無縫地帯

Google PayがSuica対応した件から感じること

Google Payが日本の決済プラットフォームであるJR系Suicaやイオン系WAONに対応をはじめ、徐々に浸透しつつある状況のようです。

往々にして海外大手プラットフォーマーというのは視点がグローバル過ぎて、米国以外の各国ローカルにおいてはやたらに軋轢みたいなものを巻き起こしてしまいがちであります。ここでいう「グローバル」という言葉もその実は大手プラットフォーマーの多くが米国発であるため、彼らが言うところの“グローバル”というのが単に米国基準でしかなかったりするわけですが。

で、そうした米国こそがグローバルスタンダードという強気の企業姿勢が災いしてなのでしょうか、FacebookがこのところEU圏においてぶつかりまくる状況にあるようです。今後両者が歩み寄るような感じになっていくのかどうかは外から見ている限りまったくよく分かりません。

EU公聴会に出席したザッカーバーグ、GDPR施行直前に「沈黙」を通した理由(WIRED 18/5/24)

データ流出問題の渦中にあるフェイスブックCEOのマーク・ザッカーバーグが、欧州議会で公聴会に出席した。多岐にわたる質問に「ゼロ回答」で通した彼は、議員たちを怒らせ、さらなる不信感を植え付ける結果になった。WIRED
こうした米国とそれ以外の国での対立もしくは歩み寄りが成立しないみたいな現象は、残念ながらIT業界では以前からよくありがちな話かもしれません。そうなってしまう一番分かりやすい原因には言語の壁という問題もありますが、それ以外にも各国ごとの法体系や商習慣などで米国のそれとなかなか折り合わない結果、米国仕様のままでは導入・展開できないし、無理して突っ込んでみても総スカンを食らうというパターンがあったりします。昨今注目されるスマホベースの決済サービスでもこうした諸々の事情が大きく影響しており、そのままどこでもすぐには同じように開始できないという現状があるわけでして、各プラットフォーマーも国や地域にあわせて色々と環境整備や根回しが求められているわけです。

そんな中、今回めでたくGoogleが日本国内において同社決済サービスのGoogle PayにおいてJR東のSuicaとイオンのWAONなどに新たに対応したという発表がありました。

Google Pay に Suica と WAON が加わりました。(Google Japan Blog 18/5/24)

本日より、Google の支払いサービス、Google Pay に Suica と WAON が加わり、より多くの店舗、交通機関やオンラインでさらに便利にお使いいただけるほか、複数のカードやポイントを1ヶ所にまとめて管理できます。Google Japan Blog
複数のサービスをそれぞれの個別アプリを立ち上げることなく、Googleのアプリ上からまとめて管理できるのが大きなメリットとなるわけですが、気になるポイントとしてはGoogle Payを通じてSuicaなどのサービスを利用するためには、Android端末そのものが日本独自規格であるところの「おサイフケータイ」にハード的に対応している必要があるというところです。この問題点については以下の記事にあるツッコミが的を射ていますのでそのまま引用しておきます。

Google Payで「Suica」「WAON」が利用可能に(ケータイWatch 18/5/24)

グローバルで提供されることから、訪日外国人にとっても利便性が高いとプレゼンテーションで披露された。Google Payを通じてSuicaやWAONを使えるようになることで、日本を訪れるとすぐ電車を利用できたり、店舗や自動販売機で買い物ができる。ただし利用できるのはおサイフケータイ対応機種とされており、海外で販売されるNFC対応機種は非対応。グーグルがオンラインでおサイフケータイ対応機種を販売する計画もなく、今のところ、その利便性は絵に描いた餅となっている。ケータイWatch
そりゃそうですよね。まさに絵に描いた餅でしかない状況ですが、Googleの中の人もどこまで分かってこんなプレゼンをやったのでしょうか。謎です。「日本はグーグルにとって、Google Payにとって重要なマーケットだ」という発言もあったようですから、まずはグローバルではなく日本ローカルな事情にあわせてみましたというそれなりの誠意と努力の賜物なんでしょうが、ちょっとばかりピントが外れてしまったということなのか。または、分かっていたけどそうせざるを得なかったのか、はたまた、まずはやってみたところから徐々に実態に合わせていこうという考え方なのか。

ちなみに、今回のGoogle PayのSuica対応はエンドユーザーからするとちょっとした経済的なメリットもあるようでして、これはGoogleが日本のユーザーのために頑張っている証拠なんだと思います。

Google PayのSuica対応一部ユーザーは新規登録しないと損をする?(ITmedia 18/5/24)

単に日常の決済手段としてモバイルSuicaを使っていた人は、今回のGoogle Pay対応によって、Google Payに登録したクレジットカードを使えば年会費不要でSuicaにチャージできるようになる。これは大変喜ばしいことだ。ITmedia
一方で、旧来のサービスである「モバイルSuica」はエンドユーザーのことをあまり考えていないというか、どちらかというと自分達の都合最優先でルールを作ってサービスを運用している姿が浮かび上がってきておりまして、これが日本流おもてなしの実態なのかなと残念に思わなくもありません。

モバイルSuicaのWebサイトによると、一度でもクレジットカード情報を登録すると、別のクレジットカードに変更することはできても、削除する(空白にする)ことはできないという。つまり、モバイルSuicaから年会費不要のEasyモバイルSuicaに移行することはできない。
(中略)
これまで「モバイルSuica」を使っていたユーザーにとって、Google PayアプリのSuica対応によって従来の体験が大きく変わるということはなく、「Google PayアプリでSuicaの残高管理ができるようになった」程度というのが実情かもしれない。ITmedia
勝手な推測になりますが、GoogleとしてはGoogle PayでSuica対応するのに日本独自規格のおサイフケータイはかませたくなかったのではないでしょうか。正直、Googleの気持ちも分かります。しかし日本側としてはそれは絶対に譲れないところでもあったのでしょう。AndroidのライバルであるApple iPhoneの決済サービス「Apple Pay」についても、国内の決済サービスを利用できるのは日本国内向けに製造・販売されている端末のみであり、海外市場で流通しているiPhoneでは利用できない仕組みになっています。このあたりはグローバルとローカルの衝突の典型的事例とも言えそうです。

FeliCa規格が国内の鉄道系ICカードで大きく普及したのが仇になっているとも言えそうですが、金融系キャッシュレスサービスがいずこもQRコードベースで動きだしているのもこうした事情が色々と関係あったりするのだろうなとは感じます。

スマホ決済、3メガ銀がQRコード規格統一で合意(日本経済新聞 18/5/22)
QRコードで即時決済できるスマホ向け「ゆうちょ Pay」2019年2月に開始予定(ITmedia 18/5/21)

しかし、こちらはこちらで複数のプロプライエタリな規格が立ち上がりそうでして、将来的には互換性の問題などで色々と厄介なことになりそうな危惧もあります。

昨今注目されるスマホ決済サービスですが、グローバルとローカルの対立もさることながら、ローカルにおける各派閥の思惑によるいざこざもあって、折角便利そうな仕組みではあってもしばらくは積極的に手をつける気にならないなと思う今日この頃です。いろんなプラットフォームが乱立するのは情報化社会の常としても、使うユーザーがそれによって分断されたり、使いにくいサービスを最初にうっかり選んでしまったばっかりに不利を被る消費者が出ないよう祈るのみです。