無縫地帯

トレンドマイクロ社はiOS版「ウイルスバスター」などの詐欺的ビジネスの総括をするべき

ウィルス対策ソフト大手、トレンドマイクロ社による個人情報の不正入手問題から、本来は構造上必要ないいAppleのiOS向けアンチウイルスアプリまで、同社の欺瞞的な取引がいまなお続いているように見えます。

18年9月12日、トレンドマイクロ社の製品がAppleのApp Storeでリストから外され、公開停止になりました。

トレンドマイクロ製品がAppleのApp Storeで公開停止に ~Web閲覧履歴を送信していた問題が原因か(窓の杜 18/9/12)

ウィルス対策ソフト大手のトレンドマイクロ社の主力製品が2か月以上App Storeで公開停止になる一方、いまだに家電量販店などではパッケージ版のApple iOS向けウィルス対策ソフトが売られている現状があるようです。もちろん、本丸のアプリはApp Storeで公開停止になっていて起動できませんので、ジェイルブレイクした端末ぐらいでしか使用することができません。

現段階で、使用できないウィルス対策アプリをパッケージで売り、法人向けに利用料を徴収しているとするならば、使えないものを売っていることになるわけですから、トレンドマイクロ社の事業は詐欺的であると言われても仕方がないのではないかと思います。

トレンドマイクロ社のアプリに関しては、ユーザーの同意内容に個人情報の利用方法が正確に明記されていなかったことと、アプリで提供されるソフトウエアの機能と関連のない個人情報の収集を禁じていたにもかかわらずユーザーのウェブ閲覧履歴などの個人情報を取得していたこととが問題となりました。

また、Android端末向けのアプリにおいてもGoogle Playを経由せずにApkでインストールできるソフトウエアも提供しているあたりは、個人情報の適切な利用方法と、トレンドマイクロ社の説明する適切な脅威情報の収集との間に深刻な溝があるように感じさせます。

ウイルスバスターモバイル(iOS版)のiOS 12への対応状況について(トレンドマイクロ社 公式サイト 18/10/26)

その後、トレンドマイクロ社は公式にこの問題について声明を出し、また、同社CEOエバ・チェン氏の釈明インタビューが掲載されました。

App Store上の当社アプリに関する重要なお知らせ(トレンドマイクロ お知らせ 18/10/31)
トレンドマイクロのチェンCEO、App Storeでのアプリ削除問題に謝罪と説明(ZDNet Japan 國谷武史 18/10/31)

ここでなぜか公式の声明で医療業界の進歩とトレンドマイクロ社個社の利害の話が同列に並べられる珍説が披露されるだけでなく、脅威情報の収集が必要だとしてユーザーに対する不正アクセス行為が正当化されるという、ちょっと信じられない釈明がなされているのが印象的です。

また、iPhone、iPadなどiOSで稼働するソフトウェアや通信において、ウィルス対策アプリが必要がない件については理由があります。構造上、ウィルス対策を行う必要が無いのです。

iOS向けのアンチウイルスアプリが存在しない理由(カスペルスキー公式 18/9/26)

しかしながら、トレンドマイクロ社はiOSユーザーの情報を無断で吸い上げており、仮にユーザーのウェブ閲覧履歴の取得が「脅威情報の共有に必要だった」としても、そもそもiOSにおいてはそれらのウェブ閲覧履歴の情報をトレンドマイクロ社に渡すことによってユーザーが脅威から守られる可能性は高くありません。

ここにきて、再びトレンドマイクロ社のCEOエバ・チェン氏と最高執行責任者(COO)ケビン・シムザー氏のインタビューが掲載されていました。この問題は、Apple側がトレンドマイクロ社のウィルス対策アプリをリストから除外したことでむしろ被害は軽減されましたが、実際にはもっと深刻な問題を孕んでいるように思います。

Appleに消されたトレンドマイクロ、CEOの言い分(日本経済新聞 18/11/9)
■ 業界の信用を傷つける思想を開陳したトレンドマイクロ社にセキュリティ業界は団結して抗議せよ(高木浩光 自宅の日記 18/10/31)

この問題は、トレンドマイクロ社が不適切な個人情報の収集をやめ、ユーザーに適切な同意を取ることを事実上拒否してしまっているため、いつまでも着地せず解決しない恐れがあります。そのような望ましくないビジネスを当然のようにトレンドマイクロ社が告白したようなものであり、セキュリティ対策のためであれば本人同意なく情報収集が可能だといういままでのビジネスの延長線上でアプリも提供していたのだと判断されかねません。

逆に言えば、問題視されたので懸案の点はサッと修正してアプリを再公開する、ということすらできないぐらい、トレンドマイクロ社のビジネスが問題だとAppleに思われ、また騒動が広がってようやくICT系マスコミが気づいた、というところに病理が大きいとも感じます。この問題は、さらに注視していく必要がありそうです。