無縫地帯

日経記事で「打倒LINE」と銘打たれていた新サービスは「打倒iPhone」が正しいような気がします

日本ではメッセージングアプリでLINEが、スマートフォンではiPhoneが大きなシェアを握っていますが、キャリアとGoogleはこの状況を巻き返したいと思っているようです。

日経グループがかなり恣意的な見出しをつけて一部ネット民の話題を集めている記事がありました。

NTTドコモとau、ソフトバンクが打倒LINEで結託(日経 xTECH 18//2/22)

NTTドコモとKDDI(au)、ソフトバンクの携帯大手3社はスマートフォンのショートメッセージサービス(SMS)の機能を刷新し、新たに動画や長文などを送れるようにする。年内にも新サービスを投入する方向で最終調整を進めていることが日経コンピュータの取材で分かった。「LINE」など先行するメッセージングアプリに対抗し、音楽配信や雑誌の読み放題といった自社の有料サービスの利用増につなげる。日経 xTECH
この記事からは従来のSMS機能を拡充するらしいということしか読み取れず、具体的にどういった技術が導入されるのか不明でした。しかし翌日には同記事をフォローするような具体的な情報が報じられます。

KDDIとソフトバンクが正式に認める、打倒LINEの新サービス導入(日経 xTECH 18//2/23)

大手3社はSMSの機能を一斉に刷新し、テキストや動画の送受信やチャットなどができるメッセージングの新サービスを始める。MMS(マルチメディアメッセージングサービス)」の拡張版ともいわれる「RCS(リッチコミュニケーションサービス)」に準拠。SMSと同じように電話番号を使ってやり取りできるのが特徴だ。日経 xTECH
一部の携帯電話業界に通じる識者からは前日すでにRCSのことではないかという憶測も出ていましたが、ああいう記事で話題を引っ張っておいて翌日に報道するあたり、なんというかちょっと趣味が悪い演出の仕方ではあります。ちょっと煽りすぎではないでしょうか。商業報道としてはある意味正しいやり方なのかもしれません。

で、RCSというテクノロジーですが、そもそもはSNSやメッセージング方面で今ひとつパッとしないGoogleが一発逆転の野望を叶えるべく他社から買収したものでして、その存在自体はかなり以前から業界関係者には知られていたものです。

Google、GSMAと提携してRCSメッセージ普及へ:Googleが欲しいSNSとメッセージの情報(Yahoo!ニュース 個人 佐藤仁 16/2/25)

RCSのメッセージサービスは実は34か国47通信事業者から提供はされているが、ほとんど利用されていないし、一般の人には知名度もなく、決して普及に成功しているサービスとは言えない。
(中略)
SNSやメッセージサービスは情報の宝庫である。世界中の情報を収集して、蓄積し、解析して広告や新サービスを提供して収益としていきたいGoogleとしては、メッセージサービスでのやりとりされる情報は重要な収入源になりうる。Yahoo!ニュース 個人 佐藤仁
Googleとしては自分達が手掛ければRCSを採用する企業はあっと言う間に増えて世界中で普及するだろうと考えていたのかもしれませんが、そう簡単に事は運ばなかったようです。当時は米Sprintが一部の端末に導入する程度と鳴かず飛ばずな感を拭えません。以下の記事でもGoogleの煮え切らず一貫しないハード戦略を反映してか思い切り酷評されております。

Sprintが販売するAndroid端末に「次世代のSMS」、RCSを導入するとGoogleが発表(TechCrunch 2016/11/6)

RCSを利用するためにはアプリをアップグレードし、デフォルト設定を変更する必要があること、さらにはデバイス自体を買い換える必要があるかもしれないことを考えると、iMessageがAppleのエコシステムの中心である一方で、RCSがエコシステムの中心的な存在になることはないだろう。また、RCSが利用可能なデバイスと、そうでないデバイスの間で分断化が続いていく。Googleが作り続ける、その他のメッセージング・アプリとの分断化は言うまでもない。TechCrunch
しかしGoogleはRCSについて諦めていなかったようで、地道に世界中のキャリアを巻き込みつつ今年になって改めて大々的なアピールを展開するようです。

Googleが普及に注力新しいメッセージング規格「RCS」って何?(ITmedia 18/2/23)

Googleが、Androidプラットフォームで「RCS(Rich Communication Services)」というメッセージングサービスをサポートするための取り組みを強化している。2月26日(中央ヨーロッパ時間)からスペイン・バルセロナで開催される「Mobile World Congress 2018」では、同社のパートナー企業がRCSを使ったデモンストレーションを行うという。ITmedia
この流れの中で日本の主要キャリアもいよいよRCS導入を検討というこことになったのかもしれません。もちろん、いつまでも旧式のSMSを使い続けるわけにもいかないという現実問題もあるかもしれません。また、RCSはSMS同様に1メッセージング毎に課金できるのでキャリアとしてはサードパーティのメッセージングサービスが普及するよりも歓迎したいという事情は大いにありでしょう。

しかし謎なのは、iPhoneがシェアの7割を占めるという日本の今のスマホ事情を考えると、GoogleのRCSを推してもそこまで基礎的な使用を支えてくれるユーザーがいないという現実はどうするのでしょうか? 国内キャリアがわざわざiPhone用にRCSクライアントを作るというのも現実味がありません。いくらRCSが便利なのでAndroidスマホを使いましょうと呼びかけたところで、ユーザーが率先して乗り換えるということはなかなな考えにくいところでして不思議な展開です。

国内携帯電話業界的にはiPhoneとLINEを一気に打倒できるのであれば、ここはGoogleに魂を売っても悔い無しと考えるほどの大きなインセンティブがあったりするのでしょうか。一方で、LINEはLINEで日本国内でこそ覇権を握っているものの、海外に目を向けるとなかなか微妙な普及度で、敗戦模様の国もあります。メッセージングはユーザー間コミュニケーションの要であり、ユーザーログを適切な形で蓄積するためには避けては通れないのもまた事実ではありますが、どの陣営も思惑ばかりが強すぎて迷走しているのではないかとすら感じる部分があります。

日本国内に限定するならば、メッセージングツールとしてのLINEを打倒したいというよりは、普及しすぎたiPhone対策のようにも見えてしまうんですけれども、どうなんでしょうか。
何がなにやらよくは分かりませんが、成り行きを遠くから見物したいと思います。