無縫地帯

ネット炎上はなぜに人の心をひきつけるのか

文化庁がアンケート調査でネットでの炎上についての調査結果を取りまとめておりましたが、まだ実態の解明には時間がかかるようです。

NHKがネット炎上にまつわる調査結果を報じ、ネット民の間でちょっとした話題となっておりました。

ネットの「炎上」 関与は3%と少数 文化庁が調査(NHKニュース 17/9/22)

インターネット上で批判的な意見が殺到する、いわゆる「炎上」について、自分もそうした書き込みや拡散をすると思う人は全体の3%にとどまることが文化庁の調査でわかりました。NHKニュース
ネットにおける炎上については以前から事件が起きるたびに色々とメディアで話題として取り上げるほか各種論考も報じられたりしております。昨年末の論考記事ではネット炎上に関与するのは0.5%という数字がありました。

ネット炎上、仕掛け人「0.5%」の正体(日経ビジネスオンライン 16/12/13)

私の実証研究の結果なのですが、具体的には1年以内に炎上に絡んで書き込みをした人の数は、ネットユーザー全体の約0.5%、約200人に1人しかいません。日経ビジネスオンライン
こちらの記事の中で国際大学の山口さんがあげた数字に比べると、今回文化庁が出してきた数字はずいぶん大きいという印象があり気になるところです。しかも、これらはすべてアンケートによる聞き取り調査によるものであって、SNSや掲示板などを運営する会社が書き込みIDなどの実数をカウントしたものではないため、おそらくは数字が低く出たり、質問の内容によっては受け取り方の違いによって大きな振れ幅が出る内容になります。

これは万引きなど軽微な少年犯罪やいじめに対する調査ではよく起きることなのですが「あなたは誰かをいじめていますか?」と訊かれて「はい、いじめています」と回答する若者は少ないのと同義です。炎上は良くない現象だと思う割合が多いほど、炎上には加担していないと否定的な回答をする傾向も強いわけで、ある程度継続的で適切な調査方法を考えなければ実態にはそう簡単には迫れないことになります。

もっとも、ヤフーニュースの掲示板でも過激なコメントが大量に出ることがありますが、こちらも少ないIDで多くの書き込みを繰り返す「ヘビーユーザー」がいるかもしれないという指摘もありましたので、もう少し踏み込んだ調査が必要なのではないか、と思う部分はあります。

今回の文化庁の調査については毎日新聞も報道しています。

国語調査「炎上」で20代1割「書き込みや拡散する」(毎日新聞 17/9/21)

文化庁が21日に発表した2016年度「国語に関する世論調査」では、20代の1割が、インターネット上の個人コメント欄に批判が殺到し「炎上」しているのを見て、自分もコメントを書き込んだり、他のサイトに再投稿する「拡散」をしたり「すると思う」と答えたことも分かった。全世代平均の約4倍と他年代に比べて突出して高く、一部の20代が炎上をあおっていることがうかがえる。
(中略)
文化庁は「炎上に参加しているのは少数で、20代が中心になっていることが初めて浮き彫りになった。10代よりも20代に多い理由は詳しい分析が必要だ」としている。毎日新聞
NHKニュースと毎日新聞では同じ話題を取り上げているにもかかわらず、ずいぶんと切り口が異なる報道内容になっているのが面白いですね。

ちなみに、この「国語に関する世論調査」の結果は文化庁のサイトからPDF形式で概要を参照することも可能です。

平成28年度「国語に関する世論調査」の結果について(文化庁 17/9/21)

で、こちらの文化庁が公開しているPDF資料を読む限りは、調査で得られたデータに対する考察そのものは記されていないため、毎日新聞で報じられている文化庁側コメントの「炎上に参加しているのは少数で、20代が中心になっていることが初めて浮き彫りになった。10代よりも20代に多い理由は詳しい分析が必要だ」というのがどういう文脈から出てきたものなのかはよく分かりません。こうした新聞社によるコメントの切り取り方は、あえて特定世代に問題があるように読ませようとしているような印象を覚えてしまうのですが、それはこの記事を読む私の心が歪んで炎上を炎上と感じないからなのかもしれませんね。自戒を込めて猛省したいと思います。

それにしても、こうした意識調査みたいなものは、科学分野の実験結果とは異なり、その時々の世相や社会風土が人の心に微妙に影響しますし、毎回同じ調査をしてもその都度に傾向は大きく変わる可能性があるものです。先にあげた国際大学の山口さんの調査結果では、高年収で高い地位の人物の方が炎上に荷担しやすいという論考をしており、今回の文化庁の調査結果の傾向とは相反する形になっていたりもします。

炎上というのは、いわゆる「引きこもり」と呼ばれるような人たちが一生懸命書いているようなイメージが一般的にあると思います。しかし、実際に研究すると、結構年収が高いとか、あるいは社内で課長、部長だとかある程度のポジションに就いたりしている人の方が加担しやすいという結果が出ました。日経ビジネスオンライン
結局、ネットで炎上させているのは誰なんだという話ですが、誰もが荷担する可能性はあるということでしかないのかもしれませんね。