無縫地帯

「効かない認知症薬」が不用意なアルツハイマー病認定を生み、薬害認知症を作っている可能性

認知症のひとつであるアルツハイマー病と診断される高齢者の不自然な急増と、充分な検査なしに投与される認知症治療薬、さらにはその薬に効果がない問題について、議論になっているので整理してみました。

先日、国内大手製薬会社のエーザイが、アルツハイマー病治療薬の治験中止を発表し、株式市場だけでなく効果的な認知症薬の利用に期待を寄せる患者や家族からも落胆の声が上がり、大きな騒ぎになりました。

相次ぐ“治験中止”…「認知症」の新たな治療薬の開発が難しい理由を聞いた(FNN 19/3/15)

社長が「認知症薬は失敗しない」発言のエーザイ、あえなく失敗で時価総額4500億円ほど吹き飛ぶ(市況かぶ全力2階建 19/3/23)

FNNの記事では比較的穏やかに論点を整理していますが、つまりはアルツハイマー病の治療薬については、病気の発生原因までは分かっているものの、記憶障害などの症状を持続的に改善する新薬の創出には失敗し続けているという現状があります。

エーザイ、製品化目前の認知症薬を開発中止(日本経済新聞 19/3/21)

「認知症薬は失敗しない、全身全霊を傾ける」 | インタビュー/エーザイCEO 内藤晴夫(東洋経済プラス 19/2/23)

この東洋経済でエーザイの経営者が大見得を切るインタビュー記事を出した一か月後に、偽薬さえも下回りかねない惨憺たる治験の結果をもってフェーズ3での治験中止に追い込まれるというのは屈辱とも言えます。この記事の聞き手である大西富士男さん、井下健悟さんの持っていきかたが上手かったのか、広報の煽り方が良かったのかは分かりませんが、かなりの自信を持っているはずの認知症薬の治験が最終段階での断念というのは忸怩たるところだったのでしょう。「最終段階のフェーズ3の臨床試験では『失敗のしようがない』と言ってよく『その手ごたえは、圧倒的』と言える」「認知症薬は失敗しない、全身全霊を傾ける」という経営者・内藤晴夫さんののめり込み方が印象的な内容でした。

しかしながら、このエーザイと米バイオジェンの治験失敗に先立ち、そもそも認知症医療の実情に大きな懸念を投げかける記事が橋本財団の医療系サイトに掲載され、認知症や介護界隈では大きな話題となっていました。

非常に衝撃的な内容ですので、もしもこの界隈にご関心のある方は是非ご一読いただければと思います。

認知症医療の荒廃-抗認知症薬に関する公開情報の分析から-(医療・福祉の専門家らによるwebマガジン オピニオンズ 19/2/26)

問題を提起した精神科医師・小田陽彦さんの指摘する内容は:

1)アルツハイマー治療薬なるものが処方できるようになった1999年以降、アルツハイマー病と診断される認知症患者の割合が不自然に激増していること

2)アルツハイマー病の診断前に適切な血液検査が行われておらず、不適切な抗認知症薬を処方されている危険があること

3)現在処方される4種類の抗認知症薬の試験結果を見ると、多くの試験で抗認知症薬の効果は偽薬を上回らず、不合格であること

がデータに基づいて指摘されています。4つの抗認知症薬のうち、レミニール(ヤンセンファーマ)]、[https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med_product?id=00059689-004 イクセロン(ノバルティスファーマ)]、[https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00062587 メマリー(第一三共)]はいずれも日本人アルツハイマー病患者への治療結果が偽薬を上回らないうえ、アルツハイマー病以外の認知症性疾患に対する効果があるとは言えないことがはっきりしています。ところが、[https://www.seedplanning.co.jp/press/2010/2010122801.html 2011年にこれらの有効性が必ずしも検証されていない抗認知症薬が相次いで認可されると市場が拡大するとともにアルツハイマー病と診断される認知症患者が引き続き増えていくことになります。

小田医師の指摘通り、アルツハイマー病は感染症ではないため、高齢者(認知症患者、認知症予備軍)が増えたとしてもアルツハイマー病だけが有意に増加することはあり得ず、本来はアルツハイマー病ではない患者に対してもアルツハイマー病に効果があるとされていた薬が処方されてしまっている懸念が強くあります。

つまり、アルツハイマー病とは別の病気の患者に効くはずのないアルツハイマー病治療薬が処方されていたり、診断がたまたまアルツハイマー病で合っていたとしても薬の効果は平均的には偽薬を上回らなかったりする、非常に由々しい状態であると推測できます。

物忘れの症状に対して抗認知症薬を安易に処方し、抗認知症薬は認知症のうちアルツハイマー病にしか効果が確認されていないことから、処方を正当化するためにアルツハイマー病の診断を乱発するようになったというのが実際であるように思われる。平成11年までは認知症患者の5人に1人がアルツハイマー病と診断されていたのに対し、平成26年ではそれが5人に4人となった。これを認知症医療の進歩と言えるだろうか。むしろ後退、否、荒廃と言えまいか。
認知症医療の荒廃-抗認知症薬に関する公開情報の分析から-
アルツハイマー病という不正確な診断の結果、何割かの認知症患者が間違った薬を飲んでいる可能性が捨てきれず、これらの問題は事実上の薬害の可能性もあり、また、高齢者向け医療費・医薬品費が不適切に計上される恐れもあります。これらの負担は当然のように国庫や私たちの支払う社会保険料から出ているわけで、問題となり得ます。

これらの適切な治療を行うための検査が充分になされず、また、効果があるとは言えない処方箋が医師によって行われる背景には、製薬会社からの資金提供を受けて投薬ガイドラインを作成したり、これらの薬を「効果がある」として講演をする医学部教授など医療関係者がいるからに他なりません。

それこそ、画期的な認知症治療薬が出てくるのであれば、それは大変素晴らしいことだと思うわけですが、エーザイが今回治験中止した医薬品候補以外にもトライするようです。頑張ってほしいと思います。

ところが、回ってきた資料を見る限りでは、この新薬「BAN2401」の週1回投与を18ヶ月続けた際の効果は、偽薬(プラセボ)投与と比べてもADAS-cogの点数悪化を2-3点分抑えるだけのようで、既存の薬であるアリセプトと余り変わらないだけでなく、アルツハイマー病の症状進行を阻止する効果はこれまでの治験で観察されていない風に見えます。

エーザイ、別の認知症薬に望みつなぐ最終治験を開始(日本経済新聞 19/3/22)

それだけ認知症治療薬は効果があるものが市場から求められていて、患者本人や支えるご家族の悲願でもあるのでしょうが、適切な診断と処方箋がない限りは事態は改善しないことは明確ですので、一刻も早い対処が求められているように思います。