無縫地帯

QRコードベースのモバイル決済ビジネスがいよいよ日本でも本格化の気配だそうで

キャッシュレス社会が進行している中国において、QRコードベースの取引が急増、セキュリティやプライバシーお構いなしにどんどん発展していっているあたりに、現金主義日本との違いを感じます。

このところ経済情報メディアあたりを中心に日本のモバイル決済市場が遅れている、それに比べて中国あたりはすごいみたいな論調がちょっとしたブームになっているような印象を覚えます。

スマホ決済"日本6%中国98%"格差の理由(プレジデントオンライン 17/6/23)

携帯電話でお金が支払えるモバイル決済。日本銀行は今年6月のレポートで、日本での利用率が6.0%なのに対し、中国は98.3%だと書いた。なぜ中国はモバイル決済の先進国になったのか。そして世界一だったはずの日本は、なぜ後進国になってしまったのか――。プレジデントオンライン
まあ、この手の記事は「世界一だったはずの日本」と今やモバイル決済先進国の「中国」を対立構造に仕立てあげることで読者の感情を刺激してPVを増やそうというメディア側の思惑が透けて見えたりするのでそのまま釣り針に食いつくのは不毛ですが、単純な事実として中国では以前からカード決済が日本よりも普及していた背景があったためキャッシュレス決済システムを市場が受け入れやすかったところに、急激なスマホの普及と相まってモバイル決済が浸透したという流れがあるのかもしれません。

各メディアの記事の読まれ方を並べてみていると、純粋な経済記事は相変わらず読まれない一方、中国と日本を比較するような記事や、北朝鮮有事に関する記事はかなり下駄を履いて読まれている印象で、日本の一般的なニュース記事閲覧層の興味対象がどの辺にあるのか何となく分かる気はします。

中国のモバイル決済、5つのグラフに見る「急成長」の理由(DIGIDAY 17/5/2)

いまもなお、王者の座にはカードが君臨する。短期間で驚異的な成長を遂げたとはいえ、中国で携帯端末による決済は全体のわずか12%だ。オンライン決済が16%、現金が30%、そしてカードは41%を占める。DIGIDAY
すでに多くの場で言われていることではありますが、中国市場はモバイル決済システムとして新たなインフラ導入が不要なQRコードベースのシステムを選ぶことで参入障壁を低くすることができたということが特徴でもあります。

これはこれで、中国社会や文化にうまく合致していると言えましょう。

NFCより手軽?中国でQRコード式決済システムが大ブームに。その現状と対策(モバイル決済最前線 鈴木淳也)(Engadget日本版 16/8/1)

QRコードを表示するディスプレイとカメラさえあれば、NFCの有無にかかわらず、すべてのスマートフォンや携帯電話で決済が行える。店舗側もQRコードを読み取るスマートフォンやタブレットを用意すればいい。最小限の投資で、携帯電話を使った決済システムを構築できる点が、その人気の秘密なのだろう。Engadget日本版
しかしながら、導入が簡単であるばかりか誰でも勝手に作れてしまうQRコードという原始的な仕組みのおかげで、それを悪用した詐欺事件の類が後を絶たない事態を招いています。

QRコード決済の落とし穴、中国(AFP 17/6/5)

偽のQRコードのシールが張られていて、読み込んでしまうとフィッシングサイトに飛び、支払いの画面が現れる。支払いをタップしてしまうと、犯人の口座に送金されてしまうというもの。きわめて単純な手口だが、騙されてしまう人が増えている。AFP
さすがにこれではちょっと危なくて日本では誰も使いたくないだろうと思っていたところがどうやらそんなことはないようでして、こうした商機を見逃さずガンガン攻めるあたりさすがであります。

広がるQRコード決済スマホアプリで読み取るだけ(日本経済新聞 17/6/16)

日本でもこのQRコード方式のスマホ決済を新興勢力がけん引し始めたようだ。楽天ペイはもともと小規模店舗向けにスマホを店舗端末として活用したクレジットカード決済サービスからスタートし、QRコード方式に参入した。LINEもLINEペイを提供している。日本経済新聞
まあ、たしかに簡便ですしね。

ドコモまでもがQRコードを利用した決済サービスを開始する意向を表明しており、これまでFeliCaなどに対応すべく安くないコストと手間をかけてきた事業者の心持ちはいかばかりのものか気になるところですが、メディア側の論調は押し並べてQRコード決済推進に肯定的なニュアンスであるのも興味深いところです。

ドコモが「QR決済」導入買い物代、毎月の携帯料金に合算今年度、ローソンなどで(SankeiBiz 17/8/14)

国内のQR決済は、中国より普及が遅れているが、携帯電話最大手のドコモの参入で普及に弾みがつきそうだ。SankeiBiz
なお、QRコード決済の本家ともいえそうな中国企業も日本市場での本格的なサービス提供を計画しているそうで、いよいよ来年あたりは日本でもQRコードベースのモバイル決済元年みたいな感じになるのかもしれません。

アリババ、スマホ決済上陸(日本経済新聞 17/8/16)

中国ネット通販最大手のアリババ集団(浙江省)は来春にも、日本でスマートフォン(スマホ)を使った電子決済サービスを始める。入金したスマホのアプリで買い物ができるようにする。中国で提供する「支付宝(アリペイ)」と同じ仕組みを日本人向けに展開、3年内に1千万人の利用を目指す。日本のスマホ決済市場の起爆剤になる可能性がある。日本経済新聞
中国の決済サービスについては、国民の金の使い方を監視するためにすべてのトランザクションデータが政府にダダ漏れという話もあって、そんなものを日本でも同じようにやられたら怖くて使えないだろうという危惧がありまして、日経の記事でもしっかり指摘されておりました。

中国企業が海外展開する際には、個人情報の保護が課題となりそうだ。中国の消費者の間では決済履歴などの個人情報が企業から市民への監視を強める当局に流れているとの懸念が強い。日本経済新聞
いずれにしても、QRコードベースの決済サービスは導入に要するコストや手間が省けるのが大きな特徴でありますが、その分セキュリティ面で不安な点も多く、日本市場ではそこのバランスをどのように取っていくのかは注目点かもしれません。中国ではある程度問題の有りそうなシステムでも便利であれば貪欲に導入する一方、日本では紙幣など現金に対する信頼度が高いこともあって、問題の有りそうなシステムを使うぐらいなら現金で決済したほうが良いという消費者心理が常に根強いことが背景にありました。セキュリティに問題があると言われても喜んで使う日本人は、現段階では明らかに少数派ではあります。

NHKニュースではセキュリティを高めるための施策などが紹介されていましたが、そうした手間を増やすことによってコストが嵩むようだと本来の手軽で低コストが最大の売りであるはずのQRコードシステムを採用する意味がなくなるように感じなくもありません。

QRコード買い物サービス拡大 スマホで読み取るだけで支払い(NHKニュース 17/8/17)

支払いを行うたびに一定の時間しか使えないQRコードを自動で作成したり、指紋認証を求めるようにしたりして安全性を高め、消費者の不安の解消につなげようとしています。NHKニュース
私の周辺でも、中国式の簡単な決済が日本でも普及すると楽でいいよなあという声が強い一方、中国に度々足を向けるビジネスマンは、これらのサービスは外国人向けにはあまり開放されておらず、むしろ中国訪問のたびに不自由な思いをしているという話も多数耳にします。

本稿では触れませんでしたが、最近では中国でのビジネスで常に問題となる「与信問題」を改善するための仕組みが次々と社会に実装され始め、国家ぐるみで整備していっているあたり、さすが中国だなあという実感を覚えます。もちろん、利用者のプライバシーなど無きに等しいところはありますが、それが中国社会というものなのでしょう、きっと。