無縫地帯

AI(人工知能)というバズワードが政治と絡めてお気楽に語られる時代到来

自民党・小泉進次郎さんがニコニコ動画の展開する超会議で政治と人工知能を組み合わせるアイデアを披露したようで、興味深い感じがしたので雑感をまとめてみました。

近年はなにげに政府筋や各政党の広報イベントとしての色合いが強い印象も受ける「ニコニコ超会議」でありますが、そこで「政治とテクノロジーの関係を巡る討論会」という趣旨のもと自民党筆頭副幹事長を務める小泉進次郎さんが興味深い発言をされたようです。

進次郎氏「政治にAI導入を」(共同通信 18/4/29)

討論会で小泉氏は、農地に水路を引く工事を取り上げ、農地の形状などをAIで解析し水路の引き方を決める米国の事例を紹介。地元などの要望で調整する日本に比べ、コストが「100分の1くらいになる」とし「ポリテックは納税者の負担を楽にし、日本の力を高める」と語った。共同通信
この記事だけから判断すると、同氏が提言しているのはAIを活用することで農地行政を効率化が可能だという話でしかないように見えます。ところが、政治が担うべきであるところの地元の要望に対する調整作業そのものについてはAIが出した答えがすべてだといことで完全に置いてけぼりの未来がやってくるということなんでしょうか。それがはたして本当の意味で納税者の負担を楽にしてくれる形なのかどうか。

小泉進次郎さんがいうところの「ポリテック」というのは政治(ポリティクス)とAIなどのテクノロジーを掛け合わせた造語だそうですが、なんだかよく分からないので他の報道などからも同氏の発言を拾ってみることにします。

小泉進次郎氏ニコニコ超会議で「科学技術を政治に」(日刊スポーツ 18/4/30)

「今の時代、テクノロジーは無視できない分野。当たり前のように政治にテクノロジーが入れば、政策決定や執行の速さは劇的に変わり、コストも減る。女性活躍と同じで、テクノロジーも多様性の1つだ」日刊スポーツ
どうやら小泉進次郎さんは気鋭のメディアアーティスト落合陽一さんとこのところ意気投合してこういう発言をされているとのことのようですが、落合陽一さんもこれを機に政界進出も考えられているような発言魔でされていて、そこへ向けての地ならし的なトークイベントでもあったということなのでしょうか。まあ、イベント後に報道陣に問い詰められて妙な言い訳のような発言もあったようですが。

落合陽一氏「今の仕事やり終わったら」政界進出意欲(日刊スポーツ 18/4/30)

終了後の報道陣の取材に、落合氏は、自身の発言について「現場の研究予算を含めて、あと5~6年は動けない。現場で解決しないといけない課題を解決したら、やらないといけない人がいないならば、(自分が)やらないといけないと思う」と説明した。日刊スポーツ
落合さんらしいリップサービスが周辺の思惑を呼んでしまった、といったところでしょうか。

野望に満ちた若い人達のあれこれは楽しそうだなと思いつつ、AIというバズワードが気軽に使われるのは仕方ないとして、今後バズワード的なお気楽さのままで本当にAIが政策決定などの場面に活用されていく未来はちょっとしたディストピア感も覚えるところでありまして、「テクノロジーも多様性の1つだ」みたいな無邪気な物言いはニコニコ超会議という場を意識してのことなんでしょうがさすがにちょっと脇が甘いのではと思わなくもありません。

AIが導き出す回答をどこまで信頼するのかという議論は、AIがまだまだ完全な実用の域に達せず試験段階である現状においては杞憂の類であるともいえますが、それなりに影響を受けて真に受ける人達も増えつつある現状を鑑みれば、単なる取り越し苦労で済ませることもできないかなとは感じています。たまたまこのタイミングでAIの可能性についてを論じる面白い記事が2つほどあったのでご紹介しておきます。

「フェイクデータ」が、人工知能をもっと賢くする(WIRED 18/4/29)

「創造性豊かなAI」が、次のフェイクニュース戦争の主役になる(WIRED 18/4/30)

これから類推できるのは、嘘のデータを上手に活用することで賢くなったAIが人間を上手に欺すような嘘をつく未来がやって来る可能性もあるということですね。これはこれで大変興味深いです。

一方で、2016年には経済産業大臣の世耕弘成さんが人工知能を使った国会答弁という微妙なアイデアに予算付けをして見事にフェードアウトすることになった経緯もみると、小泉進次郎さんの力説する「ポリテック」も、政治というよりは入れ歯のテクノロジーぐらいにしかならないのではないかと思う次第です。