無縫地帯

「仮想通貨のマイニングで逮捕」という不思議な事案はどこに着地するのか

広告バナー代わりにサイトに設置された仮想通貨マイニングコードで摘発が進んでいる件については、かなり無理のある摘発劇であるという指摘が相次いでいます。この問題に落としどころはあるのでしょうか。

以前にこんな記事を書きました。

イケダハヤトさんが自身のウェブサイトに無断ビットコインマイニングのコードをさっそく仕掛け、無事物議に(Yahoo!ニュース 個人 山本一郎 17/11/2)

行儀の悪いサイトがあまりに増えるようであれば、近々Googleあたりで何か対策を出してくることになるのかもしれません。とはいえ、こういうイノベーションのようなフリーライダーのような、微妙な香りの仕組みが出るたびに行政よりも先にGoogle神がジャッジする、みたいなインターネットのお作法もいかがしたものかと思うんですけど、どうでしょうか。Yahoo!ニュース
ウェブサイトへアクセスしてきたユーザーに仮想通貨マイニングをさせるという仕組みは、心情的には「不快に思う人たちもいるだろう」という感覚もありつつ、なんと言いますか、それほど深刻な形で問題化することにはならないだろうぐらいの予感で当時はこういう書き方をしてしまいました。しかしながら、それからわずか半年足らずの時間を経てまさか行政が先に動いてしまう事態になるとは思いもしませんでした。

仮想通貨マイニング(Coinhive)で家宅捜索を受けた話(ドークツ 18/6/12)

罪状としては「不正指令電磁的記録 取得・保管罪」、通称ウイルス罪とのことで、まさに青天の霹靂の思いです。ドークツ
この事態については何が問題であるかについて丁寧に解説した論考記事が出ており大変参考になります。

他人のPC「借用」仮想通貨計算ウイルスか合法技術か(読売新聞 18/6/11)

他人のパソコンのCPU(処理装置)を借用して、仮想通貨のマイニング(採掘)を手伝わせる「コインマイナー」。仮想通貨ブームもあって話題になっているが、そのプログラムをサイトに設置している運営者たちが、不正指令電磁的記録(ウイルス)供用や保管などの容疑で相次いで摘発されている。コインマイナー用のプログラムが「ウイルス」と判断されたからだが、技術者からは疑問や反発の声も出ている。なぜなのか。読売新聞
また、この問題に詳しい高木浩光さんも大変強い論調で問題に対して見解を披露しておられます。

魔女狩り商法に翻弄された田舎警察 Coinhive事件 大本営報道はまさに現代の魔女狩りだ(高木浩光@自宅の日記18/6/17)

読売新聞の記事の中では当該技術がはたして不正なプログラムにあたるのかどうかについて、問題ないとする立場からと問題があるという立場からそれぞれ意見が掲載されており、大変重要なポイントですので是非リンク先の記事を読んでいただきたいところですが、この技術が問題であるとする否定的な立場のコメントでとくに興味深いところを以下に引用しておきます。

広告も、利用者が実態をよく理解しないうちに広がってしまったが、勝手に情報を取得する広告はクロに近いのではないか読売新聞
やや飛躍しすぎな感はありますが、本件で強調するべきアクセントの部分を高木さんの日記と見比べると問題が浮き彫りになります。つまりは、要するにアドテクは仮想通貨マイニング同様にろくでもない商売なのでクロ同然であるというご意見と解釈したいのではないか、と見積もられる内容になりかねないということでもあります。

確かに硬派な報道記事を読むつもりでニュースサイトにアクセスしみてると、なぜかエロ満載の広告バナーが出てきたり勝手に動画が飛び出したりと、スマホ閲覧者の貴重なギガを消費してくれるような事態に遭遇することがあり、こうした広告業者やメディア事業者は即刻警察に取り締まってもらいたくなる気持ちも否めないところです。しかし、それで本当に刑事事件として成立させることができるのかというとどうなんでしょうか。今回の仮想通貨マイニング機能を掲載していたサイトというのはまさに、そんなゲスなウェブ広告とあまり変わらない次元であるにもかかわらず警察から家宅捜査や取り調べを受け最後は略式起訴されたということです。はたしてそうしたあり方が本当に妥当であるかどうかを問うため、今回起訴された方はあえて面倒な道である裁判へと踏み切られたようですが、今後の成り行きは大いに気になるところです。

あえて極論すれば、もしこれで仮想通貨マイニング機能をウェブに埋め込むことが違法であると判決されれば、今後は気に入らないウェブ広告についても違法行為であるとして法律で取り締まってもらうことが可能になるかもしれません。

奇しくも海外ではAppleがこうした仮想通貨マイニング機能をスマホ(iPhone)用アプリなどに組み込むことを禁止するというニュースが伝わってきました。

アップル、仮想通貨マイニングを禁止--「iPhone」などで(CNET Japan 18/6/12)

アプリおよびアプリ内で表示されるサードパーティ広告の中で、仮想通貨マイニングなど、関係のないバックグラウンドプロセスを実行してはならないCNET Japan
もちろん、Appleなどメーカーが「こういう使い方は望ましくないので禁止したい」という話と、警察当局が踏み込んできて摘発する話とを同列に置くのは望ましいことではありません。しかし、警察庁(警視庁)である程度この方面に詳しい人々は、必ずしも一連の神奈川県警などによる合同捜査本部の在り方について評価しているわけでもなさそうで、高木さんが田舎警察の勇み足と断ずる部分も分かります。それで人生が狂いかねない逮捕者からすればたまったものではありませんが、警察庁も検察庁の特定の人物から「事件化できる」と見積もられて捜査指揮通りに動いているだけだとするならば、大いなる批判にさらされている警察庁ですらこれといった意志もなかったのかもしれません。

世界的に見ても「この内容で利用者が摘発されてしまうようでは日本のサイバー対策はたいしたことがないと馬鹿にされかねない」という深刻な事案に見られてしまいますし、また、この問題の着地をどこにするのか、振り上げた拳をどうするつもりなのかは、ちゃんと分かっている当局者が仕切り直さなければいけなません。

こちらも今後IT業界周辺においてどのような反応が起きるのか注目したいところです。