無縫地帯

電気自動車時代に向けて、バッテリーその他の新たな安全対策は必要なのでしょうか

モバイルや電気自動車(EV)の世界で最重要技術となっているバッテリーについて、出火リスクも含めて再考するべき状況になっております。

近年スマホや各種デジタルガジェットをはじめとしてリチウムイオン電池を利用した製品が広く社会に普及してきました。しかし残念ながらリチウムイオン電池は破損するとその構造上発火する危険性が高いという弱点を持っており、それが原因の発火事故も相対的に増えているのが現状です。

リチウムイオン電池…発火事故急増のワケ(YOMIURI ONLINE 17/11/2)

リチウムイオン電池は、このように危険な一面があるため、多くは内部に保護回路を持っている。(中略)一部の安価な製品の回路はコストダウンのために最低限の機能に集約されてしまい、安全性も低くなってしまったとされている。YOMIURI ONLINE
最近もパナソニックのノートPCで発火事故の恐れがあるとしてリコールが起きていますが、同社製品としてこれが初めてというわけではなく過去に何度かリコールは出されており、リチウムイオン電池の扱いのむつかしさをうかがい知るところです。また、他社でもバッテリーが原因とされる火災が取り沙汰されていまして、対策はそう簡単ではない印象です。

パナソニック、ノートPC バッテリーのリコールを発表。劣化が進むと発火の恐れ(Engadget日本版 18/3/28)

なお、今回のリコールに関しては、2014年5月、同年11月、2016年1月、2017年12月に発表されたリコールで、すでにバッテリパックを交換している場合でも対応する必要があるとのことです。Engadget日本版
スマホのように比較的小型の製品に採用されるリチウムイオン電池でも一旦事故になればそれなりの破壊力があるわけですが、これが電気自動車に搭載されるような大容量のものが破損すればその破壊力はスマホなどとは比べようもなく危険な状態になることが想像されます。当然、そうしたものについては念入りな安全策が講じられていると期待されます。

リチウムイオン電池は、電気自動車などにも多く使われているが、自動車メーカー各社は衝撃対策に力を入れており、人が乗るキャビンの次という優先度で、バッテリパックを衝撃から守るのを課題にしている。それゆえ、電気自動車は、ボンネットやトランク部分など、クラッシュを保護する部分には電池を搭載していないのだ。YOMIURI ONLINE
しかし、もしかするとそうした想定のもとで講じられた安全策ではまだ不十分なのかもしれないと考えさせる事故が起きてしまったようです。

テスラModel X、車体前半が無くなるほど激しく破損・炎上する大事故。運転手死亡、Autopilot使用は不明Autopilotだったかどうかはまだ判らず(Engadget日本版 18/3/26)

米カリフォルニア州マウンテンビューで、テスラModel Xが国道101号線で中央分離帯に激突し、近くを走行中の自動車2台を巻き込む事故を起こしました。Model Xは車体前半部が粉砕されたうえバッテリーから出火、ドライバーは死亡する大惨事となっています。Engadget日本版
なお事故発生時にはTeslaの自動運転機能であるオートパイロットが動作中であることが判明しています。

Tesla Model Xでの死亡事故、オートパイロット中だったことが判明(ITmedia 18/4/2)

今後は事故の原因が自動運転に因るものであったのかどうかが話題の中心になっていくこととはまちがいないでしょうが、米国の報道などからは事故後に発生した火災についても注目されていることが分かります。

NTSB Probing Tesla That Caught Fire in California Crash(Bloomberg 18/3/28)

Tesla Model X fatal crash is now under investigation over potential use of Autopilot and 'post-crash fire'(Electrek 18/3/27)

事故の様子を撮影した写真や動画を見ると、事故で発生した火災の様子がかなりひどかったことを窺わせるものとなっており、リチウムイオン電池が破損で発火したことが大きく影響してしまったのかどうかは大いに気になるところです。

もし、Tesla側が通常の衝突事故程度では問題ないと想定してリチウムイオン電池の安全策を講じていたとしても、車両が完全に大破するような今回のような事故にあってしまった場合にはリチウムイオン電池の構造に起因しての強力な発火が起きてしまうのはもはや防ぎようのないことなのかどうかは、今後の電気自動車の普及に向けて一つの課題となりそうに思えます。とくに不幸にも事故が起きてしまった際の対処法についてはまだまだ未知の部分が多そうでして、今後ノウハウが蓄積されていく必要性を強く感じます。

技術者によると、破損し出火したバッテリーはまだ電気を帯びていたり出火する可能性があるため、大量の水をかけ続けて鎮火・冷却し、その後も少なくとも1時間は再び発熱してこないかを監視する必要があるとのこと。Engadget日本版
なお、当然ではありますが旧来のガソリンなどを燃料とする車両についても火災事故は決してないわけではありません。

車両火災は年間1293件!クルマに消火器は積んでおくべきか(WEB CARTOP 18/2/16)

まあ車は燃えるものと思って常に用心しておくのがいいのかもしれません。

それにしても、一時期は快進撃待ったなしとみられたTeslaも、たびたびの経営不振観測からの破産も噂され、過去にはチャプター11申請を恐れた投資家に忌避され2割以上の株価暴落もここ5年間で何度も経験しています。もちろん、リコールや自動運転の事故、あるいは新モデルの販売投入の遅れなども指摘されるところです。

テスラがEVに隠した「謎バッテリー」の正体 マーケティングと性能の密接な関係(東洋経済オンライン 18/4/2)

他方、一連のTeslaは雌伏の状態であって、このバッテリーにコア技術をもって続伸するのだという観測もあり、一筋縄ではいかないところがあります。いずれにせよ、モバイル環境はバッテリーなしには何もできませんし、EVがガソリン自動車からの100年の一度の大転換としたときにバッテリーが果たす役割がいかに大きいかを見詰め直していきたいものです。