無縫地帯

ガセネタ医療情報や問題フィンテックなどの事例からベンチャー企業の順法精神や倫理観を考える

このところ、以前よりもさらに問題のありそうなウェブサービスやメディアについての事例が多くなってきましたので、雑記の形で問題を整理してみたいと思います。

医療情報でガセネタを流すと大変なことになるというのは昨年来からずっとトレンドとしてありました。少しは浄化しつつあるのかなと思っていたところ、どう見ても確信的にでたらめな医療情報記事をでっちあげて日銭を稼いでいるとしか解釈できないサイトがいまなおネット検索で上位に現れてしまうのはどうなんでしょうか。

「監修は基本無償」「途中で原稿の質がガタ落ち」…ヘルスケア大学の監修医師が語る(BuzzFeed 朽木誠一郎 17/7/4)

このBuzzFeedの記事を読むと、サイト運営側がクラウドソーシングなどを利用して意味のない記事を粗製濫造する一方で、協力してくれる医師の善意を逆手にとって搾取していたという状況であることがうかがえます。取材に答える医師の最後の言葉を読むと、これからも善意にあふれた医師の方々を欺して搾取していくのはそれほどむつかしいことではないだろうなと考えてしまうのは、私の心が汚れてしまっているからなのでしょうか。

今後、ヘルスケア大学に望むことは。A医師からの回答はこうだった。

「頑張ってほしいです。この時代に、複雑化する医療を、誰かがわかりやすく紹介しなければいけないのは事実です。ここまでに挙げたような問題点が解消されたら、また協力してもいい」BuzzFeed
分かりやすいことと正しいことは違う、というのはリテラシーの基本だと思いますが、やはり医療情報はその難しさゆえに「簡単ですぐに効果のある医療情報」が出回りやすくなったり、患者が信じたくなる情報があると被害が拡大する傾向が強いように思います。

実際、先日闘病の末に亡くなった小林麻央の件で言えば、かなり滅茶苦茶な代替医療を選択し、本来なら早期に発見され適切に標準医療で処置すれば問題にはならなかった乳がんが長い時間放置された結果命を落とす結果になったのではないか、とさえ言われるようになっています。真偽のほどはもう少ししないとはっきりしませんが、医療におけるニセ情報や疑似科学が簡単に人の命を奪ってしまいかねない事情についても、もう少し考えていく必要はあるのではないかと感じます。

小林麻央さんが通ってた「首藤クリニック」の広告「ガンは自然に身を任せた方が治る!」 - Togetterまとめ https://togetter.com/li/1126434

そういえば新しいアプリ事業を起こし「性善説にもとづいたビジネスを作りたい」と豪語されていた株式会社BANKの代表取締役兼CEOの光本勇介さんはその後どうされているのでしょうか。

“性善説”にもとづいたビジネスを--質屋アプリ「CASH」が細かく査定しない理由(CNET Japan 17/6/28)

買い取りアプリ『CASH』音信不通運営会社に電話が一切繋がらず(ゴゴ通信 17/7/3)

『CASH』の運営会社である株式会社BANKに問い合わせて見たところ、一切連絡が取れない状態だったことが判明。6月30日に数回、そして7月3日の16時頃に2回程電話を掛けたが全て出ることはなく切れてしまう。

60秒間呼び出し音が鳴った後に勝手に切れてキャンセル扱いとなる。何回電話を掛け直しても同じである。どうやら転送電話番号になっており、その転送が無効になっているようだ。ゴゴ通信
こちらもなにやらタガが外れたような面白案件が登場したなと思っていたのですが、予想以上の速度であっと言う間に萎んでしまったようで、さすがにこれは違った意味で驚かされました。監督省庁である関東財務局にオフィシャルで聞くと「個別の案件については明示して答えられません、すみません」という定番の返答でしたが、内々で話を聞きますと摘発も視野に入れて動いてもおかしくないという状況でした。完全にモグリの闇金と法曹方面から直撃弾を喰らっていたわけですから、仕方がないとも言えます。

また、もっと問題視された事案は同じBANK社からリリースを予定していた「PayDay」というアプリで、こちらは上記「CASH」よりも凶悪で、つまりは振り込まれる前の給料(賃金)を数回に分けてスマートフォンで簡単に前払いするという仕組みです。The Bridgeでのインタビューでは、創業者の光本勇介さんは素敵なことは仰っていました。

スマホで撮影「即入金」の質屋アプリCASH、STORES.jp創業の光本氏が公開ーーノールック少額融資を可能にしたその方法とは(The Bridge 17/6/28)
“質草”の写真を撮れば審査なしで資金提供 STORES.jp創業者の新レンディングサービス「CASH」(TechCrunch Japan 17/6/28)

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「やっていることはあくまで古物の流通です。なので古物商の免許(古物商許可)は持っていますが、貸金業や質屋業(質屋営業許可)などの免許は取得していません。15%の手数料は本来古物流通で得られるはずだった買取による機会損失を補填するためのキャンセル料として頂いています」(光本氏)。
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このスキームについて「監督省庁とは話していない」(バンク)そうだが、弁護士とも法律上問題ないことを確認した上でサービスを提供しているという。
「見た目はオンライン質屋のようだけど、実質的には小口の高利貸し」というビジネスが許されるはずもなく、また当初大手法律事務所である森濱田松本法律事務所を顧問にしているとしていたサイトから文言を削除するなど、きな臭い動きがあったばかりでした。しばらくは推移を生暖かく見守るしかないなと思うわけであります。罷り間違ってもうっかりこの方面に進出して東京湾に浮かぶことが無ければいいなと。祈ります。

さらには、フィンテック方面や地方創生事業方面でもタガが外れた感じのヤバそうな話が出てきていて気になる事案が噴出しています。

「疑惑の仮想通貨」ノアコインのセミナーに現れた、あの有名人たち(現代ビジネス 17/7/5)

情報化社会になってヤバいネタが可視化されやすくなったという状況はあるかもしれませんが、この手のタガが外れた前のめりの事案や医療情報におけるガセネタの問題も含めて、何かやり方を考えないとまずい局面に差し掛かってきたのかもしれません。

この手の話題で特に思うのは、それなりにベンチャー企業として頑張ろうとしているところが、残念ながら新興のため頑張ってるんだけど人員が足りなくてリーガルまで手が回らずに惜しくもグレーゾーンになってしまったというよりは、最初からグレーゾーン狙って儲かりそうなところを一直線に狙ってくるという姿勢です。

逆に言えば、この手のベンチャー界隈がそういう微妙なものを画期的だ、刺激的だと持ち上げすぎているんじゃないかとさえ思います。
襟を正すにはこの辺が良いのではないでしょうか。