無縫地帯

音声アシスタント市場を英語と中国語に席巻され、居場所を失いかねない日本語の今後

人工知能を駆使したAmazonの音声アシスタントが市場を席巻、中国も猛烈なAI開発が繰り広げられ英語と中国語がスタンダードになりつつあり、少数言語や親和性の低い言語が厳しい立場に置かれそうです。

米国において音声コマンドを利用するスマートスピーカー製品の市場が急速に拡大しつつあるという話題はこれまでも何度か取り上げてきましたが、そうした波がどうやら中国市場にも押し寄せそうだという論考が出ておりました。

“ボイスファースト”に猛ダッシュ中国ネット大手「BAT」(クラウドWatch 17/7/18)

Amazon Echoの成功を受け、スマートスピーカー市場への参入が相次いでいる。日本では、いまだ製品が出てないアイテムだが、世界では既に必須デバイスになろうとしている。Echoが開いた市場には、Google、Appleが続き、さらに、中国ハイテク大手が猛然と参入を進めている。中国企業は、スマートフォンでは、より安価な製品で世界シェアをじりじりと増やしてきたが、音声でも世界を席巻するのだろうか。現状を概観する。クラウドWatch
すでにスマートスピーカー市場に進出を発表しているはずのLINEが涙目になりそうな物言いですが、日本勢の「出遅れ」感が否めないという意味なんでしょうか、それともLINEは日本企業であるという認識をされてないんでしょうか。

で、欧米メディアなどでは中国大手IT企業の3社であるBaidu、Alibaba、Tencentをまとめて「BAT」と一括りにして呼ぶことが比較的多いようですが、日本のメディアではあまり使われない呼称かもしれません。それはともかく、この記事は現時点での中国IT企業の動向を手軽に斜め読みできる内容になっておりなかなか面白いですが、とくにAI分野の今後の行方を占う上で中国が有利な立ち位置にあるという以下の指摘は注目しておくべきでしょう。

The Economistは、AI分野で中国が優位に立てる要素として次のようなものを挙げている。▽漢字の入力が面倒なことから欧米と比べて音声認識が早く普及▽世界の5分の2以上ともいわれるAI科学者の数▽活発な投資で次々にAI関連スタートアップが生まれる環境▽政府の強力な支援▽インターネットとAIサービスに対する若者の関心――など。クラウドWatch
中国はその人口の多さが利してすべての産業にとってもっとも魅力のある市場を形成しつつあるわけですが、AIを活用した音声アシスタント市場にとっても世界最大の市場となる可能性は非常に大きいようです。そこで鍵となるのは中国語という言語の壁であり、中国企業以外が参入していくのはかなりハードルが高いということになるのかもしれません。しかし、中国市場の大きさは他国の企業にとっても無視できないものがありますから、結果として今後しばらくの間は英語と中国語が音声アシスタント開発事業者にとってプライオリティの高い二大言語となっていきそうです。逆に言えば、その二つの言語以外についてはプライオリティが低くなるため、下手をすると置いてけぼりを食らうことになるのかもしれません。

音声アシスタント製品の利便性が今後進化すればするほど言語の淘汰が起きるという危惧も生まれつつあるようです。

音声コマンドがアイスランド語を絶滅させる? 政治家、専門家も懸念(ギズモード・ジャパン 17/5/15)

アイスランド語(中略)への対応は、音声認識デバイスやそのソフトウェアのデベロッパーにとって優先順位が高いとは言えません。たとえばAppleのSiriは地域別の英語なども含めると41言語に対応していますが、そこにはアイスランド語は含まれていません。
(中略)
ほとんどの人が英語が話せるアイスランド人にとっては、アイスランド語より英語のほうが便利になりつつあるのです。ギズモード・ジャパン
母語ではなくても英語が公用語として馴染みがあるような国であれば、音声アシスタント製品の実用度が高くなるにつれ人々は母語よりも英語を好んで使うようになる可能性がありますし、これはインドなどでも例外ではないでしょう。

英語や中国語以外の言語圏での音声アシスタント製品の開発や普及が遅くなる傾向については、Googleのスマートスピーカー「Google Home」の発売動向を見るとなんとなく予見できるものがあります。

「Google Home」、ドイツとオーストラリアでも発売へ(ITmedia 17/7/19}

米Googleは7月18日(現地時間)、同社のスマートスピーカー「Google Home」をオーストラリアとドイツで発売すると発表した。オーストラリアでは7月20日に、ドイツでは8月8日に発売する。
(中略)
フランスについては7月6日に、8月3日発売と発表している。
(中略)
発表された発売国のうち、発売日が不明なのは日本だけになったITmedia
言語体系として英語と親和性があるドイツ語やフランス語の音声コマンド環境開発については目処がついても、そうした親和性が相当に低い日本語については開発が遅れていると推測されます。

残念ながら日本語に対応した音声コマンド環境は日本だけで独自に開発していくしかないのかもしれません。とりあえず、日本でこの分野において一番最初に製品を市販化してくるのは先ほど触れたLINEとなりそうですが、すでに先行体験版の予約は完売したとのこと。

Clova搭載スマートスピーカー「WAVE」先行体験版はご好評につき完売いたしました。
商品到着まで今しばらくお待ちください。
「WAVE」正式版の発売は今秋を予定しております。
決定次第こちらのアカウントでお知らせいたします。LINE Clova
一体どの程度の音声コマンド性能を実現して市場へ出してくるのか気になるところですが、海外企業の日本語対応はあまり期待できそうにない現状としては、ぜひとも良い形で皆の予想を裏切る実用性の高いものを出してきてほしいところです。