無縫地帯

広告モデルで賄うタクシーが登場するMaaSな時代だそうです

昨今、MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)という概念が急浮上してきて、マイカーという概念が希薄化するかもしれないという議論が盛んになりつつあります。

最近意識の高そうな人々の間で人気のバズワードの一つに「MaaS」というのがあります。「Mobility as a Service」の略で、MaaSは「マース」と読むと周りからバカにされずに済みます。ただ、海外の人とテレフォンカンファレンスしてうっかり「マース」というと「火星(Mars)」を想起され不思議な顔をされるので注意が必要です。

このMaaSについては、国交省の国道交通研究所が発行する機関誌「PRI Review」でも華々しく取り上げられたりしておりますので、気になる方は是非リンク先のPDF書類に目を通してみてください。

MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)について(PDF書類 PRI Review69号)

MaaSは、ICTを活用して交通をクラウド化し、公共交通か否か、またその運営主体にかかわらず、マイカー以外のすべての交通手段によるモビリティ(移動)を1つのサービスとしてとらえ、シームレスにつなぐ新たな「移動」の概念である。PRI Review69号
個人的には国内の主要な交通系ICカードなどまさにMaaSの先駆けと考えても良いのではないかと思いますが、どうしても議論のあり方としては海外の事例を先進であり見習うべきものというニュアンスが感じられてちょっともどかしいものを感じなくもありません。

そもそもMaaSという概念が生まれた経緯については以下の記事がかなり参考になります。

マイカー半減…次世代交通「MaaS」の衝撃(日経ビジネス 18/12/5)

もともと「サービスとしてのモビリティ(MaaS)」という考え方は、マイカーに対する概念だ。日経ビジネス
つまりMaaSとは、移動手段が自動車中心の社会においてICTという便利なツールを活用することで自家用車(マイカー)という存在からいかに自由になれるかを改めて考えなおしてみるという社会運動であるとも解釈できます。日本の場合、とくに東京や大阪をはじめとした大都市圏ではすでに公共交通機関が主たる移動手段として定着しているため、今さらMaaSと言われても何が新しいのか分かりにくいというのが実感です。しかし、公共交通機関がほとんど機能しておらずマイカーが無ければ生活が成り立たないような地域においてはこれから大きな課題となりそうな話ではあります。

とりわけ、社会問題になっている高齢者の自動車運転での事故は、地方で暮らす高齢者は足となる車がなければ生活できないが、車を運転しこなすには認知の問題などで充分な運転スキルを喪失している場合もあります。それまでは乗り合いバスなど公共交通機関も選択肢に上がっていたものが、過疎地域では当然本数が少なく、地域住民の足というには不便すぎる事情があるため、どうしてもMaaSに対する期待が寄せられざるを得ない、という側面はあります。

さて、今後いろいろとMaaS的な新しい試みが出てきそうではありますが、すでに公共交通機関が十分に事足りているであろう首都圏においてまさにMaaS時代を象徴するようなサービスが登場したようです。

DeNAが「0円タクシー」広告主が運賃支払い(日本経済新聞 18/12/5)

運賃を無料にするのではなく、広告主やDeNAが負担する仕組みにすることで法律的な問題をクリアしたという。
(中略)
配車エリアは港区や中央区などの都心部に限られるが、東京23区内全域への運行が可能だ。
(中略)
各社が配車サービスで競うのは、移動手段をサービスとして提供する「MaaS(マース)」時代を見すえているためだ。日本経済新聞
いよいよ広告モデルでタクシー料金が実質無料になるということでして、以前にも福岡のベンチャーがそうした企画を目論んでいることが報じられたりしておりましたが、まさか東京で先にそんな無謀ともいえそうなサービスが実現してしまうとはかなりの驚きです。

さすがに色々と規制が厳しいタクシー事業であるということもあり、かなり裏技的かつ限定的な運用ということで、おそらくは赤字覚悟のごく短期的なPR活動なんだろうと予想したのですが、DeNAとしては継続した事業展開の意志を表明しており、挑戦的にいろいろ取り組んでいこうという姿勢には共感します。

DeNA「0円タクシー」都内に拡大AI活用し効率化(産経ニュース 18/12/5)

DeNAの中島宏執行役員は「一時のキャンペーンとは考えていない。他にもお声がけいただいている」と述べた。産経ニュース
しかしながら、さすがにこういう多くの人目にさらされることを主眼とした広告モデルだと、地域住民のための公共交通手段が不足しがちな地方の過疎地には応用できないでしょうからあまり理想的なアイディアではなく残念に思います。また、都内であれば停車回数は多いものの移動距離自体が少なく、地方の過疎地は長距離移動だけでなくアップダウンもあるため、なかなか採算に合わないであろうという話になると、MaaS普及には都市生活の基盤が不可欠、という結論になりそうで、それはそれで…と思う部分がありますね。はい。