有識者という名で議論すればそれでいいのか問題
大きな組織において有識者会議や第三者委員会のようなものが組成されることは多いのですが、本当にその問題について語れる専門家なのかという検証はどこかでするべきではないかと感じます。
広く社会の中では有識者の知見をありがたく拝聴して参考にするという行事が催されております。
実際、私も公式・非公式を問わず会合には呼ばれるのですが、官公庁系の有識者会議だけでなく企業系の会議や第三者委員会のような会合では結論ありきの議論をアリバイ的に被せる目的で開催されるものも多いのが実情です。議事録と報告書の落差を見てびっくりすることも多く、その会議や会合で出た議論とは無関係の結論で文書に掲載されてしまうならば出席しなかったことにさせてください、とお願いすることも少なからずあります。
ゆうしきしゃ‐かいぎ〔イウシキシヤクワイギ〕【有識者会議】その意味では有識者の知見というとなにやら偉そうに聞こえますが、その人選を間違えれば専門外の人を呼んでしまうことでテレビのワイドショーにありがちな勘違いコメンテーターの適当な発言とまったく同じことになってしまうわけでして、これは有識者を選び出す側の見識が大きく問われる問題でもあります。
各界を代表する学識経験者や実務経験者などで構成される会議。主として国・地方自治体などの諮問機関として設置される。経済界・学界・関連団体・文化人・マスコミなど多様な分野を代表する識者が選ばれ、幅広い観点から議題について検討する。コトバンク
ちょうどそうした問題点に激しいツッコミを入れる記事をITジャーナリストの石川温さんが書かれておりました。
これでいいのか? 公取委「携帯電話 意見交換会」の違和感 ―― 信憑性乏しい調査、「有識者」発言の疑問(BUSINESS INSIDER JAPAN 18/6/22)
意見交換会には、競争環境に詳しい有識者が名を連ねているが、発言する際に「私はこの件は詳しくないのですが……」と、まず言い訳から始める人が多い。逆に申しますと「詳しくない会議でも有識者としてきてください」と言われると顔を出してしまう、そしてそれが、大学や研究所、シンクタンクなどで「実績」になってしまうという実態もまたあります。
有識者として、この意見交換会に参加しているにもかかわらず、“この件は詳しくない立場”でモバイル業界について発言するのはなんとももったいない気がしてならない。BUSINESS INSIDER JAPAN
要するに「自分は有識者として呼ばれたので発言するけれど、ここでの自分の発言には責任を持ちませんよ」という免責宣言ということになります。具体的な政策について、いま起きている問題をより良く整理するために専門家を呼んで議論するという立て付けであるにも関わらず、です。
石川さんの記事を読んでいてさらに驚き呆れたのは、データとしてかなり信頼性の低そうなアンケート調査を根拠にして有識者の皆さんが2時間近くも議論していたというくだりでして、さすがにそんなデタラメな情報を元に議論するのもどうなんだろうと思うわけです。延々と議論した挙げ句に有識者の皆さんが「調査結果だけをもとにして何か提言をまとめることは無理に等しい」と発言するオチはもう苦笑するしかありません。こうしてみると世に数多ある有識者会議のほとんどは全国放送されることがない出来の悪いワイドショー程度ということなんでしょうか。
さて我が国における有識者団体の最高峰といえば、おそらくは日本の財界トップが集って国政にも大きな影響力を持つ経団連ということになるのではないでしょうか。その経団連について日経がかなり面白いコラム記事を掲載し広く話題となっていました。
経団連、この恐るべき同質集団 編集委員 西條都夫(日本経済新聞 18/6/21)
日本のこれからの経済を左右する影響力をもつ有識者団体であるはずの経団連ですが、その正副会長を構成するメンバーの特徴は「(1)全員男性で女性ゼロ(2)全員日本人で外国人ゼロ(3)一番若い杉森務副会長(JXTGエネルギー社長)でも62歳。30代、40代はおろか50代もいない」、さらには「19人の正副会長全員のだれ一人として転職経験がない」ということで、おそらくは就職氷河期などを体験した世代の気持ちなどはおよそ想像できないであろうほどに機会に恵まれた人生を送られてきた方々ということになるようです。日経記事では以下のようなわかりやすい表現で問題提起されておりました。
年功序列や終身雇用、生え抜き主義といった日本の大企業システムの中にどっぷりとつかり、そこで成功してきた人たちが、はたして雇用制度改革や人事制度改革、あるいは「転職が当たり前の社会」の実現といった目標に本気で取り組めるものなのだろうか。もっとも、この日経記事を書かれた編集委員の西條都夫さんも東大卒業後日経一筋の生え抜きで成功されてきた方でありまして、ネット民の間では経団連の正副会長の皆さんとあまり変わらない恵まれた境遇にあるのではないかという揶揄も見られました。まあ、西條さんは経団連正副会長の皆さんとは少し世代が異なるので同じ穴の狢と見られるのはご本人としてはかなり不本意かもしれませんね。もちろん、組織で生え抜きのプロパーだから資格がない、と断定するものではないのですが、転職経験の有無や、女性と男性の比率、年代層といったところも含めていろんなところから意見を聞いて取りまとめて意味のある対策が執られるよう促す、という機能が日本ではかなり低下しているのではないか、という傍証になるのかなと感じます。
(中略)
問題は正副会長が19人もいて、似たような経歴の人しかおらず、ダイバーシティー(多様性)に欠けることだ。「老壮青」や「老若男女」といった姿からは大きく乖離(かいり)している。日本経済新聞
西條 都夫 プロフィール(第18回 日経フォーラム 世界経営者会議)
いずれにしても、有識者が必ずしも正しい答えを導いてくれるとは限らないわけですが、それでも世の中はこれからも有識者のありがたい知見を参考にして問題解決にあたることになりそうです。
海賊版サイト対策へ有識者会議発足9月に中間報告書政府の法整備後押し(日本経済新聞 18/6/22)
検討会議は漫画やアニメなどのコンテンツ関連企業や学者、通信事業者らで構成。中村伊知哉慶大大学院教授と村井純慶大教授がそれぞれ共同座長を務める。村井氏は「漫画は重要な日本の文化だ。出口の固定をしないできちんとした議論をしたい」と述べた。日本経済新聞招集された有識者の皆さんが真に意味のある議論を進められることを願ってやみません。