「南青山」児童相談所「建設反対」で、地域と家庭の問題をどう判断するべきか
東京都港区が南青山の施設跡地を購入し、不足が問題になっている児童相談所の建設を計画したことを巡り、地元不動産屋グリーンシード社を中心に反対の意見が出たようですが、本当の問題は別のところにあります。
東京都内の一等地、南青山に児童相談所などの関連施設を開設する件に伴い、南青山の地元住民の一部が反対をしているという話題が出ておりました。
南青山の児童相談所建設反対運動、地場の不動産屋グリーンシードが存在感(市況かぶ全力2階建 18/10/16)
「日本死ね」からの保育園・児童相談所建設反対問題(ヤフーニュース個人 山本一郎 16/12/12)
もともとは、東京都港区が南青山の農林水産会館跡地約1,000坪を購入し、ここに「港区家庭総合支援センター」の建設を行う方針を示したことに発端があり、本件は典型的なNIMBY問題であると言えます。
NIMBY問題とは、"Not In My Back Yard"の略で、つまり「必要な公共施設だけど、私の家の近くには設置しないでほしい」というトラブルの総称であって、今回の児童相談所などの関連施設は地元住民から「受け入れがたいもの」という意見が出た、ということで、テレビなどでも報道されました。
もちろん、人によって「児童相談所は本当に迷惑施設なのか」は意見が分かれるところです。
NIMBY(Wikipedia)
ところが、南青山の住民には以下のようなビラが配られ、また、「青山の未来を考える会」という謎の反対派団体まで結成されて、物議が醸されました。このビラの配布元には「株式会社グリーンシード」と事務局としての法人名が明記されるだけでなく、この「青山の未来を考える会」のサイトも株式会社グリーンシードと同じURL下に設置されていました。単純に、その周辺地域で不動産業を営んでいるグリーンシード社が、この児童相談所など関連施設の建設によって周辺の住環境が悪化するなどして地価が下がり、事業に悪影響があることを懸念して地域住民を煽り反対活動に投じたもの、と思われても仕方がないところです。
[[image:image02|center|事務局に「株式会社グリーンシード」と明記された「青山の未来を考える会」のビラが近隣住民のポストに投函されたのは10月9日から10日にかけて]]
さっそくビラにも記載されていた「青山の未来を考える会」のグリーンシード社内の担当者宛に電話をしたところ、話すところでは「この『考える会』の代表は誰かのか分からない」「『考える会』に参画している人たちについては知らない」「グリーンシード社は『考える会』の事務局として窓口をしているだけ」であるとして、具体的な情報は特にないようです。ビラを撒いてそこに事務局として連絡先が明記されているので問い合わせしてもこれといった回答がないというのは不思議なことです。
港区の担当者は「住民の方々に様々なご意見があることは承知しているが、区議会でも議論を尽くしており、住民の皆様の理解が得られるよう説明を続けていきたい」としたうえで、特定の事業者による反対運動については「一定の事態は承知しているが、特段の混乱がない限り、当局(やまもと註:警視庁)への相談を行うことは考えていない」と回答してきています。
また、東京都の健康福祉局でも、ほぼ同様の見解ながら、児童相談所の開設に向けて港区と適切に協議し進めているとのこと。東京都職員は「我々(東京都や港区などの行政担当者)がこのような事態に慣れ過ぎていて、住民からの反対があることを前提に計画してしまっていることで、かえって『ゴネ得』と解されてしまうような活動への対応が野放しになっている、とはお叱りを受けることも多いのです」と実情を説明しています。一般論として、これらのNIMBY施設の建設には地域住民以外の人物が説明会に送り込まれて騒いだり、説明する公務員に罵声を浴びせたりするなどの遅延行為が続出する傾向にあり、反対する地域住民や団体に対する懐柔策として、何らかの便宜を図って宥めることもしばしば発生します。このあたりは、なかなかむつかしいところです。
東京都児童相談センター・児童相談所一覧(東京都)
都内の保育サービスの状況について(東京都)
児童・家庭関連の施設では、小池百合子都知事が早々に「待機児童ゼロ」という公約を掲げたものの、他の掲げた公約と並んでゼロには程遠い状況になっているのも、これらの児童の相談所、保育園、学童施設などのNIMBY施設を作るにはどうしても反対運動が出やすいというのは事実です。
「保育園落ちた日本死ね」から考える政策が必要な人に届かない理由(オピニオンサイトiRONNA 山本一郎 16/3/14)
「園児の声うるさい」…保育園は“迷惑施設”か(読売新聞 17/10/4)
東京都、「子どもの声」を騒音規制の対象外へ保育園等の近隣住民から訴訟相次ぐ(ビジネスジャーナル 安積明子 15/1/31)
[[image:image01|center|都知事で掲げた「7つのゼロ」という公約が見事にひとつも達成できていない小池百合子都知事]]
東京都も、改正環境確保条例後に施設から出る子どもの声を騒音制限から外しましたが、それでもいまだに東京地裁には多い月で数例の子どもの声による騒音にまつわる訴訟が提起されています。出生から育児、教育まで、社会が必要としている問題を解決するはずの施設が地域住民の理解を得られず排除された結果が待機児童の増加という具体的な数字で跳ね返っているというのはよく理解するべきです。
なお、私たちの社会において、もう少し子どもたちの健全な育成や社会とのかかわりを広げていく中で児童相談所など家庭と子供の関係を考える必要はあると思っています。変な話をするようですが、親もまた人間であり、経済力が乏しいながら何とか育児をしている家庭もあれば、精神的な浮き沈みが激しい親が子どもとの適切な関係を築くことができなかったり、何かに依存していて子どもにきつくあたったり…子どもは生まれながらにして自由であるべきという理想に現実をより近づけるために、より良く相談できる公共施設が必要だ、と私も思います。個人的には、以下の駒崎弘樹さんの論説でかなり議論の根幹は網羅されていると思いますので、ご関心のある向きは是非ご一読いただければと存じます。
いま泣いている子どもを救いたい。児童虐待の対策を求める署名活動はじまる(BuzzFeed Japan 小林明子 18/6/14)
それでもなお児童相談所が迷惑施設だと考え、近隣に開設されると治安に問題を起こすを感じたり、地価が下落し地域のブランディングに傷がつくと考えるようでしたら、それはそれで仕方のないことではあります。必要なことは、きちんと「べき論」を掲げて現状を見たときに、どの政策を支持すれば社会全体の幸福や便益が向上するのか吟味することです。
この問題が、南青山や港区の住民の方の適切な議論を経て、納得が得られて着地することを心から祈っております。