「アディーレ法律事務所、業務停止2カ月」処分を下した東京弁護士会の見解と業界の今後
消費者金融に対する過払い金返還請求訴訟対応の大手、アディーレ法律事務所が2ヶ月の業務停止、また元代表の弁護士・石丸幸人さんにも業務停止処分が東京弁護士会からくだされ、大変な騒ぎに発展しています。
かねてから加熱化が問題視されていた、いわゆる「消費者金融への過払い金返還請求訴訟」で、東京弁護士会は11日、業界大手の弁護士法人アディーレ法律事務所に対し業務停止2ヶ月、アディーレ元代表の石丸幸人弁護士を業務停止3カ月にしたと発表しました。界隈では、処分といってもそこまで大掛かりな話にはならないのではないか、と目されていた分、衝撃が広がっているようです。
弁護士法人アディーレ法律事務所らに対する懲戒処分についての会長談話(東京弁護士会会長渕上玲子17/10/11)
:消費者庁は16年2月、アディーレに対し相談顧客の勧誘や募集を目的として5年以上の長期にわたってホームページ上で行っていた「着手金全額返還キャンペーン」を、1カ月間の期間限定でのキャンペーンと宣伝していたことが景品表示法の有利誤認表示に該当するとして、措置命令を受けています。
同弁護士法人の広告表示は、債務整理・過払金返還請求に係る役務を一般消費者に提供するにあたり、実際の取引条件よりも有利であると一般消費者を誤認させ、一般消費者の自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれのある極めて悪質な行為であり、しかも、長期間にわたって多数回反復継続されている組織的な非行と言わざるを得ません。
これに対し、アディーレと所属する弁護士複数に対する懲戒請求が各地の弁護士会にて起こされた結果、今回東京弁護士会を含む3つの弁護士会において「極めて悪質な行為」であり「組織的な非行」であると判断されて今回の業務停止命令に結びついたことになります。
これらの懲戒制度は弁護士の自治において極めて重要な自浄機能を持つ一方、アディーレ側が不服申立てをしたとしても、裁判所から何らかの有利な回答が出るまでの間は弁護士法人は業務を行うことができないという強力なものです。戒告で済むのか業務停止まで行くのかによって、非常に大きな別れ道があるのがこの界隈の恐ろしいところでもあります。
いったん弁護士法人が業務停止の懲戒処分を受けると、弁護士法人名で受任しているすべての法律顧問契約、請け負って裁判をしている事件なども、一切できなくなります。また、弁護士法人で顧客からの仮払金や預り金なども即座返金しなければならないため、身動きが取れなくなっていくでしょう。今回のアディーレのように組織的な問題として業務停止を受けるだけでなく、元代表の石丸さんら今回のアディーレのビジネスに関係したとされる弁護士も懲戒処分の対象になるか、これから追加で営業停止の処分をされうるとなると、アディーレという弁護士法人自体が破産することさえもありえます。
弁護士法人としては、過払い金返還請求のような事件を専門にやっているかどうかは別として懲戒処分で営業停止というのは死活問題であって、しかも、法人としてのアディーレだけでなく担当弁護士もとなると、弁護士の人件費負担だけでなく営業停止による顧客への弁済や他弁護士法人への斡旋切り替えなどが発生し、急速に組織が解体していく運命にあります。
これらの事件系を専門に扱う弁護士法人が自転車操業と評される理由は、一見華やかな広告をバンバン打つ派手な戦略とは裏腹に、実際に弁護士報酬を手にできるまでにかかる費用負担の重さゆえです。消費者金融の過払い金返還請求訴訟の実件数が狩り尽くされ少なくなっているいま、中堅から中小の法律事務所ではやめるにやめられない状況にあるか、うまく足抜けしていき、体力勝負となっていまでは自転車操業に耐えうる大手で専業の法律事務所しか残っていないというのが実情です。中には司法書士なのに過払い金返還請求の実務をやってしまう新宿方面の事務所も現れていましたが、さすがにこれ以上は弁護士会も野放しにはできないと目されます。
一連の流れにおいては、まさに消費者金融で苦しむ多重債務者の側に立って戦い抜いた、日本弁護士連合会元会長の宇都宮健児さんの話も取り沙汰され始めています。また、この問題に詳しい法曹界の重鎮からも、本来であれば払う必要のない金利負担に耐えてきた消費者金融利用者のために戦ってきたはずが、蓋を開けてみたら適切な広告も打たない弁護士法人の潜脱レースになってしまった、と嘆く声も聞かれていました。
まさに高収益を誇った「ひとつの業界の終わり」であり、これから類似の事業を経営している大手法律事務所もどうやって仕事を継続可能なレベルにまで畳んでいくかを考えるべき時期になったのでしょうが、これからどういう経緯をたどるのか、引き続き観察していきたいと思います。