データ資本主義のなれの果てであるところの「破産者マップ」事件について雑感など
話題となった「破産者マップ」は、個人情報保護委員会の行政指導でジエンドという早期終結で幕を閉じましたが、残した議論は短期間の割に濃いので雑感を書きたいと思います。
ここ数日ネット民の間で大きな話題となった「破産者マップ」ですが、とりあえずは現状利用できない状態になっているのでまずはなによりであります。事の経緯と何が問題であったのかについては以下の記事などが参考になると思われます。
「破産者マップ」閉鎖、「関係者につらい思いさせた」(ITmedia 19/3/19)
破産者マップ閉鎖、運営者謝罪「申し訳ございませんでした」(弁護士ドッドコム 19/3/19)
批判相次ぎ破産者マップが閉鎖|違法性について弁護士が解説(シェアしたくなる法律相談所 19/3/19)
「破産者マップ」運営者に行政指導…サイト閉鎖(読売新聞 19/3/20)
同委員会は、個人情報保護法の「本人の同意を得ないで個人データを第三者に提供してはならない」などの規定に違反するおそれがあるとして、行政指導に踏み切った。読売新聞一般的な社会常識に照らし合わせて考えればサービス停止は至極当然の帰結であると思うわけですが、こうした事件が起きるのは行き過ぎたデータ資本主義のなれの果てでもあるなという印象も覚えます。今後削除されてしまう可能性があるのであえてTwitterのリンクは貼りませんが、以下に問題となった当該サービス運営者の言い訳を抜き出して引用してみます。
国や自治体が持っているデータ、公表しているデータの表現方法を変えれば、そのデータの持っている本質的な価値に近づけるのではと思いますこの文言だけから何かを汲み取るのも愚かしいことではありますが、このサービスを立ち上げた御仁にはなにやらデータ原理主義的とも言えるような発想があって、その各々のデータには各個人の実人生が紐付いているという点にはあまり興味がないというか、あえて気付かないふりをしている、もしくは本当にそういうことが理解できていないほどに社会的通念が欠落しているということなんでしょうね。
そもそも、破産法の官報公告の趣旨(条解破産法・弘文堂2010年)では、「破産手続の関係者に対する裁判の告知や書面の送付を速やかにかつ経済的に実施するためのものであって、破産者の破産の事実を世間に周知させるためのものではない」としています。このデータをスクレイピングすることは破産法の観点からも趣旨と異なるわけで、個人情報保護委員会が早期にきちんと仕事をしたことも含めて、やはり望ましくないことという整理で良いのではないかと思います。
ちなみにネット上にある官報データをスクレイピングするという行為についてどう捉えるべきかについては高木浩光さんがツイートされており大変参考になります。
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こうしたデータ原理主義もしくはデータ資本主義に基づく個人情報の活用を突き詰めていけば、本来の資本主義とはやや縁遠いところにある中国の今のあり方にも近づいていくわけでして、それはそれでまた興味深いといいますか、こういうものを求めるのが人間の業ということなのかとちょっと暗い気持ちにならなくもありません。
中華の個人スコアリングが興味深い|山本一郎(やまもといちろう)(note 19/3/18)
で、ネット上では今回の破産者マップ事件についてどこまで本心からそういう発言をしているのかはよく分かりませんが、若者がTwitter上で暴走したりしている姿も観察されてこれはこれでなかなか微笑ましいと言いますか、若者特有の逆張りで極論を公に晒すことで注目されたいという一種の承認欲求行動なんでしょうが、もしかしたら素で本当にそういう言説を信じ切っているのだとすればそれなりに優秀そうな若者でもありそうなだけにやや残念な事例なのかなとぼんやり思ったりはしているところです。昔から三つ子の魂百までという格言もあるので、そのまま大人になってライブドアみたいなことやらかすんですかね…。
そして、やはりというか、確信犯と申しますか模倣犯が発生しているようです。
適法性の疑わしいサイトによる被害拡散の怖れがありますのでURLはご紹介しませんが、すでに適切に運用されているルールはちゃんと遵守してイノベーションのタネを探してほしいものだとつくづく思います。