シニア層にもスマホを売らなければならないキャリアの事情など
シニア世代もケータイを自在に使うようになったと思ったらスマホ時代が到来し、大容量データ通信がある前提で設計された端末や料金設定ではなかなかシニアのニーズとは合致しないようです。過渡期でしょうか。
山本一郎です。夏が似合わない男です。
ところで、携帯電話各社が夏商戦向け製品を発表しましたが、今回の注目すべき点の一つはシニア向けスマホ市場への取り組みだったと感じます。
NTTドコモとLINEが協力、「らくらくスマホ」対応など(INTERNET Watch 2013/5/15)
スマホ 中高年層への売り込み強化(NHKニュース 2013/5/20)
シニアもスマホ健康チェック 新サービス(中日新聞 2013/5/8)
こうした状況の背後には、従来のガラケーからスマホへのユーザーの移行が若年層から成人全般ではほぼ順調に進んでいる一方で、シニア層の移行がなかなか捗らないということがあるのでしょう。
ドコモが公開している契約数月次データに「iモードご利用状況」というものがあるのですが、ここでiモード契約者の年齢別構成比を見ると、2013年4月現在で50歳以上が49.9パーセントとほぼ半数を占めているのがわかります。さらに過去のデータもPDFで公開されていますが、39歳以下はおおむね下降傾向、40歳~49歳が横ばい、50歳以上だけが順調にその割合を増やしています。
また、データはやや古いものになりますが、こうしたシニア層がガラケーにこだわる傾向を裏付けるアンケート結果もあります。
必要性がない、料金が高い――シニアの4割が「スマホ購入したくない」(ITmedia 2012/8/29)
エンドユーザーからすれば、シニア層に限らず携帯電話はガラケーの機能で十分という考え方も十分にあり得るのですが、キャリアやメーカーからすれば端末開発に要する莫大なコストを考えると、もはやガラケーに対応できなくなってきたというのが本音なのではないかと思います。さらに、スマホ市場自体が既にごく一部の巨大メーカーに牛耳られてしまい、その他はとても太刀打ちできない状況となりつつあることは以前にも書いたとおりです。
携帯電話会社にとって、そろそろガラケーにまつわるインフラやサービスの維持が儲けよりも負担になって臨界点を越える頃合いでもあるのが、今夏のシニア層へのスマホ普及施策の人気ぶりなのでしょう。
考えなければならないのは、ではシニア層にもスマホが普及した後、携帯電話会社は次に何をして儲けるのかということでしょう。スマホではパケット定額制が当たり前ですからARPUが頭打ちになることはもはや見えています。「携帯電話で連絡がつけばいい」「細かい機能は必要ない」というシニアニーズは、収益性という点からみると結構絶望的です。米国では従来の定額制を見直すような動きも昨年から出てきていますが、日本でもそういう流れになるのでしょうか。
日本にもいずれその時が来る!?米国でマルチ・デバイス向けの料金プランがスタート(現代ビジネス 2012/6/21)
実はドコモのシニア向けサービスである「Xiらくらくパケ・ホーダイ」は、月額料金が2980円と同社の他サービスよりも割安に設定されていますが、実は1か月あたりに通信できるデータ容量は500MBとかなり低く設定され、それを越えると通信速度が128kbpsと極端に遅くなります。テキストメールだけのやり取りでも結構キツいハードルです。追加料金を支払えばこの制限を解除できますが、その料金は2GBあたり2625円。つまり、1か月に2.5GBのデータ通信を行いたければ月額5605円ということになりますが、これは1か月に3GBまでデータ通信できる「Xiパケ・ホーダイ ライト」の月額4935円よりも随分割高です。シニアだから利用するWebサービスのデータ通信量は低くなるとは限らないでしょうから、なんとも微妙な価格戦略だなとも感じるのですが、どうしたものでしょうね。
パケット定額サービス|料金・割引|NTTドコモ
おそらくは、シニア世代向けのスマホ戦略は試行錯誤の段階をまだ抜けていないのだと思います。何とか合理性のあるより良い形でお話がまとまって欲しいなと願うところではあるのですが。