無縫地帯

動画音楽サービス「TikTok」の興隆と懸念は、過去の流行ネットサービスの興亡を辿るのか

若者向けに「TikTok」が流行する一方、ストリーミングで音楽を聴く市場が成長し、子どもの間で話題になるサービス特有の社会問題も徐々に出てき始めているようです。

ここ数年におけるネット上のコンテンツビジネスの変遷は目まぐるしいものがあります。音楽配信ビジネスの主軸がダウンロード形式からストリーミング形式に移り変わりつつあるというのもその一つですが、こうした動きにかなり保守的だった日本の音楽業界も世界的な潮流にはさすがに抗えなかったということでしょうか、大物アーティスト音源でも全曲がストリーミング形式で提供される事例が出てきたのはなかなかに感慨深いものがあります。

松任谷由実の全曲ストリーミング配信開始。荒井由実を含む全424曲(AV Watch 18/9/25)

ネットで音楽を聴く市場が大きくなるのは当然としても、そうした時世を反映してか、かなり思い切った方針を打ち出してくるレコード会社もあります。

エイベックスがTikTokと国内レーベルでは初の包括契約 その狙いとは?(BuzzFeed 18/10/19)

この契約により、浜崎あゆみ、AAAなどエイベックスが原盤権を保有する楽曲、約2万5000曲をTikTok上で自由に使用できることとなる。

今回の契約は日本を含むアジア地域での締結となり、J-POPの人気が高い中華圏、韓国、インドネシアなどのアジア地域のユーザーも自由に楽曲を利用できる。

国内では10月30日からローンチの予定。アジア圏でも10月末から順次対応予定だ。BuzzFeed
TikTokとはなんぞやという御仁も少なくないかもしれませんが、そういう方は以下の記事などが参考になりそうです。

口パク動画で10代から支持を得た動画SNS「Tik Tok」とは何なのか(週間アスキー 18/7/24)

つまり「インスタ映え」という言葉を生んだInstagramの人気にも迫るぐらいの勢いがあるサービスがTik Tokである、とも言えるのかもしれません。週間アスキー
TikTokがサービスプラットフォームとして大きな可能性を持っていそうだということについては、いち早くこうしたビジネスの可能性を察知してお手つきすることに抜け目の無い孫さんが早速投資しているあたりでまあそうなんだろうなということで、話題になっております。

ソフトバンクファンド、動画アプリTikTokに出資(日本経済新聞 18/11/6)

ただ、このTikTokというネットサービス、圧倒的に若年齢層に人気があるわけですが、それだけに色々と問題があるということも指摘されております。

日本で報道されないTikTokの真実(と、その他)(toricago 18/11/3)
中国で「TikTok」が女児とおっさんの”出会い系”アプリに……(日刊サイゾー 18/9/6)
TikTok【ティックトック】の危険性とは?未成年は特に気をつけて!(ちむちむライフ.com 18/7/29)
Tik Tokで音楽や曲を使うのは著作権違反にならない?意外と複雑な権利の話(東京indie 18/8/8)

すでに警視庁・警察庁でも、未成年者の利用が多いTikTokの利用動態や被害の発生状況は興味を持ってみているようで、記事などでも指摘されているようにTikTok経由でLINEを交換し、それがそのまま未成年者略取、売買春の斡旋の温床になりかねないという警戒をしているとされます。

具体的にどういう問題があるかについては上記リンク先などを参照していただければと思いますが、乱暴にまとめると13歳以上であれば利用規約に反することなくサービスを利用可能で誰もが顔出し動画を簡単にネット上に公開できてしまえる結果、未成年が意図せずして性犯罪などに巻き込まれてしまう原因を作り出しているかもしれないというところがあります。

あくまで音楽を通じた動画サービスとコミュニティ(場)としてTikTokが成長していく、というのは健全な運営である限りビジネスチャンスでもあります。そういう若者に音楽を届けていきたいレコード会社としてはTikTokで自社音源が利用されることで広くプロモーションできるメリットが何よりも優ると判断したからこそエンドユーザーに自由に使ってもらうという判断をしているわけですが、一方でそうした音源をBGMにして顔出し動画を公開するエンドユーザーは自分のプライバシーをネット上にダダ漏れさせているリスクもある上に、なんと無償でレコード会社の宣伝行為に携わってしまっているという見方もできます。もちろんエンドユーザーは手軽に楽しめればそれでいいというのはあるでしょうし、もしかしたらそのTikTok動画で人気が出て世界的な有名人になれるかもしれないという夢を見れるのかもしれません。夢を見るのはいいのですが、それって単にレコード会社などのコンテンツビジネス事業者にいいようにタダで利用されているだけなんじゃないですかという疑問も感じます。

なんというか最近のネットコンテンツのあり方というのは、SNS炎上芸みたいなものを上手にオブラートにくるんでエンドユーザー消費ありきという形でどんどん進化させていってるような、ある種の「やったもの勝ち」の世界になりつつあります。エンドユーザーもそういう新しめの場所やアプリ、テーマでネットサービスをで楽しんでいるのだからギブ・アンド・テイクだよと言われればそれまでですが、わずか一瞬の楽しみのためにネット上に一生消えないかもしれない黒歴史みたいなものを作り出してしまうリスクを、まだ社会経験が浅くて世の中をあまり分かっていないティーンエイジャーのような人達に背負わせるのはちょっと罪なんじゃないかなと考えてしまいます。

以前も、ガラケー時代には出会い系サイトができ、出会い系の掲示板から現在のSNSにいたるまで、ネットサービスの「旬」に差し掛かると必ず未成年者がやらかしたり被害に遭ったりということを繰り返してきたのが人間の性(さが)だとするならば、ある種の「ネット町内会」みたいなものが自警団的に問題を提起したり安全な利用を呼び掛けるのもまた大人の使命なのでしょうか。