無縫地帯

小池百合子女史の「希望の党」と前原誠司さんの「民進党」合流は頓挫へ

民進党代表・前原誠司さんと希望の党代表に就任した小池百合子女史との間で進めていた合流構想ですが、希望の党による候補選別の方針に支持母体「連合」以下地方組織が反発し、頓挫する流れになってきました。

いろいろ話題になる割に、いまひとつ分かりにくい小池百合子女史の「希望の党」周りの話ですが、ご取材などもいただくなかで政治に詳しいはずの方でもあまり補助線をひけずにおられる方が多いようでびっくりしました。

なので、いくつか「希望の党」と「民進党」の合流話には論点があるのですが、現状での問題を理解する上での補助線をひくためにもまず旧社会党失速、消滅危機の経緯について説明します。非常に込み入った経緯があり、簡単に書きすぎると語弊もあると思いますが、話の整理として社会党の経緯について記すことは今回の小池百合子女史の「希望の党」が同変遷するかの予測をする際に必要なことだと考えますので、まあ聞いてくださいよ。

もともと社会党は戦前の社会大衆党とその支持者が中心となり、労働組合や地方公務員など非共産党系の社会主義者が結成した政党でした。結成の後、しばらく党内の民党系、衆党系、農党系などの派閥争いが繰り広げられた結果、あまり党勢が伸びずにいたのですが、1950年、日本労働組合総評議会(総評系)が結成されます。そもそもこの「総評系」を組成したのはアメリカ進駐軍SCAP(GHQ)で、日本の労働組合から共産党の影響を排除する目的で作られた組織であり、のちに民進党最大の支持母体となる「連合」に合流した「総評系」の影響もあって「民進党と共産党は本来不倶戴天の敵」というのは組織の起源によるのも大きな理由です(もちろん、労働組合同士のシェア争いもありますし、ほかに様々な「事件」や「人物」の関与もあるので、これだけが理由ではありません)。ちなみにマルクス・レーニン主義を掲げる社会主義協会が結成され、社会主義活動の思想・理論的裏付けがなされるようになりました(津田大介さんの父上がこちらの団体の要職におられました)。

その後、55年体制の成立以降、社会党は労働組合の利益代表としての側面を強く維持しながら1958年の第28回総選挙では社会166議席を獲得し、日本の戦後政治において大きな存在感を示す政治組織へと成長していきます。一方、総評系の組織選挙や集票力に依存する政治風土が強まり、1960年社会党委員長の浅沼稲次郎暗殺事件などの象徴的な事件を経て社会党は徐々に衰退していきます。

60年代安保後、1989年には社会党最大の支持母体である「総評」が「同盟」、「中立労連」、「新産別」の労働4団体と合一し「労働戦線統一」としていまの「連合」を結成します。さらに土井たか子委員長の手によるマドンナ旋風による議席増(1990年)、北朝鮮拉致問題、小選挙区制導入などを経て社会党からの議員の離脱が進み、1993年の総選挙では、改選前の137議席から70議席へと大失速、自民党も大幅に議席を減らした新党ブームに埋没してしまいます。1994年に非自民・非共産連立政権による羽田内閣が少数与党に転落して総辞職したことに伴い、自民党が社会党、新党さきがけと合流して社会党委員長・村山富市さんが首班指名されて自社さ連立政権による村山内閣が成立します。

しかしこれが社会党を支える労働組合組織の内部対立を生み、1996年に旧・民主党(現・民進党)が結成されると、総評系労働組合は連合を通じてだいたいみんな民主党の支援団体に鞍替えしてしまいます。社会党は支援団体をほぼすべて失い、自前の選挙組織も地方議員も政治資金の源もなくなって、戦後政治で野党第一党であった社会党から改名した社民党は、いま党消滅の危機にあります。

それゆえに、支援団体の有無というのは政党にとって死活問題です。共産党も公明党も、きちんとした組織に支えられているからこそ、利益代表として政治家を国政に送り込めるのです。前原誠司さんが希望の党へ民進党所属議員「全員」の受け入れと公認を求めるのも、希望の党に移ったところで連合の支援が得られなければ小池百合子女史のイメージ一本で無党派層だけを相手に選挙することになり、苦戦して落選する議員が大量に出ることを恐れているからなのです。日本新党もそうでしたが、一回は勝てても二回目はなかなか大変なのがイメージ選挙の欠点です。

例えば、連合の中でも大所帯の「電機連合」は、地方政治に大きなネットワークを有し、これらが各種選挙を実質的に行う際の重要な機能を果たします。もしも小池百合子女史が全国に候補者を立て、政権交代も狙っていくぞとなれば、これらの組織選挙ができる連合との連携は不可欠で、単に理解を求めるにとどまらず、政策面でも資金面でも選挙面でもバックアップしてもらわなければ首相になるための首班指名など取れないということになります。

電機連合議員一覧(組織内議員協力議員)

また、これらの連合地方組織を文字通り支える人たちは、民進党か無所属での議員活動を地方議会でしています。民進党の、例えば枝野幸男さんだけを見て、「彼は反原発で憲法改正反対の立場だから希望の党には入れない」と小池百合子女史が言えば、連合など支援団体が抱える埼玉全体の支部長以下全組織が希望の党に入らないということになります。単に「民進党から出馬費用をもらって希望の党から公認されれば選挙は戦える」というものではないのです。ましてや、政権交代をという話になれば、全国で、2回3回と選挙に勝ち続けなければ意味のある政治はできないわけです。

そして、連合が全議員を受け入れるにあたって当面容認できないのは維新の会との連携です。そもそも、連合の組織内議員として、平野博文さん(大阪11区、比例大阪ブロックで復活当選)がいます。なぜか自民党から佐藤ゆかり女史が大阪11区に転がり込んできてましたが、ここに維新の会が候補を立てると連合の組織内議員で重鎮の平野さんが思い切りバッティングします。そういうところも含めて、本来は候補者調整をするのが筋なのですが、どうやら前原誠司さんと小池百合子女史との話し合いではそのあたりの実務面での調整が全く進められておらず、激しく混乱しています。支援団体抜きの民進党を希望の党が受け入れてお互い何のメリットがあるのか分からなくなってしまうのです。選挙互助会ですらありません、東京と南関東以外では希望の党は苦戦しますから。

本来であれば、このあたりの調整は幹事長職が専権で行うべき分野なのですが、辞めた代表の蓮舫女史のときの幹事長は「あの」「希望の党に合流しない」「元首相の」「大物」野田佳彦さんです。そして、いまの前原誠司さんの幹事長が前原さんの腹心というかお友達の大島敦さんで、まあ、実務面ではお察しの御仁ですので、さっそく見切り発車的な発言をNHKにしてしまって党内や連合から突き上げを喰らって黙るという伝統芸能を披露しておられました。

民進 大島幹事長「希望と合流は一定の理解深められる」(NHKニュース17/9/28)

結局、いまの民進党に支持母体から地方組織まで全方向で見渡して制御できる要職が幹事長代行に就いている辻元清美女史以外いなくなってしまったので、前原誠司さんも小池百合子女史との対談で「辻元清美は大事」と言ってしまい、すぐ報じられてしまいました。リップサービスではなく、民進党本部は辻元女史がいなければ本当に実務が回らないのです。筋論で言うならば舌鋒鋭く安保法制反対を叫んでいた辻元女史が希望の党に合流できるなら全員入れるじゃねーか問題に発展し、デッドロックに陥ってしまった、ということになります。辻元清美女史は幹事長代行のため、自分から正式に小池百合子女史の希望の党への合流拒否を言うと前原誠司さんの代表として進めている党の事案に自分から異を唱える形になってしまうことを恐れて発表が遅れたわけですが、このリベラル新党構想側もどう見ても今回の10月10日公示、10月22日投開票には間に合わず、全員無所属扱いでの出馬になるか、ギリギリの調整で民進党の候補者リストを提出する形で乗り切ることになるでしょう。

希望の党は民進党の支援団体である連合からの理解、協力を前提として議員を受け入れるべき話が連合からの拒否で流れそうで、さらに民進党解党による民進党内にある80億円以上の現金を希望の党がせしめる構想も早い段階で前原誠司さんのリコールが起きて代表失職となるとその目論見も簡単に崩れます。この手の話を囁いていたのは小沢一郎さんだったのですが、早い段階からこの目論見自体は漏れていて、話としては面白そうだったもののどうも画餅に帰する可能性が高くなってきました。このままでは社会党がたどった道筋に近い経緯で民進党は崩壊してしまうことになるため、早急に民進党は「希望の党に合流できなかったときの党内融和や支援団体との再調整を含む別シナリオ」を組む必要が出てきた、と言えましょう。

蛇足ながら、事前に民進党・前原誠司さんと都民ファースト・小池百合子女史の野合については事前に情報が漏れていたので、それらしい話を文春に書いておいたのですが、少なくとも周辺で見る限りでは早い段階から前原さんは小沢一郎さんに都合の良いシナリオだけ吹き込まれて、党内や支援団体などとの調整で乗り越えなければならないハードルについてきちんと教えてもらっていなかった、上層部が上層部とだけ握れば済む話だと思い込んでいた、というのが重要なポイントになるのではないかと思います。「だから上山信一や竹中平蔵は切っておけばおかったのに。どうせ実務や調整なんか分からない人たちなんだから」といま後悔しても始まらないでしょう。

“豪運”安倍首相「ミサイル解散」のゆくえ(文春オンライン17/9/21)

あくまで都民ファースト、希望の党との連携については候補者の一本化や、首都圏での協調にとどめておくべきだったのですが、男として、前原さんの博打に打って出る姿勢は心情的に理解できるので、あとは早めに正気に戻って事態の収拾に頑張っていただければと願うのみです。

さすがに自民党も呆れ顔みたいですが、なぜか「小池百合子女史が都知事を辞めた後の都知事選では誰を立候補させたら勝てるか」という大喜利まで各政党内で始まっているようで、どうも都民としては再び50億円ガチャが開催される可能性が残されているようです。個人的には各種調査で「小池百合子女史は都政に専念すべき」が過半数超えているところで小池女史が衆議院選挙に飛び込み可能性の薄い首班指名を取りに行く(日本初の女性首相になる)とは思えないのですが、風を読み違えた風見鶏が地に墜ちた後で都民はどうすればいいのでしょうか。