Facebook「プライバシー問題」から何をどう読み解くか
Facebookのプライバシーポリシーを悪用する形で、ケンブリッジ・アナリティカ社が5,000万人を超えるユーザーの情報を活用しアメリカ大統領選に関与していた問題がどんどん大きくなってきています。
Facebookを巡って米国や英国を中心にして海外で大変な騒ぎになっています。
もちろん、騒ぎになってしかるべき重大な事案に発展しておりまして、どんどん重要な事項が増えていっている印象です。どこに着地するのかすら読み解けないぐらいの情況です。
5000万人分の個人情報が流出かフェイスブック トランプ氏ともつながりある英分析会社、データを不正に取得(日本経済新聞 18/3/20)
米フェイスブックのユーザー約5000万人分の個人情報が不正に第三者にわたっていた可能性がでてきた。情報は英データ分析会社を通じ2016年の米大統領選でトランプ陣営に使われたとの指摘がある。米英議会ではフェイスブックの情報管理のあり方をめぐり批判が出ており、巨大デジタル企業への規制論が再び高まっている。日本経済新聞事の発端となった英国データ分析会社、ケンブリッジ・アナリティカ(Cambridge Analytica)が個人データをFacebook上で収集した手法というのは、Facebook以外でも様々なSNSでよく見かける類の性格診断アプリを使ってユーザーが自ら個人情報を提供するように仕向けていたということですが、これが行われていた当時は適法かつFacebookの利用規約上も問題ではなかったという点が重要です。
トランプ大統領を誕生させたビッグデータは、フェイスブックから不正取得されたのか(新聞紙学的 18/3/18)
ユーザーデータは、ケンブリッジ大学の研究者で、「ケンブリッジ・アナリティカ」と提携関係にあったアレクサンドル・コーガン氏が開発したフェイスブック用のパーソナリティ診断アプリ「thisisyourdigitallife」を通じて取得されていた、という。こうした性格分析アプリのようなものは世の東西を問わず世界中で多くの人が興味を覚えやってみたくなるものなのでしょう。実際、裏側の仕掛の巧拙は別としても、自己診断ソフトを介してスパム的にフレンド情報を抜き取る手口のアプリは少なくない数が横行していました。日本でも、個人情報を抜き取るために占いサイトや出会い系サイトで類似のノウハウが流行した時期もあります。そうした何気ないアプリを装ってユーザープロフィール情報へのアクセスを許可させ、さらに友達の輪で全部の個人情報を引っ張ってねずみ算式さながらに大量の情報を得たということのようです。
データ取得は、「学術調査」という名目で行われており、またこの際、ユーザー本人のデータだけでなく、フェイスブック上の「友達」のデータも取得していた、という。新聞紙学的
同じような趣向のアプリはTwitterでもよく見かけますが、そうしたアプリを利用する場合にはアプリ連携を求められ、その中身をろくに確認することなく連携を許可することでアカウントを乗っ取られるという事件は何年も前からよくある話です。つい最近も証券・金融サービス大手のSBIホールディングス公式アカウントが乗っ取られてレイバンの広告をツイートしまくるという事態が起きていましたが、これもまた類似の手口と言えます。
北尾吉孝のSBIホールディングス、公式アカウントがレイバンスパムに感染(もしくはレイバンと業務提携)(市況かぶ全力2階建 18/3/17)
SNSで提供される連携アプリの全部がぜんぶこうした悪意のあるものであるとはいいませんが、中にはアカウントの乗っ取りやプロフィール情報のぶっこ抜き、さらには本来は第三者に閲覧されるはずのないメッセージの内容を盗み見ることを目的としているものも存在するということは知っておくべきでしょう。
それにしてもさすがに今回のFacebookの件はさまざまな方面へ広く影響が波及しそうです。
データ流用で「Facebook離れ」--テスラとSpaceXも削除(CNET Japan 18/3/26)
膨大な数に上るFacebookユーザーの個人データがデータ分析企業Cambridge Analyticaに不正流用されていた問題が明らかになったことを受けて、一部の著名な企業や個人がFacebookから距離を置こうとしている。CNET Japan米フェイスブック、個人情報の取り扱いで信頼感低下=世論調査(ロイター 18/3/26)
ロイター/イプソスの調査では、フェイスブックが個人情報保護法を順守すると信じていると回答した人の割合は41%だった。一方、この割合は、アマゾン・ドット・コムでは66%、アルファベット傘下のグーグルでは62%、マイクロソフトでは60%だった。ロイター海外でこれだけ騒がれると我が国としてもさすがに無視することはできないといったところでしょうか、欧米諸国に較べると若干緩目な趣ではありますが菅義偉官房長官からコメントが出ておりました。
Facebookのデータ不正流用問題、日本政府も「対応を検討」(ITmedia 18/3/28)
菅官房長官は、「今回の事案について、報道は承知している。個人情報保護委員会で情報収集するとともに、対応についても検討されていると聞いている」とした上で、「一般論で申し上げれば、我が国の個人情報保護法でも、原則、本人の同意なく第三者への提供は禁止している」と述べた。ITmediaFacebookの存在感そのものが米英と比べて我が国では小さいということもありますが、これがもしヤフーやLINEにおいて今回のFacebookと同じようなことが発生していれば事情は全く異なるはずでして、そういう意味では国内サービサーの中の人達は今後一体どういう展開になるのか反面教師として興味津々で成り行きを見守っていることと思われます。また、今回の事例ではFacebookのシステムが悪用された形で問題が勃発しましたが、逆に中国系のプラットフォーム事業者では業者そのものがケンブリッジ・アナリティカ社も真っ青なプライバシー流用で信用情報を流通させている事例も少なくなく、サイバネティック社会の悪しき側面が見え隠れしているとも言えなくもありません。
個人的にはケンブリッジ・アナリティカ社の存在が今後スノーデン事件のように世界的に大きな影響を及ぼす話にまで発展するのかどうかは気になるところですが、しばらく前にも同社は一部で話題になっておりましてその当時は単なるインチキコンサルではないかという見方も強かったということをお伝えしておきます。
人工知能とビッグデータによる右派のプロパガンダはこけおどし?(MIT TECHNOLOGY REVIEW 17/2/28)
トランプ政権誕生を後押ししたとされるケンブリッジ・アナリティカのターゲティング広告とビックデータ解析に基づく心理分析には、威力を裏付けるデータがない。MIT TECHNOLOGY REVIEWいろんな風評が出回っているのも事実ではありますが、この手の企業にいいように振り回されて大損失を被っているFacebookは気の毒な一面もありそうですが、やはり個人情報の扱いについては考え方が甘かったということのようで、そのツケはしっかりと払ってもらうしかないなと感じます。おそらくはFacebookなりに信頼回復のための枠組みも打ち出してくると思いますので、まずはそれ次第といったところでしょうか。
ザッカーバーグ、個人情報流出とFacebookの「過ち」について激白:『WIRED』US版インタヴュー(WIRED 18/3/24)
フェイスブックのコミュニティーや世間から上がった声は、データによる新しい体験よりも、プライヴァシーやデータ保護を求めるものだったのです。もしその声を取り込み、14年に行った変更を12年や10年の時点で行っていたなら、悪い事態の多くは避けられたのではないかと思います。:WIRED|https://wired.jp/2018/03/24/mark-zuckerberg-interview/このような問題が明らかになってくると、プライバシーを巡るアメリカと欧州の対立、GAFA(Google,Apple,Facebook,Amazon)のようなデータコングロマリットの在り方の影響は、日本にも大きく関係してくることでしょう。「知られて困る情報はないからプライバシーを気にすることはない」という日本人も少なくないなか、いま一度この問題を業界だけでなく社会全体で捉え直す必要がありそうです。