無縫地帯

米国市場でスマートスピーカーがいよいよブレイクしそうに見える件

しばらく普及がゆっくりであったAIアシスタントやスマートスピーカーが英語圏を中心に伸び始め、本格的に「ポストスマホ」の機器として効果を認知され始めたようです。

日本市場では相変わらずギーク層中心の話題でしかない印象の強いスマートスピーカー(あるいはもっと広く音声アシスタント)製品群ですが、米国市場ではいよいよキャズムの壁を乗り越えてマジョリティ層へも普及しつつあることを示唆するようなマーケティングデータが出てきたようです。

普及曲線に入ろうかという状況にも見えます。

アメリカでスマートスピーカーは2018年に臨界質量に達した(世帯普及率41%)(TechCrunch Japan 18/12/29)

アメリカのスマートスピーカーの世帯普及率は2018年に41%に達し、2017年の21.5%に比べて倍近い増加だ。TechCrunch Japan
新年早々に開催された見本市「CES 2019」でも音声アシスタント関連製品・サービスが話題で占める割合もかなり高かったように見受けられます。

CESで存在感を増すグーグル、アマゾン。「家電プラットフォーム戦争」の行方は?【CES2019】(BUSINESS INSIDER JAPAN 19/1/11)

CES2019で、アマゾンはTelenavやHERE Technologiesといった車載サービスを展開する大手プロバイダーとアレクサとの提携を発表。一方、グーグルはメーカーがGoogleアシスタントの一部機能を簡単かつ安価に製品に組み込めるプラットフォーム「Google Assistant Connect」を公開。BUSINESS INSIDER JAPAN
家電やクルマへ広がるAlexa音声制御。CESに登場したAmazonの戦略とGoogle対抗(Impress Watch 19/1/17)

米Amazonは、今年のCESにて、Alexa関連の大きな独自ブースを用意した。ライバルであるGoogleも屋外に独自ブースを展開、広告などで積極策に出ていることから、CES会場は、「家電関連でのAmazonとGoogleの躍進」を強く感じる状況にあった、といっていい。Impress Watch
こういう記事から感じることは米国市場における音声アシスタントの受け取られ方が明らかに日本市場におけるそれとは熱量が異なるということでして、このあたりは以前から気にはなっているのですがここまで盛り上がり方が違ってしまう主な原因はやはり言葉や文化の差異ということなのでしょうか。

で、この米国におけるスマートスピーカーの受け入れられ方の背景をうかがうヒントみたいなものが次の記事の中に書かれているのを見つけました。

スマホ至上主義、見えてきた終わりの始まり(ウォール・ストリート・ジャーナル日本版 19/1/16)

首都ワシントン在住で連邦政府の弁護士として働くマイケル・ウッズさん(32)の新年の抱負はスマホの利用時間を減らすこと。そこで出番となるのが、所有するスマートスピーカーのアマゾン「エコー」2台と「グーグルホーム」だ。「スマホを捨てたいからではなく、今という時間に集中したいからだ」とウッズさんは言う。
(中略)
問題のあるスマホの使い方を研究するワシントン大学の研究者、カイ・ルコフ氏によると、最近の製品は、スマホとはユーザーの注意を引く方法が異なり、スマホから次から次に送られてくる通知にイライラしている人には魅力的かもしれないと指摘する。「スマートスピーカーなら私が出したリクエストに反応するだけだ」とルコフ氏は話す。ウォール・ストリート・ジャーナル日本版
確かに「スマホで際限なく情報を摂取してしまう」状況から自分を隔離したくなる気持ちは分かります。

なるほど、どうやら近年スマホでは標準的な機能として普及してきたプッシュ通知がウザイので、命令したときだけ動作するスマートスピーカーが好ましいということのようです。それならスマホのプッシュ通知機能をオフにすれば良いだけのような気もしますが、いちいち設定するのが面倒ということなのでしょう。実際、プッシュ機能が必要なときもありますし。しかしながら、スマートスピーカーをはじめとした音声アシスタント機器が今後普及して機能が強化されていけば、スマホ同様にプッシュ通知も取り込まれていくような気がしなくもありません。通りかかったらスマートスピーカーに呼び止められる的な。そうなるとまた事情は変わってくるのかもしれないですね。いずれにしろ、スマホのプッシュ通知がウザイというような理由だけから日本でもスマートスピーカーに注目が集まるかというと、それは何か違うのような気もしますが…。

で、スマートスピーカーにはスマートスピーカーなりの闇の部分もあるわけですが、そのあたりの問題についてはまだ多くの人は気付いていないという可能性もありそうです。

スマートスピーカーは性能が良いほどプライバシーの不安も大きくなりそうですね(ヤフーニュース個人 山本一郎 18/12/30)

なお、スマートスピーカー的なものの普及において言葉や文化の差異がどれほど影響するのかについてはとても示唆的な解説記事があったのでご紹介しておきます。

スマートスピーカーはどのように人間の言葉を理解しているのか?(ZDNet Japan 19/1/17)

スマートスピーカーのもう一つの課題は、多数派(マジョリティ)にとって便利なように構築されていることが多いということです。AlexaやSiriが提供する回答は、学習データの大部分を生成した人々のニーズに適合するようになっているため、少数派(マイノリティ)にとってはそれほど役に立たないかもしれません。ZDNet Japan
つまり、今のところは開発の本拠地である米国でのニーズに基づいて色々と進化しているため、それ以外の地域向けにはあまり適していない製品となっていく可能性が大きいという現実はあるだろうということですね。

とりあえず今後はより市場規模の大きな中国での動向がいろいろと話題になりそうではあります。

アップル、中国AIスピーカー市場に、米国企業初参入(JBpress 19/1/16)

アップルは米国のAIスピーカー大手の中で、初めて中国に本格進出する企業だと米ベンチャービートは伝えている。HomePodが、北京語と広東語に対応し、さまざまな現地向け音声サービスを提供するからだ。JBpress
まあ、ご多分に漏れず中国市場ではすでに国内メーカーがスマートスピーカーについても熾烈なシェア争いを繰り広げているそうなので、Appleのブランドがあるからといって楽な戦いではなさそうですが、一方で中国経済が急減速している状況で「中国版テックバブルの崩壊」が予見され、一番最初の槍玉に挙がるのがこの手のスマートスピーカーのような民生ICT機器だという観測もあります。

何事も、一本調子で良くなっていくことはない、ということなのでしょうか。