無縫地帯

中国ファーウェイ(華為技術)社副会長、イランへの密輸でカナダ当局に逮捕

中国通信機器大手、ファーウェイ社(Huawei;華為技術)の副会長で最高財務責任者(CFO)の孟晩舟氏が、対イラン制裁違反の疑いでバンクーバーでカナダ当局に逮捕されました。

中国通信機器大手、ファーウェイ社(Huawei;華為技術)の副会長で最高財務責任者(CFO)の孟晩舟氏が、カナダ・バンクーバーで逮捕されたことがカナダメディアのグローブアンドメイルで報じられました。なお、この孟晩舟氏はファーウェイ社創業者の実娘とされています。

Canada arrests Huawei’s global chief financial officer in Vancouver(The Globe and Mail 18/12/5)
Canada has arrested Huawei's global CFO, Globe and Mail reports(Bloomberg 18/12/6)
ファーウェイ副会長 カナダで逮捕米、引き渡し求める イランへ違法輸出か(日本経済新聞 18/12/6)

ファーウェイ社においては、もともと半年前にすでにイランへの経済制裁に違反しているかどで米当局から実質的な強制立ち入り捜査を受けており、イラン制裁違反の疑いが確定的となったため、カナダ当局と連携してファーウェイ副社長の身柄を押さえたと見られます。近日中に身柄をアメリカに移されるようですが、具体的な嫌疑の発表はまだです。ちょうど12月1日にアルゼンチンのブエノスアイレスで行われたG20でアメリカトランプ大統領と中国習近平国家主席との会談が行われ、米中間の関税戦争に一定の歯止めがかかると見られていた直後だけに、別の形での緊張関係が激化する恐れがあるのは間違いありません。

華為技術、対イラン制裁違反の疑い米司法省が調査(ウォールストリートジャーナル日本語版 18/4/25)

もともとファーウェイ社はアメリカ国内での機器の使用を禁止する決定を米連邦政府に出されそうになり、アメリカ市場から全面撤退しています。今回の対イラン関連の嫌疑だけでなく、アメリカの大学や他企業に対するスパイ行為を支援しているとされ、アメリカやその同盟国に対する重大な安全保障上の脅威であるとまで言われてしまっている状況にあります。

我が国においても、日本のファーウェイ支社から国会議員や官公庁に向けて面談を求めるアプローチが乱発されており、また、政府調達からファーウェイ製品を外す動きが日本にもあることに対する牽制が繰り返し行われているのもまた事実です。また、安倍政権IT担当相である平井卓也氏に関してはかねてファーウェイ社が平井氏を全面的にバックアップする姿勢を崩していないことなども含めて、適法か違法かは分かりませんが相応に日本政府中枢に食い込もうという動きが以前以上に強まってきているのも懸念されそうです。

中国ファーウェイ製品をめぐる毀誉褒貶、そして利用規約を巡る謎(ヤフーニュース山本一郎18/12/3)

日本においてこのファーウェイ社の動きが対岸の火事とは言えない理由は、やはり日本の各種通信会社に入っている機器にファーウェイ社のものが多数含まれており、また、2019年にもサービスが一部開始される新通信規格「5G」においては、価格面でも技術面でもファーウェイ社の存在感が強いということが挙げられます。前述の記事の通り、ファーウェイ社の通信機器を入れる前提で採算計画を考えている通信会社は日本政府の意向やアメリカでの副会長逮捕劇の影響も視野に入れながらも目先の利益のためにファーウェイ社の機器を通信インフラに導入し、ファーウェイ社の最新鋭端末を売り込もうとするでしょう。

一方で、2015年に不審死を遂げた日本人ハッカー、通称Vlad(ウラジミール;Vladimir)氏や、彼の遺志を汲むハッカー系コミュニティでは、イランの枢要な通信技術や傍受・妨害に関するソフトウェアに関してファーウェイ社をはじめとする中国系企業からの支援の存在を追いかけ続けており、今後も中国系企業の対イラン制裁違反は続々と出てくると見られます。

一番の課題は、単純に「通信業界で影響の大きい中国系一大企業の不祥事」で終わることではなく、米中紛争や産業スパイ、情報戦争という二国間のパラメータと、対イラン制裁や、おそらく今後重大な事件として出てくるであろう中国による北朝鮮支援、中国国内の新疆ウイグル地区でのイスラム系など民族弾圧問題といった、汎地球的な国際政治の大きなうねりの一端だということです。

本件に関しては、日本も当事者だという理解を持ちつつ、適切な警戒をしておくことが大事なのではないかと思います。