無縫地帯

死亡寸前だったはずの私的録音補償金が見事蘇る素晴らしき文化行政の行方やいかに

私的録音保証金制度なる亡霊のような仕組みを適用し、スマートフォンの販売価格に著作権者へ配分する補償金を上乗せする制度を文化庁が検討を開始したようです。

我が国の文化行政を適切に推進すべく、文部科学省傘下の文化庁では文化審議会において識者の皆さんが委員として集い様々な議題について活発な意見交換をされているわけですが、先日は「文化審議会著作権分科会 著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会(第4回)」がめでたく開催されかなり興味深い議論があった模様でして、そのあまりに不毛な内容についてスマホ/ケータイジャーナリストの石川温さんがバッサリと切り捨てられておりました。

スマホ販売に「補償金」上乗せ著作権者に分配検討。の時代錯誤(Engadget日本版 18/10/23)

普段、スマホや通信料金を取材するライターが初めて、文化庁を訪れて、この会合を傍聴、取材してきた。なぜなら、この会合でスマホの販売に対して「補償金を載せる」という不穏な動きがあるという話を聞いたからだ。Engadget日本版
てっきり死んだも同然とばかり思っていた私的録音補償金制度ですが、実はしっかりと生き残っていたのですね。本当に死んでいたのは、この私的録音補償金制度が語られる際にいつも双子のような形で存在していた「私的録画補償金制度」の方でした。

私的録画補償金制度が廃止された理由は、国内のテレビ放送が地デジへ移行した結果、録画機メーカーから私的録画補償金を徴収することが法的に不可能となったことに拠ります。

録画補償金管理のSARVH、解散でサイトも終了東芝との訴訟で敗訴、制度が機能停止(ITmedia 15/6/30)

管理団体である私的録画補償金管理協会としては最高裁まで持ち込んで利権の正統性を争うつもりだったようですが、あっさりと上告が棄却され残念な結果となりました。録画補償金が無くなってしまった顛末については権利者団体の皆さんもよくご存じのはずなので、私的録音補償金制度については上手に立ち回ってできるだけ長生きさせたいと願っているはずでして、ここ数年は汎用のPCや外付けHDDに私的録音補償金を求めるような無謀で藪蛇になるような発言もほぼ見られない感じでした。しかしそれが、年々収入が先細っていく補償金の状況で遂に我慢できなくなってスマホを槍玉にあげたという感じなのでしょうか。

私的録音補償金の管理団体である私的録音補償金協会(sarah)のホームページに公開されている平成29年度の事業報告書によると、私的録音補償金受領額は37,230,881円になりますが、その前年度の実績は49,089,158円となっており、1千万円以上の減収となっています。さらに、平成30年度の事業計画書を見ると、補償金の受領見込額は22,000,000円となっておりまた前年度よりも1千万円以上の減額になっています。つまり今のままの補償金徴収体制を続ければ、あと数年で破綻することは明らかであります。しかし、国内に出荷されるスマホから補償金を回収できることになれば状況を一気に挽回する可能性はありそうです。これは狙うしかないですね!

会合に参加している委員のなかからは「パソコンユーザーの21.4%が音楽を私的複製しているというデータがある。また、スマホユーザーであれば、14%が私的複製しているという。日本では年間3000万台のスマホが出荷されている。3000万台に14%をかけた480万台分の補償金を回収できる可能性があるのではないか」という意見が飛び出した。Engadget日本版
このスマホを補償金徴収の対象にしようという論法がどれだけ筋が悪いかについては、石川温さんの記事に詳しく説明されていますので、是非リンク先の記事をご覧いただきたいと思いますが、おそらく私的録音補償金にかかわる権利者団体の皆さんは音楽市場がサブスクリプション方式に移行しつつあるといった状況は十分に理解した上であえて無理な注文をしてきていることでしょうから、今後も強硬な意見の数々が委員会の中で繰り広げられるのではないかと想像されます。こうした無駄な議論を経て我が国の文化行政はゆっくりと前に進んでいくのだなと思うと感慨もひとしおです。

それにしても、今の日本で流通するスマホのほとんどが海外メーカー製でありますが、スマホに対して私的録音補償金を課すことが決まったとしたら、誰がこの無謀ともいえる取り決めを海外メーカーと交渉するのでしょうか。sarahの中の人がやるのでしょうか。Appleあたりは相手にもしてくれそうにない気もしますが、それでも強行するというのであれば私的録画補償金と同じように長い時間と費用を裁判で費やすことになりそうですね。

なお、補償金の使途については色々と憶測がありましてどこまで本当なのかは中の人しか分からないわけですが、以下のような見方もあるということでご参考まで。

私的録音録画補償金は調べるほど深い問題(幽玄会社中山商店 18/10/25)

ここで説明されている通りだとすると本来の権利者であるはずのクリエイター自身へ分配される前に色々と手数料が重複して引かれていく仕組みのようで大変興味深いことになっています。なんとなく人材派遣ビジネスと似たような構造なんでしょうか。確かに闇は深いのかもしれません…。

最近では憲法違反も疑われる海賊版サイトのブロッキング事案も、なぜか政府・知的財産戦略本部の親会で復活しそうで、いろんな意味で「民主主義は与えられるものではなく、自ら心掛けて勝ち取り実現していくべきものなのだ」という思いを新たにするところです。

検証・評価・企画委員会コンテンツ分野会合(第1回)の開催について(内閣府)

海賊版ブロッキングより日本が急ぐべき「真の知財戦略」がある(オピニオンサイトiRONNA 18/10/25)