無縫地帯

スペースXのロケット打ち上げで感じた官民による宇宙開発事業の可能性と課題

米実業家であるイローン・マスクさんの大型ロケット「ファルコン・ヘビー」が打ち上げに成功、また日本でも小型ロケット「SS-520」の発射実験を無事成功させるなど、航空宇宙産業に大きな動きが出ています。

大きな博打のタイミングで人並み外れたツキに恵まれいるなと感心するのがイーロン・マスク(Elon Musk)さんであります。もちろんツキを活かすための努力も常人には真似できないレベルのものがあっての成果でしょう。これまで数々の起業を果たしてその度に大きな話題を提供してきた御仁でありますが、今回同氏の率いる民間宇宙ベンチャー企業スペースX(SpaceX)が成し遂げた大型ロケット打ち上げの成功は大きなインパクトがありました。

イーロン・マスク氏のロケット「ファルコン・ヘビー」打ち上げ成功(BBC NEWS JAPAN 18/2/6)

「ファルコン・ヘビー」はスペースシャトル打ち上げ以来、最も強力なロケットで、発射台から大西洋のはるか上空に飛び立った。
(中略)
発射成功によって、ファルコン・ヘビーは最も高性能な打ち上げ機となった。BBC NEWS JAPAN
【電子版】米、宇宙探査最前線復帰へスペースXのマスク氏「冥王星の先まで物資運べる」(日刊工業新聞 18/2/11)

スペースXによると、ファルコンヘビーは、これまで積載能力最大とされてきたロケットの2倍以上の重量の積載物を打ち上げることが可能。
(中略)
ファルコンヘビーのもう一つの「売り」が経済性だ。既に運用されている「ファルコン9」と同様、切り離した1段目を軟着陸させ再利用できる。使い捨て型のロケットと比べ、1回当たりの打ち上げコストをはるかに低く抑えられるという。日刊工業新聞
スペースX発表による数字だけを見ると良いことずくめのようにも見えますが、今回の打ち上げではロケットの最大積載量まで搭載していませんでした。あくまでも実験という名目から、マスクさんのもう一つの事業である電気自動車メーカーTeslaのスポーツカーを搭載しての打ち上げとなりました。見事Teslaのスポーツカーは火星を目指して宇宙を航行していくというシュールな映像を我々に見せてくれましたが、これは穿った見方をすれば壮大な手間と費用をかけたTeslaの宣伝イベントでしかなかったという解釈できなくもありません。はたして最大64トンという重さの積載物を搭載した形でも同じように打ち上げが可能なのかどうかは不明です。また、再利用可能がセールスポイントである打ち上げ用ブースターの回収にしても、合計3機のうち2機はきれいに着陸してその映像を見ると感動させ覚えますが、残念ながら残る1機は回収失敗で大破しています。

今回のスペースXの実験は民間宇宙事業として多くの可能性を見せてくれましたが、同時にまだまだたくさんの課題を抱えていることも教えてくれたように感じます。なお、ロケット打ち上げ事業にまつわる金の話については以下の記事が面白いです。

逆噴射着陸まで成功させたマスク氏のロケットがすごいと言われる理由と98億円の“謎”(BUSINESS INSIDER JAPAN 18/2/12)

これだけの能力を持つロケットの打ち上げ費用だが、スペースX自身は価格を9000万ドル(約98億円)と公表している。
実はこの価格、少々注意して見る必要のある数字だ。
(中略)
2018年版のFAA商業宇宙レポートによると、スペースXの言うファルコン・ヘビーの9000万ドルとは衛星が利用する軌道(GTO)へ8トンまでの衛星を打ち上げる際の価格だという。
(中略)
全体の打ち上げ価格は2018年版レポートには記載されていないが、2017年版によると1回あたり推定2億7000万ドル(約294億円)となっている。
(中略)
1機まるごとの価格が重要になる政府系衛星の打ち上げ市場に関しては、この推定2億7000万ドルの価格だとしても、「破壊的」に安価なのだ。BUSINESS INSIDER JAPAN
なるほど、スペースXが公表している数字はコインパーキングの最大料金みたいな罠が隠されている可能性もあるようですが、大口顧客の国家プロジェクトクラスになれば、そうした料率で設定されていてもまだまだ安いかもしれなということなのでしょう。

コインパーキングの最大料金「24時間2000円」、3日停めたら…?知っておくべき「条件」(乗りものニュース 17/12/27)

国家の宇宙開発事業を民間企業が担っていく可能性は今後高まりそうですね。ロケット打ち上げではありませんが、宇宙事業についてまさにタイムリーなニュースがありました。

NASA 国際宇宙ステーション運用を民間移行へ(NHKニュース 18/2/13)

まあ、宇宙ステーション運用が民間へ移行される理由についてはこれ以上新しい発見が期待されないという現実もあるようですが、それでも宇宙事業がどんどんコストコンシャスな民間に任されていく流れはありそうです。

あとは、民間事業者がはたして本当に宇宙事業を責任をもって継続してやっていけるのかが問われることになっていくのでしょうが、イーロン・マスクさんは大口を叩いて博打に臨むだけでなく、堅実な仕事ぶりを披露してほしいものですが大丈夫なんでしょうか。

テスラ、新型EV量産再び延期10~12月赤字740億円(日本経済新聞 18/2/8)

モデル3の量産では、相変わらず蓄電池の組み立て工程が停滞している。ただ、決算発表後の電話会見でイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は「解決は時間の問題」と強気の姿勢を崩さなかった。日本経済新聞
一方、我が国の宇宙開発においては、JAXAが昨年打ち上げに失敗していた小型ロケットSS-520が打ち上げに成功、超小型衛星を軌道に投入しています。

小型ロケット「SS-520 5号機」打ち上げ成功超小型衛星「TRICOM-1R」投入(SORAE 18/2/3)
小型ロケットSS-520失敗、原因は「徹底した軽量化」(SORAE 17/2/14)

また、Google社が支援する財団Xprizeが賞金20億円あまりをかけた世界初の月面探査レースは、インドの航空宇宙関連の契約破棄などもあり参加チームの月面探査ローバーを月へ送り込めないことで実質的に参加者がいなくなり中止になるという残念な話もありました。

10年来の月面探査レースが終了へ優勝賞金20億円、達成チームは無し(ねとらぼ 18/1/24)

このところ、より高度な通信や位置情報がIoT関連産業への期待の高まりとともに重要視され、これらを実現する航空宇宙技術には更なる関心が集まっていくようですが、一個一個のニュースを見ていても宇宙開発のフロンティア感がひしひしと感じられます。一時期失われかけた人類の宇宙への本格進出という夢への挑戦に期待が高まってきているようです。