無縫地帯

海賊版ブロッキング問題、NTTグループに訴訟含みの申し入れを行ったのはカドカワ川上量生さんで確定

「漫画村」など海賊版サイト遮断問題で、NTT鵜浦博夫社長に訴訟も辞さない交渉を行ったのは既報の通りカドカワ川上量生社長であることが、日経の川上氏本人へのインタビューで確定しました。

「漫画村」以下、海賊版サイトが閉鎖され、本来憲法問題でもあるブロッキング問題を突破する口実の一つであった「緊急避難」が成立しなくなってもなお、ブロッキング実施で独走するNTTグループ・鵜浦博夫社長が行った決断について、続報が出てきました。

既報の通り、NTTグループのブロッキング決断と発表も、そこに至る鵜浦社長との握りも、概ね「iモードの夢よ再び」的な脱土管ビジネスを推進するためのある種の陰謀によって立法措置を待たず乱暴な方法で進捗させてしまったというのは実に残念なことです。また、そもそもNTTグループはなぜカドカワをそこまで尊重するのか、という別の補助線も必要になるかもしれません(本稿では触れません)。

NTTグループが23日月曜にも傘下ISPに対し独自のブロッキング案を発表・実施か(ヤフーニュース山本一郎 18/4/22)

この判断にあたって、大きな役割を果たしたとされているのが、通信業界とコンテンツ業界の事実上の橋渡し役になっている角川グループ・ドワンゴの川上量生さん(資料では当時ドワンゴ代表取締役、現・ドワンゴCTO、カドカワ代表取締役)と見られます。関係者の証言によると、NTT代表取締役社長の鵜浦博夫さんとの間で一連のブロッキング問題について議論を重ねてきていたのは川上量生さんと渉外関係者で、早い時期から帯域制限の名目でのブロッキングや、上記憲法の「通信の秘密」に抵触しないブロッキングの方法について検討してきたとされています。
NTTグループが23日月曜にも傘下ISPに対し独自のブロッキング案を発表・実施か(山本一郎) - Y!ニュース
情報法制研究所などでサイトのアクセス遮断が立法を伴わないまま進むことに対する是非に関するシンポジウムが開かれ、各情報通信会社が政府のブロッキング方針に対し電気通信事業法違反の疑いや憲法で認める「通信の秘密」に抵触する危険性を押してまで応じるのかが焦点となったわけです。

著作権侵害サイトのブロッキング要請に関する緊急提言シンポジウム(情報法制研究所)

NTTグループのブロッキング方針の発表については、深く関係していたとされる、川上量生氏とみられるTwitterアカウントに対して公式取材を行っていますが、その場では川上氏は内容について全否定されています。

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しかしながら、実際には記事で報じた通りNTTグループは4月23日ブロッキングを発表し、大騒ぎとなりました。

インターネット上の海賊版サイトに対するブロッキングの実施について(NTT持株会社ニュースリリース 18/4/23)

5月11日、NTTグループで社長からの勇退を合わせて発表した鵜浦氏が本件について見解を述べた際に、「著作権者や出版社から『NTTを訴えていいか』と相談があった」と語っています。

NTT社長「無法地帯放置しない」ブロッキング決断(日本経済新聞 日経 xTECH/日経コンピュータ浅川直輝 18/5/11)

「2017年秋、(海賊版サイトの件で)著作権者ならびに出版社から『NTTを訴えていいか』と相談があった」と鵜浦社長は明かす。

NTTを被告とし、海賊版サイトへの接続について差し止め請求をするか、著作権侵害を放置した不作為による損害賠償請求をすることで、海賊版サイトについて世間に注意喚起を図る趣旨だった。これを機に鵜浦社長は、NTTとして取り得る手段について法務部門と議論を重ねていたという。
NTT社長「無法地帯放置しない」ブロッキング決断:日本経済新聞
これこそが、出版業界の利益代表として関わりの深いNTTグループに申し入れをしたカドカワ代表取締役の川上量生氏であることが、今度は川上氏自身がインタビューで応える形で裏付けられます。

カドカワ川上量生社長が語る、サイトブロッキングの必要性(日経 xTECH/日経コンピュータ浅川直輝 18/5/16)

川上氏は2017年10月、NTTの鵜浦博夫社長に問題について相談した。ブロッキングの必要性を訴えたうえで「NTTを訴えさせてもらえないでしょうか」と持ちかけたという。

(略)

訴訟自体は負けても構わず、他に有効な代替策が無いことの証拠を積み上げたかったという。「当時はCDN(コンテンツ・デリバリー・ネットワーク)事業者に発信者情報の開示を請求しても、発信者としての防弾ホスティング事業者を紹介されるだけで、その先にはたどれなかった。広告の出稿の要請は、コンテンツ業界は過去何回かにわたって組織的に取り組んでいるが、限定した効果しかなかった」(川上氏)。
カドカワ川上量生社長が語る、サイトブロッキングの必要性
また、この記事の中で、やはり川上氏が第3回知財本部委員会会合で「緊急避難」に当たるかすら微妙な児童ポルノのブロッキング事案と並べて著作物に対する海賊行為を並べて議論しているという事態に陥っていることが解説され、知財本部の事務局や委員にきちんとこの問題を法的・技術的に理解している専門家が不在のまま委員会でブロッキングの方針が議論されていたことが確定的となりました。

こうした状況で2018年2月16日に開催された知的財産戦略本部検証・評価・企画委員会コンテンツ分野会合(第3回)は、関係者が海賊版サイトの被害の実態や対策、法的な問題について率直な意見交換を行うとの理由で非公開になった。川上氏によれば、この会合を機に、知財本部などで「緊急避難によるブロッキングが児童ポルノ画像には適用でき、著作権には適用できない、という議論自体がおかしいのでは」との意見が相次ぎ出たという。
カドカワ川上量生社長が語る、サイトブロッキングの必要性
また、記事中「(ブロッキング以外に)他に有効な代替策が無い」と主張されている内容については、これもすでに既報の通り、広告主の炙り出しからサイト運営者情報まで概ね辿ることができます。「Anitube」については運営者のブラジル人が現地で起訴され、「Miomio」も中国の拠点で活動していた法人と運営者個人が特定・訴追される状況であり、懸案であった「漫画村」も公告の元締めをしていた千駄ヶ谷の広告代理店と東中野のスパム事業者が実質的な運営者ということで、おそらくは早い段階で摘発に至るでしょう。

実際のところ、著作権者やそれを束ねる出版各社は、被疑者不詳で昨年刑事告訴をしたと言っても、要件が伴わないうえに想定される被害額が曖昧か小さすぎるため、実質的には受理されないか捜査に着手されないというのが実情です。実際、福岡県警や大分県警で刑事告訴していたという話がありましたが、これらの出版社は概ね神田署など警視庁に事件化、捜査着手の相談をするのが常識であり、それでなくてもサイバー犯罪に詳しい警視庁や京都府警、大阪府警などに働きかけるのが(本当に早期解決を願うのであれば)求められる対応法です。

【号外】「漫画村」ブロッキング問題、どこからも被害届が出ておらず捜査着手されていなかった可能性(プレタポルテ by 夜間飛行 18/4/18)
政府の無理筋ブロッキングの標的となった「漫画村」が閉鎖、窓口会社が遁走のゆくえ(New'sVision 18/4/18)

いずれ事件が進展すれば訴え出たと見られるレッツゴージャイアンツの漫画家などが被害者原告として出てくるのかもしれませんが、この毎日新聞の記事にある「講談社など大手出版社4社が漫画家から委任を受けて提出した」が正しいとすると、漫画家から委任を受けた出版社はそもそも権利者ではなく、非弁行為をしてしまっているようにも読めます。

福岡県警など:「漫画村」捜査に着手著作権法違反容疑で(毎日新聞 18/5/14)

この問題は、そもそも出版社は訴え出る資格のある権利者ではなく、権利関係がはっきりしているかどうか微妙な立場であることも浮き彫りになります。海賊版問題は確かに作家や漫画家など権利者と、その権利を活用してビジネスにする出版社の立場は異なり、契約の主体も曖昧なまま事業を続けてきてデジタル時代に突入してしまったことを意味します。漫画やアニメなどのコンテンツ制作の海賊版問題においては、著作権に関する取り決めが契約上明文化されておらず、長期的に取り組める待遇も確定していないなかで、非常に安い賃金や不確定な権利や劣悪な労働環境しか提示されない従事者がたくさんいるうえに成り立っている議論だ、とも言えます。

このような業界全体の構造問題を差し置いて、絶対悪である海賊版対策に法的・技術的な専門性も確保せず政治的に解決へごり押ししようとした結果が、今回のブロッキング騒ぎのような迷走を繰り返している原因なのではないでしょうか。