無縫地帯

電子申告・納税スマホ対応やマイナンバーカードを巡る日経報道の謎

スマホ上で電子申告や納税が可能な方向にようやく話が進んでいるようですが、前途多難であります。

携帯電話がほぼスマホへ移行しつつあるタイミングということもあるのでしょうが、改めて政府が確定申告のスマホ対応を表明しました。確定申告がオンライン上で済むというのは実にありがたいことでありまして、公的申請や納税がこういう形でオンライン対応していってもらえると「ああ、ようやく我が国もイット大国目指してキャッチアップを開始したんだな」と思うようになれます。

スマホで確定申告=19年から順次可能に―財務省・国税庁(時事ドットコムニュース 17/11/1)

当初は税務署で本人確認を受けてIDとパスワードを発行してもらい、パソコンだけでなくスマホを通じた電子申告ができるようにする。医療費控除やふるさと納税など、納税者のニーズが高い手続きから順次可能になる見込みだ。時事ドットコムニュース
税務署発行のIDとパスワードを使って電子申告ができるようにするというのは、今年の夏頃に報道された内容と合致しているので、ほぼこの路線は確定と期待したいところです。とりわけ、医療費控除はニーズが高いわりに面倒で納税者が申告を諦めてしまうケースも多いようなので、福音であります。

電子納税しやすく国税庁、証明書や専用機器不要に(日本経済新聞 17/7/16)

国税庁は2019年をめどにインターネットで電子申告・納税しやすくする。今の電子申告では本人確認のための読み取り機器やマイナンバーカードなどの電子証明書が必要だが、税務署でいちど本人確認すればIDとパスワードで認証できるようにする。海外に比べ普及が遅れる電子申告・納税を広げるため。
(中略)
新しい方式では、ICカードリーダーやマイナンバーカードなどの電子証明書が要らなくなる。日本経済新聞
税務署で本人確認してしまえば、わざわざ専用のカードリーダーを購入したり、あまり人気がなくほとんど普及していないマイナンバーカードを用意したりすることなく、PCやスマホで電子申告・納税が可能になるということで、これは多くの国民が待ち望んでいたシステムではないでしょうか。報道されているとおりの機能がすんなり実現すればかなり素晴らしいですね。

もちろん、オンライン系の公的サービスはだいたい締め日が決まっているので、確定申告その他駆け込み申請しようとする国民が鈴なりになってF5連打した結果が手動DDoS状態になってシステムごとダウンし役所も国民も頭の中が真っ白になるようなことがないよう願う次第です。

と、思っていたところが、日経がなにやら微妙なニュアンスの記事を掲載しておりました。これは何なんでしょうか。

スマホで確定申告可能に国税庁、iPhone非対応(日本経済新聞 17/11/1)

マイナンバーカードと、このカードの情報を読み取れる機能がついたスマホの普及を見据え、現在の申告システムを刷新する。
(中略)
スマホでマイナンバーカードを読み取り、電子証明書を取得することでネット上で申告できるようにする。
(中略)
現在、マイナンバーカードの読み取り機能があるスマホは十数機種。米アップルのiPhoneは対応していない。マイナンバーカードも普及率は10%にも満たない。国税庁や総務省はカード読み取りができるスマホの普及をメーカーに求めていく。日本経済新聞
タイトルからして「iPhone非対応」とかオシャレ女子が鎌持って一揆起こしそうな内容です。なんともびっくりですが、専用カードリーダーやマイナンバーカードを不要にして電子申告・納税を簡単にしていこうという先に紹介した報道内容とは真っ向から反するような話が展開しております。

で、こちらの日経記事で注目すべき点は「国税庁や総務省はカード読み取りができるスマホの普及をメーカーに求めていく」というところにあると感じます。マイナンバーカードを普及させなければならない責任を主に負っているのは総務省でありまして、本来、国税庁は納税が滞りなく進むのであればマイナンバーカードの普及がどうこうということについてはあまり頓着しない立場でしょう。もちろん国民背番号制が議論される前後から自営業者などの税捕捉率の不公正が問題視されてきて、クロヨン、トーゴーサンピンなど過去さまざまな議論が起きておりましたので、ここで収入とマイナンバーが結びつきさえすれば国税庁はかなりの悲願が達成されたとも言えます。

逆に、わざわざマイナンバーカード対応スマホを新たに用意しなければ使えないような電子申告・納税システムを導入することで利用者が減るようであるならば、本来の目的であるはずの申告・納税の推進を妨げてしまうことになりかねません。しかし、総務省としてはせっかく作りだしたマイナンバーカードが使われる機会を是が非でも増やしたいわけです。気持ちはわかります。

穿った見方をすれば、この日経記事は総務省の思惑に忖度した節があるのではないかと勘繰ってしまいます。なんとなれば、マイナンバーカード普及を目論んだ微妙な広報記事だったりするのでしょうか。せっかくあるのだから使って欲しいという心情は理解するのですが、報道の進め方や価値判断がよく分かりません…。

ちなみに日経は“マイナンバー”と“マイナンバーカード”を半ば意図的に(?)混同させたような記事も掲載してりしておりまして、まあこのあたりは他の報道メディアもやらかしがちなんですけれど。

マイナンバー背水の陣利便性とお得感、普及のカギ(日本経済新聞 17/10/31)

政府がマイナンバー浸透へ捲土(けんど)重来を期す。11月から自治体との間で個人情報のやりとりを始め、いよいよ本格運用に乗り出す。12桁の個人番号で社会保障や税の行政事務を効率化する。ただ度重なるシステム障害で国民の信頼を失い、本人確認のためのカード取得は一向に進んでいない。政府は背水の陣を敷き、カードの用途拡大に突き進んでいる。日本経済新聞
そもそもが「マイナンバーカード」というネーミングが悪かったというのもありそうですが、ここはマイナンバー制度そのものとマイナンバーカードという仕組みをしっかりと切り分けた上で問題提起をしていただきたいものです。さすがに教養のある天下の日経記者がマイナンバーとマイナンバーカードの違いを分かっていないなどということはありえないでしょうから、何らかの意図をもってわざわざこういう報じ方をしていたりするのでしょうか。不思議です。

マイナンバーといえば、先日LINEと組んで新しい取り組みも発表されていました。

マイナンバー、「情報連携」13日からLINEとは7日から(産経ニュース 17/11/2)

開始当初は何かと話題になったマイナンバーの「マイナポータル」との連携ですが、こういう細やかなサービスから徐々に便利にしていって、最終的に国民が自然にマイナンバーを利活用しているというのが大事だと思うんですよね。関係者からすれば「その開始するまでどれだけ苦労したかと思っとるんだ」となるかもしれませんが、こういうのってもっと国家が本腰になってサイバーセキュリティと国民の財産や健康管理を含む情報をきちんと守れるようにして初めて戦略だと思うんですけれども…。