無縫地帯

スマホを巡るEUとGoogleの争いが激化

プライバシーの保護や独占禁止法関連法制などで域内市場を守りたいEUと世界的なICTコングロマリットに成長しているGoogleとの間で、Androidによるスマホビジネスの綱引きが激化しています。

EUはプライバシー保護や独占禁止法違反などの名目を楯に取りここ数年Googleとは熾烈な戦いを続けていますが、スマホのAndroidについてはこの7月に相当厳しい制裁が発表されております。

EU、Googleに過去最高43億ユーロ(5703億円)の制裁金Androidでの独禁法違反で(ITmedia 18/7/19)

当然GoogleはこのEU側の決定に対して対抗する旨を表明していましたが、今回その対抗措置の内容が明らかとなりました。

グーグル、欧州でGmailなど「Android」アプリ搭載メーカーに課金へ--独禁法違反裁定受け(CNET Japan 18/10/17)

Googleは米国時間10月16日、アプリストア「Google Play」のほか、「Googleマップ」「Gmail」、同社が所有する「YouTube」のバンドルを希望するスマートフォンおよびタブレットメーカー向けに、欧州で有料ライセンスを提供すると述べた。さらに別のライセンスにより、スマートフォンメーカーがGoogleの検索エンジンと「Chrome」ブラウザをバンドルすることを可能にする。
(中略)
これらのライセンスを10月29日に提供開始すると述べたが、料金設定については明らかにしなかった。
CNET Japan
これは端末メーカー、とくに廉価モデルの薄利多売で稼ぐようなメーカーにとってはかなり大きな影響を及ぼしそうな雲行きです。

元々GoogleのAndroid商法というのは、OSの基本部分をオープンソースの体裁で誰もが無償で利用可能(AOSP:Android Open Source Project)としながらも、Google独自の機能である検索や地図、アプリストア部分については別途有償ライセンスである「Google Mobile Services(GMS)」を端末メーカーが取得し、そのライセンス料をGoogleに納める必要があったわけです。今回わざわざGoogleが改めてこのライセンス部分を強調して公言するということは、欧州地域で販売されるAndroid端末にはなにがしかの付加ライセンスをさらに課すという意図があるのかもしれません。まあ、現時点では料金設定について触れていないということもあり、単に話題を作るためのブラフという可能性も少しはありそうですが、EU側もGMSの仕組みについては十分知っているはずですから、Googleのこうした一種の脅しとも取れるような発言を受けて制裁金を見直すということはあまりなさそうです。

GMSについては少し古い情報ですが以下などが参考になり、ちょっと面白い話に触れています。

GoogleがオープンソースのAndroidから利益を生み出すカラクリとは?(GIGAZINE 14/1/24)

OEMメーカーの中でも大きな企業は適切なプロセスを経てGMSライセンスを取得していますが、小さなメーカーはGMSライセンスを取得せずにGoogleのアプリをAndroidに搭載しています。GMSライセンスを取得せずにGoogleのアプリをデバイスに搭載することは違法である一方、GoogleにはGMSライセンスの取得を監視する部署が設置されていないため、小さなメーカーがGMSライセンスを申請しないことは黙認されているようです。GIGAZINE
もしかすると、このあたりの“配慮”がEU向けAndroid端末では無くなるという可能性は十分にあるのかもしれません。

一方、中国ではGoogleの事業自体が認められていないため、一切GMSに抵触しない素のAOSPなAndroid端末が販売されており、各メーカーが中国市場に特化したアプリを搭載することで検索や地図、アプリ配布などの機能を実現しています。

もしGoogleがEU圏におけるAndroidに対して高いGMSライセンス料金を課すことになるとすれば、こうした中国などで普及しているAOSPベースのAndroid端末が注目され販売されることになるのかもしれません。AOSPベースの端末に強い中国メーカーとしてはかなり美味しい話になる可能性がある一方で、とくに安全保障に関連したセキュリティ面ではやや不安を覚える話でもあります。

また、中長期的にはアプリの有料化が義務付けられ、一部のメーカーが自動的にオフバンドルになることでAndroidの端末メーカーには選択肢があるとして自由が増えれば、EUの独占禁止に関する各法令をGoogleが迂回できる可能性も指摘されます。とはいえ、これらの問題はかなり政治的要素が強く、アメリカの通商政策に対抗するEU市場、ひいては中国市場の問題に直結するため、どうとでも転がる余地があります。

今後EUとGoogleではAndroidを巡ってさらなる駆け引きが行われることになるのでしょうが、成り行き次第によっては世界のAndroid市場にも大きな影響が出てくる可能性があるでしょう。情勢の動向はしっかり見守りたいところです。