無縫地帯

ソフトバンク「ペッパー」大赤字から見る家庭用ロボットというビジネスの現在地

ソフトバンクグループが手掛けるロボット「ペッパー」事業がかなりの赤字を出した一方、AmazonのAI搭載機器であるEchoシリーズが好調という話を取りまとめてみたいと思います。

孫さんの肝いりプロジェクトとして発進したソフトバンクのヒト型ロボット「Pepper(ペッパー)」ですが、日経報道によると今のところビジネスとしてはあまり上手く回っていないようです。

個人的には頑張ってほしいビジネスの一つでしたが。

ペッパー、採算取れず 開発会社、債務超過300億円開発費など負担先行(日本経済新聞 17/7/12)

ソフトバンクグループ傘下でヒト型ロボット「ペッパー」を開発・販売するソフトバンクロボティクス(東京・港)が、今年3月末時点で債務超過だったことが分かった。
(中略)
ペッパーの本体価格は19万8000円と、ヒト型ロボットとしては安く、採算が悪い。開発費の負担を吸収しきれず、前期も赤字が続いたもようだ。日本経済新聞
外から見ているかぎりソフトバンクとしてペッパーで本当に儲けを出すつもりでいるのかどうかは正直よく分かりませんし、逆にどうやったら百億単位の赤字になるのか、いまいち構造が良く分からないというのが正直なところです。

しかし、日経の記事中でペッパーの本体価格が安いため採算が悪いと指摘されている点については、ペッパーを実際に導入するとすれば毎月2万円以上のランニングコストが発生し、その費用をソフトバンクへ支払う必要があることは知っておきたいところです。実際には、導入価格は安く、運用費用は高くという携帯電話でうまくいったモデルをペッパーのようなロボットサービスでもやろうとしてコケた側面はあると思います。

【驚愕!】3年縛りで117万円オーバー!Pepperのある暮らしのコスト(Yahoo!ニュース 個人 神田敏晶 15/2/26)

Peppeの料金プランを見て、思わず198,000円プラス通信費程度と考えていた人は思わず、ぶっ飛ぶ価格体系となった。総合計(税込み)にすると、3年間で117万288円となってしまうからだ。Yahoo!ニュース
まあこの程度では莫大な開発費用を回収するには焼け石に水ということなのでしょうが、こうした数字を見ていると一般家庭向けにペッパーのようなロボットを気軽に導入するというのはやはりちょっと無理があるなと感じる次第です。正直、一般家庭に3年100万もコストかけてもできることは限られていますから。

で、そんなペッパーが大赤字という知らせと同じようなタイミングで、米国のAmazonがセールをやってAI機能搭載のスマートスピーカーがバカ売れしたというニュースが入ってきました。

Amazonのプライムデー・セールス、Amazon Echo人気が圧倒的(TechCrunch Japan 17/7/13)

情報筋およびAmazonの広報を通した発言によれば、今年のプライムデー・セールスを大成功に導いた要因はAmazon自らのEchoシリーズにあったようだ。ご存知だろうが、Amazon独自の人工知能であるAlexaを搭載したホーム・スピーカーだ。
(中略)
Amazonは詳細な販売数などを明らかにしないが、信頼できる情報筋によれば、Echoデバイスは「毎分数千台」のペースで売れたのだとのこと。この情報が流れたのち、Amazonも「アメリカ国内のプライムメンバーは、毎分6000台を超えるペースでオーダーしていた」旨を公表している。TechCrunch Japan
Echoシリーズの価格はディスプレイのついた最上位モデルでも229.99ドル、一番安いモデルなら50ドルしない上、セール中はさらに安い価格で売られておりました。しかも毎月の使用料が別途発生するわけでもありません。こうした価格戦略から想像するに、AmazonとしてはこのEchoシリーズを売るだけでは採算が合わないと考えられますから、この点だけみればソフトバンクのペッパーと同じような状況なのかもしれませんが、「毎分数千台」の勢いで売れたということは市場への普及ということでは圧倒的に成功している事例となりそうです。

ソフトバンクのペッパーは人間の感情を理解するロボットを目指して開発が進められたそうですが、今のところそれを実現しているとは評価しにくい状況に感じます。一方で、AmazonのEchoシリーズの多くは単なる円筒状のスピーカーでしかなくロボットのような姿形はしていませんが、ユーザーの発言した内容をAIが理解して、その発言に対する応答をしたり、他の機器と連携することで様々なサービスを提供したりすることが可能とされています。人間の感情を理解する次元までには至らずとも、実質的な機能としてはソフトバンクのペッパーに近いものを実現してそうですし、ペッパーの時に過剰でうざいとも思わせるような発言や挙動が無い分、逆にAmazonのEchoシリーズは家庭用ロボットとしてあるべき姿を示しているようにさえ見えます。

孫さんの過去の発言を見るとロボットに対してすごく感情的な機微を求めているんですよね。

「ペッパーの夢を見て号泣して目が覚めた」(日経ビジネス 16/1/21)

理解して知識を入れても、結局最後は心の部分がないと、24時間一緒に過ごしたいと思わないよね。
(中略)
これまでのロボットはおもちゃだよね。動いているだけに過ぎない。運動能力や知識、ある程度の知恵もあったが、感情までは存在していない。日経ビジネス
でも、普通の人の感覚としては24時間一緒に過ごしたいのはロボットではなくて人だと思うんですよ。で、そういう人同士で住む家庭の中に感情的なことは抜きにして頼んだ仕事を誠実にちゃんとこなしてくれるロボットがいればとても暮らしやすい未来がやってくるのではないでしょうか。そういう意味では、AmazonのEchoシリーズのような製品の方が家庭用ロボットとしては正解なんじゃないかと思えてしまうわけです。もしかしたら孫さんは自分の周りに心を許せる話相手がいないので、それをロボットに求めていたりするのかもしれないなと勝手に想像して心配してしまうのは余計なお世話ですかそうですか。

今のペッパーがどこへ向かおうとしているのかはよく分かりませんが、ソフトバンクとしてはもっとガチなロボットを作れる企業を買収しているので、今後はそちらの方面でどうなるのかが色々と楽しみではあります。

SoftbankがAlphabetのロボット企業Boston DynamicsとSchaftを買収(TechCrunch Japan 17/6/9)

孫さんの風呂敷の広げ方は個人的には夢があって好きなんですよね。
良い意味でちゃんと着地して利益を出すビジネスに育ってほしいです。祈ります。