無縫地帯

Facebook問題に見る、ユーザーデータ収集が売りのネットサービスという商売の袋小路

いまだ渦中に晒されているFacebookですが、データを使ってネットサービスが収益化を図るアプローチについては「どんな情報が収集され、どう利活用されているか」が開示される仕組みが必要になってきました。

Facebookの個人情報流出問題は、ネット広告業界の勝者に対する勝因が汚い、問題があることをかなり浮き彫りにしたといえます。

Facebook「プライバシー問題」から何をどう読み解くか(Yahoo!ニュース個人 2018/3/28)

実際、先週掲載したこの記事の後も、この件については次々と新しい話が報じられ一向に事態が沈静化しない様相ですが、当事者であるFacebookとCambridge Analyticaの両者はそれぞれが自分達の方が正しくて相手が悪いといった趣旨の弁明に終始する印象もあり、外から見ているとまさに目くそ鼻くそを笑う状態の趣も感じる次第です。もちろん、お互い言い分があるのは間違いないのでしょうが、実際に起きたことやその影響からするともっと真摯に対応する方法もあったのではないかと感じる部分があります。Facebook側はそれでも被害を起こした各国にお詫び行脚をしているわけですが、あくまで問題に対する説明と当面の解決策を示すのみで、ビジネスとしての強みをどう整理敷くつもりなのかについては依然良く分からない印象があります。

Facebook、「CAが集めた個人情報は5000万人ではなく8700万人」下院もCEOを公聴会に招請(ITmedia 18/4/5)

ケンブリッジ・アナリティカ、Facebookデータ8700万人分入手を否定…実際には3000万人(TechCrunch Japan 18/4/5)

本誌はFacebookに、2社の主張の食い違いについてコメントを求めたが拒否された。
(中略)
言った言わないの議論は今後ますます激化しそうだ。TechCrunch Japan
数千万規模の個人情報が勝手に流用されてしまっている時点で悪質なことに変わりはないはずなんですが、FacebookとCambridge Analyticaにとっては数字の違いが自分達を正当化するための争点として大きな意味があるということなんでしょうね。

ただそれは部外者からすれば真実に辿り着きようもない話で、どちらが正しいかは別としても、先に述べた通りFacebookは一連の不祥事を受けてさまざまな善後策を打ち出してきております。

Facebook、サードパーティアプリがアクセスできる個人情報を大幅制限へ(ITmedia 18/4/5)

これまでユーザーデータの収集ツールとしてFacebookを利用してきたメディアや広告事業者などにとってこの方針変更はかなりの痛手となる可能性もありそうですが、一般個人ユーザーでも分かりやすい変更には以下があります。

電話番号とメールアドレスでのユーザー検索機能の終了

Facebookでは、ユーザーが電話番号とメールアドレスをプロフィールで公開している場合は、それらを入力することでユーザーを検索できた。同姓同名の多いユーザーを探すのに便利だったが、この機能を終了する。

悪意ある第三者がこの機能を、持っている電話番号リストを使ってユーザーの公開プロフィール情報を盗むのに利用していたためという。ITmedia
電話番号やメールアドレスの公開は原則としてユーザーの許諾ありきの機能ではありますが、ある意味でSNS事業者の多くが確信的にこうした個人情報を公開するほうが便利になりますよと吹聴してきた印象が強いだけに、そうしたSNSの筆頭であるFacebookがこれをやめるというのは一つの大きな変わり目なんだろうなと感じるところです。類似機能は国内で人気のTwitterやLINEなどでも提供されておりますが今後何か変わっていくのかそのあたりは注目したいと思います。実際、Linkedinや名刺アプリなどでは「その個人を検索できることありきで作られたサービス設計」の部分があり、Facebookの今回の事件をきっかけにそれを是正しようとなると「名刺アプリに登録した個人名や社名を外から検索をかけることができなくなる」わけで、サービス提供者からすればマーケティング面だけでなく利用者へのサービスの重要な機能を失うことになりかねません。

LINEで友達を「電話番号」で検索して追加する方法(アプリオ 17/1/26)
Twitter メールアドレスや携帯電話番号で検索できないようにする(Tipsfound)

実際、Facebookは他にもいろいろと面白い情報操作をやっているようです。

フェイスブック、メッセンジャーでのやり取りをスキャンしている(ブルームバーグ 18/4/5)

米フェイスブックは、「メッセンジャー」上でのチャットや画像のやり取りが同社のコンテンツ規定に従っているか確認するため、そうしたやり取りをスキャンしている。内容が規定に違反している場合はブロックされる。ブルームバーグ
通常の感覚からすればメッセージングサービスのような個人間における情報のやり取りはサービサーが関知する範疇ではないと思われるのですが、Facebookではそうは考えていないようです。同社ではメッセンジャー上の「やり取りをスキャンし、同じツールを使って乱用を防止している」と説明していますがこれは一種の検閲行為なのではないかと不思議に感じます。なお、同社では「メッセンジャーのアプリはスキャンされたメッセージから得たデータを広告向けに利用することはない」という説明もしています。今さらではありますがプライバシーを気にする人はFacebookのメッセンジャーでやり取りするのは控えるのが無難だ、という結論になりかねません。

個人ユーザーにとっても、またそうした個人ユーザーの動向を掴んで上手く取り入りたい企業にとっても重宝されてきたSNSですが、そのあり方をそのまま素朴に真に受けて依存したままで良いのかどうかということについては、しっかりと問い質していくべきタイミングが来ているのでしょう。

ザッカーバーグ、個人情報不正流用は「私の責任。Facebook社員は誰も解雇しない」、「世界への影響規模を理解していなかった」でも、CEOは辞めません(Engadget日本版 18/4/5)

もちろん、起きてしまったことは素直に反省して改善し、今後ビジネスで信頼回復できるよう頑張る、というのも責任の取り方の一つです。一方で、それまである種野放図にFacebook利用者の情報をサードパーティーや広告事業者に使わせてきたことに対して「これからは制限します」となると、Facebookに依存した広告テクノロジーの会社はいきなり大きなピボットを強要されたり、最悪の場合、Facebookを利用した過去の広告事業の問題点を蒸し返されたりする危険性もあります。

データの利活用にあたっては、過去にもプライバシーの取り扱いに対する消費者の警戒感の高まりもあって、一大成長産業と目されていた「データブローカー産業」が一気に斜陽化してしまって成長のストーリーを失った経緯があります。一口にデータ資本主義時代の「データドリブン」といっても消費者や行政の情報の取り扱いに対する熱量や水準と常に見比べながら自社のサービスを調整していかなければならず、また人工知能やビッグデータ的な統計的処理の手法を採用するにしても元データが常にフレッシュでなければならず、自社のデータだけで顧客の動きを予測することなど到底不可能であることを考えるとどちらにせよFacebookなどの大手企業やデータブローカーからの情報を買って、結合しながらやっていかざるを得ない面はあると思います。

「データブローカー」に暗雲―米国で高まるパーソナルデータ活用の規制強化の機運(1)(Enterprisezine 小林慎太郎 13/6/28)

日本国内に目を転じると、Yahoo!JAPANという会社がデータドリブンを掲げてデータの利活用を進めると近年言い続けているのも興味深いところです。

ヤフー、2017年にはネット企業からデータドリブン企業へ(ケータイ Watch 16/12/8)
ヤフー、社長交代を発表。新社長の川邊健太郎氏「データドリブンカンパニー」を目指す(Car Watch 18/1/24)

そういえば、Yahoo!JAPANはFacebookと情報連携をやっておりましたが、この内容を見る限りですといろんなことができてしまいそうで、その一方で、このような情報がどれだけの解析を経て具体的な利益に結びついているのか外からは良く分からない印象があります。

ヤフー、主要サービスをFacebookと連携--「爆速で対応する」(CNET 12/4/24)

ベルギー裁判所、Facebookによる「いいね」ボタンなどを使った同意無しでの個人情報収集を違法と判断(スラド IT 18/2/22)

つまりは、個人に関する情報が「どれがどのくらい収拾されているのか」と、「どう利活用され、ネット上でのエクスペリエンスに影響しているのか」とが分からなければ、いつまでも疑心暗鬼は続いていってしまうのではないかと思うのです。データドリブンは今後のネットビジネスや社会をより良くしていくうえで必要なことですし、IoTや国際的な情報連携においても非常に重要なイシューに関連しているものですが、むしろ今後のビジネスマインドとしてはこれらの「個人の情報利用状況の開示」が枢要なトレンドになるのではないかと感じます。