無縫地帯

タレント「GACKT」が仮想通貨ICO参入も問題続発、フィンテックバブルはどうなるのか

タレントのGACKTが仮想通貨ベースのICO「SPINDLE」に参入すると発表、その背後関係も含めて気になる点を踏まえてフィンテックのバブル状態について考察していきたいと思います。

タレントとして知名度のある「GACKT」が、自身の本名を公開したうえで、昨今バブル状態となっている仮想通貨を使ったICO「SPINDLE」に参画するというニュースが駆け巡りました。

もちろん、ICOそのものの危うさはかねてから指摘されてきたことですが、そのGACKTがICO参入にあたって組んだとみられる事業者は以前行政処分された筋であることが判明しており、一見して問題があることが分かります。

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GACKT出陣いざ仮想通貨事業へ、行政処分歴のあるお供を従えて(市況かぶ全力2階建 17/12/27)

16年8月7日付の関東財務局の行政処分の内容は次の通りで、このドラグーンキャピタル社は投資助言業の登録は取り消され、今回のGACKTの手掛ける「SPINDLE」の運営会社である株式会社BLACKSTAR&COおよびBullion Japan(ブリオンジャパン)株式会社の取締役に宇田修一さんが就任していることを考えると、処分を受けた不適切な金融事業を再開する目的で、知名度のあるGACKTの名前を使って投資家から「SPINDLE」の資金調達をしようとしていると見るのが自然でしょう。

このBullion Japan社は、もともと行政処分を受けたドラグーンキャピタル社が貴金属取引を行う英・bullionvault(ブリオンヴォールト)社との提携のために設立した子会社ですので、そのBullion Japan社がこの「SPINDLE」の運営に参画するのであれば、自動的にドラグーンキャピタル社の宇田修一さんも深く関わり合いを持つと判断してよいと思います。

ドラグーンキャピタル株式会社に対する行政処分について(関東財務局16/8/7)

(魚拓)国内独立系投資銀が金事業に参入、英社と提携-円建て24時間取引提供(Bloomberg 15/3/16)

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(5)金融商品取引業を適確に遂行するに足りる人的構成を有しない状況
上記のとおり、当社は、多岐にわたって投資者保護上重大な問題のある行為を行っており、当社において当該行為を行った宇田代表に法令等遵守意識及び投資者保護意識は皆無である。また、当社においては、ほとんど全ての業務を宇田代表が一人で行っており、他に宇田代表の行為を牽制し適切に業務を運営するための人的基盤は整っていない。
ドラグーンキャピタル株式会社に対する行政処分について(関東財務局)
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ところが、このGACKTが携わっているという「SPINDLE」は、すでに投資家が資金を振り込むための申し込みが正式に開始されているにもかかわらず、運営元の法人は運営に必要な「仮想通貨交換業者」の登録・登録準備リストに入っていないだけでなく、この「SPINDLE」も商標登録の申請も行われていないようです。

[[image:image01|right|商標登録されておらず、金融庁の仮想通貨交換業者の登録準備も行われていない謎の仮想通貨トークン「SPINDLE」]]

金融庁に確認したところ(12月27日)、やはり参入に必要な仮想通貨交換業者登録の申請も行っていない状態と見られます。その前段階であるホワイトペーパーが一部開示されていますが、金融庁への業者登録前からプレセールが実施されるだけでなく、オープンに「SPINDLE」への投資家の募集がかけられる仕組みになっているため、少なくとも現行法上は完全な違法業者になっています(出資法違反)。

SPINDLE ホワイトペーパー

さて、この「SPINDLE」への投資申込書なるものを入手しよく見てみますと、このSPINDLE(略称「SPD」)の立替購入という仕組みになっていることが分かります。後述の通りこれらの取引は「プレセール」と言われすでに問題なのですが、それは差し措くとしても有価証券ではない仮想通貨トークンを買うのに第三者を挟む立替購入を行う必要は本来ありません。Twitter上では、17年12月中旬ごろ配布されたとみられる「SPINDLE交換予約申込書」がアップされておりますが、いずれも募集を取りまとめる何らかの代理業務を行う法人が一括して取り扱っているものと見られます。もちろん、この代理業務を行う法人が本当にSPINDLEの発行を保証するのか、またBTC(ビットコイン)やETH(イーサリアム)などの仮想通貨に適合したトークンになっているのかは確約されていません。

[[image:image02|left|「SPINDLE」ホワイトペーパーからロードマップを抜粋。どう見てもプレセールです、本当にありがとうございました。]]

投資申込書には通常、取引に関する約定の契約書が付帯されていなければならず、投資家に対する説明が充分に行える仕組み(連絡先や、詳細なリーフレット、契約書などの関連書類)がなければいけませんが、紙面での申し込みもネット上での振り込みも主だった解説や万が一の際の連絡先などは掲載されていません。銀行口座への紐づけ方法も明確ではなく、カード決済のための簡単な入力フォームがついているだけです。

この申込書を元にさらに掘っていくと、この代理業務を行っている法人が「株式会社K.RTRuang」なる名前であることが分かります。信用情報を手繰っても存在が確認できませんので、登記情報でも後日漁ってみたいと思いますが、サイト上の情報では「代表取締役 社長 小西玲太朗 代表取締役 社長 大森寛之」なる人物が経営している箱のようです。

株式会社K.RTRuang

この小西さんと大森さんこそ、かつて情報商材で騒ぎになっていた「秒速で1億円稼ぐ男」与沢翼さん率いる「Free Agent Style Holdings(フリーエージェントスタイル)社」の経営幹部で、営業とプロモーションを担っておられた方々であることが分かります。いわゆる「ネオヒルズ族」を自称し、儲かる情報や自己ブランディングの方法などを高額で売りさばく、中身の乏しい情報商材で問題となり、メディアの表舞台からは消えていた…と思いきや、与沢翼さんを見限ってGACKTを使い仮想通貨によるICOビジネスに乗り出してきたのだとしたら、どう受け止めるべきなのでしょうか。あくまで代理業務を行っているということで、仮に「SPINDLE」で決済トラブルなどの何か問題があってもうまく責任を回避できる仕組みを構築しているのかもしれませんが、肝心の契約書が見当たらないことを考えても、何を狙ってこのような仕組みにしているのかが良く分かりません。

[[image:image03|center|どこかで見覚えのある与沢翼さんをビジネス面で支えてきた小西玲太朗さんと大森寛之さん、今度はGACKTを支えるようです。]]

GACKTについては、先日も週刊新潮に投資話に騙されやすい彼の特徴が報じられ、過去にも暴行事件や事務所の脱税での家宅捜索、果ては東日本大震災の義援金詐欺・略取なども囁かれるなど、いろんな事件に彩られる数奇な人生を歩んでおられるようにも見受けられます。

GACKTの飽くなき投資熱113億円集金詐欺にハマっても…(デイリー新潮 17/5/18)

ただし、単なる仮想通貨でのICOビジネスを与沢翼さんが過去関与した人脈がタッチしているとなると話は別で、借金など何らかの事情でGACKTはプロモーションの具として祀り上げられ、クレジットカードなどを使った海外決済で投資家の資金を引き出す手法で何かを考えているのではないかという可能性は残ります。

[[image:image04|right|シンプルかつ大胆な「SPINDLE」申し込み画面。本人確認するための証憑類の添付機能がないというワイルドな立て付け]]

また、本件「SPINDLE」のプロモーションにおいては、前述したBullion Japan社の平井政光さん、さらにマレーシアでのGACKTの経済活動を支えているとされる池田諭さんの名前が取り沙汰され、大量の記事広告が乱立している状況です。それも、日経系やGQ(コンデナスト)、プレジデントといったビジネス系媒体に記事広告として登場しているのを見ると、GACKTという名前だけでなく仮想通貨に投資を行おうという一般的な投資家においても知らずに博打を張ってしまうリスクが存在しているようにも見えます。

GACKT & IKEDA ASIA BRIDGE PARTNERz INC.

(魚拓)ブロックチェーンの「信頼」は金融を民主化するか──日本から世界に打って出る金融コンサル集団の挑戦(WIRED.jp 17/12/27)

(魚拓)ブリオンジャパン:新世代型CEOに学ぶ ミニマリストの仕事術|メンズファッション、時計、高級車、男のための最新情報(GQ JAPAN 17/12/4)

(魚拓)自己判断でリスクを取り、投資ができる公正な“場”を提供したい 平井政光Bullion Japan株式会社代表取締役 CEO:PRESIDENT Online(プレジデント 17/12/18)

(魚拓)トランプノミクスの混乱に備え楽観を捨て、「金」で資産防衛を:PRESIDENT Online(プレジデント 16/12/26)

[[image:image05|center|日経マネーや内藤忍さんのセミナーなど、判断に悩む宣伝が並ぶ素敵なTwitter]]

GACKTが芸能人として露出しているのは文字通りABCの人気正月番組「芸能人格付けチェック」に例年出演し、物事の真贋を見極められるとする一流芸能人になっていることが背景にあります。事実、GACKTの単語検索もこの正月の時期がピークになっていますが、今回、仮想通貨交換業者の登録準備もしないまま「SPINDLE」の告知・広報を行った理由も、急ぎこの放送に間に合わせるように調整したのではないかとすら思える状況です。同じように、サイバーエージェントの「FRESH! by AbemaTV」でGACKTが番組を持つ仕込みも、怖らくはこの流れでしょう。

芸能人格付けチェック!(ABC朝日放送)

これらの与沢翼さん方面の絡みがGACKTにあるのは確定として、そこに情報商材や出資に関する反社会的勢力に関する問題が絡んでいるとすると、なかなかむつかしいことになりそうです。

また、フィンテックにまつわる投資話は、ともすれば濡れ手に粟で何倍、何十倍もの投資収益が得られると誤認させる場合も数多くあります。現在乱立している仮想通貨交換業者も、金融庁への登録こそ済ませているものの、実情は顧客の売買を自社内で相対取引をさせて消し込んでしまう「ノミ行為」や、実質的な決済未執行状態にもかかわらず顧客に不利なレートで取引が成立したと嘘の決済報告をする「タタキ」や「握り」といった、古式ゆかしい証券詐欺を堂々と行っている業者すらもいます。

さらには、今回の「SPINDLE」もそうですがこれから販売するICOトークンを「事前に安く提供する」「今後絶対に値上がりする」などとして投資を煽る「プレセール」と呼ばれる手法も存在し、金商法における(事実上の)相場操縦が行われている場合もあります。仮想通貨交換業者に登録し、大手事業者のように見せて大量の広告宣伝を行っているにもかかわらず、実質的な売買がほとんどなくアルゴリズムによる「サクラ取引(架空売買)」を疑われている場合は、本当に相場が破綻してしまうと100億円単位で投資家の資産が吹き飛ぶこともあり得ます。

もちろんフィンテックと名乗るもの、仮想通貨すべてがバブルだと申し上げるつもりはありません。中には非常にまっとうで、問題のない業者も沢山おられます。しかしながら、異常な値動きや決済手数料ほぼ無料などと喧伝して多くの投資家の意欲を煽る方法が果たして望ましいのかについては、やはり過熱した相場状況を見過ごさないよう早期に検討し結論を出していく必要があるように感じます。

仮想通貨周りについては、気になることがいくつか出てきていますので、分かり次第、順次情報を発信していきたいと思います。