無縫地帯

Appleの迷走、折りたたみスマホの登場… このところのスマホのトレンドを俯瞰して眺めてみる

スマートフォン市場が完全に成熟し、次のブレークスルーまでメーカー各社迷走を続けている印象ですが、ここにきて「折りたためるスマホ」が登場、AppleもiPhone値引きに出て状況は混乱しています。

なんだかんだ言われつつも世界のスマホ市場においてそれなり以上の存在感を維持できていたAppleのiPhoneですが、これまでのような強気の価格で押し通すのはかなりむつかしくなってきたことをうかがわせる報道が増えました。

アップルが中国でiPhoneをディスカウント販売、XRを100ドル値引き(フォーブス ジャパン 19/1/11)

iPhoneの売上不振のニュースが相次ぐなか、アップルが一部の市場でさらなる値下げを実施したことが明らかになった。Yahoo Financeが掲載した記事で、アップルが通信キャリアや販売店への卸価格を引き下げ、同社の名に傷がつかないように、値引きを行っていることが分かった。これは姑息な戦略ともいえる。フォーブス ジャパン
ハード面でもソフト面でもiPhoneとAndroidの差はスマホが登場したばかりの頃に比べればほとんど無くなった、もしくはAndroidの方が上回ることも珍しくなくなった状況において、iPhoneだけがプレミアム価格で売れ続けることを期待するのは相当無理があると言えるでしょう。もちろん、ブランドや安心感、周辺サービスの親和性など、単にスマートフォンというハード単体の良し悪しで全部が決まるわけではない部分も大きいわけですが、AndroidもiPhoneと遜色なくサービスを利用できるようになって久しいいま、割高に見えるiPhoneを積極的に選ぶ理由もない、と言えなくもありません。

さらに言えば、高性能が売りのAndroidスマホにしても、多くのユーザーにとってはもうそれほどスペックの高いものは必要とされておらず、OSやセキュリティの最新アップデートを無視して単に使えれば良いということであれば少しぐらい古い型落ちモデルでもあまり支障をきたさないほどにハード面は熟成した感があります。実際、スマホの買い替えサイクルはエントリー層、ハイエンド層共に昔よりも広がっているとされ、成熟しきっていることもありマーケティング面でも困難が伴うのは事実のようです。

このあたりはPCが辿った道でもありますが、PCに比べてスマホはこうしたコモディティ化へ到達する時間が本当に短かったわけでして、テクノロジー進化の加速には感慨深いものがあります。いまやスマホは生活やビジネスの必需品であるだけでなく、本人認証や決済手段にすら使われるようになり、単に便利だという言葉では済まないぐらい浸透しているわけですから、PCの成熟過程よりもスマホはもはや先行してしまったとも言えるでしょう。

で、端末メーカーとしても事業を維持継続していくためには薄利多売ばかりはしていられないということなんでしょうが、いかに高い付加価値をスマホで実現するかを追い求めた結果、かなり高価な飛び道具的製品が作り出されることになっているようです。

サムスンの折りたたみスマートフォン「Galaxy Fold」、その革新性と“開拓者”ゆえの課題(WIRED.jp 19/2/21)

技術面での先進性をアピールした一方で、大小ふたつの画面を使い分けできる特徴をいかに生かせるのか、ハイエンドのスマートフォン2台分という価格でいかに消費者に訴求できるのかなど、新市場を開拓するがゆえの課題は少なくない。WIRED.jp
ファーウェイの5G折りたたみスマホ「Mate X」の価格は約29万円(TechCrunch Japan 19/2/25)

折りたたみスマホは値が張る。5Gスマホもそうだ。では5Gの折りたたみスマホはどうか。借り入れを覚悟した方が良さそうだ。TechCrunch Japan
ディスプレイそのものを折りたたみ可能とするために費やされた開発リソースなどの諸々を考えれば、この価格設定でもメーカー側としてはそれほど美味しい商売ではないのかもしれません。エンドユーザーからすると率直なところスマホにこうした機能は必要なのか、そして付けられた高い値段はそれに見合うコストなのかということを考えるとなかなか微妙ではありますし、メーカー自身も疑問を感じているところはあるようです。

OPPOも折りたたみスマホ。見た目はHUAWEI Mate Xそっくり(Engadget日本版 19/2/25)

(折りたたみは)ユーザーエクスペリエンスを大きく向上させないとして、今のところ量産計画はないとのこと。Engadget日本版
こうした“折りたたみスマホ”を作って売るメーカー側は本当のところ一体何を考えているのかという点については、ITジャーナリストの本田雅一さんが興味深い論考記事を書かれておりました。

10周年のGalaxy S、そしてFold。「安定良品」と「積極挑戦」の向こうに見える悩み(Engadget日本版 19/2/26)

これからの10年、新たな方向へと進化する方向を示した"新たな原機"なのかというと、そこには大きな疑問があるということです。このプロジェクトを進めてきたサムスンには敬意を表しますが、問題はこの取り組みの先に"奔流となるトレンド"があるのか、それともないのか。
(中略)
個人的には、Foldは面白いトライアルだと思いますし、このトライアルの先に別の成功があるのかもしれません。しかし、現時点でサムスン自身が、"Foldをシリーズ化していった先"に何かのビジョンを観ているようには思えないのです。Engadget日本版
作ってみたけれど量産化は考えていないというOPPOはずいぶん正直といいますか、逆にサムスンやファーウェイは商売としては失敗するかもしれないけれどとりあえず市場に製品を出してしまえるほどには十分な企業的体力があるということを世間に知らしめたかったということなのかもしれません。自動車業界にも売るつもりのないコンセプトカーを出展することが多くありますが、そういうノリなのでしょうか。ソニーは最新モデルで4K有機ELを搭載してきましたけれども、これもスマホでそこまでする必要あるのかというモヤモヤしたものを感じますが、企業としてそこまで出来ますよということを示すアピールの一環と考えれば、ああそうなんだろうなという納得感はあります。

ソニー「Xperia 1」の魅力と不安。世界初、4K有機EL“超縦長”ディスプレー搭載(BUSINESS INSIDER JAPAN 19/2/26)

個人的にはスマホ的なモバイルデバイスで大きい画面が使えればそれはそれでうれしいですが、単に端末が大きくなるのは持ち運びが面倒だし、折りたたみも結局は使い勝手が悪そうであまり魅力を感じません。ポケットに入らないサイズである、というだけで、それはもう普段使いのツールとしては致命的な欠陥であり、iPad miniも便利だけどなかなか頻繁に買い替えようと思えないというのと同じではないかと感じます。それが、折りたためるんですよ、タブレットサイズだけどポケットに入りますと言われても…という。

理想としては手に持つ必要もなくどこでも大きなディスプレイ的機能を発揮できるAR的なもので、なおかつ街中で装着しても不気味な姿にならない何かが登場してほしいところではあります。MicrosoftのHoloLens 2は面白そうですがまだまだ高価で発展途上な上に見た目が怖すぎますよね…。

マイクロソフト、「HoloLens 2」発表--約39万円、視野角は2倍に(CNET Japan 19/2/25)

おそらくは、スマートフォンという商材が、ポストスマホのブレークスルー待ちの状態にあるからこそ、このような迷走を各社がし、Appleでさえもブランドイメージとセールスを維持するのに必死になっている状況というのはまだしばらくかかるんだろうか、という印象を拭えません。