無縫地帯

NAVERまとめの無断転載対応が大手報道メディアに配慮する形で手打ち

かねてから権利物の無断転載が問題となっていたNAVERまとめが、報道大手7社との交渉を成立させ、無断転載34万件削除で合意したというニュースが入ってきました。

LINEのメディア事業のひとつである「NAVERまとめ」は、他人が権利を持つ記事や画像などをテーマごとに取りまとめて整理して掲載する分かりやすさで人気を博す一方、情報の権利者ほかに無断で画像や記事を転載することでこれまで何度も問題となってきておりました。典型事例としては以下のブログ記事が分かりやすいかと思われます。

NAVERまとめに無断転載を抗議したら、衝撃的な回答が来た(旅するフォトグラファー 16/12/17)

上記ブログ記事は文末に関連記事へのリンクもあり、最終的には約半年後に無断転載に対する損害賠償が支払われたことも分かりますが、記事をまとめた人物や運営側の対応なども含めてかなりトンデモな経緯を知ることができ大変興味深いものがあります。

結局のところ、実際の著作権侵害行為を実行してしまう立場のエンドユーザーが全責任を負うことになるという顛末については、日頃色々なウェブサービスを規約も読まずに安易に使ってしまいがちな我々は改めて大いに注意しなければならないというお話でもあります。以前から、プロバイダ責任制限法の弊害は議論されてきましたし、インターネットでの発信においてどういう方法がフェアか、という議論は意外に置き忘れられがちなのもまた、事実であります。

NAVERまとめのライターに無断転載の損害賠償を支払っていただいた件(旅するフォトグラファー 17/5/21)

LINE株式会社は、NAVERまとめのサービスにおいて、記事を書くライターを守りません。本来ならLINE社が負うべき無断転載の一切の責任をライターは負わされています。NAVER利用規約に初めからそう書いてあります。旅するフォトグラファー
LINEからすれば利用規約に基づいて合意した利用者にサービスを提供していただけという理屈になりますが、権利を侵害されたほうは「そもそもそういうことが可能で、利用の主目的が権利侵害を前提とするようなサービスを提供している側に問題がある」と主張したい事案になることは間違いありません。

いずれにしても、NAVERまとめにおいて著作権侵害された被害者側が救済されるまでにはかなりの手間暇を要するらしいことはこの一件からも容易に想像できるわけですが、さすがに商業メディアの多くはこんなことをやっている暇はないということで、どうやら大手報道メディアとLINEでは手打ちが成立したようです。

報道7社とLINE「NAVERまとめ」無断転載34万件削除で合意(毎日新聞 18/4/26)

国内最大級の読者投稿型ニュースまとめサイト「NAVERまとめ」に、毎日新聞など新聞・通信計7社とその関係会社の写真など計約34万件が、無断転載されていたことが分かり、7社と運営会社のLINE(ライン、本社・東京都新宿区)側は26日までに、同社側が無断転載写真などを削除するとともに、再発防止策を取ることで合意した。毎日新聞
そうですか、良かったですね。今後は、合意した報道7社については「ドメインブロック(投稿制限措置)」などの措置が講じられ簡単には画像などを無断転載することが困難になるとのことです。当たり前のことですが、ストレートニュースだけでなく報道記事は、真実の概要にかかわる情報そのものが価値ですし、権利を守ろうとするには無断転載は許さない姿勢を持つほかに方法がないというのもまた事実であります。

しかし、こうした大手のメディアから画像などを簡単に無断転載することが困難になれば、ドメインブロックなどの対象になっていない零細中堅商業サイトや個人サイトから無断転載しようとする人が従来よりも増加する可能性も危惧されるところです。

声の大きい力のあるメディアから文句を言われたので、そちら方面には丁寧に対応して強力な再発防止策を講じながら、本質的なパクリ防止についてはとくに何も講じていないように見えるのは穿ち過ぎでしょうか。例えば、羅列される芸能人の画像をまとめただけのNAVERまとめにアクセスが集まり、まとめた人にNAVERまとめが報酬を払うとしたら、当然権利者は抗議をすることになるでしょうが、たいていの場合は「権利侵害はパブリシティ権ですか」という反論を許すことになり、権利者本人であるタレントが裁判を起こさなければならない(代理人を立てるにせよ)という点で現実的ではないというのが正直なところです。

LINE側は「写真などはユーザーによって無断転載された」としつつ、ネクスト社の島村武志社長は「無断転載が行われている実情は、プラットフォーム責任者としてまことに遺憾。今回の合意で報道7社と権利保護の対策の一歩を踏み出せたことは意味深い」とコメントしている。毎日新聞
何が「意味深い」のかはよく分かりませんが、これで報道メディアから叩かれる理由が大いに減ったであろうことはLINEやサイト運営のネクストライブラリ社にとっては朗報なのでしょう。ただし、大手企業には配慮されるが零細中堅企業の権利物の情報流用もまた、今後は同様の措置を求める交渉が始まるかもしれず、しばらく様子を見たほうがいいかもしれません。