無縫地帯

「『原理原則が大事だ』と言ったら『弓を引いている』と誤解されました」石破茂さん改造直後インタビュー

8月3日、安倍政権は内閣改造に踏み切りましたが、支持率急落のきっかけの一つ加計学園問題で「後ろから弓を引いた」と一部で批判された石破茂さんに、事実関係と真意を伺ってみました。

山本「どうもご無沙汰しております」

石破「相変わらずだね。なんでも聞いてよ」

山本「世間では石破さんが安倍政権に頑張って弓引いてることになってますよ!」

石破「そんなこと、まったくないんですけどね」

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'''◆内閣改造に向けて、石破茂さんへの入閣打診は「まったくありませんでした」'''

山本「まずお話をお伺いしたいのは、安倍政権の内閣改造」

石破「はい」

山本「手堅くまとめてきたなという印象はあるのですが、石破せんせのところには入閣のご打診や連絡は政権からあったのですか」

石破「無かったです」

山本「ええーーっ。なんか今回の内閣改造はオール自民党で総合的な布陣でいくぞ的なことを喧伝してましたよね」

石破「それはそうだと思いますが、私のところにはまったくありませんでした」

山本「まったく?」

石破「まったく」

山本「どちらかというと、答弁優先で無難に国会を切り抜けられるような人材を広く自民党から閣内に取り込んだ印象でしたけれども」

石破「総裁も、そこは深く考えられたと思いますよ。やはり一致団結して乗り越えていくには適所適材、それぞれがお努めできる分野を最大限に活かすことが必要だと」

山本「なるほど。しかし、実際には内閣改造後の速報ではありますが、各社数%程度の支持率回復に留まるという見通しになってしまいました」

石破「支持率にいちいち左右される必要はありませんが、総裁に『こういう政治を頼みたい』というところをいま一度、しっかりと議論していかなければならないと常々思っているのです」

山本「そのあたり、安倍さんと石破さんとのサシでお話されることはないのですか」

石破(遠い目をして)「うーん、総裁と二人で、じっくり話をするという機会は、残念ながらしばらくまったくありませんね」

山本「えっ。安倍政権も官邸の面々も石破さんのお考えについてみな気にしていますし、ある種のボタンの掛け違いみたいなところはあるんじゃないでしょうか」

石破「山本さんのおっしゃる通り、官邸でもいろんな考え方があるでしょうし、私は議論はいつでもする、原理原則を明らかにしながらやっていくほかないと思いますね」

山本「失礼な申し上げ方になるかもしれませんが『石破せんせは空気を読まずに正論を言うから面倒だ』ぐらいに思われているんでしょうか」

石破「それは分かりません。でも、必要な時に必要なことを言うのが政治家の本来の仕事だと思っています」

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山本「それが『支持率が下落して困っている安倍さんを党内から批判をする、けしからん』という話になるのか、メディアでは盛んに安倍さんと、対立する石破さんという構造で喧伝する動きが顕著です」

石破「それはね、やはり『商業メディア』だからですよ。対立している、としたほうが売れやすい、部数が取れると」

山本「なるほど。安倍さんに対立を仕掛ける石破さんが次の首相ポストを狙っている、という見立てのほうがマスコミとして面白いという話ですかね」

石破「もちろん政治ですからいろんなことはあります。でも、どこかで原則論をしっかりと見極めていかないと。いくら政権にとって都合の悪い原則であったとしても、です」

山本「状況によって二転三転しているようでは原則は守れないということですね。仮に空気を読まない原則論でも、言い続けなければならない、と」

石破「そういうことですね」

'''◆いわゆる「石破4条件」というものはない。なぜ独り歩きしたのか?'''

石破「総裁は今回の内閣改造で『原点回帰』という初心に帰る発言をされて、本気で態勢を立て直すのだなと思ったんですよね」

山本「あれは傍から聞いていてもちょっと意外な発言ではありましたが、安倍さんの真意は何であったとお考えでしょうか」

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石破「総裁は、下野したときの自民党の悔しさや、あれだけ国政を滅茶苦茶にした民主党政権から政治を取り戻すんだという強い意志をもう一度新たにして今回の改造に臨んだんだと思います」

山本「なるほど。つまり、政権の緩みやスキャンダルで失った支持を『民主党に政権を奪われ下野した苦しさの中で取り戻した自民党』に立ち返ることで有権者の期待に応えようということですね」

石破「かなりピュアなお考えを持っていると思うんですよ、総裁は。その本気が伝われば、かなり国民の支持が戻ってくるのかもしれないと」

山本「その意味では、今回の加計学園の話は石破さんが地方創生大臣時代に策定された『石破4条件』が独り歩きした印象があります」

石破「あれを『石破』が突き付けた条件だという時点でミスリードでね。誰から頼まれたものでもなく、あれは安倍内閣で閣議決定したものです」

山本「2015年6月30日に閣議決定された『日本再興戦略改訂2015』ですね。安倍政権が決定したものなのに、取りまとめた担当相である石破さんの名前を冠にするのはおかしいと」

石破「そうなんです。あれは本来は『安倍4条件』と言われなければおかしい。閣僚全員で合意して決まったものなのですから」

山本「そこで『獣医師養成系大学・学部の新設に関する検討』とされ、新設には厳格な規定が作られました」

石破「獣医師はもちろん国家資格ですが、いま充足しているペット医師にならないでください、産業用動物向けの医師になってくださいとは強制することはできないんです」

山本「職業選択の自由がありますからね」

石破「はい。だからこそ、単に獣医師を増やす、そのために大学を作ったり、学部を新たに設けるという話だけでなく、地域で働く獣医師の生活も考えなければならない」

山本「人口減少の中でペットの数が減れば、ペット医師余りは今後深刻になるかもしれないという話もありますね」

石破「そうなると、いま本当に必要な議論は学部を作るの作らないのという話だけじゃなくて、産業用動物を診る獣医師の待遇を良くしていかなければ、そのなり手がすくないでしょうという話は当初から総裁に申し上げてきました」

山本「なるほど。石破さんはそこで原理原則を強く主張されるので、結果的に安倍さんの方針と異なる内容になるものだから、そこだけ切り取られて『安倍政権に反旗を翻した』とか『対立している』とメディアに煽られるんですね」

石破「メディアも商売ですから、そこを面白く対立図に仕上げれば売れるのでしょう。でも、実際には私は原則を述べているまでです」

山本「そのあたりが、安倍政権や官邸とのボタンの掛け違いの原因なんじゃないかと思うのですが。ポスト安倍に石破さんが名乗りを上げたと見えてしまいます」

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石破「でも、今回の『4条件』に合致する大学が新設を申請してきたら、厳密に審査をしたうえで、良ければ”首相のお友達”でも見ず知らずの人たちでも新設を認めなければならない、というのが筋論です」

山本「それはそうですね」

石破「だから、総裁もそのように仰っているわけで、メディアが問題を取り間違えている部分もあるのではないかと、そう思っています」

山本「その意味では、後任地方創生相の山本幸三さんが国会で『既存の医学系大学には声をかけなかった』と言ってしまい、さらに混乱をきたしました」

石破「うーん、山本大臣は『政府の側から積極的に声をかけるようなものではない』ということが言いたかったのかなと思ったんですが。どうなんでしょう」

山本「どうなんでしょう…ただ、一連の話を見る限りでは、石破さんは『このときこうだった』『筋論はこうで、原則はこうだ』としか仰っていなくて、なぜ困っている政権を後ろから撃ったという議論になっているのかいまひとつピンときません」

石破「やはり、そこは商業媒体ですから」

山本「ある意味で、官邸サイドが石破さんのことを凄く警戒して、強くそのあたりのことを打ち出した形なんでしょうか」

石破「そんなつもりはないんですけどね」

'''◆安倍さんとの「大きな隔たりは憲法観。あくまで正論を言いながら安倍政権を支える立場」'''

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山本「石破茂さん自ら『首相になりたい』と言ったことはないのに、ポスト安倍レースでは常に名前が挙がることが気になるのでしょうか」

石破「私はもちろん政権を全力で支える立場です。ただ一点、憲法問題については総裁と異なる見解を持っているのです」

山本「繰り返し、そのあたりは仰っていますね」

石破「はい、そうなのです。自民党内での憲法論議もそうですが、私の意見をすべて盛り込めと申し上げているのではありません。全ての議員に平等に意見を表明する機会が保障されなければいけないと言っているのです」

山本「国民からの一票による請託があるからこそ、公平に議論に参画するべきということですね」

石破「民主主義の議会政治で外してはならない原則がこれだと思っています。日本の国民主権の本質です」

山本「安倍さんも憲法改正は諦めていないようですね。改めて、9条1、2項を残して自衛隊を憲法の中に明文化する意向を示しておられます」

石破「私も、憲法改正は必要だと思っています。ただ、9条2項との整合性には異論があります。これを避けて自民党の憲法改正案を取りまとめることは困難ではないかな、と思っています」

山本「公党として、すべての議員に開かれた議論ができているというのは大事なことではないかと感じます。自民党でないとできない長期的な政策課題と申しますか」

石破「そう。自民党は、民進党よりはマシだということで支持が高い、ということでは、駄目なんです。総裁の仰った、原点回帰、初心に帰るというのは、自民党にしかできない政治をするということだと思っています」

山本「なるほど」

石破「だから、いろんな議論はあるけど、私は総裁を支援したいと思っています」

山本「毎度お話を伺うんですが、石破さんは安倍さんをかなり支持されてますよね」

石破「その通りです」

山本「なんで誤解されるんですかね…」

石破「そうなんですよね…」

(おわりインタビュー日:2017年8月4日)

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