「TSUTAYA TV」が消費者庁に「動画見放題」の表記を巡り措置命令を受けるあたりのリテラシー事情
「TSUTAYA TV」の広告表記を巡り、観られないコンテンツが少なくないにもかかわらず「30日間動画見放題」と宣伝した内容は適切ではないとして消費者庁から措置命令が出ていました。
しばらく前にTwitter上の一部で「文字は分かるが文は読めない」という話題がバズっていたようです。
Twitterには「文字は分かるが文は読めない」という人が一定数存在する話(Togetter)
昔からよくある「言葉は通じるのに話が通じない」事例が後を絶たないこともあり、リテラシーの有無についての意見の交換が行われていたということなんでしょうか。まあTwitterに限らず世の中には社会的共通認識としてのリテラシーが通じないという残念な事態は往々にして起こるものです。
リテラシー(英語表記)literacyとくにネット上ではIT方面に関する“リテラシー”の有無が論じられがちではありますが、IT以外の社会全般においてもリテラシーの問題はたくさんあります。で、そうしたリテラシーの隙間みたいなものが存在することを確信的に都合良く利用して商売しようというワルい人達がいることも現実です。
1 読み書き能力。また、与えられた材料から必要な情報を引き出し、活用する能力。応用力。コトバンク
以下の件などもまさにそうしたリテラシーの間隙を突いた典型的な商法なんだろうなと感じなくもありません。
TSUTAYAの「動画見放題」プランに景表法違反で措置命令実際は1、2割程度しか見られず(ねとらぼ 18/5/30)
「TSUTAYA TV」の公式サイトでは遅くとも2016年4月から2018年1月10日まで、動画見放題プランの紹介として「動画見放題 月額933円(税抜) 30日間無料お試し」の文字をトップページに記載。その背景に30作品の画像、さらには下の「人気ランキング」および「近日リリース」欄にそれぞれ10作品の画像を載せ、あたかもプランに契約すればこれらの作品や新作・準新作も見放題となるかのように表示していました。TSUTAYAの“動画見放題” 実際は一部だけ(NHKニュース 18/5/30)
しかし実際のプランの対象は、「TSUTAYA TV」の全配信作品のうち12~26%程度となる約8000タイトル。特に新作・準新作については1~9%程度しか対象ではありませんでした。ねとらぼ
消費者庁に対してTSUTAYAは、「対象作品の制限がないという印象を与えるとは思っていなかった」と話しているということですが、消費者庁は、消費者に誤解を与えるとして、景品表示法に基づいて再発防止などを命じる措置命令を出しました。NHKニュースTSUTAYA(運営はTSUTAYA社、ホールディングカンパニーはカルチャーコンビニエンスクラブ:CCC社)は「配信されている全部の作品が動画見放題とは言っていない」と強弁したものの通らなかった、ということでしょうか。
消費者庁とTSUTAYAのやりとりを見ていると、さすがにそういうことが表立って言葉になったということではありませんが、「動画見放題」という宣言文句を勘違いしたユーザーの方が悪いみたいなノリが微妙に感じられるところもあり、これはまさに都合の良い形でユーザーのリテラシーを問うことによってサービス提供者側は何も悪くないと言い逃れしているような印象があります。しかしさすがにその弁解は今回の事例では成立しないだろうと思いますけれども、まあ、もしかしたらTSUTAYAの宣伝担当者が本当の意味でリテラシーに欠けた人物でこういうでたらめなキャンペーンを2年間近くも続けてしまっただけなのかもしれません。仮にそういうことであれば、それはそれでTSUTAYA社内のガバナンスとコンプライアンスの問題ではあるのですが。
もっとも、貸しDVDなどコンテンツの頒布で店舗展開し頑張ってきたTSUTAYAにとって、ネットでの動画配信が一般化すると「そもそもTSUTAYAに来店する動機がなくなるわけで、いまいる顧客情報や商品トレンドなどのマーケティング資産を早いうちにオンラインへ、またデータドリブン方向へ展開していかなければならないというTSUTAYAの焦りも理解はできます。消えゆく街角の本屋さん以上にどんどん不要な存在になっていくTSUTAYAは、ある意味で情弱なユーザーにとにかくサービスを使ってもらう必要に迫られているとも言えます。
しかしながら、先日日経がなぜか「ネットフリックスが日本で苦戦」という記事を配信していて、そこに掲載されている円グラフには「TSUTAYA TV」の姿はないわけです。NTTドコモのキャリアのうえで展開しているdTVやオンラインレンタルというに多様なビジネスモデルで先行したユーネクストが堅調に推移する一方、自社で独自コンテンツを制作できる仕組みのある大手メディア企業が自社独自コンテンツに加えて調達コンテンツも観られますという仕組みで展開して初めてユーザーに「これなら月額定額課金してもいいかな」と思わせられるだけの陣容を用意できるということです。あくまでレンタルDVD事業が発祥のTSUTAYAにとって、アダルトビデオ以外の独自コンテンツを制作してこなかった不利な状況をどう覆すのかは非常に重要なところなのかなあと思うわけであります。
ネットフリックス、日本で苦戦(日本経済新聞 18/5/29)
「TSUTAYAの見放題が措置命令を喰らうのなら、ほぼ似たようなキャンペーンを打ち、見放題対象でないコンテンツも多いユーネクストはなぜ無罪放免なのか」という議論もあるようですが、いずれ沙汰があるのかもしれません。
いずれにせよ、競争が激化し営業がヒートアップすると、少しでも有利な条件であるようにユーザーに打ち出したい各社の思惑が前面に出過ぎてしまう、という側面はあるのでしょう。ユーザーからすると、その表記通りのキャンペーン内容なのか見極められるだけのリテラシーが求められている、と言えそうです。