報道してきた中国艦船侵入報道の舞台の殆どは領海ではなく、公海と同じく自由な航行が認められている接続水域とEEZだった。中国艦艇が進入してもまったく違法ではない。

冒頭に掲げた直近の朝日・読売記事は領海侵犯を報じたものだが、海警法施行後の報道を一瞥すれば、領海と接続水域をはっきりと区別せずに中国艦艇の進入を報道しているケースがほとんどである。今年6月4日20時03分に朝日新聞が「尖閣周辺の中国公船確認、112日連続最長記録を更新」と見出しを打った記事を見てみよう。

 沖縄・尖閣諸島周辺の領海外側にある接続水域で4日、中国海警局の公船「海警」4隻が航行しているのが確認された。接続水域での航行は2月13日から112日連続。2012年の尖閣国有化後、最長だった111日連続(昨年4~8月)を更新した。領海への侵入も今年は3日までに18件起き、漁船への接近もたびたび発生。海上保安庁は巡視船12隻を専従させて警戒を続けている。(太字部分は筆者による)

接続水域への進入は前述のように国際法上まったく問題はない。それを「接続水域での航行は2月13日から112日連続」と殊更に書き立てるのは、その日数が正確であっても後に続く領海侵犯を脚色し、それ自体が違法行為であるとの印象を与えるばかりである。これは朝日新聞に限らず、新聞・テレビはみな大同小異である。

さて、肝心の中国艦艇による尖閣領海侵入だが、日本が国有化し中国全土で反日暴動が起きた2012年9月からその年末までに中国艦艇の領海侵犯は月平均5回。翌13年は年54日、月平均で4.5日と減少に転じる。それから5年後の18年は19日、月平均で約1.6日。19年が32日で2.7日、20年が29日、月平均2.4日と国有化直後の領海侵入が最も多かった時期の半分程度にまで減っている。そして、海警法施行後もこの傾向は変わっていない。中国艦艇による領海侵犯は確実に半減し、尖閣領海は緊張どころか平穏化していることがこの数字から読み取ることができる。

中国艦艇の尖閣領海侵犯はなぜ半減したのだろうか?

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