ヤフーが三井住友と顧客情報解析の合弁企業を仕掛けて大困惑の話
Yahoo! JAPANと三井住友フィナンシャルグループがビッグデータ解析で合弁企業を立てるというニュースが流れてきて、ネット民が大困惑しておりましたが、本当の狙いはどこにあるのでしょうか。
情報に通じて時代を先取りすることに余念の無い人達であれば、いまさら「ビッグデータ」というバズワードでもないだろうという感じかもしれません。普通の人の感覚でいけばこれからいよいよビッグデータな時代到来というノリなのではないかと思いますし、大手都市銀行の中の人もようやくデータの重要性に気がついたように見えてもおかしくはありません。
金融ビッグデータで営業三井住友とヤフー提携(日本経済新聞 17/8/9)
三井住友フィナンシャルグループ(FG)とヤフーが顧客のデータ分析で提携する。三井住友FGが持つ約4千万件の顧客情報から決済や資産運用の動きを細かく分析し、金融商品の提案や開発に生かす。金融業界では高度なIT(情報技術)を使って新たなサービスを生み出す動きが活発だ。三井住友FGは顧客のビッグデータをもとに、金融取引の拡大を目指す。日本経済新聞正直、このニュースを見るだけでは具体的にどのような取り組みを三井住友とヤフーの間で行うのかはっきりしません。恐らくは、座組みを作りましたという話だけ先行して、実際の打ち手をどうするのかは双方話し合いながらサービスメニューに落とし込もう、という部分はあるのかもしれません。
まあ、実際には銀行の中の人も頭の良い人達が集まっていますからデータの重要性などは十分に知っていたはずです。実際、口座の入出金の履歴から信用状況を把握するような与信システムは三井住友もかなり前から入っているはずですし、一般的な銀行業務そのものを顧客データ使って解析するという話であればヤフーに虎の子の顧客データを出す必要もありません。恐らくは、銀行業務以外の、例えば投資信託や高齢者向けのリバースモーゲージなどサービス販売や企画の面で、自分達だけではそうしたデータをどうやって集めて処理するかノウハウが乏しかったということはあるでしょう。
三井住友FGはすでにNTTデータなどと共同でスマホベースのサービスを提供すべく生体認証プラットフォーム開発を目論んだフィンテック企業を新設したりしております。
SMFG、NTTデータ、三井住友銀、Daonの4社、生体認証プラットフォームを2017年春に提供(INTERNET Watch 16/9/16)
三井住友銀アプリ、生体認証で本人確認指紋・声・顔(朝日新聞 17/7/26)
Polarify -どんなスマホでも指、顔、声でかんたんログイン(Google Play)
期待される銀行業務のフロントエンドの無人化という点では、三井住友はそれなりに頑張っています。ただ、先行しているはずの生体認証アプリはすでにAndroid版が公開されいますがあまり話題にはなっていない印象です。
わざわざ新規企業を発足させて認証アプリまでは作れてもデータの収集や解析には手を出せていなかったということかもしれず、今度はビッグデータに強いと目されるヤフーと組んで別の新会社設立ということになったようです。それにしても、今まで大手都市銀行がこういう預金口座の顧客データについて、しっかりした分析を自前でやっていなかったらしいことにちょっとした驚きを感じなくもありません。まあ預金口座というビジネスはこれまでとりたてて何の工夫もしなくてもあまり問題にされない事業だったのが、さすがにこれからの時代それでは心許ないということでのビッグデータの利活用促進、という流れなのでしょう。
で、どこまで本当なのかはよく分かりませんが、この三井住友FGのビッグデータビジネスにまつわる報道でちょっと気になる記事がありました。
三井住友、ヤフーと提携預金出し入れなどヤフーが分析(朝日新聞 17/8/10)
顧客データが外部に出ることに抵抗感を持つ顧客もいるとみられ、匿名化や同意の必要性を検討する。朝日新聞この記事をそのまま素直に読むと、現状ではデータの匿名化を実施するかなどについて未定であり同意も取るかどうかわからないといったニュアンスになってしまいます。私個人からしますと「さすがにその辺は詰めてから協業を決めているはずだ」と思うところですが、この書き方だと三井住友の顧客データがごっそりヤフーに渡ってデータ解析の具になるぞぐらいの勢いに読めます。
そもそも、ビッグデータであるかはともかくデータ解析をそのまま行うのであれば
匿名化処理は当然必須であって、顧客にとっては重要な同意事項です。また、データを全量ヤフーに解析委託する必要などあるはずもないわです。作った味噌汁を鍋ごと全部飲む計画であるなら話は別ですが、データ解析して顧客動向を判断したり、売れそうな金融商品を企画・設計するという話なら、味見レベルの匿名化済みデータ解析で全く問題ありません。なので、最低限のフィンテックとデータ解析の知識を持っている読者であれば、いくらか精神的な動揺をきたすのは仕方のないこととも言えます。三井住友やヤフーがどのようなイシューを考えているのかを誤読されかねない表現に見えるからです。
そのせいもあってか、この記事を巡ってネット民の間ではちょっとした炎上が起きているようでして、中には口座を解約みたいは話まで出ているようです。しかし、さすがに銀行の中の人達がそこまで間抜けなはずがありません。先に紹介した日経の記事によれば以下のような言及があります。
広告事業が収益の4割程度を占めるヤフーが金融機関と新会社をつくるのは初めて。金融機関が持つ膨大なデータを匿名化し、解析することで自らの分析能力を高める。特定の顧客に適切な広告を配信する「ターゲティング広告」の効率向上につなげる狙いがある。日本経済新聞金融機関の口座情報を集めてきてなんでターゲティング広告を着地点にするのかさっぱり分からない部分はありますが、そう記事で書いているからにはそうなのでしょう。
こちらの記事を信ずるなら、データの匿名化は当然の大前提であり、同意した特定の顧客のみに向けてターゲティング広告を提供するという意図に読み取れます。なぜ朝日新聞はあたかもこうした前提が無いように読み取れるような「匿名化や同意の必要性を検討する」といったぼんやりした説明をしたのかやや不思議に感じる次第です。
それでも匿名化する前のデータを悪用するのじゃないかといった不安を覚える人はいるでしょうし、そう考える人が大手銀行のサービスを利用せずに別のサービスを選びたいと考えるのはまったく理解できる話です。
ビッグデータという言葉の一人歩きと実態の乖離みたいなものが生じるのはそれなりに仕方ないことかもしれませんが、事業者としてはそうした事態に対してどう信頼性を担保していくかが大きな課題ですし、きめ細やかな広報活動などで補っていくことが求められるはずです。報道媒体などとのお付き合いも丁寧にやっていかないと、今回のような齟齬が生じる原因になるのだろうなと思いました。
なお、8月1日に「ヤフーがジャパンネット銀行を連結子会社化する」というニュース
先行して流れています。一方、ヤフーと関わりの深いソフトバンクグループのメインバンクは長らくみずほフィナンシャルグループであり続けました。いろいろ派手やかなビジネスをソフトバンクは世界的に展開する一方、有利子負債も大変なことになっているわけで、一連のヤフーとの動きがソフトバンクグループからのデカップリングにあるのかどうか、注目して見ていく必要はあるのではないか、と思います。