無縫地帯

NHK「キズナアイ」騒動、バーチャルユーチューバーや萌え絵柄は番組のパーソナリティとして適切か

NHKの特設サイト「ノーベル賞まるわかり授業」に起用されたバーチャルユーチューバー「キズナアイ」の服装を巡り、弁護士の太田啓子氏が「性的に強調した描写」と批判し、騒動になっています。

人気バーチャルユーチューバー(Virtual YouTuber)の「キズナアイ」がホスト役を務めるNHKの特設サイト「ノーベル賞 まるわかり授業」で、その起用を巡って物議が醸されています。

まるわかりノーベル賞2018|NHK NEWS WEB(NHK)

もともと、キズナアイ自体は日本政府観光局(JNTO)の訪日促進アンバサダーに就任したり、世界的にファンを獲得している日本発のコンテンツ(キャラクター)として人気を博しています。今回のNHKの特設サイトにおいても国立研究開発法人・科学技術振興機構(JST)の監修のもとで、主にキズナアイに関心を持つ若い男女に訴求するキャラクター性と、ネット上のバーチャルキャラクターであるという先進性が理由で番組公式キャラクターとして起用されたのではないかと思います。

バーチャルYouTuberキズナアイ、訪日促進大使に就任 日本文化を世界に紹介(Mogura VR 18/3/5)

「『キズナアイ』のノーベル賞まるわかり授業」の先生をしました~「まるわかりノーベル賞2018」(NHK NEWS WEB)出演~ (国立研究開発法人・科学技術振興機構 18/10/2)

普通にBBCでもネット現象として好意的に取り上げられるなど、バーチャルユーチューバー界隈の旗手として常識的な範疇で起用される分には問題ないのではないかと思われていました。

The virtual vloggers taking over YouTube(BBC 18/10/3)

ところが、このNHKのキズナアイ起用を巡って、キズナアイが萌え絵であり、性的表現にすぎるのではないかというクレームがTwitter上に書き込まれ、騒動になっています。発端は、弁護士の太田啓子氏が発した「性的に強調した描写されアイキャッチの具にされるがよりによってNHKのサイトでやめて」という意見論評で、これに賛同する形で東京新聞の佐藤圭氏ら一部の反感を持つ人々も同様のコメントを投下。これにキズナアイを擁護する反論も相次ぎ、Twitter上で論争となりました。

弁護士太田啓子(katepanda2)ノーベル賞解説のwebページに使用されているキズナアイにいちゃもんをつける(Togetter 18/10/2)

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Yahoo!ニュース個人でも、武蔵大学教授の千田有紀氏がキズナアイに否定的な見解を示していますが、人気のバーチャルユーチューバーはそもそもネットで人気があるからこそネット上にファンが多いわけで、キズナアイ擁護の声のほうがはるかに大きくなっているのが実情です。

一方で、萌え絵を愛する界隈が感じる性的表現と、太田氏ほかキズナアイは問題だとする人々の考える性的表現の間に隔たりも大きく、おそらくは、万人が納得するような性的表現やわいせつ性の線引きは無理だということに他ならないでしょう。ある意味で、人気のアイドルグループが異性に対して性的アピールを繰り返して人気を博することは、逆に同性や批判派からは「性を売り物にしている」と目されることが多いはずです。

また、冒頭にも書きました通り、キズナアイの起用は間違いなくネットでの人気を理解したうえで若者に「ノーベル賞とは何なのか」を理解してもらうための訴求材料としてであろうことは明確です。であるならば、深夜のアニメ番組やオタク向けの各種サイトと同じく一種のゾーニングがなされ、不快な人が見なくて済むように、届くべき人にはしっかり届くように、というNHK側の相応の配慮があったからではないかとも感じます。不幸にして、この問題に敏感な太田氏らがキズナアイの持つ萌え絵の性的表現に触れてしまったために、「NHKともあろう組織が」という不幸な衝突が起きてしまったのではないか、と思うところが大です。

全ての人が納得する表現など不可能という前提で言えば、太田氏や佐藤氏らの「キズナアイは性的表現が厳しすぎる」といった指摘も、また、そういうキズナアイの衣装も含めてそういうものだと受け入れている視聴者やネットユーザーの反論も、あくまで意見論評の枠内で応酬がある分にはおおいに議論していきながら、バーチャルユーチューバーや萌え絵の使われ方も含めて社会的な受容の在り方を模索していき、当面の落としどころが見えてくればいいのではないかと感じます。芸能人やタレントが性的表現のきつめの服装について是非を論じられるのと同様、ひとつの番組やサイトのキャスト、キャラクターの表現として、どういう許容のされ方をするのかは、今回のNHKの起用でかなり見えてくるのではないでしょうか。

おそらく、表現の自由を巡る緊張は、この手の「許容しがたい表現を社会がきちんと包摂し、多様性を維持するためには避けられない議論」を呼ぶことになるでしょう。
現象としては、キズナアイが駄目だというなら、グラビアアイドルやファッションショーなどのモデルはどうなのか、といった些末な比較論も多数出るかもしれません。でも、どう性的表現が社会に許容されるのかの議論では、そこが、重要だと考えます。