無縫地帯

分断する世界を象徴したサミットG20 写真家・タイナカジュンペイが見た「世界の裂け目」

ドイツでのサミットG20では、首脳が高らかに世界の協調と統合を謳う傍ら、ブラックブロックと呼ばれる暴徒が町を荒らし大混乱に陥った「世界の裂け目」をハンブルク在住の写真家タイナカジュンペイが捉えました。

7月7日8日、ドイツ・ハンブルクで開催されたサミットG20。

テロ対策に関するハンブルクG20首脳声明が発表され、首脳宣言ではG20各国首脳が「全ての人々に利益のあるグローバル化を形成する決意」を高らかに謳い上げて、世界各国の緊密な連携の下で世界経済の持続的発展を進めていくというプロセスが確認されることとなりました。

G20ハンブルク・サミット:首脳宣言(外務省7月8日現在)

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[前文]

(1) 相互に連結された世界の形成は,G20の共通の目標。G20の優先課題とし て,引き続き,強固で,持続可能で,均衡ある包摂的な成長を前進。

(2) G20は,全ての人々が裨益するグローバル化を形成する決意。
一方、我が国のメディアでは加計学園問題で揺れる国会閉会中審査に前川喜平前文科事務次官を呼ぶ呼ばないで大騒ぎし、その後内閣支持率の急落が伝えられ、九州での風雨・土砂災害で多くの犠牲者が出た件がトップニュースとなりました。G20で各国首脳が集まり話し合った内容の詳細には然程の関心が払われなかったのは、日本国民の関心は海外にはない、ということなのでしょうか。

しかし、実際にG20が開催されたハンブルクで、写真家タイナカジュンペイが見たものは、各国首脳が進める緊密な連携による世界秩序に抗議する、極左勢力の台頭と暴力的な行動の数々でした。

燃え上がる車両、徒党を組み走り回る暴徒、衝突する警官隊、打ち壊されるショーアーケード、覆面の男が立て籠もる建物から警官隊に投げ込む火炎瓶……タイナカジュンペイの目の前で起きたハンブルクのデモの惨状は、日本の主要メディアではなかなか報じられることのない、世界情勢の真実の一端が垣間見えるのではないでしょうか。

[[image:image01|center|警官隊との最前線、火を燃やす場所。看板など鉄でできたものも容赦なく火の中へ。]]

川口マーン惠美女史は、一連のデモを「地獄絵図」と表現しましたが、タイナカジュンペイが伝える写真から想起されるものはその地獄が世界の割れ目であり、統合しようとする首脳と分断を訴えるデモ隊の姿をくっきりと映し出していると言えます。

悪夢のような集団が街を破壊…G20サミットの「地獄絵図」(現代ビジネス 17/7/14) http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52280

タイナカジュンペイは「ハンブルクのこのシャンツェン区は、もともとデモがよく起きる場所で、住民はしっかり熟知し対策もしている」と説明します。一方で、撮影中「何度もブラックブロックの人たちにぶつかりましたが、彼らはちゃんと謝り、大丈夫か?なんて声をかけてきた」と言います。

[[image:image02|center|前線から下がった場所では地面のKopfsteinを取り積み上げバリケードを作る。]]

覆面を被ったこのブラックブロック、タイナカジュンペイが驚くほどに女性も多く、外国語だけでなくドイツ語を話す”参加者”も少なくないようです。個人個人は人としてむしろ親切な連中であると言われる割に国際会議があるごとに騒ぎを引き起こすブロックブロックとはいったいどういう人々なのでしょうか。

Tigerの無惨に破壊された有様。中はめちゃくちゃ]

もともとは、1999年WTO(世界貿易機関)の閣僚級会合が、前代未聞の決裂と会合の2年間の延期に追い込まれるという事態に陥ったひとつのうねりが、大きな影響を及ぼしたNGO・市民社会の存在であったと言われます。ここでWTO体制自体の存在意義が強く問われるという事態に直面し、国際社会は貿易による経済協調一辺倒ではなく、地球市民として均衡のとれた発展をどう担保するのかという難題に直面することになります。

ワシントンの消費者ロビイストであり、ラルフ・ネーダー率いる「パブリック・シチズン」が世界中のNGOに対しWTOの主要課題である「ミレニアム・ラウンド」に反対する声明案への賛同を呼びかけたのが第一世代の抗議活動とするならば、よりごった煮感の強いブラックブロックは「指導者なきアナーキズム」とでも呼ぶべき名無しさんによる抗議活動と言えます。

[[image:image04|left|ブラックブロックが発煙筒で煙を撒き散らした後、火にくべ爆発を引き起こし歓喜する]]

このとき、WTOの会議が行われているシアトルで、4万人とも言われるブラックブロックが抗議活動を経て暴徒化し、グローバリズムの象徴と見做されるGAPやスターバックス、銀行や証券会社といった店舗を次々に破壊、略奪し、シアトルを大混乱に陥れます。この結果が、グローバリズムに反対するNGOや市民団体を無視しては会議が継続できないという判断となり、その後のブラックブロックの活動へと繋がっていきます。

統一された指示系統のないブラックブロックは自然発生的な小規模人数の群れです。概ね全体の主義主張で言えば「反グローバリズム」や「反資本主義」もいれば、「環境主義者」や「反政府的なアナーキスト」も存在するという、イデオロギーの全く異なる人たちの緩やかな人々の集まりであることは良く知られています。

[[image:image05|right|何かを投げ入れるたび爆発は何度も起きた。時折歓声がわく。狂気の沙汰にしか思えない]]

その原点は、80年にドイツ・フランクフルトで勃発した「黒い連帯(Schwarze Block)」を源流とする黒衣装黒覆面をトレードマークとした平和運動・軍縮・反核運動であって、冷戦の終結から世界経済の持続的発展の負の一面として横たわり続けてきました。そして、2009年にはイギリス・ロンドンで行われたG20首脳会合で同様にブラックブロックが暴徒化して暴れ回り、多数の逮捕者を出すに至っています。

[[image:image06|center|光の先には、放水車が2台。バリケードを作り、道路の石を砕き、放水車へ次々と投げる]]

2019年にはこのG20が日本で開催することが決定しており、これらの活動や主義主張とどう向かい合うのか、いまから議論が求められている部分はあります。しかしながら、日本では前述のように加計学園やその後の安倍政権支持率急落のような目先の政争に目が奪われ、日本人として世界的な風潮にどういう立場を取っていくべきなのでしょうか。今回のG20ハンブルクの事情も含め、非常にデリケートになってきている世界の資本主義、貿易体制の状況について、日本では事情や賛否含めてあまりにも報じられなさすぎるように感じます。

[[image:image07|center|左右の商店はは破壊と略奪がなされた。いくつもの商品が炎に投げ込まれている]]

同様に、日本の周辺の環境問題、とりわけ海洋資源の保護や、原子力発電所の取り扱いなど、本来であれば一定の方針が国民間できちんと議論されていなければならないものが放置されすぎている印象があります。2019年までに道筋が見えていれば良いのですが。

ハンブルクでの騒がしいG20が終わった次の日が日曜日で、地域のボランティアが発起し、市民1万人が集まって、暴徒によって荒らされた街じゅうを掃除しました。そして月曜日からは、驚くくらい普通の日常が始まっていました。これら一連の抗議活動は大きな傷跡は残しながらも、明らかな「世界の裂け目」の一端を見せてくれたように強く感じさせます。

これが欧州の、世界のダイナミズムだとするならば、さて日本の選択はどこにあるべきなのでしょうか。

破壊されたスーパーやファーマシーの商品が道路に投げ捨てられるここが世界の裂け目]

写真家タイナカジュンペイ
ドイツ・ハンブルクを拠点にし、日本とドイツの架け橋を目的として、東京や大阪でも活動している都市写真家。ポートレートも得意。
言葉なき写真の中にある膨大な情報を、哲学や文学へ傾け表現する。

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